エアグルーヴside
奴の師と会話をしてその翌日、私はあの言葉が脳裏に焼き付いていた。奴ではなく、私が奴に相応しくない………まさか逆の立場で言われるとは思わなかった。だが、納得の出来る説明はいただいた。だがそれでも………上手く整理が出来ない。
ルドルフ「おはよう、エアグルーヴ。」
シービー「やぁ、エアグルーヴ。」
エアグルーヴ「……会長、シービー先輩、おはようございます。」
ルドルフ「そういえば君には何も伝えていなかったね。一昨日から「トレーナーとのトレーニング、ですね?」…あぁ、その通りだ。今日で最後になるが、伝えるのが事後になってしまって済まない。」
エアグルーヴ「いえ………」
シービー「それにしてもエアグルーヴは羨ましいよ〜。あたしも八幡のトレーニングは何回か一緒にした事あるけど、全部君がメインだからね〜。今回あたし達がメインでやらせてもらってるけど、ホントよく見てくれてるよね。あたしも八幡の担当になりたいなぁ〜。」
エアグルーヴ「………」
こんな風に評価した事はあっただろうか?奴の事を誰かに自慢するように言った事はあるだろうか?そもそも私には自身の何かを自慢する、という行為は今までした事が無い。
ルドルフ「シービーの言う通り、彼はとても優れたトレーナーだよ。2日の短い期間で途中ではあるが、私もそう思う。さらに彼の担当になりたいという意志が強まったよ。」
シービー「あっ!もし八幡がもう1人担当を作れって話になったら絶対に譲らないからね!」
ルドルフ「ははは、これは手強いライバルだな。」
エアグルーヴ「………」
奴とは、こんな軽口を叩き合うような会話もした事は無い。本当にトレーニングやレースの事のみだ。日常的な会話など皆無に等しい。
シービー「おや?今日は何だか元気が無いね?どうかしたのかい?」
エアグルーヴ「いえ、これが普段通りです。」
シービー「そう?あたしには少し暗いように見えるけど?もしかしてまだ体調よろしくない感じ?」
エアグルーヴ「いえ、熱は引きました。今日はその事をトレーナーに報告しようと思っています。」
ルドルフ「そうか。君はトリプルティアラを獲れる可能性が1番高いウマ娘だ、今は少し難しい時期だろうが、調整が上手く取れる事を祈っているよ。」
エアグルーヴ「はい、では失礼します。」
………何もしないわけにはいかない。私から行動しなければ何も始まらない。
ーーートレーナー室ーーー
エアグルーヴ「………」
かつてこの扉がこんなにも開けにくいと感じた事は無い。開けた先には奴が居る。話す内容なんて1つ、熱発の事だけだ。それ以外は話す事なんて無い。そうだ、ただの報告だ。1日早いが早めに報告するに越した事は無い、そう思えばいい。
コンコンコンッ
八幡『どうぞ〜。』
エアグルーヴ「すぅ……ふぅ〜……失礼する。」
八幡「ん?どうした?後1日だろ。」
エアグルーヴ「いや、何だ……1日早いが報告とでもと思ってな。昨日今日と朝と晩に体温を測ったのだが、熱は引いている。何事も無く明日から、とは言い切れんが今の調子なら明日からのトレーニングは出来そうだという事だ。」
八幡「……そうか、分かった。報告ありがと。また明日来てくれ。その時にまた改めて体調とか聞く。」
エアグルーヴ「分かった。では「あぁそれと。」失れ……な、何だ?」
八幡「昨日……というよりも、今日を入れたら3日間だな。お前に何の許可も無しに他のウマ娘を見て悪かった。担当のお前からすれば愉快ではないだろうしな。俺も軽率だったし、少し言い過ぎた。済まん。」
………違う、謝らなければならないのは私だ。何故、何故お前が頭を下げる?頭を下げるのも私の方だ。
エアグルーヴ「いや、その………私もわがままを言った。お前はトレーナーだ、ウマ娘のトレーニングを見るのは当然だ。だが……そうだな、そういう時は一言欲しい。」
八幡「あぁ、これからはそうしよう。と言っても、お前がトレーニングから離れない限りはそんな事は起きないけどな。」
エアグルーヴ「そ、そうだな………では明日、また来る。失礼する。」
八幡「おう。」
私はトレーナー室の扉を閉めて暫く歩いた所まで来た。先に謝らせてしまった、これでは………ん?待て、私は………奴に謝っていないではないか!!ただ奴の謝罪を受け入れてこうして欲しいと言っただけではないか!!これでは今までの私と変わらん!!だがもう1度あの部屋に行くのは少し気が引ける………明日だ、明日のトレーニングが始まる前に伝える事にする!
エアグルーヴ「この件を長引かせるわけにはいかん。早急に終わらせてこれまでの関係を取り戻す、ただそれだけだ。ただ謝るだけだ。そうだ、それだけなのだ。」
そうと決まれば、どのように謝るかを考えなければならんな。私の一方的な怒りだったのだ、やはり頭を下げるべきだろう。奴は自分が悪いわけでもないのに頭を下げたのだ、そうとなれば私も下げるべきだな。ならば少々言葉遣いも選ばなければならないな。
ーーーおまけーーー
「君にはあの時忠告しておいた筈だ、担当から目を離すな、と。忘れていたのか?」
八幡「いえ、そんな事はありません。ちゃんと覚えて「じゃあ何故、今回こんな事になったんだ?」………すみません。」
「はぁ……やはり君は人と関わるとなると急に不器用になるな。とにかく、助けるのは今回だけだ。彼女の性格から鑑みるに、自分からは謝りには来ないだろう。君から仕掛けろ、そうすれば少しは雰囲気も和らぐだろう。」
八幡「……はい、そうします。」
「本来なら彼女からの方が好ましいが、君から接点を作ってやれ。」
八幡「分かりました。ありがとうございます。」
「礼はいい、次の阪神でGⅠを獲ってくれれば、な。」
八幡「桜花賞獲れって……言ってくれますね。まぁそのつもりですけど。」
「あぁ、応援しているよ。」
八幡「はい、最善を尽くします。」
「期待している。じゃあまた阪神で。」
八幡「はい、失礼します………先生の中では出るのが確定しているのか。それとも昨日のエアグルーヴを見た時点で大丈夫だって気付いたのか?」