ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N16-皆勤賞

「……いや、そんな事があってたまるかって」

 

 中京盃から1週間が経過した。

 トレーナー室にある椅子に座り、レースの結果が書かれている新聞を持つ海堂の手は、小さく震えていた。

 同時に、頭を手で抑え、ため息をつく。どうしてこうなったんだ、という意を込めて。

 

 中京盃、オグリキャップ、1着。

 

 中京盃、オグリキャップはまだ分かる。六平から″オグリキャップが中京盃に出る″と前もって聞かされていたのだから。

 だが、1着はおかしいだろうと。この2つと並んでいい単語じゃないだろう、なんて1着取れてんだと、海堂は困惑していた。

 

 初の芝、初の遠征。

 ″まさか″が起きない限りは、差しのオグリはバ群に飲み込まれ、本来の力を出し切れず、入着すら出来ずに終わるだろう。

 事実、中京レース場に押しかけていたほとんどがそう予想していたし、海堂もそう予想していたのだ。

 

 しかし、蓋を開けてみれば一目瞭然。

 1200m――――わずか6ハロンの間ではあるが、オグリキャップは後方からレースを支配し続けた。

 

 序盤は中団に潜み続け、前方に圧力をかけ続ける。残り500mで仕掛け、大外から全ウマ娘をぶっこ抜く。

 芝だろうが、ダートだろうが、そこがカサマツであろうがなかろうが関係ない。大外から差し切るため条件さえ揃えば、今のオグリキャップに負けはない、ということを証明した華麗なレースだったとも言える。

 

 差しというのは、事故の可能性が高い脚質である。

 バ群に飲み込まれる危険性もあれば、逃げの独走で追いつけずに負ける可能性だってある。自分よりも前にいる先行に追いつけない、追い込みに追い越される。

 平たく言ってしまえば、差しという脚質は不安定なのだ。

 

 3年前後トレーナーをやってきたが、ここまで差しがハマるウマ娘は見たことが無い。

 逃げ、先行の手本がフジマサマーチだとすれば、差しの手本はオグリキャップ、ということか。

 

「というか、六平さんが凄すぎるな……」

 

 海堂の頭の中に浮かんだのは、小洒落た帽子を被り、サムズアップをして微笑む六平の姿――――ではなく、中京盃に出場する前の段階でオグリキャップ1着を言い当てた、ニヤリと笑ってパイプ椅子に座る六平の姿。

 

 正直、オグリキャップが中京盃に勝つと六平が断言した時、海堂はそれを信じられずにいた。

 というか、100人中100人が否定するだろうと。それが当たり前なのだから。

 

 しかし、オグリキャップは下馬評を覆した。その″まさか″が起こったのだ。

 

 だが、後になって冷静に考えれば″まさか″が起こるのも納得が行く。

 フジマサマーチも、オグリキャップも、そういった既成概念を打ち破る側にいるウマ娘だ。そのことは、ジュニアクラウンのアレで証明されていたじゃないか、と。

 

 紙コップに入ったコーヒーを飲み干し、その下にある記事に目を通す。

 

「タマモクロス、条件戦初勝利……こっちもか。凄いね」

 

 ″笠松でどえらい葦毛の2人組見掛けてな!″と、某関西球団のファンのような口調で話す葦毛のウマ娘に出会ったのは、およそ2週間前。

 未勝利戦に9人前後が出場できるとして、その中で1着を取得できるウマ娘は1人だけ。これを素直に捉えるならば、未勝利戦に勝てるウマ娘はおよそ10%しかいないことになる。

 

 そこから、未勝利戦を抜けた上澄みを集めたレースで1着を取得するウマ娘を絞るとなると、さらに数値は低くなる。

 

 未勝利戦後の条件戦に勝利。小さな1歩のように見えるが、その内容は見かけと乖離している。

 六平といい、タマモクロスといい、ここ1、2週間でとんでもない人物と知り合ってしまったのでは……と、思ったのだが。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 関西弁のウマ娘。生まれた時代が違えばほんの少し違えば″Vやねん!″という言葉が描かれた雑誌の表紙を飾っていただろうなと思いながら、タマモクロスと記者のインタビュー形式の記事をどんどん読んでいく。

 

 朝は朝練と出勤準備、放課後は放課後練、夜は翌日のメニューの形成と、心休まる時間が昼休みにしかない。

 この心休まる時間を1秒でも有効に使いたい。それゆえか、記事に目を通すスピード――――いわゆる″速読力″が上がって来た。

 

 マーチから借りた小説もあと数ページで終わる。それを思い出し、新聞を端に置いて小説を手に取った時、トレーナー室のドアが開いた。

 

「失礼します」

「ん、マーチ」

 

 最近、昼休み中にフジマサマーチがトレーナー室を訪れることが増えた。

 以前はせいぜい1週間に1回、もしくはそれ以下だったのだが、ジュニアクラウンを境にして週3、4回に増えていた。しかも今週はまさかの皆勤賞。

 

 その本人曰く、ここに来ているのは″休憩時間に予定を確認したいので″という理由があるかららしいのだが、何か裏があるようにも思えなくも……ない。

 

「というか、無理してここに来なくたっていいんだよ? 俺なんかと飯食べるより……」

「いえ、ここが一番安心するので」

「……そう。なら、昼の間は好きに使って」

 

 まあ、無理に咎める必要は無いだろう。

 昼食を一緒に食べることがモチベーションの向上に繋がるかどうかは分からないが、ここが一番安心するというのならそれに応えるまでだ。

 

 裏がありそうというのは″気がする″というだけで。自分が考える裏なんてのは無いだろうし、まあ、いいかと。

 

 学食で売っていた弁当を食べるフジマサマーチを見て、海堂はふと思う。

 

(……そういえば、マーチに中京盃のことを聞いてなかったな)

 

 それと同時に、六平の言葉が頭に浮かんだ。

 中京盃には出るな、と遠回しに伝えられたのだろうが、そもそも中京盃に出ない方が良い理由を聞くのを忘れていたな、と。

 当時は″中央のトレーナーが言うのなら……″と、理由をつけて話を聞かなかったのだが。そのせいで色々後悔しているのはまた別の話だ。

 

 一応、聞いてみるか。

 

「……マーチ?」

「どうしました?」

「俺がマーチを中京盃に出さなかった理由、覚えてる?」

「芝対策が無価値だとは言い切れない。それでも、東海ダービー制覇を目標に掲げるなら、芝対策よりももっとやるべきことがある……でしたよね?」

「そうだね。その通りだ」

 

 出るな、というよりかは出ない方が良い、だった。

 そこが、六平と海堂の考えの決定的な違いだった。

 

「この前、中央のトレーナーと話す機会があってさ。その時、マーチは中京盃に出るのか? って聞かれたんだ。出ませんって言ったら、それでいいって返ってきた」

「それでいい?」

「その人は中京盃に出ないことをオススメしてて……で、その人から理由を聞きそびれたんだ。それが分かんなくて聞いてみた。理由、分かる?」

「……分かりませんね。部分否定なら分かりますが、全否定は」

 

 芝対策をさせる意味はない、という部分否定ならまだわかる。

 しかし、中京盃に出ることの全てを否定することは違うんじゃないのか、と海堂は考えていた。

 

 中京レース場であろうが、名古屋レース場であろうが関係ない。カサマツレース場とは違うレース場で走るという部分に意味があるのだ。

 ここは走り慣れた庭とは違う。遠征というのは、その感覚を体に覚えさせることを目的として行うのだ。

 

 確かに、3月にスプリングCという重賞レースがあることを考えれば否定するのも分からなくもない。

 東海ダービーと比べて300m短いものの、本番と同じ会場の名古屋レース場で走ることができるスプリングCは前哨戦にもってこいだと言える。

 

 つまり、ここで出なくとも、もっといい条件のレースが控えているからそう焦る必要もない。そう言いたかったのだろうか。

 

(……六平さんだったらそこまで説明するだろうし。聞かなかった俺も悪いんだけどさ)

 

 中央のトレーナーであるからこそ、否定した、とかだろうか。

 ――――まあ、いいか。中京盃は終わったんだし。ズルズル引き摺る必要もないだろう、と頭を切り替える。

 

「そういえば、次のレースはどうするんですか?」

「次のレース、か……」

 

 両腕を頭の後ろに回し、考える。

 

 スプリングC、東海ダービーに出場は確定として、次はどうするべきか。

 2週間後、名古屋レース場のダートで開催される中日スポ杯があったはずだ。東海ダービー制覇を目標とするならば、中日スポ杯に出場した方がいいのではある、が。

 

「最初は中日スポ杯を考えてたけど、パスかな。スプリングCの方が前哨戦としての精度が高い」

 

 東海ダービーの距離が1900m、スプリングCの距離が1600m、中日スポ杯の距離が1400m。それを考慮するならば、今はレース場を変えるよりも距離の方を変えた方が良いだろう。

 それに、中日スポ杯当日まで残り2週間を切っている。本番を受験日だとするならば、レースは模擬試験である。だが、目の前にある模擬試験の全てを受けろというのは間違っている。

 

 必要最低限のレースに出て、それ以外は全て基礎能力の向上に充てる。それが一番良く、その必要最低限の中に中日スポ杯は入らなかっただけなのだ。

 

 1600m前後のダートレース、場所は考慮しない。それでいて、開催まで1ヶ月以上の期間が開いているレース。

 まぁ、それに当てはまるレースは少ないだろうし、限られてくるだろう。

 

「800mから1400mに釣り上げるのと、1400mから1900mに釣り上げるのは全然違う。距離は段階を踏んだ方が良いだろうな」

 

 年明けになるが、これがいいか。

 そう思い、中部地方のレース開催日一覧が書かれた雑誌を取り出して開き、フジマサマーチに見せる。

 

「ゴールドジュニア……」

「1600で距離はスプリングCと同じ。前哨戦の前哨戦ってのは不思議だけど、このレースを選ぶ理由は他にもある」

「……オグリキャップも出場する、とかですか?」

「流石。頭の良いウマ娘が担当で助かるよ」

 

 おそらく、ゴールドジュニアにはオグリキャップも出場するだろう。

 芝を走らせた後となると、1度覚えた芝の感覚をリセットしてダートの感覚に戻す必要がある。その期間は見積もっても1ヶ月か2ヶ月。

 

 ゴールドジュニアの2週間前に同じ条件のジュニアグランプリがあるが、その日はおそらく間に合わない。なら、出るとしたらゴールドジュニアの方だろうと。そう踏んだのである。

 

 意識し過ぎだろ、と言われても仕方がない程の狙い撃ちだが、それでいいのだ。

 なぜなら、オグリキャップは――――

 

「マーチ。ライバルって良いものだろ?」

 

 フジマサマーチにとっての、唯一無二のライバルなのだから。

 

 以前のフジマサマーチなら、分からない、と答えていたかもしれない。

 だが、今は違う。

 

「ええ、良いものですね」

 

 そう告げる顔には、年頃の女の子らしい笑顔が浮かんでいた。

 その笑顔が見えただけで、海堂は充分だった。

プリティー要素、どのくらい欲しい?

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  • おおめ
  • それなり
  • ほどほど
  • すくなめ
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