ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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本当に申し訳ないんですけど、9時に上げる予定だったので大幅修正をしてもう一度投稿し直し。
海堂真トレーナー、誕生日おめでとうございます。


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【Case0:三軒茶屋-喫茶店】

【PM1:00】

 

 かたり、という金属の音を立ててコーヒーカップを置く。

 チラリとスマホを見て、連絡が来ていないか確認する。

 PM1:00。三軒茶屋の街角にある小さな個人経営の喫茶店で、男はある人物を待つ。スマホとカップを持ち替える手の動きは規則的に見えるも、その動き自体は不規則。まだか、まだかと待ち焦がれるような焦りが読み取れるが、その不規則動きはだんだんとスローペースになって行く。

 

 ――――そろそろ来るかもしれない、が。

 5分前に届いた"そろそろ着きそうです"という連絡。スマホに目を向けている今その瞬間に扉を開けるかも、という想像は容易にできる。

 しかしまた、道に迷っているというのも想像に難くない。何せドが付く程のカサマツからわざわざ来ているのだから、あまりの都会さに面食らっているかもしれない。

 

 妙な胸騒ぎ。

 どこから来ているか分からない不安感。その答えを探そうとすれば、もしかすれば何か大切な物を失ってしまうかもしれない。探すのが正解のように思えるが、探すには時間が足らない。

 有り体に言えば、"また"間に合わなくなるかもしれない。それだけはごめんだと思った男は、喫茶店のマスターに代金を払う。美味しかったよと伝えれば、『男に褒められる趣味はない』と言いつつも、マスターの顔にはニヒルな笑みが浮かんでいるのが確認できる。

 

 良い店だった。後でまた来よう。その考えを置き去りにして、小走りで走り出し、ないかもしれない物を探そうとする。

 

 なければいいな、の考えで探した3年前。

 根幹は同じだ。ただしかし、なければいいなには二度と蓋をしてはならない。あの時の失敗は、二度と――――

 焦り、恐れ、そして三度前を向く。

 

「やめてください!」

 

 ――――聞こえる。

 聞きなれた声。今は遠くへ行ってしまったが、それでも今後二度と忘れることがないであろう声。

 その声の持ち主を、()は――――その思考に至れば急加速して、おそらく"悪い男たち"に絡まれているであろう女性を助けに向かい、その姿を目視すれば立ち止まる。

 

「良いじゃねぇか。男もいねぇんだろ?」

「そうそう。迷ってるみたいだし、俺らが案内してあげるよ」

「だから、私は待ち合わせを……あっ!」

 

 ぱぁぁ、と。

 困り顔だった女性の顔が、男が颯爽と現れたことにより一瞬にして晴れる。そのまま小走りで小さな背の後ろに隠れれば、ぎゅ、と袖を掴んで動向を見守る。

 

「……いるんだよな。こういう輩が」

「あん?」

「近所の小学生か? 邪魔すんなよ」

 

「ウマ娘の力は強大だ。それこそ人1人なら簡単にねじ伏せ、最悪の場合は死に至らせる程の力を持っている。……その力の差を逆手にとって、ナンパを仕掛けるんだ。強く反抗できないのを利用する、どうしようもない輩がな」

 

 ――――失せろ。

 と、言った訳ではないが。"これ以上失ってたまるか"のドス黒い感情は、目の前の男たちを威圧するには充分な物で。

 

 絡んだら不味いではなく、これ以上怒らせたら不味い。

 平均身長を優に下回っている小柄な男だというのに、逃げるしかない。

 生存本能とも言える機器察知能力は、愚かな試み(ナンパ)をした男たちを突き動かした。焦ったように走り去る、男たちを見て、小学生と煽られた男は溜め息をつく。

 

「……ったく、誰が近所の小学生だ。俺はそこまで小さくない」

「本当ですよ……って、そんな事はどうでも良くて!」

 

 たったっ、ぱぁぁ。

 まるで全ての動きに擬音が付くかのような、未だあどけなさが見え隠れする1人のウマ娘。

 男――――海堂真が救ったこのウマ娘こそが、喫茶店でまだかまだかと待っていた人物でもあり。久しぶりの出会いにささやかな喜びを浮かべ、柔和な笑みを浮かべて静かに喜ぶ。

 

「こっちに来ちゃいました、真さん!」

「……ああ、久しぶりだな。プロキオン」

 

 太陽のような笑みを浮かべる"リトルプロキオン"の頭を、海堂は優しく撫でる。

 

 

***

【Case1:池袋-スイーツパーラー】

【PM2:00】

 

 

「それでですね~……最近あった嬉しかった事と言えば……」

 

 リトルプロキオンのトークは止まらない。

 まぁ、これに関しては仕方ないと言うか。苦楽の2年間を共にし、その後両者心残りがある形で1年半一切会わずに修羅の道を進み、ようやく両者の仲が元通りになったと思えば海堂のみが中央に移籍。

 

 忘れられない匂いに、忘れられない優しさ。

 記憶としてはあったが、記憶の底に封印しなければならなかった思い出。ずっと、ずっとと抑え込まれていた"好き"の感情も、今ここでなら好きなだけ放出してもいい。2年も離れていたのだから、これ位は――――という感情のリトルプロキオンでは、止まれるはずもない。

 

 無論、海堂も止めない。

 ――――いっぱい話したいことがあったんだなあ、と。何も言わなくとも、マシンガンのように出る元気で癒される声を聞いているだけで、幸せになってしまうのだから。

 折角だから美味しいモノを食べさせるか。その考えで連れてきた池袋のスイーツパーラーで、スイーツを待っていた時間に咲いた話の花は、スイーツが到着した今も尚咲き続けている。

 

「溶けて崩れるよ。いったん話は止めて、まずは食べることに集中しよう」

「はっ……そうですね。楽しかったので夢中になっちゃって……それじゃあ、いただきます」

 

 ――――ピタリ、とスプーンを持った手が止まる。

 モンブランを囲むように配置された栗に手を伸ばせば、全体のバランスが崩れてしまう。

 かと言ってモンブランに直接スプーンを入れれば、センターにあるモンブランが欠けたことで、またバランスが崩れてしまいそうにも感じられる。

 

 田舎育ちのリトルプロキオンにとって、スイーツアートでもあるパフェ――――しかもコンビニに売っているような小さなコンビニスイーツとしてのものではなく、1杯2000円もするような高級な物は初めてだった。

 見た目からして美しい。だから、どう触れれば良いものかと困惑する。

 

「……どうやって食べれば良いんですか?」

「パフェを食べるのに作法はいらないよ。ただしスイーツアートとも呼ばれるから、崩さないように上からね」

 

 これでもかと乗せられた洋梨の1つをフォークで刺し口に運べば、シャキ、という音が響いた後に遅れて梨の甘みが伝わる。思わず、"美味いな"という言葉が漏れてしまう程の甘みだった。

 その手慣れた手つきを見たリトルプロキオンは、ええいままよという風に栗を取り、スプーンを用いて口に運ぶ。

 

「あっ……美味しい……!」

「良かった。知り合いに勧められた一番の店だったから、気に入ってくれて良かったよ」

 

 栗の優しいまろやかな甘みをベースに、マロンクリーム、マロンアイスと栗尽くしのパフェ。

 食べ進めれば甘さ控えめのほうじ茶とカラメルのグラニテが現れ、全体的な甘さの量を調整して引き締まったような味わいを覚える。

 

 ――――これが、高級スイーツ……!

 元は食欲旺盛なウマ娘。目の前の食べ物が"美味しい物だ"と理解すれば、食べる手は止まらなくなる。パクパクですわ!――――ではないが、美味しそうに食べるリトルプロキオンの姿を見るだけで、海堂はお腹いっぱいになったかのような感覚さえ覚えた。

 

「そう言えば」

 

 食べる手を止めた海堂がフォークを置き、思い出したかのように言う。

 

「俺の勘が生きててよかったよ。何か変な事にでも巻き込まれてるんじゃないかって思って走ったんだ」

「……ああ、アレですか。アレはちょっと……思い出したく、ないですね」

 

 ――――後少し歩けば真さんに会える!

 ――――ここを右に曲がれば真さんのいる喫茶店に着く!

 

 楽しみだなあ、とワクワクの気持ちで包まれていた目先にあのナンパ。

 正直、ナンパなど受けたことがなかった。一度でも受けていれば即座に断れたのだろうが、寂れたカサマツではそのような経験をすることはなかった。

 

 どれだけ断ろうと、"いいから"と言って誘おうとする。

 おそらくだけれど、反応を楽しんでいた。反応を楽しんだうえで、連れて行けるなら連れて行く。だから離そうとはしなかったし、どれだけ断ろうと根気よく粘ったのだろう。

 そう理解していた上で現れた海堂は、リトルプロキオンにとってヒーローのように思えた。近くにいても、関係が絶えても、遠く離れた場所にいても――――"好き"という恋愛感情は一生変わらないと再確認もした。

 

「それより、私からも聞きたいことがあるんです」

「うん、良いよ」

「いくら勘って言ったって、私がナンパ……言い寄られてるなって想像はしないと思います。なんでしたんですか、そんなの」

「……ああ、その理由?」

 

 勘、と一言で言えば確かに勘だ。

 しかしやはり、勘に至るまでの理由は存在しなければならない。いくら大味で勘と言っても、海堂の頭脳はそこまで万能ではない。

 

 こうなるだろう、の積み重ねで走り出した。

 その"こうなるだろう"に至った原初の理由は。

 

「プロキオンは可愛いからな。万が一があるかもしれないと思って」

 

 ――――それがどうした。

 当たり前。"可愛い"のは当たり前だとでも言いたげに、何も無かったかのように海堂は残ったゼリーに手を付け、あえて梨を1つだけ残したままにする。

 

 ――――可愛い?

 ――――可愛い。

 ――――うん、可愛い。

 

 三度その言葉がリフレインして、三度目の正直で謎に納得する。

 真さんって、元からこういう性格だったよねとか。

 寧ろハッキリ言ってくれるようになったって事は、仲直りできたって事だよねとか。

 納得。自分から向けるかっこいいは恋の矢印だが、向けられる可愛いは教え子としての矢印。

 

 そんな気は無い。何せ2年も共に過ごしてきたのだから、好きな人の心の中は自分の事のように分かってしまう。

 そんな気は無い、とは分かっているけれど。

 

「えへへ……ありがとうございます」

 

 だって、好きな人なんだから。

 比喩でも何でもない好きな人。いつかはお付き合いしたいし、今すぐにでもお付き合いしたい。ゆくゆくは隣に立って、共に夢を追いたい。

 "それ"だけでいい。あまりにも強欲だとは感じているけど、その幸せな未来を受け取る権利はある。それを知っているから、その未来に辿り着くために努力する。

 

 その努力の対価がこれだとしても、怒られはしない。

 小さな報酬。それが積み重なれば、いつか――――なんて甘い妄想をすれば、プロキオンはふへへと頬を緩める。

 耳はぴこぴこ、尻尾はゆらゆら。溶けつつも紅潮する頬を見れば、ウマ娘でない海堂であれ"ああ、嬉しいんだな"と理解することはできる。

 

「嬉しそうだし、余った梨もあげるよ」

「……あえて残しておいたんじゃないんですか?」

「さあ、どうだろうね。偶然だよ、偶然」

 

 ――――もう、優しいんですから。

 うそつき。そう心の中で呟けば、リトルプロキオンは余った梨を受け取った。

 

 

 

***

【Case2:巣鴨-温泉】

【PM4:30】

 

 

「……気持ちいいな」

 

 どっぷりと露天風呂につかって早30分も経てば、海堂は一息ついて目を瞑る。

 若き天才。そう持て囃されるトレーナーであれど、体力は人並み。騙し騙し疲労をごまかしつつ取り組んではいるが、それでも疲労は溜まる一方。

 故に、こうした疲労回復――――特に温泉のような施設は良く利用する。池袋駅から山手線に乗り、巣鴨駅から歩いて十分の所にある天然温泉。長旅で疲れているだろうとのことだから、海堂がオススメしたのだが。

 

「疲れてるのは俺の方なんだよな……」

 

 ――――東京観光、どうしようか。

 ――――俺も疲れてるしな。

 ――――……温泉、連れてくか。

 

 若干。若干どころか、8割程度は私欲が含まれている。

 とは言え、カサマツ時代にこういった温泉施設は勧めたことはなかった。勧めるにしても、カサマツトレセンから見て北にある温泉施設よりも、名古屋方面()にある他の施設を勧めていた。

 それに、温泉施設なんて大人――――と言うよりかは、親父臭いなとも思っていたから。それでも多分、プロキオンは優しいから喜んでくれるだろうなという想像もしていたが、色々積み重なって紹介はしていなかった。

 

 そんな理由もあって、温泉施設を勧めるにはいい機会だった。

 

「……頑張らないとな」

 

 ぐっと手を伸ばし、うっすらと光る星を掴むようにして手を握る。

 星を掴むような思い。死に物狂いで努力をして掴もうとする人すらいる中央のトレーナー職にに、これまでにない大チャンスを得ることでなることができた。

 カサマツの英雄。地方トレセンの英雄。その期待を一身に背負うという意味では、オグリキャップと似ているのかもしれない。

 

 その活躍をいの一番に報告したいのは誰かと言えば、リトルプロキオンに決まっている。

 海堂真の始まりは、歴史として見た際にはフジマサマーチと共にと言われるだろう。しかし原点は、間違いなくリトルプロキオンである。覆しようのない事実である。

 0勝のウマ娘。そう言われようが、絶対にその記録を消し去ろうとはしない。トレーナーとしての生涯を終えるまで、ずっと――――

 

「……そろそろ出るか」

 

 逆上せるかもしれないし、何より待たせているかもしれない。

 長風呂厳禁。そう思って、海堂は脱衣所へと向かい服を着て、髪をサッと乾かしロビーへと向かう。

 

「あっ……おかえりなさい、真さん!」

 

 ロビーに出れば、先に待っていたリトルプロキオンがぱたぱたと小走りで出迎えた。

 お湯で濡れた髪はしっとりとしていて、目視できない妙な色気が立ち上るような気がする(・・・・・・・)

 思わず、見とれてしまう。"元"教え子であり、教え子という枠組みから外れた1人の女性であるからか。しかしまあ、だからと言って元は教え子。抱く感情も、そこまでの物。

 

「……? 真さん、どうしたんですか?」

「……いや、何でもない。それより気持ちよかった?」

「はい! 温かくて気持ちよかったです!」

「それなら良かった。じゃあ、次の所に……」

 

 靴を出し、自動ドアを開けて思うのは1つ。

 ――――寒いな、と。

 

 それも仕方ない話。リトルプロキオンが東京に来たのは、10月26日――――別の言い方をすれば、海堂の誕生日でもあり。

 季節としては秋。捉えようによっては晩秋とも言え、ここまでくれば夜の寒さは冬とほとんど変わらない。ほう、と息を吐いても白い煙は現れないが、それでも寒い物は寒い。

 

 17時を過ぎた。日は落ち、星も夜空にうっすらと輝き始める頃。

 先程まで露天風呂の温かい湯船に浸かっていたのだから、寒暖差もあってより寒く感じる。と言っても、それは人間のみ――――基礎体温が人間よりも高いウマ娘のリトルプロキオンは、あまり寒いとは感じておらず。

 

 手を擦る。手を擦った後に、両手を合わせて息を吹きかける。

 

「真さん、寒いんですか?」

 

 その姿を見れば、寒いんだろうなというのは容易に浮かぶ。

 

「少しね。……ウマ娘は体温が高いんだったっけ」

「そうですね。なのであんまり寒いな、とは思わないんですけど……」

 

 手袋があれば渡していた。カイロがあれば渡していた。

 しかし、そのどちらも持っていない。愛情を向ける相手が困っていると言いうのに、何もできない悔しみ。どうすれば……と思い、リトルプロキオンの感情と連動している耳はぺたんと垂れそうになるが。

 

「……あっ」

 

 ぺたん、と垂れる直前。

 何かいい事を思いついたようにして、垂れかけていた耳はみるみると上昇していく。寒い、という一時的な悩みをずっと解消できる名案はある。ただ、嫌がらないだろうかという懸念はある。

 

 ――――でも、いいよね。

 いいよね。だって、好きなんだから。

 

 思い立ったら即行動。2年も離されたのだから、これ位は――――と考えるや否や、リトルプロキオンはがら空きの海堂の手を握る。

 

 どれだけ選択を間違えても、きっとまた幸せになれる。

 歪んでもいない、偽りでもない、本当の幸せ。もしかしたら少し不器用になっているかもしれないけど、それでも真実であることには変わらない。

 得体の知れない暗闇に引っ張られても、貴方なら必ず助けてくれるという信頼もある。

 

 実際、助けて貰えたのだから。

 だから今は、その恩返し。溢れんばかりの幸せと温もりで、海堂の手を包む。

 

「真さん、温かいですか?」

「温かいよ。……けど、ここまでしなくて良いのに。冷たいでしょ、俺の手」

「私がしたいから良いんです。それに、ほら……真さんの手も握れるので、私からしたら一石二鳥ですし……」

「そうか。……なら、俺からしても一石二鳥だな。プロキオンが甘えてくれて嬉しいからさ」

「えへへ……」

 

 ――――ずるい、ずるいです。

 幸せな空間は、まだまだ続く。

 

 

***

【Case3:新宿-歩行者広場】

【PM8:30】

 

 

 軽い夕食を摂り、最後のスポットへ。

 JR新宿駅から徒歩0分の所にある、新宿バスターミナルの歩行者広場。大都会新宿が照らす人工の光は夜景として見るには充分な物であり、世間一般的に"デート"と呼ばれるお出掛けの締めにはふさわしい場所だった。

 

「綺麗……!」

「カサマツの自然の光も綺麗だけど、人工の光も綺麗でしょ?」

 

 手すりに両肘をついて、リトルプロキオンに向いていた視線を夜景に移す。

 わざわざ移し替えたのは、夜景を見たかったから、とかそういう理由ではない。質問はしたかったが、面と向かってするには恥ずかしくなるような答えが返ってきそうだったから、という子供らしい理由から。

 

「……わざわざ合わせなくても良かったよね。9月の初めとか、その頃なら大学も基本休みなはず。9月だと少し暑いし俺は合宿帰りだったけど、それでもプロキオンに合わせるつもりでいたからさ」

「誕生日に合わせた理由なんて……そんなの、決まってるじゃないですか。真さんにプレゼントを渡すためですよ」

「郵送でも良かったんだけどね。トレセン学園に送れば受けとる手筈になっていたし」

「分かってない。こういうのは手渡しが一番なんですよ」

 

 ガサゴソ、と小さなバッグから何か物を漁るようにして探し、お目当ての物が手に当たった感触を覚えたリトルプロキオンはそれを引き出す。

 丁寧にラッピングが施された小さな箱。見るからには高級な物が入っていそうだが――――貰う立場でそれは野暮かと海堂はその思考を一蹴する。

 

「誕生日おめでとうございます。真さん」

「ありがとう、プロキオン。……今ここで開けた方が良いか?」

「ええ、ぜひ」

 

 それじゃあ遠慮なく。海堂はそう言って、丁寧に包装を解いて箱を開けられるようにし、感謝の気持ちを込めて箱を開ける。その中に入っていたのは――――

 

「時計……しかも、懐中時計か」

 

 アンティーク調の、金色の懐中時計だった。

 ローマ数字の文字盤に、輝く金色のフレーム。ぱかりと蓋を閉じれば全体が黄金色に輝き、閉じていたとしても時計としての重みを感じてしまうような一品。

 高すぎるような気もする。が、おそらく学生にも手の出しやすい値段で作られているのだろう。そう思えば、リトルプロキオンは口を開く。

 

「どうして腕時計じゃないんだ、とか思ったりしたかもしれませんけどね?」

「思ってはないよ」

「……そこは思ってる、って言ってくださいよ」

「……それじゃあ、思ってる」

「もう……懐中時計って、機能性ならスマホや腕時計でどうにかなっちゃうじゃないですか。でも、真さんなら使ってくれると思ったから。使うとすれば、私の顔を思い浮かべてくれるだろうから。その上でファッションとしても使える懐中時計を選んだんです」

 

 懐中時計で時間を確認する度に、渡された相手――――リトルプロキオンの顔を思い浮かべるだろうから。

 遠く、遠く離れ、会えるとすれば年に三度。年に三度でも、この懐中時計があればいつでも会えるような気がするから。

 時間を確認するというのは、日常的な行動でもある。その日常的な行動の中に、私が存在していて欲しい――――という願いを込められた、プレゼント。

 

「……それでですね。懐中時計を渡した意味は、もう一個あるんです」

 

 もう一個。

 2つ意味があるのであれば、比重が大きいのは後者である。

 

「貴方と時間を共有したい。……真さんは、この意味知ってましたか?」

「……知らなかったな」

「もちろん、プレゼントを渡す上で調べましたよ。調べた上で、この言葉の意味を持つ時計にしたんです。遠く離れてはいるけれど、時間は共有したい。でも難しいじゃないですか。遠く離れているのに時間を共有するのは」

 

 ――――私、決めたんです。

 ――――トレーナーになって真さんに追いついて、真さんの隣に立てるようにしますから。

 あの日の約束を、無かった事にしないために。

 

 ――――だから、今度は待っててくださいね?

 あの日の約束を、実現させるために。

 

「中央トレセン学園の大学編入試験。今度の12月にあるその試験を、受けるつもりでいるんです」

「トレセン編入……!?」

「レース関連の物じゃなくて、裏方がメインの学部ですけれどね。一度夢を諦めてからは、これが今の私の夢でして」

 

 いつか憧れの人は遠くに行ってしまうのだから、それを見越して準備する。

 一本じゃ不安。だから二本目の刃を用意した。その二本目の刃が"中央トレセン大学編入"だったという話であって。

 

「……無理だと思いますか?」

 

 ――――なんて、また意地悪な質問をして。

 二者択一。真さんは、ぜったいにこっちを答える。それは分かってるけど、その答えを聞けば勇気づけられそうだったから。

 

 無理だと思いますか?

 そう聞いて、海堂はノータイムで答えを出す。

 

「待ってるよ。それが叶えば、プロキオンが言う時間の共有もできるだろうしね」

「はい!」

 

 錆びた歯車は、再び動き出す。

 穢れも、汚れも全て落ち。スムーズに動いたあの時のように、もう一度。




Q.本編と関わりはあるの?
A.答えは秋天回に。

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閑話

  • オグフジベルノのお遊び回
  • 海堂がプロキオンを府中エスコートする回
  • 海堂奈瀬の雑誌撮影回
  • 海堂フジのお出かけ回
  • 海堂ベルノが視察しに行く回
  • その他
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