ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N44-二世対決

「海堂真です。よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と一礼をして。およそ200人前後はいるであろうトレーナーから拍手を受けながら、海堂は六平に言われたことを思い出す。

 

(お前に"近い"トレーナー……)

 

 何を言いたいかは、うっすらとではあるがわかる。

 歴史を変える存在ではなく、歴史を創る側のトレーナー。ウマ娘で言うところのオグリキャップのような存在が、ここにはいる。

 踏み慣らされた大地の上を圧倒的スピードで走るのではなく、積み重なった雪原を一歩一歩、踏みしめながら足跡を刻み続ける存在。

 

 多分、言いたいことはこういうことなんだろう、と。空いていた窓際の席へと案内され、座って軽く周りを見渡してみる。

 歴史を作る側なのだから、まずはそれなりに若くなくてはならない。それを前提としながら、海堂は当てはまりそうな人物を探してみる。

 

(……と言っても、簡単にわかるもんじゃないな)

 

 "目"は良い方であると自覚している。

 とはいえ、この場合で言う目は視力的な目ではない。相手の動作を盗むための目だったり、相手がどんな人であるかを見極める目だったり。

 こいつは俺より下だ。こいつは次元が違ってヤバい。そういった『見極める目』に関しては、それなりにあるはずだと思っている。

 

 つまり、この場合。漠然としてはいるが、自身よりも若く、自身よりも"上"のトレーナーを探し当てればいいという事になる。

 中堅トレーナー、ベテランのトレーナー。やはり競争率の高い中央トレセンだけあって、見る限りだとほとんどのトレーナーの年齢が30を越えていそうに見える。

 

 トレーナー室も職員室程度に大きく、これで六平が指定した人物を当てることができるのか、という話であるのだが。

 言ってしまえば、今探しているのは″天才の中の天才″であり。いくら自分のスペックが高いとは言えど、"現時点"では手も足も出ない存在。

 

 数学の神・ラマヌジャンや、ヘリコプターの原案やパラシュートを開発し、多くの芸術家がいたルネサンス期の人物ありながら芸術家の中で最も多くの知名度を得ているレオナルド・ダ・ヴィンチのような。

 

(人の器にギリギリ収まっている、神みたいな人……)

 

 ウマ娘に限定するならば、現生徒会長のシンボリルドルフ。

 ならば人に限定するならば、こうあるだろうと。海堂が顔の向きを変えて、後ろに目をやると。

 

「────あ」

 

 そこに、求めている人物はいた。

 ビリビリと肌に伝わる殺気はなく、こいつはヤバいと匂わせる異質なオーラもなく。年齢だけで見るなら、20代前半────いや、もっと下に見える、紫髪の女性トレーナー。

 そのトレーナーが″こちら″にいると理解したのは、年齢という一番わかりやすい判別方法ではあるが。

 それにしても″若すぎる″のだ。少なくとも、新社会人一年目の代の自分よりも若い。

 

 名家産まれのトレーナーが、20歳になるかならないかの段階でトレーナー試験に受かることは海堂も知っていた。

 幼少期からトレーナーになるための英才教育を叩き込まれ、環境や遺伝子を利用して中央のトレーナー職を独占する。

 

 自分とはそもそも置かれた環境が違い、ただ″夢を追いかけたいから″とか、そういう漠然とした夢を持っていないからこそ、そういう存在がいてもおかしくない事実は受け止められる。

 ただ、それにしたって。20歳はおろか、もしかしたら成人すらしていないかもしれないトレーナーが自身の真後ろにいたとなれば、その動揺は計り知れないだろう。

 

「……どうかしましたか?」

 

 ────彼女を見つめていても、気づかないくらいには。 

 もしかして、随分失礼な事をしてたんじゃないか? 話しかけられ、我に返った海堂は口を開き、弁明をする。

 

「あ、いえ。カサマツじゃ一番若かったので、自分よりも若そうなトレーナーを見た驚きで……」

「口説きですか?」

「口説きじゃありませんよ」

 

 ……まあ、平静は保てているし、嘘と本当が良い感じに混ざり合っていて、言い訳としてのレベルは文句無しなために大丈夫だろうとは思うが。

 表向きの言い訳を言ってごまかす裏で、海堂は一つの核心を得ていた。

 

 強く扱えば折れてしまいそうな腕に、低身長の自分よりも15cm前後は小さい身長。

 それでも、出身や経歴は違えど、彼女と同じ一人のトレーナーだからか。その小さな体に込められた、彼女のトレーナーとしての想いが"なんとなく"わかる。

 

 なんとなく、というのは。

 具現化できる訳でもなければ、言語化できる訳でもない。漠然とした白い靄のように、掴みどころのない、煙のような"なんとなく"。

 

 ────あぁ、それでも。六平さんが言っていた"近い存在"は、この人なんだろうな、と。

 五感が、トレーナーとしての本能が。知識を吸収し、彼女を越えて見せろと、強く内側から訴えかけてくるのだ。

 

「行くぞ、海堂。奈瀬に色目使ってんじゃねぇ」

「……使ってませんよ、六平さん」

 

 では、よろしくお願いします。六平から『奈瀬』と呼ばれたトレーナーにそう告げて、海堂は椅子から立ち上がり、六平の方へと歩む。

 チラリと確認するように、六平の顔色を窺ってみれば。挨拶を済ませる前と同じように、何か悪事を企んでいるような笑みを浮かべており。

 あぁ、多分正解なんだな、と。自信のあった選別を失敗させることがなかった事に対し、心の中で海堂は安堵する。

 

「……というか、やり取り見てたんですね」

「分かったか?」

「その言い分からすると、どうやら正解のようですけれども」

「あぁ、正解だ。俺の見込み通り、やっぱり目は肥えてんな」

 

 という事は。あのトレーナーが、六平トレーナーも認める才能を持った"天才"か。

 格付けのようになってしまうが、一際若いトレーナーがいたものだから。そのような理由を六平に伝えれば、六平は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「俺がもっと若かった頃の敵の娘だ。思い出したくもねぇくらいに散々やられちまった敵のな。このままお前が俺の下でみっちり基礎を積めば、いつかは”二世対決”だなんて持て囃されるかもしれねぇ」

 

 ────後に、六平の言葉通り、この二人の対決が"二世対決"や"天才vs天才"と持て囃されるようになるというのは事実なのだが。

 そんな未来の話をこの二人が知るはずもないし、そうなるだろうと思って言っているのであれば。やはり、六平も"こちら側"の人間であり、人を見極める慧眼を持っているのだろう。

 

「散々って……娘が娘なら、親も親って事ですか?」

「あぁ、そうだ。……認めたかねぇが、ヤツは異次元の強さだった。誰よりも先を行き、誰よりもウマ娘の心を理解してる文字通りの”天才”だ」

 

 そんな偉大な天才の娘が"ライバル"だと聞いて。

 海堂の顔に、自信ありげな笑みが浮かぶ。

 

「ハッ……ワクワクしてきた、ってか」

 

 ────成程。

 才能を腐らせる訳でもなく、ちゃんと一流になるだけのマインドも持ってるみてぇだな、と。

 強大な敵の現れに対し恐れおののくのではなく、寧ろその逆でワクワクを浮かべる海堂に対し、安堵と感心を覚えつつ。言い忘れていたな、と思い出し、六平がまた口を開く。

 

「そういや、海堂。荷物は纏めとけよ」

「荷物?」

「知らねぇのか?」

 

 何があるんですか?と。きょとんと疑問を顔に浮かべる海堂に対し、六平は心の中で少しばかり謝罪をする。

 ────ああ、そうか。それならこっちに来る前に伝えておくべきだったな、と。

 

「明後日から夏合宿だ。明後日からな」

「……明後日!?」

 

 明後日から、夏合宿。

 明後日、から。

 

 廊下一帯に、らしくない海堂の叫び声が響き渡った。

 

 

***

 

 

 新しい転校生がクラスにやってくる。

 オグリキャップがそれを知ったのは、転校生がやってくる当日だった。

 

 まぁ、天然の気質があるオグリキャップらしいと言えばらしいのかもしれないが。いざ来ると知れば、その心情は嬉しいと言ったものがほとんどだった。

 地方から上がって来たというのも自分と同じだし、何より高め合える新たな仲間が増えるのだから。当然、どんなウマ娘が来るのかとも想像はする。

 

 ガラリ、と教室の扉が開き、ゆるふわな性格をしている教師が教壇に立つ。

 そろそろ来るのか。それを感じ取ったオグリキャップの耳はピンと立ち上がり、隠しきれないワクワクを前面に押し出し、話を聞きながら、その転校生が現れるのを今か今かと待つ。

 

「は~い! みなさんお静かに! 今日、カサマツトレセン学園から転入してきた────『カサマツ!?』」

 

 がたん、と。

 机と椅子が破壊されるのではないかと心配になるような勢いでオグリキャップが立ち上がり、話を遮る。

 

 ────だって、カサマツと言えば。

 纏まらない言葉を心で整理しつつ、聞きなれた地名の言葉を頭で理解しようとして。

 

 カサマツから、この時期に、転校してくる同学年のウマ娘。

 まさか。オグリキャップの頭に、薄浅葱の髪をたなびかせる一人のウマ娘が浮かぶ。

 

 その、"まさか"が。

 夢にまで見た"まさか"が。

 まさか、有り得るというのか?

 

 かつ、かつ、と。歩む音を耳で捉えつつ、おそらく入ってくるであろう扉がある方向に目を配れば。

 すらり。そんな擬音が似合う、夢にまで見た薄浅葱の髪を持った高身長のウマ娘が、教室に入ってくる。

 

「転校生のフジマサマーチです。よろしくお願いします」

 

 別れを告げた、あの時のように。柔和な笑みを浮かべながら。

 

「マーチ!?」

 

 ────当然、天然で大型犬のようなオグリキャップが黙っていられる訳がなく。

 声を聞いたのは数週間前だが、最後に会ったのは半年前なのだから。いつか会いたいと思っていた親友が急に目の前に現れ、我慢ができる訳がなかった。

 

 尻尾をぶるんぶるんと扇風機の羽のように回し、最速のスタートダッシュを決めなくていい所で決め。

 オグリキャップが、突然目の前に現れたフジマサマーチ(親友)へと駆け寄る。

 

「ほ……本物か!? 本物なのか!? マーチ!? 本物なんだな!?」

「サプライズだ、オグリ。何も伝えない方が喜ぶと思って、海堂トレーナーと相談して決めたんだ」

 

 サプライズがどうとか、もはや関係なしに。

 おそらく、来ると予告されていようがされていまいが、オグリキャップはフジマサマーチが姿を現した瞬間突撃していたのだろうが。

 

 とにかく、嬉しい。

 中央初勝利と同格――――というか、それ以上に嬉しい。

 

 限られたウマ娘にしか達成できない、中央での初勝利と同格以上というのはいかがなものかもしれないが。

 オグリキャップの中で、フジマサマーチの存在はそれ程大きかった。そう言えば、納得もできるだろう。

 

 二人のシンデレラの影が、再び重なる。

 表裏一体。オグリキャップ()の裏に隠されたフジマサマーチの存在が、中央に顕わになる。

 

 ────結局、オグリキャップが離れるまで数分はかかったのだが。

 今までの中央の生活の中で、一番の笑みを浮かべていたというのは間違いでないだろう。

 

 

***

 

 

「夏合宿……そういえば、こちらでも言っていましたね。明後日からあると」

「ギリギリ間に合って良かった。2ヶ月の間に成長したウマ娘とレース。これが一番厳しいだろうからさ」

 

 トレセン学園近くにある海周辺を二カ月程貸し切り行う、殻を破るために用意された夏合宿。

 初めてその存在を聞いたときが、よくもまぁ貸し切りにできるな、と。田舎魂が心に強く根付いた二人は、都会のスケールの大きさに目が回りそうになったのだが。

 

 とはいえ、このイベントを上手く使わない手はない。

 六平は合同トレーニングも組んでいると言っていたし、トレーナーとしての格を考えれば、その相手が"怪物"クラスである事は間違いない。

 

 普段では考えられない距離の近さや、互いに高め合える最高の条件。

 ここを通してもう一段階殻を破れば、フジマサマーチは更なる成長を遂げる。もしかすれば、"領域"持ちのウマ娘との交流で何かを掴むかもしれない。

 

「とにかく、六平さんの指示を良く聞くこと。トレーナーとしての腕は超一流だし、メニューに関しては俺も考える」

 

 ────ただ。

 フジマサマーチの中で、何か海堂の発言が引っかかる。

 

 先程述べた″六平の指示を聞くこと″や、それ以外にも。

 教室への顔出し後に、六平のチームの傘下として加わるという話は海堂から聞かされたが。それでも、傘下に加わるだけで指導は海堂が行うのが基本である。

 

 それ故、引っかかる。

 海堂が、夏合宿中は六平の指示を聞くようにと念押しする部分が。

 

「あの、海堂トレーナーは……?」

「俺?」

 

 俺か? と反応を見せれば。何か納得したような顔に切り替わり、海堂が口を開く。

 

「六平トレーナーからの指示だよ。一週間、お前はチームを離れて周りを見ろって」

「……周りを見ろ?」

「掴めってことなんだろう。成長を求められてるのは、マーチだけじゃないみたいだね」

 

 不安と、期待と、可能性が入り混じった夏合宿。

 それが始動するまで、残り36時間。

閑話

  • オグフジベルノのお遊び回
  • 海堂がプロキオンを府中エスコートする回
  • 海堂奈瀬の雑誌撮影回
  • 海堂フジのお出かけ回
  • 海堂ベルノが視察しに行く回
  • その他
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