ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
時は過ぎ、ゴールドジュニア2週間前。
世はクリスマスシーズンが近くなり、浮かれ気分な時期になってきた頃。今日も今日とて1600mの配分を体に染み込ませ――――はせず、今日はオフに。
クリスマスはこれで友達と美味しいご飯でも食べてきな、とそれなりの金額の金を渡した時に、フジマサマーチの耳が心なしかぺたんと垂れていたような気がしたが――――まあ、気のせいだろうしそれは置いておいて。
とにかく、このオフの日にやらねばならないことが海堂にはあるのだ。
今行っているのは、その人物に会って真実を確認するための移動。とはいえ、移動と言ってもその移動距離は50mにも満たないのだが。
歩くのをやめ、その人物がいるであろうトレーナー室の前に立ち、扉を開ける。
「おう、海堂。どうしたんだ?」
そこにいるのは、オグリキャップのトレーナーの北原穣。
というのも、中京盃を境に、この北原の様子がおかしくなった……ような気がしたのだ。
なった、ではなく気がした、という程度の些細な違いしか見受けられないのは確かなのだが、問題なのは、その些細な違いがおよそ2ヶ月に渡って見えている点だ。
1日や2日なら放っておいても治るだろうと踏んでいたのだが、流石に2ヶ月となってくると心配の方が強くなってくる。
と言っても、不安で寝れない日が続いたり食欲が無くなったりと、私生活に影響を及ぼしているわけではなさそうなのが幸いか。
自販機で買ってきたホットコーヒー缶を渡し、さりげなく話を切り出す。
「穣さん、なんか抱えてたりしません?」
その言葉に、北原の身体が反応した。
当然、海堂はそれを見逃さない。そして、今現在感じている違和感はやはり偽りではないという確信も得た。
まぁ、結局、ただの思い違いでしたというオチだったら杞憂で終わったのだが。あったらあったで今度は探るフェーズに移行するだけである。
「たとえば、オグリキャップが中京盃に勝ったことで不利益を得た、とか……実は、六平さんと話した時に言われたんです。マーチを中京盃には絶対に出すな、って。多分、穣さんも同じことを言われたんだと俺は考えてるんですよ」
無論、ここで海堂が話しているのは全て推測でしかない。
北原が悩み始めた原因となった出来事、北原がどうしてここまで悩んでいるのか。その全てが推測である。
だが、大方の予想はつく。
中京盃を境に様子がおかしくなったと分かっていれば、まずは中京盃を引き出しに出す。
その次に、悩みの原因となった出来事を不利益という言葉に収束させる。
何も、悩みの内容の全てを当てなくてもいいのだ。海堂が今ここですべきなのは、何かに悩んでいるということだけは知っていますよと伝えるだけ。
聞きたい内容は、向こうが勝手に話してくれるのだから。
「何か抱えてるなら、誰かに話した方が楽になりますよ」
そして、止めに自分は貴方の受け皿になれる、ということを示す。
そうすれば、自然と向こうから――――
「……中央の生徒会長、シンボリルドルフにスカウトされたんだ。オグリがな」
口にする。
この人心掌握術が、海堂の良さでもあり、恐ろしさでもあった。
訳を聞けば。中京盃で好成績を残した後、シンボリルドルフから呼び出されて向かったら″オグリキャップをトゥインクル・シリーズにスカウトしたい″と。
レースに絶対は無いが、彼女には絶対があるとまで言われた三冠ウマ娘のシンボリルドルフ直々に、オグリキャップがスカウトされた。
事の内容は、それだけだった。だけ、で済ませてはならない内容では、あるが。
(……今なら、六平さんの言葉の意味が分かる気がするな)
何故、北原に対し、中京盃に出ないように忠告したのか。
何故、フジマサマーチが中京盃に出ないと伝えた時、それでいいと言ったのか。
今までは繋がることのなかった、東海ダービーという単語と中京盃という単語が頭の中で結び付く。
地方のレベルに収まらないウマ娘が中京レース場で走り、ある程度の活躍を見せればどうなるか。
その結果を示したのが、中央のスカウト――――つまりは、今北原に降りかかっている災難なのだ、と。
オグリキャップやフジマサマーチが中京盃に出れば、東海ダービー制覇という夢を諦めざるを得なくなるかもしれない。六平は、それすらも見越していたのだ。
中央で活躍するために必要な条件は2つ。
1つは、中央と比べても見劣りしない実力を持っていること。
当たり前ではあるが、この実力があるなら上でもやれるかもしれない、と思わせる程度の実力が無ければ歯牙にもかけられないのだ。
プロ野球選手になりたいとどんなに思っても、その選手にある程度の実力と実績が無ければ、プロのスカウトはその選手に対して″チームに不必要な選手″という評価を下し、その後は見向きもしない。それと同じだ。
この点に関しては、オグリキャップも、フジマサマーチも、その条件を満たす程度の実力は持っていたと言えるだろう。
もう1つは、環境が変わったとしても、変わった先の環境に即適応できる適応力を持っていること。
走り慣れていないレース場で、違和感なく走ることのできる適応力。どんなに実力があったとしても、本来の実力を出せなかったら戦績を残せず中央とはオサラバ、という末路を辿ることになる。
北は北海道、南は九州。場合によっては全国各地を回るハードスケジュールをこなさなければならない上に、そのレース場に合った走り方の対策をしなければならず、それと同時に基礎トレーニングも行わなければならない。
フジマサマーチにそれをこなすことのできる能力があるかどうかは、まだ分からない。
しかし、オグリキャップにはあったのだ。
そして。不運にも、それを示してしまったのだ。
示してはならない、最悪のタイミングで。
「……なぁ、海堂。お前ならどうすんだ? お前が俺の立場だったら、オグリを中央に行かせるのか?」
「……どうでしょうね。俺には、分からないです」
当然、言葉に詰まる。
海堂の脳裏に浮かぶのは、領域と、六平が発した″適応力″という言葉。
ぶっつけ本番の芝のレースで勝利するオグリキャップは、ここにいちゃいけないウマ娘だ。それこそ、中央に行っても活躍する″適応力″を持つウマ娘なのだと。
それは、トレーナーを始めて3年にも満たない海堂でも分かる。
カサマツから中央に移籍して、成功したウマ娘は1人もいない。
しかし、彼女ならあるいは――――と、思わせる、見る者全てを魅了するカリスマ性をオグリキャップは持っていた。
誰しもが思うだろう。オグリキャップが、中央という最高の舞台でどこまで食らいつけるのか。その物語を見てみたい、と。
だが――――そうしたら、彼女の夢はどうなる?
オグリキャップの夢は、東海ダービーでフジマサマーチと戦うことだと。以前、それを聞いたフジマサマーチが、嬉しそうに自分に話してくれたのを海堂は覚えている。
自分の教え子にも、こんなに可愛らしい一面があるのだと。話を聞いた時、そう思ったのも覚えている。
願わくば、2人の互いを高め合う関係が続いてくれと。そう考えもした。
しかし、オグリキャップが中央に移籍すればどうなる?
オグリキャップの夢は断ち切られ、それは同時にトレーナーの北原の夢も断ち切ることになり、フジマサマーチを失望させる可能性だって出てくる。
オグリキャップを取り巻く全員の願いが、水の泡となって消えてしまうだろう。
己のために走るのがフジマサマーチだとすれば、他のために走るのがオグリキャップなのだ。
親に感謝し、北原の望みに応え、ライバルを超えるために走り続ける。他人のために走るオグリキャップは、中央移籍を絶対に選ばないだろうなという予測は簡単に立てられた。
分からない。
″ウマ娘の夢″を第一に考えるのをモットーとしているのなら、カサマツに残留させるのが正解だと分かっているのに。
結局、海堂は【行かせない方が良い】とは言えなかった。
選んだのは、【分からない】――――無言という選択肢。
「……まぁ、そうだよな。分かんねぇよな」
北原も、海堂がどうして何も言わないのかは理解できていた。
海堂も自分と同じく、どうすれば良いか分からずに迷っているのだと。
「穣さんは……中央のライセンス、持ってないんでしたよね」
海堂の質問に対し、北原は弱々しく頷いた。
北原は、中央のライセンスを所持していない。
これが意味するのは、オグリキャップが中央に移籍した時点でお別れになる可能性が高いということ。
北原の親族には、中央でトレーナーとして働く六平がいる。
オグリキャップが中央に移籍すれば、六平が持つチームに所属することができる。しかも、六平は中央で30、40年はやっているであろう大ベテランなのだ。
どこのウマの骨とも分からぬ輩にオグリキャップを任せるよりかは、そちらの方が何十倍、何百倍も良いだろう。
しかし、それで満足できるわけがないのだ。
人を魅了し、励まし、勇気付けるウマ娘。オグリキャップは、誰しもが望む主人公になることができるだろう。
その未来が保証されたウマ娘を自分の手からするりと離し、別のトレーナーの下へ行かせることを、誰が好き好んでやろうか。
たとえ、そのトレーナーが自分の親族であったとしても。
「俺はよ……つくづく思うんだ」
「……何をです?」
「レースに勝てたのも、1番人気になれたのも、全部アイツ自身の実力なんだ。俺が担当してようがお前が担当してようが、誰でもいい。誰がトレーナーだったとしても、オグリは絶対に成績を残せてたってよ……それに、俺が東海ダービーの夢を諦めてねぇから、カサマツに残ろうとしてんのかもなって……」
どさり、と北原は地面に座り込む。
その顔に浮かぶのは、夢を手放すことの絶望、自分の無力さ、自分が足を引っ張っているのではないかという不安。
これが、常に気丈に振る舞っている北原なのかと。そう困惑してしまうほどには、北原の顔は曇っていた。
「そうじゃないと思いますよ、俺は」
だが、それは違う。
確かに、オグリキャップは才能の塊であることは間違いないし、誰が担当したとしても一定以上の戦績を残すことができるだろうというのは否定しない。
しかし、世の中には相性というものが存在する。
熱血指導が好きだとか、理論派が好きだとか、氷の精神のようなスパルタ指導でも耐えますだとか。トレーナーによって指導の好みはあるし、ウマ娘にも指導の好みはある。
そこが噛み合ってなければ、いくら才能があったとしても、誰でも出すことのできる一定の戦績を超えることはできないのだ。
オグリキャップの才能を活かすも殺すも、それは担当するトレーナー次第。
そして、オグリキャップの才能を一番うまく活かすことができたのは、他でもない北原なのだと。
「俺、思うんです。マーチの担当トレーナーが俺じゃなかったら、ジュニアクラウンでオグリキャップに負けてたんじゃないかって。
……本人が言うと自惚れ臭く聞こえるかもしれませんが、ハッキリ言います。中央のベテラントレーナーが担当になろうが、俺に勝てる人はいない。誰よりもマーチの良さを引き出せてるって自信がありますし、マーチの良さを一番知ってるのは俺だって、胸を張って言えるくらいにはやってきたつもりでいますし……それは、穣さんも変わんないでしょ? オグリキャップと戦ってきて、後悔してます?」
この8ヶ月間、自分の下してきた判断に後悔はないし、やれることは全てやってきたつもりでいる。
フジマサマーチの競争バとしての一度きりの人生を、よりよい人生だった、と思わせられるようにするために。
「俺たちトレーナーは夢に何度でも挑むことができる。けど、ウマ娘が夢に挑めるのはたった一度だけ。それはシンボリルドルフでも、オグリキャップでも、一般ウマ娘でも変わらない不変の事実。
当然、一度きりなんですから、これでいいのかとウマ娘に迷いが生じたり、トレーナーと意見が食い違ったりもするとは思うんです。そうしたら、トレーナーと担当ウマ娘がもう一度、腹を割って話し合う。こうなって欲しい、こうなりたいと互いの夢を語り合う……大事なのは、道に迷ったらとりあえず原点に戻ってみること。それじゃないんですかね」
そもそも、迷わずに迷路を突っ切れる人物などいないのだ。誰でも一度は迷うし、一度はゴールが分からず立ち止まる。スタートを見失うこともあれば、同じ場所をぐるぐる回るだけのに気づかない可能性だってある。
それでも、これだけは確かなのだ。
どんなに難解な迷路でも、スタートは必ず存在するし、ゴールも必ず存在することは。
ゴールが叶った直後の夢だとしたら、スタートは叶う前の夢そのもの。
ならば、一旦スタートに戻って、2人で夢の在り方を考えるのもありなんじゃないか、と。
迷ったのなら、スタートに戻って作戦会議。それも1つの手ではなかろうか。
「迷いから抜け出すために、信頼できる誰かが必要なんです……オグリキャップを迷いから解き放てる信頼できる誰かってのは、俺でもベルノライトでもない、誰よりも彼女の近くにいた穣さんなんですよ」
もう、充分だろうと。
伝えることは全て伝えたと判断し、立ち上がる。
後は、北原とオグリキャップの問題だ。そこに部外者が深く介入する必要は無く、与えられるだけのアドバイスは全て伝えたつもりでもいた。
「俺はその移籍問題の当事者じゃありませんし、俺から言えるのはそれだけです。正解のない問いに答えを出すのは難しいと思いますが……これだけは約束してください。絶対に破っちゃならない、男同士の約束です」
――――別れるとしたら、最後は笑顔で別れること。
……ライバルと戦うのは、ゴールドジュニアで最後になるかもしれないな、と。
そう思いながら、海堂は全てを伝えて立ち去った。
そうなる事が良いかどうかは、海堂にも分からなかった。
プリティー要素、どのくらい欲しい?
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たくさん
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おおめ
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それなり
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ほどほど
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すくなめ