ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
「お待たせしました……」
机の上に、2つのコーヒーカップが置かれる。
話せば長くなる。そう悟った海堂は、場所を変えようとシンボリルドルフに持ちかけた。
そして、シンボリルドルフもこれを了承。超有名人のシンボリルドルフがいても騒ぎにならないであろう場所――――大学時代の友人がバイトとして働いている、こじんまりとした個人経営の小さなカフェを選んだわけだが。
「……お前、何したんだよ。というか、マーチちゃんはどうした?」
「何もしてないから安心して。シンボリルドルフを怒らせたとかじゃないし」
「そうかい……それじゃあ、ごゆっくり」
この通り、何してんだと言いたげな目で見られるのだ。
まぁ、そう思うのもおかしくはないだろう。大学時代の友人が店に来てくれたと思ったら、女性と2人きりで――――しかも、その女性はトゥインクル・シリーズのトップ中のトップ、シンボリルドルフだったのだから。
やれ担当しているフジマサマーチはどうしただの、どうしてこんな田舎にシンボリルドルフがいるんだだの。色々問いただされそうだったから、海堂は″気にするな″の一言で全てを納得させようとしたのだが。
まあ、それで納得するわけがないだろうと。そりゃそうだ。
この友人、海堂がカサマツトレセンに行くために退学していたのは知っていた。きっと海堂なら成功して、いつかここにウマ娘を連れてくるだろうなというのも想像していたのだが。
これは何か違うだろうと。いや、連れてくるウマ娘の段階をもっと踏めよと。そう考えながら給仕していたのである。
絶対に来るはずのなかった客が来たせいで、店内は若干、ほんの若干ではあるがピリピリとしていたのである。原因の2人は何食わぬ顔でコーヒーを楽しもうとしていたのだが。
「それで……俺を知った理由は?」
机の上に置かれたコーヒーカップにミルクを入れ、くるくると回しながら海堂は問う。
敬語がなくなっているのは、警戒心の薄れを意味していた。相手は決して超常の存在などではない、一人のウマ娘であるという認識が、それをもたらしていた。
そして。シンボリルドルフからの提案は、至って普通だった。
君は素晴らしい素質を持っている。だから中央に来て、トゥインクル・シリーズを盛り上げてほしい。ただそれだけだった。
だが、どうやって自分のことを知ったかというのは未だ明かされていない。
トレーナーをスカウトすること自体は有り得るかもしれない。しかし、それはそれとして優先順位が違うのだ。
そもそも、普通スカウトする上で注目するのはトレーナーの方じゃなく、ウマ娘の方だろうと。その指摘自体は的を射ていた。
トレーナーというのは、黒子に徹する役である。
ウマ娘は太陽、トレーナーは月――――と、どこぞの教皇のような言葉がこの世界にはひっそりと存在する。
月は太陽の光を受けて輝き、太陽に量も質も劣っている。
ウマ娘は
勝てばウマ娘の努力が実ったと称えられ、負ければトレーナーの指導不足だと囁かれる。
どうしても、周囲の目というのはレースを走り切ったウマ娘の方に集まる。トレーナーに注目が集まるのは負けた時だけというのは間違いではない。
フジマサマーチはゴールドジュニアまで無敗だった。故に、海堂に注目が集まることはなかった。ウイニングライブの時は別件として。
思い当たる節が無いわけではないが、それはそれとして″どうやって知ったか″というのは気になるものではある。
「オグリキャップに2勝もしている、フジマサマーチというウマ娘がいることを知ってね。君を知ったのはそこからだよ」
「オグリキャップの戦績を洗っている時にたまたまマーチを見つけ、それを調べたらトレーナーが凄い人間だってことに気づいた、って事かな?」
「まぁ、そういうことになるね。君を見つけたのは思わぬ誤算だったと言わざるを得ないよ」
「……まあ、確かにそれもそうかもしれないけれども」
中央に通用するかもしれない地方ウマ娘を探すことには、意味がある。
トレセン学園に入学するウマ娘の殆どが本格化を迎えていない。それ故、身体が発展途上であることが多く、入学後に異常な成長率を見せて地方レベルを逸脱する――というケースが多々見られるからだ。
しかし、トレーナーは違う。何故なら、ライセンス取得試験の合否発表の時点で、ある程度の実力と底が分かってしまう可能性が高いからだ。
トレーナーになりたいと願うほぼ全員が中央を目指し、まずそこで選別が始まる。
そして、勝者と敗者が決まる。ここで言う勝者は合格した者で、敗者は不合格になった者である。
勝者はライセンスを引っ提げて、中央トレセンへ向かうことになる。
敗者はどこへ行くか、という話だが――――大方の察し通り、中央の試験に落ちた者は地方トレセンへ行くのである。
言ってしまえば、地方は中央の受け皿である。そして、それはあながち間違いではない。
それ故、試験に受かったか落ちたかでトレーナーとしての格――――限界が分かる。どんなに頑張っても超えられない壁。中央には届かない実力が。
たかが一度の試験で全てが決まるわけがない。そう思えるかもしれないが、この世には″中央に行くべきして行く者″が少なからず存在する。
例えば、桐生院家や東条家などの名家の生まれの者。トレーナーになるための英才教育を施される名家に生まれた者は、トレーナーになるべくして生まれたとも言えるだろう。
彼等には、歴史があり、才能があり、権力も存在する。
中央に行くべくして行く者の大多数を占めるのが、そういった名家の者である。
――――しかし、ほんの僅か。数値にして約1%。
中央に行くべきして行く者の割合の、極少数を占める存在もある。
それらの存在は、何百、何千倍もあるであろう倍率の試験にストレートで合格する。
2回3回、多い時には10回以上は落ちるであろう、伝統ある中国の科挙のような試験を一発で合格する。
普通とは違う異端児。そういった存在がこの世にどこかに存在し、才能の無い者は異端児に蹂躙されていく。
そして、そのような極少数派を。人は″天才″と称する。
その片鱗を見せた人物が、カサマツにいた。シンボリルドルフは、それを見抜いていた。
何故か地方にいる海堂は、その天才の側に属していた。
シンボリルドルフも、海堂が天才の側にいるのを理解していた。
海堂一家は、別に名家でも何でもない、ただの普通の一般家庭であった。
しかし、その普通の一般家庭に生まれた突然変異が中央の受け皿である地方に半年で合格し、異常でなければ入ることのできない中央の領域に片足を突っ込んでいる。
はっきりと言えば、異常事態も甚だしかった。
「ところで。この手のスカウトは年に何回やってるの?」
「君の想像よりは少ないだろうね」
「……10回前後とか?」
「いや、3回だけだ。正確には、私が干渉するスカウトは年に3回しかできない、と言った方が正しいかな」
「3回だけ、か……その1回を俺に割いてくれたってのは、中々に光栄な話だな」
3回のみ――――それを聞いた時、嬉しさよりも驚きの方が先に来た。
中央も中央で意外と地方を考えているのだな、と。
制限がついているのは地方の衰退を防ぐためだろうな、と直ぐに推測ができた。
年に地方から10人20人と見境なくスカウトするのは、流石に気が引ける――――というか、最悪スカウトされる地方側から大批判を喰らってもおかしくはない。
地方をもっと大切にしろだの、地方にスターを生ませろだの。某球団の大正義補強のようなバッシングを受けてもおかしくはない。
しかし、年に3回という点が絶妙である。
言ってしまえば、URAはシンボリルドルフが持つ名誉に敬意を払い――――シンボリルドルフから注目されるということは、大変価値のあることだと判断したのだ。
地方からの過剰な流出も防げる上に、スカウトされたウマ娘は″シンボリルドルフの目に止まった″と評価される。
中央に行きたい人は正規の方法で行けば良い。ただ、シンボリルドルフが認めた3人のみは、その正規の方法を受けなくても中央に行けるという選択を与えられる。
平たく言ってしまえば、オグリキャップと海堂はシンボリルドルフに才能を認められたのである。
君らなら、正規のルートを通らずとも中央に行っていいよ。大丈夫、中央トレセンで一番権力持ってる皇帝が認めたから、と。
「で、トレーナースカウトの問題は……」
「君が1人目だ、というところだね。この権利で中央に移籍した……いや、するかもしれないトレーナーは、未だ君以外に存在しない」
「どうしてもウマ娘の方に注目するからね。それは仕方ない、けれども……」
「心配かい?」
「それは、そうだね」
そう、このスカウトの最大の問題は――――シンボリルドルフによってスカウトされたトレーナーの前例がない点にある。
つまり、海堂が記念すべき1人目であるという部分にあるのだ。
記念すべき1人目が本当に記念すべきなのかどうかは別として、これは色々と問題もある。
何せ、海堂が何か行動を起こす度に″シンボリルドルフに認められた初めてのトレーナー″という2つ名が付き纏うのだ。
道を切り開く者というのは、良くも悪くも有名になることは間違いない。
中央という海に飛び込むファーストペンギンとなるか、荒波に飲み込まれそのまま散るか。
海堂の一挙一動に、地方の、中央の、ファンの期待が懸かっているとも言える。
期待も大きい反面、失敗した時の落胆も大きい。通用しないのは知っていたという批判も、何倍にも増えるだろう。
当然、2人はその危惧が起こることを意識しているし、懸念すべき点であるとも考えていた。
選ばれた海堂も批判され、選んだシンボリルドルフも批判される。
お前の目は節穴か、と。
故に、慎重にもなる。それは正しいことだった。
「一応説明しておこう。まず、君は中央のライセンス取得試験を受けなくても良い。つまり、君は私のスカウトに承諾してくれれば、実質中央のライセンスを取得したことになる」
「ライセンスを取得したことになる。なら、スカウトを受けてカサマツに残留するのは?」
「それはダメだ。実質中央のライセンスを取得したってだけであって、厳密に言えば取得していないのだからな。受ければ強制的に中央へ行くことになる」
「そんなに上手くはいかないって事か。了解」
ライセンスを取得しなくても中央に行けるのであって、ライセンスを取得したわけではない。
これで承諾さえ貰えれば、即スカウトに乗っていたのだが。まぁ、そんな話があればオグリキャップももっとうまく移籍しただろうなと思い、コーヒーを一口飲んで次の質問に移った。
「期限は?」
「原則、3ヶ月までとしている。3ヶ月の間なら何時でも構わないし、なんならここで結論を出してもいいが……」
チラリ、とシンボリルドルフは海堂を窺う。
まぁ、ゆっくり考えてくれとは言わなかった。厳密に言えば、相手が海堂だから言わなかった。
理由は――――彼ならば、今ここで結論を出すこともできるだろうなと考えていたからだ。
シンボリルドルフと海堂は、この店に来る前に小1時間話していた。
普通、その小1時間の会話でスカウトの説明は終わる。場所を変えずに、電話番号を交換するだけでとりあえずの話と説明は終わる。
しかし、スカウトの本題に入ったのはこの店に来てからである。
そもそも、何故シンボリルドルフは初対面の海堂に対し敬語を崩しているのか。そして、何故海堂もそれを咎めようとしないのか。
そう、理由は単純である。
カサマツレース場での会話で、互いが互いを認め合った。これが理由である。
シンボリルドルフは、スカウト直後にトレーナーとは何かと問うた。
そして、海堂はこう答えた。″ウマ娘の夢を叶え、幸せを与えるための礎となる存在だ″と。
その答えは、シンボリルドルフの理想に限りなく近かった。
シンボリルドルフは、全てのウマ娘が幸福になることを夢みている。
海堂は、ウマ娘に叶えたい夢があるのなら、それにどこまでもついていくといった信条で動いている。
シンボリルドルフはウマ娘の観点から願い、海堂はトレーナーの観点から願っている。
何処からという部分が違うだけで、2人が持つ理想は実質同じだと言っても良かった。
片や地方の1トレーナー、片や中央の最高権力者。
アンバランスに見えた関係。その関係は、海堂の一言で急激に深まった。
また、2人の年齢が近かったのも良かった。
30代、40代のトレーナーと話すとなるとどうしても硬い口調になってしまう。しかし、シンボリルドルフと海堂の年齢差は3、4歳程度しかなく、ほぼ同年代と言っても過言ではない。
それらの要素が合わさったが故のタメ語。というか、歳は近いんだしタメ口で良いと先に提案したのは海堂の方だったのだが――――実際、それらは2人の間で良いように働いていた。
そして、海堂は悟る。
シンボリルドルフは答えを求めているのだな、と。
「断るつもりではいる。一応マーチに相談するつもりではいるけどね」
「理由は……まぁ、聞かなくても分かるな。この数時間で君のことを色々と知ったが、胸襟秀麗。ウマ娘を優先した、実に素晴らしい考えを持っているのだと理解できた」
同じ視座に立つが故に、シンボリルドルフは分かっていたのだ。
聞かずとも、海堂は″カサマツに残る″と言うことを。
「俺には、東海ダービー制覇って叶えなくちゃならない夢がある。オグリキャップが中央に移籍した今、オグリキャップの夢を叶えてやれるのは俺とマーチだけ。だから、そのお願いに答えることはできない」
オグリキャップも、夢を諦めたくて諦めたわけではない。
東海ダービーでフジマサマーチと戦うことと、上のレベルの中央で暴れること。結果、前者の夢を捨てたわけだが、オグリキャップはそのどちらかを捨てろと言われ、どちらも捨てられなかった。
捨てざるを得なかった夢を引き継ぎ、オグリキャップに報告する。それが今のフジマサマーチの目標の1つであったし、海堂の使命でもあった。
「残念だね……君なら、中央でもやれると考えていただけに」
「行く時があれば正規の移籍方法で移籍するだけだからね。今もそのための勉強は欠かしていないよ」
だから、いつかは挑みに行く。
海堂のその言葉からは、その意思が読み取れた。
「ルドルフ」
「何だい?」
「東海ダービー、見に来いよ」
「東海ダービー……?」
「今年の東海ダービーにフジマサマーチが出る。東海ダービーを制覇することは俺達の夢であり、山の頂でもある……制覇すれば、夢は叶うだろうさ。
それで、夢が叶ったら新たな夢を追いかけるつもりでいる。」
まあ、何が言いたいかと言うと。
そう言い、最後の一口分を飲む。
「東海ダービーを見にくれば。そのラストの1回分を使う気になると思うよ。後悔はさせない」
「……ほう」
シンボリルドルフを魅了させる走り。
フジマサマーチなら、それができる。海堂はそれを確信していた。
シンボリルドルフの口角が、少しばかり上がる。
分かった、その挑発に乗ってやろう。そういう意図が、シンボリルドルフの表情からは読み取れた。
これは余談だが、この2人の語り合いはこの後も続いたらしい。そしてカフェの雰囲気はどん底まで落ち込んだらしい。
プリティー要素、どのくらい欲しい?
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たくさん
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おおめ
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すくなめ