ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N47-生きている

 現役最強。

 トップと同程度に強い者がいればその世代は二強と呼ばれ、また更に同程度に強い者がいれば三強と呼ばれる。

 つまりこれが示すのは、タマモクロスの隣に立つことのできるウマ娘が存在しないということ。

 

 天皇賞・秋とマイルチャンピオンシップを5バ身差で勝利し、更には函館記念のレコード記録さえも取得した、マイルの帝王と呼ばれたアキツテイオー。

 5バ身差というのは、言わば完封勝ち。GIに出場する並み居るトップウマ娘を才覚と努力で粉砕し、アキツテイオーは文字通り"マイルの帝王"となった。

 

 彼女なら、タマモクロスに勝てるかもしれない。

 そのファンの望み通り、アキツテイオーはタマモクロスと宝塚記念で対決した。

 

 そのアキツテイオーを、宝塚記念でタマモクロスが粉砕し返した。

 バ身差は数値にして2と1/2。数値だけで捉えれば、それはアキツテイオーが両レースで記録した5バ身差よりもはるかに少ない差である。

 

 しかし、勝てない。

 勝とうとしたけど無理だったではなく、勝てない。

 

 華・実績・カリスマ性。その全てを兼ね備えたアキツテイオーが口にした言葉は、たった一言だけ。

 "次元が違う"と。

 

 要は、カサマツ時代のオグリキャップが行った無双を中央の、それもGIで行ったというだけである。

 浪速の魂を感じる飄々とした小さなウマ娘が、だ。

 

「しっかし、2人してホンマに来よるとはな……海堂の兄ちゃんは来とらんのか?」

「海堂の兄ちゃん……?」

 

 タマモクロスも呼び捨て族か────一瞬、心の片隅でそう思ってしまったフジマサマーチだが、そのタマモクロスから出た『海堂の兄ちゃん』という言葉に疑問を覚える。

 カサマツ組2人を見てそう言ったのだから、間違いなく海堂の兄ちゃんとやらは自身のトレーナー、海堂真のことだろう。

 

(どこで知り合ったんだろうか……?)

 

 『やっと会えたで』『2人して来よるとは』という言い方から、カサマツ時代のレースを見ている。

 カサマツ組2人を有望株として認識していると捉えることもでき、となるとゴールドジュニア────自分で言うのもなんだが、ボロボロになって負けたレースを見て思ったわけでもなさそうだ。

 

「ジュニアクラウンでも見に来たのか……?」

 

 となれば可能性としてあり得るのは、疑似領域を発現させたジュニアクラウンしかないだろう。

 そう踏んでフジマサマーチがタマモクロスに訊ねてみれば、タマモクロスはうむと頷いた。

 

「正解や。ところで、お前さんのトレーナーは……」

「海堂なら諸事情で今は別行動中だ。1週間もすればこっちに戻ってくる。つっても、帰ってくる頃には合トレも終わってるだろうがな」

「なんや、ホンマに来とったんか! しっかし、肝心の合トレのタイミングでおらんっちゅうのもな……」

 

 先程から頻繁に出てくる"合トレ"という言葉に疑問を覚え、いつ取り付けたのかとフジマサマーチが訊ねる。

 2ヶ月もあれば合同トレーニングの1つや2つはあるだろうと思っていたが、だからと言って初日から、それも現役最強のタマモクロスじゃなくてもいいだろうと。

 

 それが肉体の強化に繋がるのは事実だが、だったとしてもこれだけ人気のウマ娘からどうやって一番を奪ったのか。それが気になったから、フジマサマーチは訊ねた。

 

「あぁ、悪かったな。本当は先に伝えておくべきだったんだがな……」

 

 その先は口にせず、六平は顎でオグリキャップを示す。

 ────そう言えば、オグリはあれから一度も言葉を発していないな。そう思いながら横を向いてみれば

 

「っ……!」

 

 完全に"意識している"顔をしたオグリキャップが、タマモクロスを強く見つめていた。

 見つめているというか、眼力で並大抵のウマ娘なら倒れるんじゃないかという表情で。

 

 怖くは無いが、怖い。怒ってはいないが、怖い。

 何故か、怖い。ただのラブコールなのに、怖い。

 ただし戦う顔をしているかと言われれば戦う顔をしており、それは"バトルフェイスオグリキャップ"と呼べるものだった。

 

 そんなラブコールも臆せず、タマモクロスは太陽のように笑う。

 

「おっかない顔しとるなぁ……ま、その気持ちも分かるで」

 

 仮にGIに挑むとすれば、現在オグリキャップと同年代のウマ娘が挑むクラシック三冠には出場することができず、1つ上の世代と直撃することになる。

 出場の可能性があるとすれば、天皇賞・秋かマイルチャンピオンシップか。しかしマイルチャンピオンシップ自体は歴史が浅く、観客がどちらの出場を求めているか────というのは、語るまでもないだろう。

 

 一方、タマモクロスが主戦場としているのは2000m~3200mの中・長距離レース。

 これは裏を返せば1600mのマイルチャンピオンシップに出場しないという事でもあり、そうすれば自然とオグリキャップと被る(天皇賞・秋に出場する)ことに繋がる。

 

 だからこそ、六平は何も言わなかった。

 タマモクロスと相対すれば、こうなるだろうと想像できてしまったから。

 

「あの、どうやって合同トレーニングを……?」

「小宮山……そこにいるタマモクロスのトレーナーからの申し出だ」

「六平さんの一番弟子ですからね!」

「……だ、そうだ。俺は小宮山を見た覚えは一切ないが、海堂から見たら兄弟弟子にあたる存在だな。俺は小宮山を見た覚えはないが」

 

 合同トレーニングの説明をすると同時に、「正気に戻れ」とオグリキャップを軽く叩いて目覚めさせる。

 

「小宮山。少し重労働になるが、ちっとばかしオグリを見てやってくれ。そろそろツカサらも戻ってくるからベルノはそいつらを頼む」

「六平さんの頼みならいいですけど……六平さんは?」

「色々説明することがあんだよ。こいつはまだこっちに来て3日しか経ってねぇからな。ベルノにはメニューを渡しておく」

「わかりました!」

「……負けない」

 

 ふんす、ふんすと覇気を漏らしつつ皆が歩いて移動すれば、フジマサマーチと六平が残る。

 

「夏合宿の期間は2ヶ月。目玉レース自体が少ないのもあって、実績あるなし関わらず基本的に皆揃って体作りに励む。レースに出るのもいるが、与えられた環境が環境だからな。技術論を必要としない分、こうやって合トレも組みやすい」

 

 オグリキャップとタマモクロスが並走を続けるのを眺めつつ、隣に立つ六平の言葉をフジマサマーチは聞く。

 

 夏合宿という名で謳われてはいるが、夏合宿の実態は"トレセン学園が所有しているビーチ・合宿施設の開放"である。

 夏合宿期間は2ヶ月だが、後のGIに向けた調整であったり復帰戦であったりという名目で強化トレーニングを1ヶ月で切り上げ、出場レースに向けて実践トレーニングを積むウマ娘も存在するには存在する。

 

 ただしそれらはごく少数の例外であり、ほとんどのウマ娘は本来持っている長所を更に伸ばし、懸念すべき短所を克服しようと自然を活かして生活する。

 そして2ヶ月という期間のほとんどを身体能力強化に費やすからこそ、本人の"自制"がより重要となるのだ。

 

「無論オーバーワークは厳禁だ。怪我で秋冬を棒に振っちまったなんてのは二流がやることだからな」

 

 オーバーワークの癖があるって聞いてるからな、とでも言いたげな目でフジマサマーチを見つめ、六平が忠告をする。

 よりハイレベルな環境に変化し、尚且つ今までとは比にならない程のトレーニング環境が用意されている。過去の自分だったら、おそらく寝る間も惜しんでいただろうなと想像できてしまうから、フジマサマーチは何も言えない。

 

「ただな。だからと言って適量にしておく、もダメだ」

「オーバーワークは厳禁、ただし適量に抑えずに限界ギリギリの量を毎日こなす……自分の体を理解していなくてはできませんね」

「自分の体をコントロールする能力もそうだが、一番重要なのは考えることだ。海堂も何かあれば相談には乗ってくれるだろう。その上誰よりもマーチの能力を理解してるだろうが、その能力を制御すんのはお前自身だからな。何がダメで何が良いのか、それを考えられなきゃ話にならねぇ」 

 

 トレーナーから与えられたトレーニング・食事をこなせば成長していく。

 ただそれだけの考えでは置いてけぼりになり、いつしかそれは"慢心"ともなる。一流のトレーナーから与えられた一流のメニューだけでは、二流止まりのウマ娘になってしまう。

 

 全員がその一流のメニューをこなす中、どこを伸ばすべきか。

 全員がギリギリまで体を苛め抜く中、どこに負荷をかけるべきか。

 

 夏が過ぎれば秋を迎え、クラシック路線では菊花賞を目指す熾烈な争いが始まる。

 そうでなければ天皇賞・秋から始まり、秋華賞やマイルチャンピオンシップに短距離ではスプリンターズステークス。海外勢も呼び込むジャパンカップに、大詰めの有馬記念。

 ジュニア・クラシック・シニア。どの世代でも関係なく秋から冬にかけては熾烈な頂争いが始まる。それを踏まえた上で、この2ヶ月を有意義に使う。

 

 "普通にやっていました"止まりでは、何も変わらない。

 

「海堂のいない最初の1週間を含め、後の3週間分は俺がメニューを考える。もちろん、それは最低限しか出してねぇモンだ。基本午後からは自由にしておく。オーバーワークのラインを踏み越すか踏み越さねぇかの線引きは自分でしてみて、まずは中央に慣れろ」

「残りの1ヶ月は?」

「お前らに任せる。海堂1人で考えるんじゃなく、たまには『これをしたいです』とでも言ってみろ。ただし向こうには帰らずこっちには残れ。チーム全体のトレーニングも残っているからな」

 

 ああ、それと。

 まだ言い残したことがあるのか、六平はタマモクロスの方を向いて語る。

 

「マーチが来ると伝えられた時点で、遅かれ早かれタマモクロスは夏合宿に呼ぶことにしたつもりだった。小宮山が誘いに来たのは幸運だったな」

「私が来ると伝えられた時点で……という事は、オグリとタマモクロスには直接関係がないという事ですか?」

「オグリの成長も見込んでだが、できれば呼びたくはなかったってのが事実だ。何せ秋の天皇賞でタマモクロスと当たる可能性がある。手の内は明かさない方が良い」

 

 それでも、六平はタマモクロスを呼ぶつもりでいた。

 オグリキャップの手を明かす危険性はあるが、それでもタマモクロスの手を明かす可能性もある。技術が関与しない肉体だけの世界で手札がバレるかどうかは不明だが、手札がバレる事に対するリスクヘッジは行った方がいい。

 そう踏んだうえで、自身のメリットになるから呼んだ。合同トレーニング自体はチーム内でできるのにも関わらず、だ。

 

「言っちまうが、今回の合トレでマーチに技術的な成長は求めちゃいない。後方追い込みのタマモクロスと前張りのマーチじゃ相性も悪いからな。マーチには別のウマ娘との合トレで技術向上を図るつもりでいる」

 

 自身のメリットとなるには、タマモクロスがいなければならない。

 それを考慮した上で、フジマサマーチは答えを出す。

 

「……【領域】ですか」

「一を聞いて十を知ってくれるのはありがてぇな。そういう事だ」

 

 フジマサマーチがいれば【領域】のレベルアップにも繋がる。

 それだけでなく、未だオグリキャップには発現していない【領域】が発現する可能性がある。

 

 オグリキャップに発現するかどうかは不明だが、領域について知ること自体にデメリットは無い。

 これがフジマサマーチの成長と同時に得られるのであれば、多少のリスクを背負ってでも合同トレーニングをするべきだと六平は踏んだ。

 

「現状、俺のチームの中で領域の感覚を知ってるのはお前だけだ。俺は話に聞いてるだけで何も知らねぇし、意識が飛ばないで突入できるのも1人もいない。……つまりは、ここから先は俺の介入できる世界じゃねぇってこった」

 

 ────やれるのは、自分しかいない。

 親友であり、自身にとって唯一無二のライバルでもあるオグリキャップ。その親友の成長に繋がるかどうかを左右する鍵は、自分しか持っていない。

 

「……ははっ」

 

 笑いが漏れる。

 私よりもずっと、何倍も先の世界にいる。

 そう思っていたあの日のライバルの背中が、今は隣にある。

 

 生きている(・・・・・)

 灰のシンデレラの影を追い続けるのではなく、灰のシンデレラそのものを追いかけ────もう一度、その背中を越えようとしている。

 

 元より、追っているのはオグリキャップそのものだった。

 距離が離れ、格差が広まり迷おうと、その心持ちだけは忘れなかった。

 東海ダービーに勝利し、中央移籍が決まってからは、より一層その気持ちが強くなった。

 それを今、もう一度強く実感した。

 

 "ライバル"は目の前にいる。

 そう思ったからこそ、自然と闘争本能が込められた笑いが零れ落ちた。

 

「……オグリがタマモクロスを意識している。タマモクロスも、オグリを意識している。それを知って、私のライバルはそこまでたどり着いたのか、と。嬉しくなったんです。それでこそ私のライバルだって思えましたから」

 

 ────ただ。

 それとは別で、という意味を包括する言葉を続けて。ウマ娘らしい闘争本能のこもった目で海辺を見つめ、フジマサマーチが言葉を続ける。

 

「……同時に……酷く、腹が立った。今のオグリは、タマモクロスを見据えているのだと。それを知ったせいで、腹が立ったんです」

 

 オグリキャップは、フジマサマーチを見ていない。

 見ていないというのはやや語弊がある言い方な上、今もオグリキャップはフジマサマーチをライバルだと思っているだろう。

 その気持ちは、かたときも手放したことはない。手放したことはないが、今は倒すべき相手が他にいる。

 

 それがわかってしまったからこそ、腹が立った。

 絶交するほどではないし、覚えたのはウマ娘らしい嫉妬深いモノ程度。それでも、腹が立った事実には変わりない。

 それは強く、オグリキャップをライバルだと認識しているからだった。

 

「……ったく。賢いウマ娘は理解も速くて助かるぜ」

 

 これなら、大番狂わせも起きるかもしれない。

 ニヤリとした、らしいほくそ笑みを浮かべながら、フジマサマーチと六平は合同トレーニングを行っている場所へと歩み始めた。

 

 

***

 

 

 午前0時。

 夏合宿が始まり、1日目が終わった直後。

 

「……認識し直さなくちゃだな」

 

 思っていた何倍も、何倍も、中央という世界は深い。

 少しの照明が部屋をぼんやりと照らすロビーで、海堂は1人睡眠時間を惜しんでノートパソコンに文字を打ち込んでいた。

 

 まず初めに、思っていた何倍も次元が違う。

 これは中央を無礼(なめ)ていたという訳ではない。一般地方トレーナーが想像する中央のレベルを50とすれば、海堂は75を想像していた。その結果、100だったというだけであって。

 カサマツでも中央でも、ウマ娘の体の構造自体は何も変わらない。なのに、力の出力自体がまるきり違う。

 

 違いを1日目に理解し、中央に対する認識の再構成をしなくてはならないと肌で感じた。

 それがあって、海堂は全員が寝静まっている中寮のロビーに赴き、1人でひたすらにパソコンに思考メモを打ち込んでいるのである。

 

 ここなら同室のトレーナーも起きないし、ウマ娘もおそらく寝ているだろうから誰の迷惑にもならない。

 強いて言うなら、ウマ娘の部屋がある所に立っている警備員の邪魔になるかもしれない程度か。しかしそれでも許可は取っているため、問題はない。

 

 誰にも邪魔されず、集中して思考を展開できる。

 そう思っていた、のだが。

 

「……あら? 貴方も眠れなくなったのですか?」

 

 水色の髪をしたウマ娘がロビーに来ることで、海堂の手は止まった。




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閑話

  • オグフジベルノのお遊び回
  • 海堂がプロキオンを府中エスコートする回
  • 海堂奈瀬の雑誌撮影回
  • 海堂フジのお出かけ回
  • 海堂ベルノが視察しに行く回
  • その他
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