ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
「どういうつもりだ!」
――まさか、ここまで同じになるとは。
トレーナーとウマ娘は似るというのもあるのかもしれないが。いや、それにしても、ここまで似なくてもいいだろうと。
状況を簡潔に説明するならば、フジマサマーチがオグリキャップにビンタをかまし、新聞の記事を突きつけている。そう言えば、今起こっている大方の内容が伝わるだろう。
……そう、今のフジマサマーチは2日前の海堂そのものなのだ。
「東海ダービーはどうした!? 私との約束はどうした!?」
オグリキャップの胸倉を掴み、フジマサマーチは問い続ける。
「違うんです! マーチさん! これは誤解で……!」
唯一違うのは、制止役がいることだろうか。
あの時の海堂には制止役がいなかった。それ故、海堂は怒りに怒り、疲れるまで怒った上で今度は怒りの方向性をシフトするといった荒業まで成し遂げた。
しかし、今のフジマサマーチにはいる。ベルノライトという制止役が。
だが、その一連の流れを観客席から遠目に見ていた海堂は知っている。制止役が1人や2人増えたところで、フジマサマーチの怒りが収まるわけがないと。
目上の者には敬語を使う礼儀正しい文武両道のウマ娘――のように見えて、心は常に灼熱の炎のように燃え盛っている、誰よりもアツいウマ娘。それがフジマサマーチというウマ娘なのだから。
共に戦うはずだったライバルが、約束を反故にして1人中央へ。
約束はどうした、ふざけてるのか。そう言われても仕方ない。というか、普通は裏切られたと思うのだから、そう言うのが当たり前なのだ。
「バカに……しやがって……!」
フジマサマーチの目にはじんわりと涙が浮かび、頬も少しばかり赤くなっている。
フジマサマーチは、オグリキャップの意思に関係なく、北原が苦肉の策としてこの案を出したことを知らない。
故に。オグリキャップとトレーナーが話し合った結果、こうしようと案が纏まったと考えているのだ。
事実、それは全くの誤解である。
オグリキャップはこの案の設立に関わっていないし、望んでもいない。それが正しいのだ。
実際の行動としても、仲介役のベルノライトはそれを否定しようとしているし、オグリキャップもそれは違うと否定するべき
「……だったら」
「だったら、私に勝て」
よりにもよって。最悪の返答をしてしまった。
「……私が負ければ、中央になんて行かない。そうだろ?」
――いや、トレーナーとウマ娘が似てるというのは先程の怒りの流れで理解したから、そっちまで似なくてもいいだろうと。
とにかく、それは違うし誤解だと否定できていれば、どれほど楽になっていたか。
「……あぁ、そうだな! 私が勝てばいい!」
結局、その返答が招いたのは更なるフジマサマーチの怒りだけだった。
怒るフジマサマーチ、様子のおかしいオグリキャップ。
ジュニアクラウンの時とは別の意味で、カサマツレース場は異様な空気に包まれていた。
あの時は、タマモクロスが観客席にいたから。それで説明がついた。
だが、今回は違う。ゴールドジュニアはありふれたSPIIIのレースの1つでしかなく、別に今日は観客席に中央関係者がいるというわけでもない。
厳密に言えば、観客席にシンボリルドルフとマルゼンスキーがいる。超大物が2人いる。それでも、大抵の者は居ることに気づいていない。
つまり、ここに有名人がいるから空気が違うという理屈は通用しない。
SPIII――年に何回もある1つの重賞レースの直前とは思えない、殺伐とした空気が流れていた。
SPIのレーススタート直前でも、ウマ娘とトレーナーの想いが強く現れるが故に、殺伐とした重い空気は流れる。当事者だけでない、周囲の観客にも伝わる違和感はある。
確かに、異様で殺伐であるといえば、今のこの空気はSPIのレースと同じ空気と言えるかもしれない。それと同じ空気というのは、あながち間違いでもない。
だが、今流れている空気は根本から違う。異様で殺伐というベクトルの向きが全く違うのだ。
あちらは、負けたくないという気持ち。
こちらも、負けたくないという気持ち。
だが、そこにあるのは希望か怨念か。そこが、大きな違いだった。
ウマ娘がゲートに収まり、会場が静寂に包まれる。
《本日のメインレース『ゴールドジュニア』まもなくスタートです!》
――始まる。
オグリキャップの運命を決める、全ての想いが交錯したレースが。
《――スタートしました!》
バン、とゲートが一斉に開く。
オグリキャップ、フジマサマーチ共に理想のスタート。
初の不良バ場ではあるが、フジマサマーチがやることは変わらない。
内蔵されたエンジンの違いを活かし、先行策を取ってレースのペースを自然に上げる。そうしてほいほいとついてきた後続のウマ娘のスタミナをごっそり削り、完膚なきまでに叩きのめす。
先行争いをしているだけなのにも関わらず、逃げのようにペースを形作る。レースを支配する側に立ち、前方後方関係なく支配する。
元々のスペックの差を利用し、フジマサマーチにとっての″普通″を他人に押し付ける。その普通は、他人にとっての″ハイペース″。そうすることで、スタミナを奪い取る。
そして、ほとんどのウマ娘がスタミナ切れを起こしたタイミングで、溜まった脚を開放してぶっちぎる。
この作戦さえ取っていれば、オグリキャップ以外は振るいから落とすことができる。その作戦が距離場所関係なしに作用する事は、今までのフジマサマーチの戦績が語っていた。
故に、今回もやることは同じだった。
800mだろうが、1400mだろうが、1600mだろうが、やることは変わらない。決まりきった仕事である。
振り回される2番手を嫌い、3番手を取得する。そうして脚を溜めつつ、全体のペースを上げる。
前が上がれば、その後ろにつくウマ娘のスピードも自然と上がる。自分が振り回され、必要以上にペースが上がり、本来の作戦が崩されていることも知らずに。
(……これでいい、が)
ただ――問題はオグリキャップがどうするかだ。
チラリ、とフジマサマーチはオグリキャップの位置を確認した。
――4番手。1バ身後方。
問題ない。寧ろ、予定通りではある、のだが。
(……あの時の圧力は何処へ行った?)
ジュニアクラウンで戦った時のオグリキャップとは、何かが違った。
あの時にあった、視界が歪むと錯覚するほどの圧力。差しウマが一番必要とする、前方に与える威圧感。今のオグリキャップからは、それが感じ取れないのだ。
差しウマが溜めた脚をいつ開放するか。当たり前と言えば当たり前だが、それは他からは分からない。
ただ、ウマ娘のデータを知っていれば、どこで仕掛けるかの予測はある程度立てられる。100%とは言わずとも、60から70%の確率で的中するであろう予測が。
しかし、データを知り傾向を予測しようが、ウマ娘がその予測通りの行動を取らない可能性だってあり得るのだ。
それはあくまで傾向でしかない。たまたま気分が変わったから、今日はちょっと早めに仕掛けようと考える気分屋だっている。
オグリキャップがその気分屋に当てはまるかどうかだが、当てはまらないとは言えない。オグリキャップには、ジュニアクラウンで早めに仕掛けたという前科があるのだから。
とにかく、差しウマ娘に重要なのは″いつ仕掛けるか分からない恐怖″を前方に与え続け、出来るだけ思考を奪い、集中力を削ぐことなのだ。
集中力を最初から最後まで100%のまま維持できるスポーツ選手はいない。どんなに優れた頭脳を持っていたとしても、本人のあずかり知らぬ所で集中力はジワジワと減っていく。
後方から圧力がかかれば、当然圧力をかけてくる後方に意識が向く。脳のリソースを思考能力以外の別部分に割かなければならなくなる。
そうして前方にいるウマ娘の思考能力を奪った上で、必要以上にスタミナを削ぐ。そして、バズーカのような火力の末脚で全てを抜き去っていく。
それが差しのお手本だというのは、他でもないオグリキャップから学んだことだ。
だが、今のオグリキャップからは、その前者の要素が感じ取れなかった。
あの時感じた威圧感がないというのは、やや不気味である。今何を考えているか、どこで仕掛けるか。その予測がしづらいからだ。
よく言えば、冷静に走れている。自分の中の圧力をコントロール出来ているとも言える。
だが、冷静に走るのは前方後方両方に意識を向けなければならない先行の役目。差しは前方に対してプレッシャーを与え続けなければならない――そう考えたら、差しのオグリキャップが冷静に走っているというのはやはり不気味である。
ジュニアクラウンの経験を活かし、オグリキャップが仕掛ける前に仕掛け、領域形成が上手く行かなくとも勝てるように余裕を持っておく。それが、フジマサマーチ当初の作戦だった。
条件を満たさなければ領域に入れないというのは、海堂から聞いていた。
裏を返せば、条件さえ満たせば確実に入れるということにもなるのだが――その条件が何なのかは、現時点ではわかっていない。
ただ、領域というものが自身の中にあり、それを形成できるだけの実力がある。フジマサマーチが現在理解しているのは、そこまでなのだ。
最終コーナーを1着で通過する、最終直線で競り合っている。考えられる限り複数の条件が思い浮かび、どの条件も有り得そうには思えたが、このレース中にその条件を特定できるかと聞かれたらNoとしか答えられない。
つまり、領域は強力ではあるが不安定さがあり頼れない。それ故、事前に2人は約束をしていたのだ。領域を無いものとした上で作戦を立てるぞと。
そして、その条件を守った上で、オグリキャップのスパートのタイミングをある程度読み、それを軸にして作戦を考える。これらを条件として、フジマサマーチは作戦を練り、ゴールドジュニアに臨んだ。
だが、これでは作戦の立てようがない。
オグリキャップを軸に仕掛けるタイミングを考える以上、ある程度仕掛けるタイミングが分かっていないと作戦自体が成立しなくなる。
(――ならば、こうするか)
軸にするウマ娘が不穏な動きを見せているのならば、軸を変えればいい。
他を気にせず、己の感覚に合わせる。己が仕掛けたいと思ったタイミングで仕掛ける。
軸を他人から自分自身に合わせることで、フジマサマーチはレース中に軌道修正をした。
これがうまく行くためには、スペックが他のウマ娘より一回り優れている必要がある。だが、まずは何よりも冷静でなければならないのだ。
その点、海堂の言葉は良かった。オグリキャップに対する怒りはあれど、海堂の″目を覚まさせてやれ″という言葉がフジマサマーチに効いていた。
自分がオグリキャップを叩きのめせば、それで済む話だと。レース前は本人に出会ったことで怒りが増したが、冷静に考えればこれだけで済む話だと気がついたのだ。
その言葉があったが故に、戦術を途中変更してもうまく行く程度には冷静になっていた。
この言葉が無ければ、軸を変えることができなかったかもしれない。そう考えるならば、海堂の助言はかなり役に立っていた。
《ウマ娘達、向こう正面を通過! フジマサマーチは3番手、オグリキャップはその1バ身後方の4番手!》
そう、問題ない。
他のウマ娘に紛れているように見えて、紛れていない。
普通に走っているように見えて、走っていない。
一回り大きなスペックの差を利用した、他を圧倒する走りはできている。
ここまでは問題ない。後は、オグリキャップがどこで仕掛けてくるかだ。
オグリキャップがそろそろ仕掛けてくるはずだと、フジマサマーチは考えていた。
もう100mもすれば、残り600mになる。ジュニアクラウンと距離は違えど、あの時はこの辺りで仕掛けてきた。
1600mの内の600m、コーナー手前。溜まった脚を開放するには十分な位置ではある。
もしくは、ジュニアクラウンの時の想定のように、それよりも少し遅くの300m前後で仕掛けてくるか。
――どっちだ、どっちで来る?
600mか、300mか。
軸を変えたとはいえ、ライバルというものは気にしてしまう。
(……いいや、違うだろう)
600mで仕掛けてようが、300mで仕掛けてこようが、差させない。
どっちでこようが、仕掛けるタイミングは変えない。
レースが予定通り進行すれば、絶対に負けない。
そして今、レースは予定通り進行している。
600m地点で、フジマサマーチは少しスピードを上げた。
だが、それはスパートではない。あくまで、溜まった脚の5割前後を解放しただけのミドルスピード。
オグリキャップの末脚に勝つには、早めに動いてある程度の距離を稼いでおく必要がある。それはジュニアクラウンで嫌という程味わった。
あの時、領域に突入していなければ負けていたというのは、紛れもない事実だったのだから。
当然、ミドルスピードに駆られるウマ娘は出てくる。レースは既に後半で、先行のウマ娘が仕掛け始めてもおかしくない距離なのだから。
そして、嫌でも意識は最も早くに仕掛けたフジマサマーチに向く。
(ここで上げてくるか、上げてこないか……!)
意気消沈したオグリキャップと言えど、ライバルの存在を意識はしているはずなのだ。
それに、スパートを掛ける条件は揃っている。
差しという脚質の関係上、先行策を取っているフジマサマーチよりも先に仕掛けるのは考えにくい。
何故なら、そこには仕掛けたくても仕掛けられない理由があるからだ。
先行という脚質が逃げと差しの間に属している以上、逃げの後ろにつけてある程度ハイペースを維持し続ける必要がある。
それに対し、差しは最終局面で捲ることを最終目標として立ち回る。
逃げと先行を完璧に捲るには、先行のような早めのスパートは厳禁。自分の末脚が最もフルパワーで発揮できるかどうかが重要である。
差しに求められている脚は安定性ではなく、爆発力なのだ。
逃げ、先行、差しの順番で並んだ場合、最も壁と呼べる存在が多い場所はどこかと聞かれたら、当たり前だが答えは差しなのだ。
先行が仕掛けなければ、差しは先行という壁のせいでスパートを仕掛けたくても仕掛けられない。障壁がなければ本来の力を発揮できるが、そうでなければ本来の力は発揮できない。
しかし、今回は状況が違う。
フジマサマーチが動くことにより、扉が開いた。それもそうだ、自分の前方にいる壁が″動いた″のだから。
扉が開けば、自然と道も開ける。差しが本来の力を出すためのリミッターが解除される。
そして、発射準備が整ったら――次は、物理的に差し切れない距離を作られることを避ける。差し脚質ならば、この思考に自然とシフトするはずなのだ。
そうすれば、この数秒以内でオグリキャップが起こすであろう行動は、自ずと頭の中に現れてくる。
壁が邪魔にならないルートを読み取り、自分よりも後――およそ100mか150m後に仕掛けてくる。そう判断できる材料は完璧に揃っていた。
スピードを徐々に上げるフジマサマーチは、後方にいるオグリキャップを一瞬だけ確認する。
ここでオグリキャップが仕掛けなければ、2人の間に物理的に差し切れない距離が生じる。ここで仕掛けなければ、オグリキャップは絶対に勝てなくなる。
そう、それはほとんど正しかった。正しかったのだ。
オグリキャップがここで仕掛けなければ、距離は更に開く。その距離が物理的に差し切れない距離とは言わないが、仕掛けるならばこのタイミングで仕掛けるのが最もふさわしいのだ。
ここで仕掛けなければ、勝つ可能性はピークを過ぎてじわじわと下がっていく。そして、その可能性もいつかは0になる。
そして、オグリキャップは好機を見逃さないウマ娘である。これも正しかった。
(……何をしている!?)
――だが、オグリキャップは未だに仕掛けない。
何故――その言葉が口から漏れかけた瞬間に、フジマサマーチは理解した。気がついたのだ。
空間が歪むと誤解するほどの圧力がない理由。仕掛けてくるだろうと予測したタイミングで仕掛けてこない理由。
この2つの理由が、1つの結論に収束する。
オグリキャップは、仕掛けてこないのではない。
ハナから、仕掛けるつもりがない、のだと。
「……フザケやがって!」
グン、と力強い一歩を踏みしめる。
ここで自分が負ければ、夢は繋がり誰もが満足する。オグリキャップはそう考えているのだと、フジマサマーチは気がついた。
確かに、ここで自分が勝てば夢は繋がる。約束も破られずにいる。東海ダービーに出場することも叶う。少しばかりの犠牲を生むが、それでもおおむねは満足する。
だが、それは合っているようで違う。それで勝ってカサマツに引き留めたとしても、決して満足はしない。
最強のオグリキャップ————ライバルとと真っ向勝負で戦わずして勝利して、何の価値があるのか。何が嬉しいのか。
《フジマサマーチ! 前方との距離を一気に詰める!》
目を覚まさせてやる。
最も敬愛するトレーナーの言葉を胸に、フジマサマーチは本気のスパートを仕掛けた。
その時、だった。
「オグリィイー!!!!!!」
オグリキャップの名前を叫ぶ、1人の男の声が聞こえたのは。
プリティー要素、どのくらい欲しい?
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たくさん
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おおめ
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それなり
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ほどほど
-
すくなめ