ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
海堂真は、経験・知識を含めた能力では中央最弱クラスだった。
その分、学べば学ぶほど伸びる蕾だとも言える。どの花が咲くかは分からないが、咲けば大輪の花を咲かせるセンスの塊とも言える蕾。
その蕾でさえ知っている、実質オグリキャップ世代最強のウマ娘。
完全無欠が似合うように、並のウマ娘であれば封殺できる。
中堅ウマ娘でさえ、自分の領域に引きずり込んだ上で完封できる。
一流ウマ娘であれば難しいが、同期であれば粉砕できる。
だからこそ、過去の怪我に悔やまれる。
皐月賞は見送り、不調のまま出場した日本ダービーでは一番人気を貰うもボロ負け。その中で勝ち抜いたヤエノムテキやサクラチヨノオーは、間違いなく一流だった。一流だった上で、万全であればディクタストライカが勝っていた。
ディクタストライカは二冠を取るだろう。
まことしやかに囁かれていた噂を誰もが信じていたし、誰もが期待していた。もはや、確信と呼べる程に。
しかし、悲しき事かな。
丁度ディクタストライカが絶不調に陥っているタイミングで、同期で、それも判官贔屓をしたがる日本人が好む大スターが生まれてしまった。
――――今はオグリキャップの時代だ!
熱のように伝わりやすい人間のブームは、本人の知らぬ間に一瞬でオグリキャップに移ってしまった。
今はまあ、どう考えてもオグリキャップが一番。その次にクラシックで熾烈な争いを演じたヤエノムテキやサクラチヨノオー、メジロアルダンが来て、早熟のディクタはまあそれと同じかその次。
正しい目を持った少数派の意見はともかく、オグリキャップにつられてレースを見始めたミーハーなファンの意見はだいたいこんな感じだったと言えよう。
ディクタストライカは終わった。
世間ではそう囁かれているのを事実とした上で、海堂はそれでもリサーチを怠らなかった。言うなれば、正常な目を持っていた。
この手の負けん気が強いウマ娘が終わらないのは知っている。終わらなくとも、いずれ自力で這い上がってくる。
そもそも負けた理由が無理を通しての出場だったのだから、それで負けただけで終わったとは言えない。
日本ダービーに無理して出場したのも、生涯で一度しか出場できないのだからという理由なのも理解できる。
オグリキャップが来たことと、ディクタストライカが終わることの相関性はない。
だから、読み通りディクタストライカは復活した。中日スポーツ杯でヤエノムテキに競り勝ち、未だ一流である事を示した。
とことんリサーチした。距離適性的に、オグリキャップだけでなく、距離をほんの少しでも延長すればフジマサマーチと当たる可能性がある。
追込と前張り。脚質は違うが、あの弾丸シュートのような末脚は先行策であれば参考になる可能性がある。
そうしてとことんリサーチした上で、理論値まで追い切った上で。
(次元が違う……!)
震える程の圧力さえ感じてしまうのが、
同種族でもないのに芯に響く威圧感を受け、海堂は震えていた。
フジマサマーチとオグリキャップと並んで走っているだけなのに、圧力が違う。
ディクタストライカ自身の脚質が追込中心であるために、オグリキャップと同様の威圧感を感じる。それは、まだ理解できる。
しかし、根本的な何かが違う。
中央で始まり、中央で揉まれ、中央で覚醒し、一時的であるが中央で頂点を取り、おそらく頂点クラスの争いを演じて中央で終わる。
エリート街道。ディクタストライカの生まれは名門ではないが、雑草魂のカサマツ組とは違い寒門ではない。それでも栄光のロードとも言える道を歩んできた上で無双し、基準を中央最上位として戦ってきた。
鋭く研がれた牙は環境で生まれる。
向かう全てのウマ娘を薙ぎ倒せば、その分肉体も精神も研ぎ澄まされる。研ぎ澄まされた先に生まれるのが、更に強靭な牙である。
そういう意味では、オグリキャップには備わっていないのかもしれない。相手を圧する牙はあるが、それでもカサマツにいたせいか、ディクタストライカの物と比べれば不完全である。
間違いなく、現役最強の器だと言えよう。
「まだ不完全だろ」
「不完全ですよ」
しかし。
徹底的にリサーチをした上での海堂の評価は、
「それにしても、幸運でした。中日スポーツ杯に出ていたので出遅れてしまっていたので」
「こっちとしても幸運だったさ。世代最強と合トレができるなんて願ったり叶ったりだったからな」
「……いやいや、あれで不完全なんですか!?」
蕾の眼では、既に完成しているように見える。
距離適性の関係で菊花賞は出ない。とするとマイル路線か、秋の天皇賞に出るかのどちらか。
海堂の見立てでは、マイル路線であろうと天皇賞路線であろうと善戦できる、という見込みだった。
しかし、咲ききった花の眼は。
あの怪物を不完全と称し――――つまりは、まだ伸びると判断した。
極大・小・小。身長で表すようであればそう表すべきなバランスの悪い組み合わせの内、極大のトレーナー――――小内が口を開く。
「中日スポーツ杯。彼女の能力を考えればもっと余裕で勝っていてもおかしくありませんでした」
「そもそも本来の実力さえ出せれば出なくて良かったレースだと言えるからな。秋のGIを視野に入れた前座をしたいんだったら毎日王冠で良いだろ」
「負けん気の強いウマ娘ですからね。半年も勝利が遠のけば荒れそうでしたから」
「バ……」
――――バケモンかよ、アイツ。
常に見ていたのは中央の上位帯だったというのに、最上位はここまで住む世界が違うのか。
"半年勝利が遠のきそうだったから"と言う理由で調整にGIIIの重賞を用い、更には勝つ。
負けん気を収めるのは難しい。だから、9割前後の力でヤエノムテキに勝利する。
「……それができたら苦労しないよな」
「苦労しないですね」
「その苦労しないウマ娘を担当してるトレーナーが言わないでください……」
苦労しないというか、楽。
ここまで来れば、本人の意思で出場レースを操作した上で勝てる。それができるようになったのは他でもない小内の努力もあるが、ディクタストライカ自身の才能もある。
――――どれに出たい?
――――これに出たいです。
――――よし分かった。
この数秒のやり取りだけで、自身の距離適性範囲内に入っていればある程度善戦できる。
ある程度善戦できるどころか、おそらくシニア級のウマ娘とでも当たらない限りは勝てる。
勝てるビジョンが少ない。それでも、いずれ当たるのだからいつかはそのビジョンを掴まなければならない。
「……弱点が無いですね、本当に」
「弱点、ですか」
ふむ、と少し考えた上で。
「ああ見えてお人好しですからね。彼女は。そして闘志があまりにも強すぎる」
お人好し。
小内によってそう称されたのを聞いて、海堂は再びディクタストライカに焦点を合わせた。
***
「今更言うが、気になってたんだ。お前らは」
ある程度の合同トレーニングが終わり、スポーツドリンクを飲み干したディクタストライカが開口一番。
お前ら、が示すのは自分たちだろう。
……まあ。だろうではなく、そもそもここにいるのはディクタストライカとカサマツ組の2人のみであるため、推定はいらないのだが。
――――カサマツ組は、抜けていた。
天然気質のあるオグリキャップは当然の事、フジマサマーチも"未だにガラケーを使おうとしていたり"、"プリクラをプリンと勘違いしたり"とどこか抜けている点がある。
ダートは遊ぶものじゃないと言うオグリキャップはそうだし、フジマサマーチも俗世間に疎い。しかし、ディクタストライカのそれを読み取れない程は抜けていない。
オグリキャップは尻尾をはてな型に変形させて自身に指を差せば、それを見てフジマサマーチは苦笑いをする。
「お前だよお前! 他に誰がいるってんだ!」
「私……!?」
――――いや、お前も入ってるだろ。
六平、北原、海堂の誰かがいればきっと間違いなくそうツッコミを入れていただろうが、残念ながらここにはいない。
それより、フジマサマーチとして気になるのは、自分もそこに含まれている事。
「……私も入っているのか?」
「ん? ……あぁ、当たり前だろ」
当たり前。
中央から見たらとんでもない田舎生まれだとしても、それはそれとして生まれはどうでも良く実力者としては見る。
「カサマツなんて、オレの知らねぇ場所だった。中央しか見てねぇモンだったし、何処かもし知らねぇ場所からウマ娘が転入してきた、くらいにしか考えてなかったんだ」
「カサマツはいい場所だと思うぞ。そうだよな、マーチ」
「ああ、良い場所だな」
「五平餅が美味しいだろう? あれは絶品だな」
「私は金華山がオススメの場所だな。あそこの景色は綺麗だ」
「そうだな。思い返せば、そこでマーチと話したのも……」
「だー! オレが知らねぇカサマツの思い出トークすんじゃねぇ!」
砂浜にバンバン叩きつけるように尻尾を揺らして話を切り上げれば、カサマツ組の2人は手を合わせて"すまん"という意思表示をする。
「何処かも知らねぇ場所から来たウマ娘が、中央で誰よりも暴れてやがる。その上歴史も変えて、幻のダービーウマ娘、なんて呼び名すらついちまう」
その顔に浮かぶのは、悔しみ。
体調が万全だったら。オグリキャップのクラシック登録が済んでいたら、クラシック登録が済んでいなくとも、改定が今年から変更されていたら。
URAが重んじるフェアネスに欠けるのは事実として、それでも生涯に一度しかない日本ダービー。最高の舞台で、最高の相手と戦いたかった。サクラチヨノオーやヤエノムテキ、メジロアルダンらも強敵だが。
「オレは、お前と戦いたかった。たった1人のお前と、最高の舞台で戦いたかった」
「ディクタ……」
ピッと人差し指でオグリキャップを示せば、言葉を言い切ると同時に示した腕を降ろす。
これからも、これまでも。運命が変わらなければ、ディクタストライカとオグリキャップの戦いは、有マ記念までお預けになる。
それまで一度も戦う事のない、"ただのクラスメイト"。
しかし、それでも"ライバル"として見なければならない。
いずれ戦い、絶対に勝たなければならない相手なのだから。
いずれ戦うシチュエーションが来た場合に備えて、最適なシミュレーションでトレーニングを行う。
全ては、一度も戦った事のないライバルに勝つために。
ライバルという言葉を再び用いられ、フジマサマーチがほんの少しだけムッとするが――――しかしそれはそれとして子供っぽいようにも思えたので、すぐに元に戻る。
ライバルという言葉の対象となり、オグリキャップは少し驚くようにして沈黙する。
一方的な愛とも捉えられる対抗心を向けられれば、当たり前に驚く。しかし意識はしていなかったとなれば、嘘になる。
そうして、口を開いて出た言葉は。
「……キミには負けん。いつか戦う時が来れば、私がキミを倒して頂点に立つ」
ハッキリとした、宣戦布告。
「む……」
――――私もライバルなんだがな。
そう言いたげな目でオグリキャップをチラチラと尻目に見れば、ディクタストライカが放った矢印がフジマサマーチの方向に向きを変える。
「だからよ、お前にも期待してんだぜ、マーチ」
「ああ、そうだ。その理由が気になっていたんだが……」
「気になるも何も、な」
「……オグリに勝ったから、か」
「そりゃあな。オグリが勝ったことのある奴はマーチしかいない、ってなったら嫌でも意識しちまうだろ。中央にもいねぇんだからな」
17戦15勝2敗、内2敗両方がフジマサマーチ。
神が酔いながら作ったウマ娘。そう言われてもしかたないようなオグリキャップの戦績に加え、その2敗を刻んだのは地方・中央合わせてたった1人しか存在しない。
オグリキャップキラー。その勝った本人がオグリキャップにしか勝っていなければ、そう揶揄られていたのかもしれない。
しかしその本人の戦績を見てみれば、東海ダービーにおけるレコード記録を叩き出し、更に6戦5勝1敗、1敗がオグリキャップというぶっとんだ戦績。
「"こっち側"に来いよ。お前は下にいちゃならねえウマ娘だ」
期待しないはずがない。
地方移籍の成功率はどうあれ、ディクタストライカは自身が示す"こっち側"に来る素質があると見込んでいる。
同期を全員ぶっ倒し、再びあの時のように頂点に返り咲く。その際にオグリキャップと共に、そのライバルであるフジマサマーチに打ち勝つ。
走りにストイックで、中央に来れる素質はある。
ここで止まるな。上に来い。そして来た奴全員ぶっちぎる。
とても簡潔で、非常にわかりやすい意気込み。負けん気が恐ろしい程に強いウマ娘らしい意気込みだとも言える。
こういう闘志の強すぎるウマ娘は、カサマツにはいなかった。
だから、フジマサマーチも面白いと思う。それに応える。
「……ああ、待っててくれ。いつか君の所に追いつき、共に走れることを願うよ」
――――ただな。
これだけでは終わらない。待っていてくれ、だけで終わると思っていた両者の耳が驚きでピコンと跳ねれば、フジマサマーチは言葉を続ける。
「オグリのライバルは私もだ。君がオグリに勝つよりも先に、私が黒星を付けてみせるよ。三度目の敗北を刻むのは私だ」
ライバルだった、では終わらせない。
オグリキャップより長く走り続けると約束したのであれば、走り終えるまでライバルとしての責務を全うしなければならない。
その責務を、誰が全うするか。それは自分しかいない。自分にしかできない。
譲ってたまるか、この位置は。
「マーチ……!」
「ハッ……おもしれぇな、お前。気に入ったぜ」
誰にも負けたくないという意味では一致した思考に、ディクタストライカは笑う。
面白い。これでもう少し早くに来てくれれば、今頃――――そういった熱い鼓動が体の内側から湧いてきてしまうほどには。
「ライバルとして負けたくねぇなら早く上がってこい。その時はオグリと一緒に倒してやる」
「いいや、私が倒し返すさ。全員纏めて抜き去って、その時が来れば私が頂点に立つ」
「……いいや、オレだね」
少し長めの空白、後に断言。
まるで、この先
そして更に言うなれば、その空白は
「……帰ったら、トレーナーに言わねぇとな」
含みのある言い方をすれば、ディクタストライカがオグリキャップの方を向く。
まるで、先程の――――宣戦布告をした際のように。
「オレが何事もなくこのまま進めば、いずれお前と当たることになる。その時に決着を着けようじゃねぇか」
「いずれ……?」
「……お前も出るんだろ? 秋の天皇賞に」
「……まさか!」
そう、そのまさか。
距離の関係上、3000mの菊花賞は出れないと判断した。ただし、だからと言って秋のGI戦線に乗らないと言ったわけではない。
今までは迷っていた。ジュニア期で圧倒した1600mを選ぶか、それとも王道だとも言える2000mか。
要は、オグリキャップのライバルに当てられてしまった。
―――――狙いはただ1つ。オグリキャップの背中のみ。
「オレも狙うぜ、天皇賞は。負けたくねぇって思っちまったんだ、こいつにな」
生涯で初めて、本気で勝ちたいと思った。
本気だからこそ、路線を決定する覚悟を見せる。
ただそれだけの行為に、それ以外の説明はいらない。
Q.史実のサッカーボーイは秋天行く予定だったけど、怪我してマイルCに路線変更したっていうのがあるらしいんだけどどう?
A.(出るか出ないかはともかくとして)採用
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閑話
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海堂がプロキオンを府中エスコートする回
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海堂ベルノが視察しに行く回
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