ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
N43-先駆者
フジマサマーチ、中央へ移籍。
東海ダービー直後に発表されたそのニュースは、カサマツだけでなく、関東を含む東日本全域に衝撃をもたらした。
1ウマ娘が地方から中央へと移籍する。それは何の変哲もない────ああ、また中央への挑戦者が現れるのか────という、そこら中にある石ころのようなニュースだったのにも関わらず、である。
そのニュースが大きな盛り上がりを見せているのには、主に2つの理由があった。
「……怖いかい?」
「……怖いというよりかは、緊張の方が勝りますね」
「それは俺だって同じ。俺なんて、同じ道を先に歩んだ先駆者すらいないんだからさ……」
1つは、フジマサマーチのトレーナー────海堂真も、同時に中央へと移籍したこと。
中央へと移籍するのはウマ娘のみ。これが今までの中央移籍のセオリーであり、常識でもあった中で、その常識をぶち壊したトレーナーがいる。それが主な理由の1つだった。
試験の難易度的に見ても、ウマ娘のレース的に見ても、トレーナーの実績的に見ても。どれを取っても地方は中央の下。つまりは、2軍であるというのは否めない。
地方から這い上がれず、仮に這い上がったとしても圧倒的な力の差に淘汰されて地方へとんぼ返り、という事例は後を絶たない。
トレーナーに至っては更に顕著で、そもそも地方から這い上がることすらできない────言ってしまえば、1人として中央の地を踏んだ者はいない、というのが現状だった。
これはまぁ、ウマ娘よりも成功しにくいというのにはちゃんとした理由がある。
編入レースでいい結果を残せばいいウマ娘とは違って、トレーナーは本業と受験生の二足のわらじを履かなければならない上に、対戦相手が非常に多い。これが成功しにくい主な理由である。
一説によれば、東大よりも入りにくい場所。そこに受験生としての一本槍ではなく、トレーナーと受験生の二刀流で勝とうなんて無理があるのだ。
そのため、そもそも地方から中央に移籍するトレーナーなんてのはまず現れないだろう、というのが大方の意見だった。
優秀な者は若くして中央に行き、わざわざ地方経由で中央入りする物好きのトレーナーなんていない────と思っていたら、まさか現れると思っていなかったそんな物好きがいたのだ。
″確実に無理″という烙印が押されていた中央移籍。正規の方法とは言えないが、それを成し遂げる者が現れた。
これはつまり、海堂が成功すれば────いわゆる″先駆者″となれさえすれば、この後も地方から移籍するトレーナーが増えるかもしれない、ということである。
そして、2つ目は。
「オグリキャップ……いや、オグリに会うのは半年ぶりだね。心の準備はできてる?」
「できてますよ。ただ、オグリには移籍するとは言ってませんが……会った時の反応が楽しみですね」
「芦毛の怪物のライバルが中央に移籍、か……そりゃあ世間だって騒ぐね。間違いない」
中央に来たのが
オグリキャップが活躍したことで価値がもたらされた実績ではあるが、その言葉のみで″フジマサマーチの強さ″は図れるだろう。
中央で活躍できる確率は1割。重賞1勝となれば、その確率は1分を切るか切らないかのライン。
″怪物″の領域に、怪物のライバルは突入することができるのか。
たった数パーセントの領域に、地方であれど実績を積み上げてきたオグリキャップのライバルが挑む。これで湧かないファンはいないだろう。
フジマサマーチなら行ける、という声はある。
何せ、あのオグリキャップに唯一土を付けたウマ娘なのだから。一度だけでなく、二度も勝利した上に、東海ダービーではレコードを記録したと考えたら、オグリキャップのように上手くいくだろうという意見も納得が行く。
フジマサマーチでも厳しい、という声もある。
オグリキャップに勝ってるレースは全部ギリギリだった上に、勝ったレースでは出遅れがほとんど。
そして最後のレースではあっけなく負け、その後の東海ダービーもギリギリだったと考えたら、オグリキャップのように上手くはいかないかもしれないという意見も納得が行く。
どちらも筋は通っているし、見る点がフジマサマーチの周りか本人かというだけでしかないのだが。
成功意見も、失敗意見も、どちらも半々。やるだけ無駄だという意見こそないものの、厳しいだろうという声は決して少ないわけではない。
────ただ、それでも。
オグリキャップに唯一勝ったウマ娘が、少し遅れて世代の中の天才揃いの中央に挑む。それを望むファンが多かったというのも、歴とした事実だ。
「……今は遠い存在でも、いつかは手が届く。その遠くにあった星が、掌の上にある」
紅く、炎のように燃える覚悟を胸に抱きながら。かつてのライバルと出会う喜びを目に宿しながら。
右手にぐっと握り拳を作り、掌の上にある星を掴むようにして、フジマサマーチが言う。
「後は、星を掴むだけです」
「……そうだな」
そろそろ駅に着く、という内容のアナウンスがスピーカーから流れたのを聞いて、2人は立ち上がる。
電車がホームに入り、だんだんとスピードを落としていく。ホームの屋根に下がっている駅名標を見れば″府中″と書いてある。
たった2文字の地名。その地名が、2人の心を強く揺るがす。
「……行くか」
「ええ。行きましょう」
電車が完全に停車し、ぷしゅうという音と共にドアが開く。
共に一歩ずつ踏み出して、2人は府中の地へと降りた。
────今なら、胸を張って言えるだろう。
『君の隣に立つ準備ができた』と。
***
「……広いね」
「……広いですね」
紫を基調とした制服に身を包んだフジマサマーチにしろ、襟に付けたバッジを中央トレセン仕様に変えた海堂にしろ。
都会って″広すぎる″。それがカサマツから来た田舎者2人組の感想だった。
ここに来るまでに何度も迷いそうになり、高層ビルを見る度に崩れないか不安になり、やっとの思いで着いたと思えば、そこにはカサマツトレセンとは比べ物にならない規模の学園が広がっている。
そりゃウマ娘のレベルも違うよな、と。用意された設備の違いを心の中で嘆いて前を向くと、海堂にとって見知った人物と見知らぬ人物が1人ずつ立っていた。
「六平さん! ……と、そちらの女性は?」
「初めまして! 私はこの学園の理事長秘書を務めています。駿川たづな、と申します。わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
「よく来たな。ちゃんと宣言通り来れたじゃねえか」
「宣言通り……?」
「トレーナーにはトレーナーの約束があるんだよ。オグリとマーチみたいにね」
海堂は六平と固い握手を交わしながら、フジマサマーチの質問に答える。
″待っててください″と。そう宣言して電話を切ったのも、もう2週間前の出来事だった。
あの日から、歯車は大きく動き始めた。
奇しくも、海堂にとっては希望から呪いへと変わっていた東海ダービーが、手から零れ落ちてしまうほどの幸福をもたらしたというのだ。
およそ2年前のあの日では想像していなかった程の希望が、今の海堂を創っている。
……幸せなんだなあ、と。目を瞑って、幸福を嚙みしめた後。目を開き、海堂は六平に挑発的な発言をする。
「……″時代″は来ただけじゃ創られませんよ。六平さん」
「ほう……言うじゃねぇか。その言葉、楽しみにしながら覚えとくぜ」
「それでは、フジマサマーチさんは私が。海堂トレーナーは六平トレーナーに案内をしてもらってください。本日は授業もない日なので、明日に備えてゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます……では、海堂トレーナー。頑張りましょうね」
「うん、頑張ろう」
軽いやり取りを交わして、それぞれがそれぞれの道へと歩み始めた。
***
かつ、かつ、と。
一般生徒のウマ娘からも、海堂の同僚に当たるトレーナーからも。その両方から視線を浴びながら、海堂と六平は廊下を歩く。
なんだか見慣れない奴がいるぞ。バッジついてるしトレーナー? でもなんかイケメンでかっこいい────と、大体は肯定寄りの意見を貰いながらだったからか、海堂の気分はそこそこ良かった。
ただまぁ、そこそこ良い気分とは裏腹に、少しばかりの不安はそれでもあったが。
「……広すぎて、覚えられるか不安ですね」
「そんな気にすることでもねぇだろ」
「気にしますよ。迷って迷子の放送なんてされたら……って考えると若干不安で」
室内プールでトレーニングだと言われ、その室内プールがどこにあるんだとなったらそれはもう大変である。
方向音痴はないが、それでも未知の場所に放り出されて指定した場所に来いなんて言われて一発で来れる能力なんてのはないのだから。いちいち生徒に聞いていくのも何か恥ずかしいし、何よりそうする手間が面倒臭い。
未だ半分の場所しか訪れていないというのに、既にカサマツトレセンの2倍以上の広さを誇る中央トレセンにやられそうになっている。完全に魔境と化していた。
「で、伝えとくのを忘れたんだが……海堂。お前は俺のチームの傘下に入れ」
「良いんですか? そんな簡単に決めちゃって……」
「嫌か?」
「いや、寧ろありがたいです。放り出されて味方0というのも嫌ですし、そっちの方が気分的にも楽になりますし」
ただ、面倒くさい手続きなんかをすっ飛ばしてそんな簡単に決めていいのかと。そっちの方が不安だった。
正直、六平の提案は海堂にとって魅力的以外の何物でもなかった。何せリターンがあまりにも多すぎるからだ。
要は″六平のチームのサブトレーナー″という肩書を得つつ、フジマサマーチと専属契約を結び続けることができ、その上チーム内のウマ娘────一言で言ってしまえば、オグリキャップと共に切磋琢磨できると考えたら、そこにはメリットしかない。
トレーナー視点でも、ウマ娘視点でも。長年トレーナーとした活躍してきた六平の下に就くというのは、最良の案でしかなかった。
「気にすんな。手続きくらい直ぐに終わる。それに、オグリだってマーチと一緒なら嬉しいんじゃねぇか?」
「……まあ、それは確かに。今まではライバルで若干遠い距離でしたけど、これからは近い距離で互いを高め合ってけますしね」
「それだって狙いの1つだ。友人が……いや、ライバルが地方とはいえあれだけの結果を残したんだ。今度は″学ばれる側″になって貰わなきゃな」
今までオグリの技術を盗んできたのだから、今度は盗まれる側に立ってみろ。
オグリキャップを″領域″に引きずり込むには、フジマサマーチの力が必要だ、と。六平のその言葉を聞いて、海堂はそう言われているような気がした。
歩き続けていると、他の教室に備え付けられたドアと比べて、少しばかり大きなドアが備えつけられた部屋に辿り着いた。
少しばかり首を上に傾けてみると、そこが【トレーナー室】であることがわかる。
高校のときに見た職員室並か、それ以上か。
中央トレセンとならば、それだけ広いのは当然なのかもしれないが。やはりカサマツの田舎出身の海堂にとっては衝撃的な広さであり、恐る恐る口を開く。
「トレーナー室……広いですね?」
「カサマツみたいな田舎とは違ぇんだよ。規模もレベルもな」
六平は扉を開けると、扉を開けていない方の手で『入れ』とジェスチャーをする。
「挨拶してけ。一応大体のトレーナーは揃ってるはずだ」
────あぁ、それと。そう付け加えて、六平が海堂に顔を向けてニヤリと笑う。
何か思いついたという笑みというよりかは、他人に試練を与える時に浮かべるような笑み。
その笑みを半年前に見たことがあるからこそ、脳裏に強く焼き付いているからこそ。海堂は、それを瞬時に理解した。
「お前に"近い"トレーナーもいるかもしんねぇぞ?」
「……そのトレーナーを探してみろ、ってことですね」
────ならば、それに応えてみてましょう。
六平の挑戦状を受けて、海堂はトレーナー室に続く扉を開けた。
閑話
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オグフジベルノのお遊び回
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海堂がプロキオンを府中エスコートする回
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海堂奈瀬の雑誌撮影回
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海堂フジのお出かけ回
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海堂ベルノが視察しに行く回
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その他