所用があったのでこんな時間に………
八幡side
夏合宿も終盤。もう数日すると、俺達合宿に参加しているウマ娘やトレーナーはトレセン学園へと帰る事になっている。本来であれば、トレーナーが担当ウマ娘を管理している為、期間もトレーナーが決めるのが普通なのだが、この合宿に関しては学園側や生徒会も絡んでくるからトレーナー独断での行動っていうのは、余程懐に余裕が無いと出来ないのだ。何せ学園の恩恵が無かったら、宿泊費に加えて交通費や食費だってかかるのだ。そう考えたら学園と協力して合宿をした方が何倍も得だ。
エアグルーヴ「ふぅ……どうだ、今のは?」
八幡「あぁ、大分良い動きになってきたな。ちゃんと足裏全部で砂を押せているようだ。」
エアグルーヴ「あぁ。自分でも少し動きを変えてみたのだ。そこはどうだ?」
八幡「問題無い、お前の場合は姿勢は低過ぎない方が良い。オグリやブライアンみたいにスパートの時に姿勢を低くすると、逆に転びかねない。無茶な冒険はするものじゃない。今ので大丈夫だ。」
エアグルーヴ「了解だ。」
……今日もこれで終わりそうだな。
八幡「よし、じゃあ今日はこれで終了だ。ケアはしっかりとやるように。それと、今日はどうする?」
エアグルーヴ「そういえばまだ2切れ残っていたな。なら今日は1切れ貰おう。最終日の前日に最後を貰う。」
八幡「了解だ、じゃあ切り分けた奴を持ってくから。今でも居るのか?凝視する奴。」
エアグルーヴ「メジロマックイーンだな。」
八幡「………アイツ、ホントに食い意地張ってんな。」
ーーー浜辺ーーー
トレーニングが終わって、ウマ娘達は今頃食事も終わってゆっくりしている頃だろう。俺は今、浜辺に腰掛けながら海を眺めている。別に物思いに耽っているわけではない、ただこうしてトレーナーになってからは、何も考えずに何か一点を見ていた事は無かったと思ったからこうしているだけだ。
八幡「……良いもんだな、こういうのも。」
フジ「トレーナーさんはロマンチストなのかい?ちょっと意外だったよ。」
八幡「っ!フジか……どうしたこんな所に?お目当てのポニーちゃんなら此処には1人も居ないぞ。」
フジ「此処に来たのはポニーちゃん達じゃなくて、君が見えたからだよ。1人浜辺で座っているのを見かけたら声をかけたくもなるよ。それで、トレーナーさんは何をしていんだい?」
八幡「別に。ただ海を眺めていただけだ。こんな風にゆっくりした事は、トレーナーになってからは1度も無かったと思ってな。」
まぁこの業種では当たり前の事だけどな。
フジ「そっかぁ……トレーナーは大変だからね。」
八幡「まっ、そういう事だ。俺だって偶にはこういうのもしてみたくなる時はあんだよ。」
フジ「成る程ね〜。じゃあこんなトレーナーさんを見られるのは、ある意味貴重じゃないかな?」
八幡「あぁ、そうだろうな。」
フジ「ふふふっ、そっか……じゃあ日々頑張っているトレーナーにはちょっとだけご褒美をあげようか。」
八幡「はぁ?」
フジ「少し移動する気はないかい?」
ーーー森林ーーー
フジ「さぁ、着いたよ。」
八幡「ほう、良い所だな。森の中か……確かに海の音と同じくらい気が休まる。」
フジ「さっ、トレーナーさん。こっちだよ。」
八幡「?」
フジの後について行くと、そこには誰かが用意したであろう大きいサイズのハンモックが置かれていた。
フジ「このハンモックはこの森の中に何年も置かれていてね、所有者も用意したのかも分からない謎のハンモックなんだけど、森の中にあるから気を休めるにはとても良いスポットになっているんだ。」
八幡「そうなのか、それは知らなかったな。」
フジ「さて、というわけでトレーナーさん。一緒に寝てみようか。」
八幡「………え?」
フジ「さぁほら、物は試しだからさっ!」
八幡「えっ、ちょ、おい!」
俺はフジに手を引かれ、そのまま一緒にハンモックへと寝転んだ。ハンモックは意外と丈夫で2人が寝ても壊れたりはしなかった。
フジ「どう?良い景色でしょう?」
八幡「………あぁ。」
フジ「それは良かった。」
八幡「……お前も此処に来たかったのか?」
フジ「ううん、そういえば此処もあったなぁ〜って思いついたから来てみただけだよ。それに、私だって少しは気持ちを落ち着けたい時はあるからね。」
八幡「………そりゃそうか。」
フジは栗東寮の寮長だ。ルドルフ達生徒会同様に生徒達を見守る義務がある。気苦労は通常の何倍もあるだろう。今くらいは気を抜いても良いだろう。
フジ「っ!」
八幡「夏とはいえ、夜は冷える。羽織っとけ。」
フジ「………うん、ありがとう。」
フジ(トレーナーさんのスーツ……やっぱり少し大きい。それもそうだね、身体は私よりも大きいんだから。でも………うん、何だかどの布団よりも快適に眠れそうな気がするよ。)
フジ「すぅ……すぅ……」
八幡「やっぱりすぐ寝たな。トレーニングに加えて生徒の数の確認や体調の確認、全部管理してんだからな。ある意味ルドルフ達よりも過酷と言っても良い。今くらいはゆっくりしとけ。」
俺も気の済むまで、この景色を楽しむ事にする。