エアグルーヴside
療養を言い渡されてから2日が経った。もうすぐ桜花賞が始まるというのに、この体たらくだ。身体を動かしたくてたまらないが、少しでも動かしたりすれば奴にすぐ分かってしまうだろう。しかし、何もしないというのは本当に退屈なものだ。出掛けるにしても、今はあまりそういう気分にはなれん。生徒会の業務もこの季節ではあまり多い方ではない。寧ろすぐに終わってしまうくらいだ。ウマ娘に生まれた以上、走る為に生を受けたと言われても不思議ではないが、それまでも奪われると何も出来んな。
エアグルーヴ「………」
ドーベル「エアグルーヴ先輩!」
エアグルーヴ「っ!ドーベルか、どうした?」
ドーベル「いえ、最近あまり先輩の姿が見当たらないと思っていたので。」
エアグルーヴ「その事か。実は今は療養中でな……」
ドーベル「っ!?まさか故障を!?」
エアグルーヴ「いや、そうではない。ただの熱発なのだが、トレーナーが3日間は大人しくしてろと言われてな。だから今日を含めて2日はトレーニングを抜きにされているというわけだ。」
ドーベル「そんな……こんな大事な時期に。」
エアグルーヴ「お前の思う気持ちは分からんでもない。私も最初はそう思った。熱発ごときで休んでなどはおれん、そう思ったし、そう伝えようともした。だが奴からはこう言われた、『お前は桜花賞を回避したいように見える。』とな。」
ドーベル「っ!!」
エアグルーヴ「何も言えなかった……1年前に奴から言われた言葉があったのだが、私はそれを理解していなかったのだ。恥ずかしい限りだ。」
ドーベル「で、でも……それじゃ明後日になってからトレーニングを始めても、意味なんて………」
エアグルーヴ「あぁ、期待は出来んな。だが、桜花賞に出られない無念を取るよりも、正々堂々と戦う方を私は選ぶ。」
ドーベル「先輩………」
アイツはその為にあの時、私に選ばせたのだろう。回避か出走かどちらかを。
ドーベル「それなら今、あのトレーナーは何を?」
エアグルーヴ「さぁな、奴の事だ。今頃誰かのトレーニングでも見ているのだろう。ああ見えて奴はそれなりの実力はある。ウマ娘からの信頼もあるようだし、奴なら引っ張りだこだろうがな。」
ドーベル「……じゃあ今は「エアグルーヴ先輩!!」あのトレー……?」
エアグルーヴ「ん?何だ?」
「いつの間に新メンバーなんて迎えてたんですかっ!?」
エアグルーヴ「?何の事だ?」
「え!?だってエアグルーヴ先輩のトレーナーが会長のトレーニングを見てましたよ!しかもシービー先輩も一緒に居ました!」
………何だと?会長とシービー先輩が?どういう事だ?
エアグルーヴ「急用が出来た、失礼する。」
ドーベル「え、先輩っ!?」
ーーーコース場ーーー
エアグルーヴ「………っ!居た!!」
あのたわけと……コースには会長とシービー先輩!あの生徒の言っていた事は本当だったのか!!
エアグルーヴ「おい、どういうつもりだ!!」
八幡「ん?エアグルーヴか、どういうつもりだってのはどういう意味でだ?」
エアグルーヴ「担当の私に何の報告もせず、会長達のトレーニングを見ているそうだな?」
八幡「あぁ、今見てるから邪魔しないでくれるか?お前に最初やらせた走りの特徴を見るトレーニングをしてるところだ。」
エアグルーヴ「ほう?貴様は担当よりも担当をしていないウマ娘のトレーニングを優先するのか?」
八幡「……何が言いたい?」
エアグルーヴ「私には療養と言っておきながらお前は私を放っておいて他のウマ娘へのトレーニングか?随分と熱心な事だな。」
八幡「それじゃ何か?お前は俺に自分の担当ウマ娘に専念しろと、そう言いたいのか?生憎、俺の担当しているウマ娘はそこまでの要求はしてこなかったんでな。俺がお前にやれる事は無いと判断したに過ぎん。」
エアグルーヴ「貴様……っ!!」
ルドルフ「エアグルーヴ、来ていたのか。」
エアグルーヴ「っ!!会長、それにシービー先輩も。」
シービー「こんにちは、エアグルーヴ!キミのトレーナー借りてるよ〜♪」
八幡「無理にトレーニングに参加してきた奴が何言ってんだよ。」
シービー「えへへ〜♪」
ルドルフ「それで、エアグルーヴはどうしたんだい?八幡君からは3日間療養に入ると聞いていたんだが、今日からなのかい?」
八幡「いや、エアグルーヴは「いえ、何でもありません。失礼しました。」………」
もういい、勝手にするがいい………
ーーー河川敷ーーー
エアグルーヴ「………」
走れない苛立ちか、はたまた奴への鬱憤かは分からんがつまらん事で当たってしまった………情けない、自分を制御出来んようでは女帝なぞまだまだ遠い。
エアグルーヴ「しかし、どうして奴は会長達と………」
……いや、そんな事はどうでもいい。とにかく私は奴にキツく当たり過ぎた。その事を謝罪せねばならん。だが………どうやってすればいい?熱発の時は素直に言えたが、今度のはワケが違う。自身の制御出来ない怒りによってだ。どうすればいいっ!?
「ん?君は確か八幡の………」
エアグルーヴ「?あ、貴女は………」
そこに居たのは、私がGⅠを初めて制覇したあの日にトレーナーと共に居たウマ娘だった。