ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
「すみませんでした!」
開口一番。
海堂は、北原に対し深く礼をし、同時に謝罪もした。
「お、おい……急に改まってどうしたんだよ」
「……オグリキャップが移籍するかどうかって時に、ビンタした挙句″アンタ″って呼んだことを謝りたくて。謝る機会も作れなかったので、今謝っておこうかと」
冷静に考えれば、無礼にも程があるのだ。
目上の存在である北原に手を出し、それでいて一方的に逆上し、挙句の果てには″アンタ″と呼び捨てる始末。
トレーナーとしてあり得ない選択をしたからだとか、自分が考えている北原はこんなのではなかっただとか────そういった理由を差し引いても、それは仕方ないねとはならない内容であったのは確かだった。
というか、一歩間違えたら絶縁レベルであった。北原が優しいからこうなっているのであって、根に持つような人物であったら────と、考えるだけでゾッとする出来事であった。
オグリキャップとフジマサマーチの方は、全てが問題なく解決した。
結局、オグリキャップがフジマサマーチに勝利し、中央に移籍で全ては終わった。円満に終わり、全員が満足したわけではないが、限りなく正解に近い答えにはなったのだ。
ただ、海堂と北原の方は未だ終わらなかった。
終わらなかったというか、厳密に言えば″タイミング″が悪かった。
ビンタした直後に話せるわけもなく、ゴールドジュニア当日までは何も言葉を交わさなかった。
ゴールドジュニア後の写真撮影の後にシンボリルドルフに引き留められ、海堂の移籍問題で1日~2日経過。
第二次移籍問題が円満に解決した後、冷静になった後に北原に詫びを入れようと思っていたのだが────今度は北原がオグリキャップ関連の手続きで忙しくなり、それで3日が経過。
結局、なんやかんやで1週間が経過。
こうやって腹を割って話す機会も無く、捻出しようと思ってもすることができず────結果、今の今まで長引いたのである。
そして、いよいよ第三次カサマツ大戦。海堂vs北原が開幕した。
第一次ウマ娘決戦はオグリキャップが勝利し、第二次移籍問題は海堂とシンボリルドルフの間に休戦協定が結ばれて終結した。
そして、第三次カサマツ大戦だが────海堂の降伏で終了した。6日間で終了した第三次中東戦争もビックリの速度で降参し、停戦協定が結ばれた。
海堂が詫びを入れ、北原がそれを聞いて気にしてないと伝えるのにかかった時間は僅か5秒。
というか、事態自体がそこまで深刻ではなかった。それが圧倒的早期決着の原因だった。
「あぁ、あれか……もう気にしてねぇよ。というか、あれは俺も悪かったしさ」
「だったとしても……」
北原も北原で″本当にこれでいいのか″と、思う部分はあったのだ。
二回目の会話で、北原は海堂に対して何も反論しなかった。寧ろ、反論するどころか″知ってるなら答えを教えてくれ″と要求した。
答えのない問題にぶつかり、北原は苦しんでいた。闇深き世界にいたというのはある種の比喩表現ではあるが、あながち間違いではないのだ。
「結局、夢に固執してたんだよ。東海ダービーをオグリと制覇したいって気持ちが強すぎて、何が正しいのかがわかんなくなっちまった。結局、オグリの気持ちを何も考えずに、俺だけの判断で決めちまった」
別に、それ自体は悪くない。というか、その気持ちは痛いほどわかる。
いざ北原と同じ立場に立った時に、北原と違って行く、行かない関わらず即決ができるかどうかだが────ハッキリ言って、無理だろう。というか、無理である。
どうしても、頭の中に自分自身の夢が浮かんでしまう。と言っても、自分の夢はウマ娘の夢であるためあまり気にしないが。
とにかく、一度理想と現実の間で板挟みになってしまえば即決はできない。それは流石にわかっていた。
「それによ……お前の叱咤のおかげで、少し道が開いた気がしたんだ」
「道が……?」
「あの時、海堂は歳とかキャリアとか、そういうの関係なしに俺に強く言ってくれた。俺のやってることは正しいのかってな。それに、シンボリルドルフにも言われてよ。本気で選択しているのならば、貴方はオグリキャップのトレーナーにふさわしくない、ってな」
「それは……まぁ、堪えるでしょうね。トレセン学園の最高権力者に否定されたら」
────先の見えない夢を、本気で追いかける怪物。
海堂には、シンボリルドルフというウマ娘がそう見えていた。
全てのウマ娘が幸福である世界────そのような、ウマ娘にとってのユートピア。シンボリルドルフは、本気でそれを作ろうとしている。
ユートピア────その意味は、どこにもない場所。
理想郷はどこにもない、というのは皮肉ではあるが。どこにもない場所を求め、どこにもない場所を実現させるべく、シンボリルドルフは走り続けている。
言ってしまえば、全員が幸せになることができるというのは全肯定のそれである。何かを否定することのない、あたかも共産主義国のような世界ではあるのだが。
まぁ、だからといってシンボリルドルフが社会主義思想を持っているというわけではない。寧ろ、真逆の圧倒的クリーンな存在である。
そして、そのような夢を持つシンボリルドルフに″トレーナーとして相応しくない″と言われたら。
ウマ娘とトレーナーというのは、人バ一体の関係である。
海堂とフジマサマーチはそれを目指し、現在進行形でほぼ実現している。
北原とオグリキャップもそれを目指し、結果″永遠の絆″が結ばれた。
ただ、その″永遠の絆″が結ばれる直前に────2人の関係は、一度どん底に落ち、両者の間に深い溝が生まれてしまった。
勿論、精神的にも堪える。どうすれば良いのかと迷う。そして、そこにシンボリルドルフからの天罰が下される。
────君、トレーナーとして相応しくないよ、と。
シンボリルドルフとそこそこ仲が良いことを自負している海堂としても、言われたらショックを受けるだろうなということは想像できた。
「どうすりゃいいのかわかんなかったんだ。なんでオグリにあんなこと言ったんだろうとか、俺は本当にトレーナーとして相応しくないのかとか……まぁ、俺のトレーナー人生の中で一番悩んだ時期だった。ただよ。あの時、お前が俺の頬を引っぱたいたことで、俺の中の何かがぶっとんだ。あ、吹っ飛んだのは記憶とか奥歯とかじゃねぇから安心しろよ?」
「痛かったですか?」
「意外とな」
「……すみませんでした」
「ま、とにかくよ。お前のビンタがあったおかげで、何やってんだ俺って気持ちになれたんだ。他でもない、夢を強く語る海堂……いや、俺の最高の″ライバル″にしかできなかったことだ」
″ライバル″が成立する条件は3つ。
1つ、競合相手────つまり、同格の実力を持つ相手が存在する事。
2つ、その相手が自分と同じ目標を掲げている事。
3つ、両者の間に信頼関係が生じている事。
誰よりも夢を追い、誰よりも勝ちたいという気持ちが強い。海堂真という男の本質を、北原は誰よりも強く認識していた。
トレーナーになった理由。トレーナーとして何を目指しているか。そして────初めて担当したウマ娘の結末と、最後まで茨の道を歩み続けたトレーナーとしての覚悟。
それら全てを知っているが故に、海堂と北原は
「だから、俺はあんまり気にしてない。腑抜けた状態でゴールドジュニアに挑んだら、ろっぺい爺さんから″何してんだ″って言われてただろうしな。寧ろ感謝してるくらいだぜ」
「……あの、穣さん。未練はありますか?」
とはいえ、全てが円満に終わったわけではない。
唯一、北原のみ夢を諦めた。言い方を変えるならば、犠牲を必要最低限に抑えた結果、被害を被ったのが北原のみだったという話で。
その気になれば、北原はオグリキャップを拘束することだってできた。無論、北原がそのようなことをするトレーナーではないというのはわかってはいる。
だから、夢を諦めた。海堂と同じように、ウマ娘を優先しているからこそ。
後悔があるかないかで言ったら、おそらく後悔は無い。
ただ、未練があるかどうかという話になれば────それは、わからない。
結局のところ、北原は夢を諦めざるを得なかったのだから。
今回のスカウトで、東海ダービー制覇の夢はまた離れた。そこに未練はあるのかないのか、海堂は北原に問うた。
「ねぇよ」
────北原は、あっさりと答えた。
本当に、あっさりと。海堂が、驚いて目を見開いて反応するくらいには。
多少の未練はある。海堂は、そう予想していた。
ただ、結果は違った。何も未練は無い、という結果だった。
「確かに、東海ダービーの制覇ってのは俺の夢だった。オグリがマーチに勝つのも、俺がお前に勝つのも。そういうのをひっくるめて、その全てが俺の夢だった」
にも関わらず、未練が無いと言った。
おそらく、今までで一番大きな夢であっただろう。今まで持っていた″東海ダービー制覇″という夢に、絶対に負けられない同期のライバルが付け加わったのだから。
それを聞いて、海堂は思う。
────あぁ、穣さんは本当に未練が無いんだな、と。
「ただ、オグリが中央に行けば、もっとでかい夢をオグリは俺たちに見せてくれる。東海ダービー制覇って夢よりも、もっと大きな……それこそ、日本ダービー制覇って夢をな」
きっと、ではない。多分、でもない。
見せてくれるだろうといった″推量″ではなく、見せてくれるといった″断定″。そこに、オグリキャップに向けられた絶大な信頼が感じ取られた。
「それに、新しい夢もできたしよ。東海ダービー制覇が叶わなかったとしても、そっちを叶えりゃいいかなって。そう思うようになれたんだ」
「夢、ですか」
夢に縛られていた者が、夢を断ち切り、新たな夢を得た。
夢というのは、呪いと同じである────と、誰かが言っていたような気がするが。それはあながち間違いではないというのが海堂の見解であった。
長きに渡って叶わなかった夢は、いつしか外すことのできない″ノロイの装備″と化す。夢を持っていなかった期間が長かった海堂でも、それはわかっていた。
だから、海堂は心の中で北原を称賛した。
東海ダービー制覇という夢を諦め、新たな夢を手に入れた。それができる人。夢を諦め、別の夢を見つけることのできる人は、誰よりも強いということを知っていたから。
「中央のトレーナーライセンスに挑戦してみる。死ぬ気で勉強して、オグリに見合うトレーナーになってみせる。それが今の俺の【夢】だ」
「となると……これからは担当を持たずに、試験勉強を始めるんですか? あの穣さんが?」
「んだよ、おかしいか?」
「いや、全然。それもいいじゃないですか。何せ、俺とお揃いですしね」
とにかく、海堂はバカな夢の方が好きだった。夢はバカであればバカである程美しいといった価値観は、
40歳に差し掛かる地方トレーナーが中央の試験に受かる、というのは────ハッキリと言うが、ほぼ不可能な話である。
若い頃よりも物覚えが悪く、何より与えられた時間が若者よりも少ない。それに、中央に移籍したところで実働期間は10年とちょっとだけという見返りの少なさ。30代、40代の地方トレーナーが中央移籍を目指さないのには、そう言った理由がある。
何より────地方から中央に移籍したトレーナーはいない。この事実が、中央移籍を目指す地方トレーナーの意欲を削いでいた。
と言っても、海堂は先駆者になれる自信があった異常者であった。故に、意欲が削がれることはなかった。その上、中央の領域に片足を突っ込んでいた。
まぁ、言ってしまえば″地方から中央への昇格″というのは、バカみたいな夢であるというのは間違いではない。
未だ達成者がいない夢を持ってひたすらに励む海堂もバカの1人であったし、北原もその1人であった。というか、シンボリルドルフの誘いをわざわざ蹴った海堂はもっとバカであった。
故に、海堂は″それは無理ですよ″とは言わなかった。
「お互い、【夢】に向かって頑張りましょうよ。これからはライバルとしてじゃなく戦友として、ね」
「ああ。いつか中央で戦い合えることを信じて、だな」
ゴツン、と互いの拳がぶつかり合う。
────鋼の如き、強固な絆。
その絆が、ライバル同士の間で結ばれた。
プリティー要素、どのくらい欲しい?
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