八幡side
八幡「これが……クリフジ………」
「えぇ。他のウマ娘達に影すら踏ませないその圧倒的な走りに私は釘付けになっていましたが、そのレース後に立ち止まった際に夕陽を見つめる彼女の姿が忘れられなくて………」
八幡「………」
「セントライトさん以上に魅了されましたし、この日以来どのレースを観てもこの日以上に感動を感じた事はありません。」
八幡「………」
「私はこの絵以外にもクリフジさんの作品を描こうと思いましたが、それは一瞬にして止めようと思いました。」
八幡「……どうして、ですか?」
「彼女の絵は1枚で充分、そう思ったからです。彼女の絵が何枚も増えてしまうと彼女の価値を下げてしまう、そう思ってしまったのです。」
婆ちゃんの凄さは知ってたつもりだった。けど、それがどんな形をしているかなんて全く知らなかった……婆ちゃんの走りに憧れを抱いてたスピードシンボリさん、神社に墓を作ってくれた藤森神社の神主さん、京都に行って墓参りする時に立ち寄る花屋さん、そしてこの絵師さん……婆ちゃんってこんなにも愛されてたのか。
「当時の日本は不況の最中にありました。それは日本中誰もが思っていた事でしょう……しかしクリフジさんはインタビューが終わった後にこう言ったのです。
『私に出来る事はレースで走る事だけ。これくらいの事しか出来ません……ですが、これくらいの事でも皆さんが元気を取り戻してくれるのなら、私はこれからも走り続けます。ですがそれは時が経てば出来なくなるでしょう……今は走る事が出来ますが、ターフを去って歳を取った時にはきっと、私は走る事は叶わなくなっているでしょう。ですが私の魂は受け継がれます。私の後輩達が、まだレースに出ていない子達が、トレセン学園に入学していない子達が、赤ん坊の子達が、まだ生を授かっていない子達が、きっと皆さんに力を与えてくれると私は思っています。私はさっき夕陽を眺めました……するとふと何かが見えました。これから先に現れる、私の魂を受け継ぐウマ娘達とトレーナー達の姿が。今はまだ苦しい時が続いています、でも皆さんで協力すれば必ず苦境を乗り越えられると信じています。なのでこれからも力を貸してください、よろしくお願いします!』
……っと。その瞬間、会場が沸きました……たった1人のウマ娘が10万人以上は居るであろう観客の心を鷲掴みにしたんです。いや実際はそれ以上の人達を動かしたと私は思っています。かく言う私もいつの間にか涙を流しながら叫んでいましたよ……彼女は走り以外にも、人の心を動かす才能がある……私はそう感じました。」
八幡「……はははっ、この日以上に魅了した事が無いと言われても納得しますよ。」
俺の婆ちゃんってそんなにすげぇ人だったんだな………レースだけでなく言葉でも人を動かす力があったなんて。ホント、すげぇよ………
八幡「………」ポロポロ
「っ!?だ、大丈夫ですか!?」
八幡「はい……魂を受け継いでおきながら、まだまだなんだと思い知らされてました………」ポロポロ
「いえいえ、比企谷さんもトレーナーの皆さんもとてもよく頑張っておられると私は思います。クリフジさんも貴方のような方が後継者なら鼻が高いと思われるでしょう。」
八幡「そう言ってくれると、少し救われます……」ポロポロ
ーーー数分後ーーー
八幡「すみません、もう大丈夫です。」
「……何故でしょうかね?ウマ娘を専門としている私ですが、『貴方の絵を描きたい!』そんな衝動が起きているのです。やはり貴方のその姿勢がそうさせるのでしょうか?」
八幡「………実はこのクリフジというウマ娘、自分の祖母にあたるウマ娘なんです。」
「っ!!?あ……貴方が、クリフジさんの?」
八幡「はい……今、祖母のお話を聞けてとても嬉しく思います。少しでも祖母の事を知る事が出来ました。尊敬していた祖母ですが、今のお話を聞けてもっと誇りに思う事が出来ます。祖母も貴方のような人がファンに居た事を知ればきっと嬉しく思うに違いありません。」
「……まさか、クリフジさんの………比企谷さん。今日貴方に会えた事を本当に嬉しく思います!」ツ-
八幡「こちらこそ、貴方に会えて本当に良かった………」
「これもきっと、運命だったのかもしれませんね……比企谷さん、先程の絵を描きたいというお話なのですが……どうしても貴方の絵が描きたいっ!どうか、描かせてはもらえないでしょうか!?」
八幡「そんなのこちらからお願いしたいくらいです……是非お願いします。絵についてあれこれ言ったりしませんし、先生に任せます。満足するまでいつでも待ちますので。」
「ありがとうございますっ!全身全霊を込めて取り組ませていただきます!」
その後、俺は寮に帰る為に上着を着て玄関で見送られたのだが、お婆さんがわざわざ外まで来てくれた。何故かと思っていると………
『ウチの主人、誰かに対してあんな風に頼み込んでまで絵を描く事は無かったんです。それにあんなに張り切った主人は久しぶりに見ました。今日は来てくれてありがとうございました。』
っとわざわざお礼を言いに来てくれた。逆に俺の方がありがとうですよ、婆ちゃんの事を知れたんですから。
絵師さん、自分のプライドを捨ててまで八幡の絵を……
八幡も、お婆ちゃんの事知れて良かったねぇ~。