八幡side
去年、俺達も出走した日本ダービー……『最も幸運なウマ娘が勝つ。』といわれているこのレースを、ルドルフは幸運ではなく実力で掴み獲ったと言っても過言ではない。去年のダービーは寒波の影響で芝に砂を入れていたから、運だけでは勝てない要素があったからだ。だが今年はそうではない……今年は長期寒波の影響が無い。天候は曇りで芝状態が重ってくらいだ。
だからこそ今年のダービーは運要素が絡んでくると言っても過言は無いだろう。皐月賞を勝ったミホシンザンが皐月賞後の歩様がおかしかった為、検査をしたところ骨折が判明。全治3ヶ月でダービーは断念。つまり今年のダービーは群雄割拠といったところだろう。
前評価の高いシリウスを始め、弥生賞を勝ったスダホーク、これまで1度も着外を取っていないサクラサニーオー、皐月賞2着のスクラムダイナ、この辺りが人気上位だ。だが正直なところ、どのウマ娘にも十分なチャンスがあると俺は思っている。
ルドルフ「いよいよですね、母上。」
スイート「そうね……シリウスの事だから仕上げには問題無いと思うけれど。ルドルフ、最上はあれ以来来ていたの?」
ルドルフ「いいえ。勝負をすると決まった翌日以降からはパッタリ来なくなりました……叔父上は余程自信があるのでしょうか、シリウスが日本ダービーを勝てない事に。」
スイート「情けない話、そういう事になるわね。皮肉なものね………我が娘の将来を思うあまり敗北を望むなんて。」
ルドルフ「八幡君、先程のパドックを見た限りで構わない。シリウスの仕上がりはどうなんだい?」
八幡「若葉賞の時よりも良い状態だ。かなり上向きな方だと見える。ダービー出走のウマ娘の中でも上位に入ってると思うぞ。」
スイート「じゃあ勝つ可能性はあるって事なの?」
八幡「それは分かりませんね。何せ舞台はダービー、世代の18人が選ばれたわけですからどのウマ娘にも可能性はあります。ただ、シリウスが1番勝ちたいって気持ちが強いでしょうね。」
何せ自分のレース生命も懸かってるんだからな。勝てばこれまで通りだが、負ければ新しいトレーナーと共に親父さんによる飼い殺しだ。新しいトレーナーになるとしても、気に入らなければああしろこうしろの命令が待つ未来しか想像出来ない。
実況『去年・一昨年と【3冠ウマ娘】が誕生したこのレースはアクシデントがありました。一昨年のミスターシービーはシューズの紐が切れ、去年のシンボリルドルフは長期寒波の影響で砂入れ、両者共に苦難を乗り越えた【3冠ウマ娘】と言えるでしょう。今年の皐月賞ウマ娘は骨折による戦線離脱を余儀無くされてしまいましたが、府中に集まった18人はダービー勝利を目指してトレーニングに励んできました!この大舞台を掴み獲るのはどのウマ娘か!?東京優駿日本ダービー、いよいよ発走です!!』
♪〜♪〜♪〜
実況『東京レース場に鳴り響くファンファーレと共に選ばれし18人がゲートへと向かって行きます。1番人気シリウスシンボリは皐月賞回避からの日本ダービー直行で来ました、これをどう見ますか?』
解説『皐月賞は調整が間に合わなかったみたいですけど、今回のダービーではかなり調子は良さそうですからね。期待以上の走りをしてくれると思いますよ。ただ先行タイプなので出遅れないように気を付けていれば、勝機はあると思いますよ。』
実況『ありがとうございます。さぁそのシリウスシンボリがゲートに収まりました。スダホーク、サクラサニーオーも既に枠入り完了。残すは大外18番最後の1人、アイアンサムソン………今入りました!さぁ2,400m夢の舞台で勝利を掴め!!日本ダービー………』
ガッコン!!
実況『ゲートが開いてスタート!!先行争いサクラサニーオー好ダッシュ!トウショウサミット内からブラックスキー!中からレオディンゴとアイアンサムソンが行きました!ストロングアローとハマノキャプテンが様子を伺いながらトウショウサミットが先頭に立ちました!1コーナー曲がって向正面へと向かいました!』
ルドルフ「シリウスは先行前目のポジション……良い位置に付けられたようだね。」
八幡「あぁ、囲まれてもいないから良い位置だ。」
最上「中々の走りをしているようだね。」
ルドルフ「っ!叔父上………」
最上「やぁ。それにしてもあのトレーナーが賭けに出るとは思わなかったよ。君の入れ知恵かね?」
八幡「知りませんよそんな事。それにしても貴方は中々に酷い父親ですね。」
最上「それはどういう意味かな?」
八幡「今回の賭け……粗方聞きましたが、貴方はシリウスが負けるのを望んでいるように見える。でなければこんな賭けに応じるわけが無い。違いますか?」
最上「勘違いしているようだから言っておこう、私は別にシリウスの敗北を望んではいない……シリウスの能力を十二分どころか十分も発揮出来ていないあのトレーナーの敗北を望んでいるのだよ。」
スイート「結局のところ同じではないかしら?シリウスが負ければ担当トレーナーが変わるのでしょう?ならシリウスが負けるのを望んでるようにしか見えないわよ。」
最上「御当主様までそんな事を。娘であれば3冠だって夢ではない、私はそう思っている……だが担当になったのはウマ娘を制御出来ないあんなトレーナーだ。親であれば担当を変えるのを希望するのは当然ではありませんか?」
八幡「ではシリウスが選んだトレーナーは間違いであると?」
最上「そうとしか言いようが無いだろう?」
八幡「そうでしょうか?」
最上「……何が言いたいのだね?」
八幡「俺からは別に何も。間違ってるか間違ってないかはシリウスが走りで証明してくれますよ。」
実況『4コーナーカーブ直線に向きました!外に大きく広がってシリウスシンボリ前に進んでいく!スダホークが内から先頭だっ!スダホーク粘っているが外からシリウスシンボリ飛び込んで来たっ!!シリウスシンボリ出たっ!シリウスシンボリ出たっ!!ストロングアローも差を詰めてきました!2番にはスダホーク懸命に前を追っているが差が広がっていく!シリウスシンボリ3バ身のリードでゴールイン!!やりましたシリウスシンボリ人気に応えました!!』
最上「………」
ルドルフ「強い勝ち方でしたね。」
スイート「えぇ。外から一気に差し切ったわね。」
最上「………」
八幡「どうです?シリウスは走りで証明しましたし、シリウスTもこのダービーに向けて万全の仕上がりをしました。その上でのダービー制覇です、文句はありませんよね?」
最上「……あぁ、無いとも。失礼する。」
………
スイート「妙にあっさり引き下がったわね……」
ルドルフ「えぇ、不気味な程に……」
八幡「………」
親父さん、本当にあっさり………