八幡side
▲▲商会の件が終わって俺が居る意味が無くなったかと思いきや、この2人は俺の事を聞きたいと言っていた。恐らく▲▲商会が4、俺が6といったところだろうか。しかし何を聞きたいんだ?
「どうぞ、比企谷様。」
八幡「あぁ、どうも。」
スピード「……改めて、孫娘が世話になっているよ。先日の日本ダービーは勝利もさる事ながら、君のアドバイスが非常に的確だったと聞いているよ。」
八幡「いえ、自分は特に何も。それにトレーナーであれば当然の事を自分は放棄したまであります。」
スイート「それもルドルフから聞いております、貴方はルドルフの能力を信じた上であのような決断をなされたのでしょう?でしたらあの采配は間違ってはおりません。その証拠にこうしてルドルフは日本ダービーを制したのですから。」
スピード「その通りだ、あまり自分を卑下してはいけないよ。こう見えて我々も君の事を買っているのだからね。」
……意味はまだ分からないが、とりあえず向こうの意見を尊重しておこう。口じゃ敵いそうに無いしな。
八幡「分かりました、ありがとうございます。それと以後気を付けます。」
スピード「謝る必要は無いさ。それに謝らなければならないのは我々の方だ、済まない比企谷トレーナー。」
スイート「申しわけございません。」
ルドルフ「っ!そ、祖母上!母上まで!」
八幡「……どういう意味です?」
スピード「実を言うと、君の事を少々調べさせてもらった。中央トレセン学園に配属されたトレーナーというだけならば私達も深くは干渉はしない。しかし君は育成学校の出身でもなければトレーナーを輩出した大学やセミナーの出身でも無い。卒業したのは千葉県の私立大学で専攻は人文学科の行動科学コース……それだというのに、このトレセン学園の試験では主席合格で数少ない初年度から担当ウマ娘を持つ事を許された人物。この経歴を知ってしまえば誰だって気になってしまう。」
八幡「………」
スピード「君の許す範囲で構わない、どのような経緯でトレセン学園を選んだのか教えてはもらえないだろうか?私から見る今の君はあまりにも不確定要素が多過ぎる。」
八幡「……分かりました。話せる範囲で話しましょう。自分がトレセン学園を選んだ理由、履歴書の動機の理由にはウマ娘を輝かせる為の職に就きたいと思ったから。と書いた覚えがあります。確かにその動機もありますが、3割建前です。」
スイート「建前?」
八幡「本当の理由は、1人でも多くのウマ娘の未来を守る為です。」
ルドルフ「っ!」
スピード「未来を守るというのは?」
八幡「……元々自分はトレーナーを志していたわけではありません。それなりの成績、それなりの評価を得て、それなりの企業に就職するのだとばかり思っていました。そんな時、俺にトレーナーとしてのイロハを全て叩き込んでくれた人、恩師に声をかけられ、それからいつの間にか目指すようになっていました。」
スイート「……その恩師というのは?」
八幡「先生たっての希望でもありますので、名前を言う事は出来ません。」
スピード「しかし本当にそれだけか?それでは君がトレーナーを目指した理由としては些か薄いようにも聞こえるが……」
八幡「そうですね、確かにそれが全部ではありません。最初にも言いましたが、今のが動機の3割です。これから話すのが残った7割です。」
ルドルフ「………」
八幡「話す前に1つ、絶対に約束してください。この話は自分が勝手に話していいような事ではありません。先生の経験した事をお話するので本来であれば先生を交え許可を取ってからお話をしたいくらいの内容です。話せる範囲でと聞きましたが、これを言っておかないとずっと疑念を抱かれたままのお付き合いになりそうだと思ったのでお話しようと思いました。他言無用を確約出来るのであればお話します。」
スピード「………シンボリ家前当主として誓おう。これから先、君が話す事は一切外部には漏らさないと。」
八幡「……ではお話します、先生が経験した過去を。」
それから俺は3人に先生の過去を話した。流石に名前は言えないが、怪我の事や経過、そして結末を順番に話した。
八幡「……以上が先生の経験した出来事です。俺はこれを聞いて無意識に涙を流していました。先生の気持ちもですが、競走能力喪失の診断を受けた彼女の心情を思うと残念や無念なんて簡単な一言では収められません。」
重苦しい空気の中、3人は誰も口を開こうとはしていなかった。それもそうだ、目指したきっかけとなったのがこの話から来ているのだ。しかもウマ娘にしてみれば冗談では済まされないような事だ。
八幡「俺はこの話を聞いてから怪我への意識が180度変わりました。ルドルフも見てきたと思うが、俺はたとえ小さな怪我であっても見逃したくはない。それ自体はちっぽけかもしれないが、そのちっぽけな事が大きな何かに繋がる事だってある。俺はそんな光景、見たくない……」
スピード「………君が言っていた意味がよく分かった。確かにこれはおいそれと人に話していいような内容ではなかった。君の先生はとてもお辛い事を経験されたのだな、目の前でそんな事が起こってしまえば誰でも怪我に対して敏感になるのは当然だ。改めて謝罪しよう、君にまで辛い事を話させてしまった……本当に申しわけ無い事をした。軽い頭を下げられて気分が悪いと思うが、どうか下げさせてほしい。」
八幡「頭を上げてください。俺が話したいと思ったから話したまでです。それと、以上がトレーナーを目指した動機の7割なんですが……どうでしょう?」
スイート「トレーナーさん、そのような事を聞き返さないでください。今の話を聞いてそれでも目くじらを立てるような真似が出来る者等、我々シンボリ家には居りません。ウマ娘に怪我をさせる事無くレースで輝かせる、それが貴方の本当の動機だという事ですね?」
八幡「はい、そうなります。」
スイート「とても素晴らしい動機だと思います。我々ウマ娘の為にそこまでしてくださるトレーナーは世界で数えても10人も居ないでしょう。トレーナーさん、これからも娘をよろしくお願いいたします。」
八幡「こちらも、ルドルフに愛想尽かされないように精進します。」
スイート「ふふふ、よろしくね。」
まぁ、八幡の動機は怪我関連ですよね。