八幡side
ルドルフが押しかけてきてから1時間ちょうどが過ぎて現時刻は7時。外に黒塗りの高級車が停まって運転手が降りると、後ろのドアを開けて2人のウマ娘が出てきた。そう、今日来る予定のスピードシンボリさんとスイートルナさんだ。
【♪~】
八幡「さて、お出迎えしましょうか。」
ルドルフ「あぁ。」
ーーー玄関ーーー
スピード「やぁ比企谷君、今日はお招き感謝するよ。スイートから聞いた時は少々驚いたが、君の家には行きたいと思っていたんだ。」
八幡「どうも。」
スイート「ですが、どうしてルドルフも?もしかして比企谷さんが?」
八幡「いえ、お2人には申しわけありませんが、ただの押しかけです。」
ルドルフ「は、八幡君!」
スピード「ふふふっ、仲が良いみたいで何よりだよ。」
八幡「とりあえず中へどうぞ。」
今日の目的はスピードシンボリをリラックスさせる事……俺に出来るかどうかは分からんが、やれるだけやってみるとするか。
スイート「まぁ……こんなにも素敵な空間になったのね。」
スピード「床に座って談笑するも良し、ソファーで共に安らぐのも良し、キッチン近くのテーブル席で食事をするも良し……まさかこんな風に居間をコーディネートするとはね。」
八幡「いや、これが良いと思って置いてもらっただけなので。」
スピード「では君のセンスが良いのだろう。派手な物を置いておらず、逆に陰りのあるインテリアでも無い。ちょうど良いとはまさにこの事だろう。」
八幡「……ありがとうございます。」
スイート「それで、2階はどうなっているの?」
八幡「登ってすぐの3部屋は客人用のスペースで、4つ目が作業部屋、5つ目が自分の寝室です。1番奥の部屋はコレクションルームです。」
ルドルフ「コレクションルーム?」
八幡「トレーナーになってから俺が貰ったのも飾ってある部屋だ。まぁそれは建前で、本当は婆ちゃんの勝負服や遺品を飾ってある部屋だ。まだ物は少ねぇけど、あの部屋だけで【クリフジ】ってウマ娘の全てを理解してもらえるような部屋にするのが、トレーナー活動を除いての俺の目標だ。」
スピード「比企谷君、それは素晴らしい目標だ!私で良ければクリフジ殿の知っている事を全て話そう!」
スイート(す、凄い……母上が一気に食いついたわ………)
ルドルフ(祖母上の目が輝いておられる………)
八幡「あ、ありがとうございます……どうします?先に食事を食べてからゆっくりされますか?それともお部屋を見て回りますか?」
スイート「比企谷君、私はコレクションルームを是非とも見たいと思うのだが、良いだろうか?」
八幡「良いですよ。」
食事はルームツアーが終わった後にするという事で、今は好きに部屋を見させている。流石に作業部屋と寝室は個人情報もあるから遠慮してもらったけど。俺はスピードシンボリさんに付いて、1番奥のコレクションルームの前まで来ていた。
スピード「鍵付きにしてもらったのかい?」
八幡「俺がスイートルナさんに無理を言って頼んで付けてもらったんです。何1つとして盗られたくないので。」
カチャ……ガチャッ
八幡「……どうぞ。」
スピード「………」
やはりというか、予想的中というか、俺の想定通り、スピードシンボリさんは固まっていた。俺は部屋の明かりは点けずに、スタンドライトのみを点けた。スタンドライトは飾ってある品を照らすように設置していて、暖色系の色を使っている。その方が雰囲気ありそうだし。今この部屋の中にある物は……
・最優秀トレーナー賞の表彰状とトロフィー
・3冠達成した時に貰った記念品
・婆ちゃんの遺品(神楽鈴・扇・資料)
・勝負服とシューズ(蹄鉄は外してある。)
・俺が作った婆ちゃんの歴史(味を出す為にルーズリーフで裏表印刷してから閉じてる。因みにバインダーは本革使ってる。)※余談だが印刷する時調整ミスって何十枚かはおじゃん………
・絵師さんから頂戴した婆ちゃんの絵
こんな感じだ。まぁ俺のはどうでもいいから婆ちゃんのを色々見て楽しんでもらえたらそれで良い。
スピード「……っ!比企谷君、コレも遺品なのかな?」
八幡「いえ、それは俺が作った祖母の歴史です。自分の知る限りなので、新しく知った事があれば作り直したりします。読んで構いませんよ。」
スピード「ではお言葉に甘えて。」
ーーー数十分後ーーー
スピード「ふぅ……何と例えたらいいか分からないな、これは。だがこれだけは言える、きっとクリフジ殿はこの人生を生き抜いた事を決して後悔していないだろう。比企谷君、この書の枚数が増える事を期待してもいいのかな?」
八幡「期待薄ですけどね。それにまだお話が聞けそうな人物には心当たりがあるので。」
スピード「首を長くして待っているよ……さて、最後はアレだな。」
スピードシンボリさんが目を向けた方向には、絵師さんからいただいた絵があった。
スピード「この絵は……クリフジ殿の現役時代の頃かい?」
八幡「はい。知人に有名なウマ娘専門の絵師が居るのですが、その人がまだ新人の頃に描いた絵だそうです。」
スピード「入った瞬間に吸い込まれるように視線がそちらへと向いていたよ。この絵はそれだけの魅力がある……」
八幡「えぇ、俺も初めて見た時はそう思いました。」
スピード「本当に素晴らしい絵だ……何時間でも見ていられる自信がある。」
………言っても良いよな?
八幡「『私に出来る事はレースで走る事だけ。』」
スピード「?比企y「『これくらいの事しか出来ません……ですが、これくらいの事でも皆さんが元気を取り戻してくれるのなら、私はこれからも走り続けます。ですがそれは時が経てば出来なくなるでしょう……』」………」
八幡「『今は走る事が出来ますが、ターフを去って歳を取った時にはきっと、私は走る事は叶わなくなっているでしょう。ですが私の魂は受け継がれます。私の後輩達が、まだレースに出ていない子達が、トレセン学園に入学していない子達が、赤ん坊の子達が、まだ生を授かっていない子達が、きっと皆さんに力を与えてくれると私は思っています。私はさっき夕陽を眺めました……するとふと何かが見えました。これから先に現れる、私の魂を受け継ぐウマ娘達とトレーナー達の姿が。今はまだ苦しい時が続いています、でも皆さんで協力すれば必ず苦境を乗り越えられると信じています。なのでこれからも力を貸してください、よろしくお願いします!』……菊花賞のインタビュー後に祖母が全国民に向けて言った言葉だそうです。」
スピード「………」
八幡「凄いですよね、まだ中等部だというのに未来のウマ娘達やトレーナー達の事を考えての発言です………祖母は走りのみならず言葉でも人を惹きつける何かを持っていたんだと思わざるを得ませんでした。」
スピード「………はぁ~……………なんて事だ。」
八幡「?」
スピード「レースを引退して数十年、あの人には追いつけはしなかったが遠ざかりもしないと思っていた。あの人に背を負い、少しでも偉大な背に近付こう。そう思っていた………それが今のでどうだ?これだけの言葉を遺した人にどうやって近付ける?少しばかり背が見えるようになったと思ったら、更に遠くへ行ってしまわれたような気持ちだ。」
八幡「………」
スピード「私の憧れた背中は、強く…逞しく…美しく…果てしなく遠いな。この体たらくで魂を継いだと言っていいのだろうか……」
八幡「俺も最初は同じ事を思いました。魂を受け継いでおきながら、自分はまだまだなんだと……俺はレースで走る事は出来ませんが、トレーナーとして祖母の魂を受け継いでいきたいと思っています。それが俺の唯一出来る孝行ですから。」
スピード「……流石はクリフジ殿のお孫さんだ、頼もしい言葉だ。それに………」
スピード(その目……絵のクリフジ殿にそっくりだ。叶わぬとはいえ、クリフジ殿には一目会ってみたかったよ。)
スピードさん、やっぱり飛び付きましたね……
そしてお婆様の名言に感動?&お婆様と八幡を重ねる。