ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N13-山の頂

 ウイニングライブも終わり、1日のレースが全て終わった日の夕方。

 フジマサマーチと海堂は、夕日が照らすカサマツの町をゆっくりと歩いていた。

 

 これからの展開、今日のレースの反省点の出し合い。この散歩には、それらを共有し合う目的があった。

 散歩自体は海堂が提案したのだが、この散歩の本当の目的は、これらを共有することではなかった。

 

「マーチ。あの二度目のスパート、どこで覚えたの?」

 

 二度目のスパートの話を引き出すこと。これが目的だった。

 散歩しながら聞き出すのを選んだのは、別にどこで聞き出してもいいが、どうせなら全てが落ち着いて、ゆっくり話せる時に聞いた方が良いだろう、という海堂なりの配慮である。

 

 おそらく、フジマサマーチはこう答えるだろう。それはレース中に覚えました、と。

 今までのフジマサマーチの行動を振り返ってみても、考えられるのはそこしかない。タマモクロスとの会話を通して、海堂はそう確信していた。

 

「二度目のスパート……?」

「オグリキャップが抜こうとした瞬間にやったあれだ。俺はあれを教えた覚えはないし、どこで覚えたのか気になっただけだ。答えたくなきゃ答えなくてもいいけど……」

 

 しかし、フジマサマーチの反応は芳しくない。

 

「そのようなものは、やった覚えがないのですが」

「……なる、ほど?」

 

 レース中に覚えました、と返ってくるであろう場面で返って来た返事は、海堂の想像とは全く違う物だった。

 当事者本人はやった覚えがないと言っている。しかし、海堂と、その隣にいたタマモクロスを含めた観客の誰しもが、2人が二度目のスパートを仕掛けたと認識している。

 

 この認識のズレは、どこから起こっているのか。

 

「ただ……」

「ただ?」

「レース終盤、それこそ残り100mあるかないかの時点で、私は海堂トレーナーとの約束を思い出しました」

「ああ……横は見るな、最終直線は正面だけ見て真っ直ぐ走るんだって?」

 

 はい、とだけ言ってフジマサマーチは頷いた。

 

「そこに至るまでは、その約束を忘れていて……途中、オグリキャップを見ようともしました」

 

 おそらくですが、あの時オグリキャップを見ていたら負けていました。ともフジマサマーチは続けて語った。

 空間が歪んでいると誤解してしまうほどの、オグリキャップが放つ強烈な禍々しい圧力。

 あれを直視するな、という方が難しいのだが、フジマサマーチは海堂との約束を守りきったのだ。

 

「それで、思い出して前を向いたってわけだね」

「その時、でした」

 

 フジマサマーチは言葉に詰まった。

 今から言うことは、信じてもらえないかもしれない。それを体験したのは本当だが、それを説明するには信憑性が足りなすぎる。

 

 言うべきか、言わないべきか。フジマサマーチは迷っていた。

 

(……それ、でも)

 

 きっと、海堂トレーナーなら、私の話を全て受け入れて、理解を示してくれるだろうと。そう判断したフジマサマーチは、心の中にあった言葉を伝えることを決意した。

 

「……山の頂が、一瞬だけ見えました。おそらく、それが海堂トレーナーの言う二度目のスパートと関わっているかと」

 

 あまりにも抽象的なフジマサマーチの答え。

 その景色は錯覚か、はたまた疲れが見せる幻覚か、それとも本当に見えた世界なのか。そして、教え子が″レース中に山の頂が見えた″と言って、教え子が言った言葉を信じるトレーナーは何人いるのだろうか。

 

 ″それは錯覚だ″と答えるトレーナーもいるかもしれない。

 ″信じよう″と答えるトレーナーもいるかもしれない。

 

 その割合自体は分からない。だが、海堂は少なくとも後者の返答をするトレーナーに属していたのだけは確かだった。

 

「山の頂、か。それはどんな景色だったんだ?」

「海堂トレーナーは、こんな突拍子もない話を信じるんですか?」

 

 フジマサマーチは目を見開いた。

 確かに、海堂はどちらかというと、ロマンチスト――――理想主義的な考えの方が強いかもしれない人物ではある。

 だったとしても、だ。どんなにロマンチストであろうが、走っている途中に山の頂が見えましたと言って、その全てを有無を言わず信じるとは思えなかったのだ。

 

 少し困惑するが、結局は受け入れてくれる。そう予想していたのだ。

 

「信じるよ。俺はウマ娘じゃないんだから、まずは信じてみるしかない。マーチがレースで体験した事の全てをさ」

 

 どんな意見であろうと、ハナから食わず嫌いはせずに、とりあえずは受け入れてみる。

 それがダメなら捨てればいいし、それが知識になるなら新しい知識として吸収する。

 

 結局のところ、人の成長を阻害するのは凝り固まった思考なのだ。

 

「それにさ、自分の教え子が語るのを信じないバカにはなりたくないんだ。俺はマーチのトレーナーだし、マーチの言うことは基本的に何でも信じるよ」

「……そうですか」

 

 この人を選んだのは、やっぱり間違いじゃなかったなと。

 そう思って、フジマサマーチは心の中で小さく微笑んだ。

 

 それから、フジマサマーチは自分の身に起きた現象を語り始めた。

 自分を取り巻く全ての景色が消え、代わりにぼんやりとした山の頂が現れたこと。

 自分の耳に入るほとんどの音がぼんやりと聞こえるようになり、呼吸音がさらにはっきり聞こえるようになったこと。

 そして、それ以外は何も覚えていないということ。

 一瞬、ぼんやりとした山の頂が見えた後、気づいたらオグリキャップを抜かしていた。2度目のスパートは全く意識していなかったということ。その全てを海堂に語った。

 

「無意識……それなら覚えてないに決まってる」

「私が読んだ本にこういった現象は書いてなかったので、錯覚だったのかとも思いますが……それでも、やはりあの景色は本物だったと言えます」

 

 できれば、もう一度、あの景色を見れないものかと。そう思ってしまうほどには、あの世界は心地よかったのだ。

 

「それより、私も気になることがあるのですが……あの約束には、どういう意味があったんですか?」

「先頭を走ってるウマ娘ってのは、どうしても後ろを気にするから。特に、マーチみたいに前の方を走り続けるウマ娘は後ろを確認するのが癖になってるでしょ?」

 

 先行、差し、追い込みと比べて、逃げというのは駆け引きのないゴリ押しの脚質だ、と見ている側は思うかもしれない。

 

 しかし、実際は違う。他の脚質は先頭を走るウマ娘――――つまり、逃げの脚質のウマ娘を基準にポジションキープを行う。

 逆に言えば、逃げはポジションキープの概念がない。スタートから大逃げをかまして逆噴射をするといった観客を魅了する逃げもあれば、ある程度のペースを保ったまま逃げ続ける機械のような逃げもあり、自分が出せる限界ギリギリのスピードを出したまま逃げ続ける逃げを好むウマ娘……いや、ランニングジャンキーもいる。

 つまり、他の脚質とは違って逃げは合わせる側に回らない。寧ろ、ペースを作り、他のウマ娘を先導する側に立つのだ。

 

 当然、この戦略の自由度の高さは逃げの脚質のメリットと言えるだろう。

 しかし、そんなにうまくは行くはずがない。逃げというのは、他の脚質よりも繊細な脚質なのだから。

 

 例えば、後方にいるウマ娘の位置を確認したい時に、逃げは一々後ろを向いて確認しなければならない。

 他のポジション、特に追い込みや差しは″ポジションキープを行いながら他のウマ娘の位置を把握できる″といった利点がある。

 逆に言えば、逃げが位置を把握するには後ろを向く必要がある。

 

 どれだけ後続と離れているか、差しウマ、追い込みウマのポジションはどうなっているか、最後まで自分は逃げ切れるのか。逃げは色々気にしなければならない。

 そういった事情もあり、逃げのウマは後ろを見ることが癖になっていることが多いのだ。

 

「後ろを見るのが癖になってるウマ娘は、スパートの時も後ろを確認しようとする。先行に抜かされたり、ロケットみたいな差しに追い抜かれないか心配でね」

 

 今自分がいる世界は、コンマ数秒を争う世界なのだと、フジマサマーチは理解している。

 しかし、それを理解していたとしても、スピードが若干落ちる行為――――スパート時の後方の確認は無意識に行ってしまう。

 目に見えないレベルでの減速。しかし、その減速が命取りになるのがウマ娘のレースなのだ。

 

「だから、俺はそれ以外に何も言わなかったんだ。あれこれ指示を出せば忘れるかもしれないけど、俺がただ漠然と″前を見ろ″って言えば、それだけは絶対に守るってくれるって考えただけ……っと、ここでお別れだね」

 

 俺の自宅はこっちだから、と指をさして海堂は説明をする。

 それと同時に、海堂は考えもした。オグリキャップに勝ったんだ。労いの言葉をかけた方が良いだろう、と。

 

「……マーチ」

「どうしました?」

「とりあえず、色々言いたいことはあるけど……おめでとう。頑張ったね」

 

 それじゃあ、と言って、手をひらひらと上にあげて別の道を歩む海堂を見て、フジマサマーチは気がついた。

 海堂トレーナーに勝利を届けられたことが、何よりも嬉しかった、ということに。

 それを伝えることもなく。フジマサマーチは、カサマツ寮へと帰っていった。

 

 この言葉は、東海ダービー制覇の際に伝えるべきだと。そう考えながら。

 

 

***

 

 

「穣さん、質問いいですか?」

「おう、どうした?」

 

 フジマサマーチが見た山の頂は何だったのかと1日かけて考えてみたが、結局、納得の行く答えは出てこなかった。

 

 考えられるのは、その見える景色はウマ娘によって変わるのではないかということ。

 フジマサマーチは山の頂に辿り着くことを目標としていた。そして、その目標が具現化した世界が、レース中に景色として現れるのではないか。海堂は分からないなりに、そう考えてみたのだ。

 

 しかし、やはり1人で考えるには限界がある。

 せめて、もう1人。フジマサマーチと同じ世界に突入していそうなウマ娘がいればいいのだが――――いや、いるではないか。オグリキャップが。

 

 とりあえず、北原に聞いてみて駄目だったら仕方ないで済ませようと思い、話しかけた。

 そして、今に至る。

 

「オグリキャップに異変とか、あったりしませんか?」

「異変?」

「あ、体の異変じゃありませんよ。レース中に変な景色が見えたって言ったりとか、そういう不思議な異変です」

「レース中に変な景色が……いや、んなことは言ってなかったな」

「……まぁ、ですよね」

 

 やはり、駄目だったか。そう考えたのもつかの間。

 

「……待てよ? 変な景色って言ったか?」

 

 海堂の予想と違って、北原の反応は上々だった。

 まるで、その景色を知っていますよと言わんばかりの反応。この反応を待っていたのだ。

 

「俺の叔父さんが中央でトレーナーやってて、今カサマツに帰ってきてんだ。その人ならもしかしたら分かるかもしれねぇな」

「中央のトレーナー……」

 

 確かに、その人なら分かるかもしれない。

 努力だけでは辿り着けない場所で、長年トレーナーをやってきた、見積もっても自分の2倍は長く生きているであろう人物。

 この人を頼らずして、他に誰を頼るのだと。

 

「穣さん、お願いがあります」

 

 成長につながるのならば、何でもする。それが海堂の心情だった。

 

「そのトレーナーさんに、会って話をさせてください」

 

 故に。海堂がそう発するのは、必然の事だった。

プリティー要素、どのくらい欲しい?

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  • おおめ
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  • ほどほど
  • すくなめ
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