ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N56-私と走ろう

「勝てなければ出さないと言われた。だったら勝つしかないだろう?」

「だったとして。ダイナムヒロインやシリウスシンボリがいて……いや、これ以上言う必要はないか」

「凄いですよね、オグリちゃん。大外から一気に抜くしかないのに、実際にやっちゃうんですから!」

「タマやディクタと戦わなければならないんだ。……もう、約束は破りたくないからな」

「……そうか。強くなったな、オグリは」

 

 10月9日。毎日王冠、1着。

 フジマサマーチのデビュー戦の3週間後に、オグリキャップは勝利を飾った。何時ものように、さも当然、という風にレースを完遂してみせた。

 

 ″負けたら天皇賞には出さない″。その約束の下、出場したレース。

 マイルレコード保持者のダイナムヒロインに、日本ダービー制覇者のシリウスシンボリ。その他のウマ娘もGI制覇者、という顔ぶれの″ハイパーGII″。

 枠は6枠8番の外枠で、出場ウマ娘10人全員がオグリキャップをマークしている、という状態でのレース。それで尚、オグリキャップは勝ってみせた。

 

 ────異質だ、としか言いようがなかった。

 つい先日に、オープンのレースでフジマサマーチ共々揉まれてきたからこそ。異質さを実感せざるを得ないのだ。

 異質さをその目で確かめているからこそ。次の日になっても、海堂は疑問に思っていた。その力が、何処から湧いて出てくるのかが。

 

 何が違うのかは分からないが、それを″才能″という言葉の一言で済ませたくはない。

 だが、これは明らかに″才能″ではないだろうか。同じフジマサマーチはともかく、トレーナーの海堂にはそう思うしかなかった。

 

(……けど。いずれは、勝つんだ。オグリに)

 

 だからと言って。

 そう思ったとしても、それが脚を止める理由にはならない。

 何時か。必ず、オグリキャップにもう一度勝たねばならないのだから。

 

「はあ……ふう……待たせたな、海堂トレーナー」

「おかえり、マーチ。ゴッドやユニヴァもお疲れ様」

「フフ……海堂トレーナー、アイスはいかがかな? ここにアイスがあって、だね……?」

「ゴッド……今さっき終わったんだけど……どこから出してるの、それ……」

「鞄の中に入っていたのさ。……それで、食べるかい? 食べないのかい? どっちなんだい?」

「もう液状になってるでしょ、それ」

 

 ゴッドハンニバルやクラフトユニヴァと合わせを行っていたフジサマーチが、二人の所へと合流する。

 ゴッドハンニバルから差し出されたアイスを華麗に断ってみせ、タオルを三人に渡す。そんな何気ないやり取りの中で、オグリキャップが疑問を口にする。

 

「……そういえば、マーチ。敬語をやめたんだな?」

「ああ。海堂トレーナーも快く許してくれたからな」

「そうだったのか。合宿の時から気にしていたから、解決したみたいでよかったな!」

「そ……それは言わなくていいんだ! オグリ!」

 

 そんな微笑ましいやり取りを、にこにことした顔で全員が見守っている中で。

 

「さて。今日は一旦上がりで構わねぇぞ」

 

 ぬ、と。蛇のように睨みを効かせながら、六平が割り込んで来た。

 

「む、六平さん……何時も思うんですけど、ぬるりと出るの何とかならないんですか?」

「普通に出てるだけなんだがな。あんま気にしすぎんじゃねぇよ。……んで」

 

 オグリキャップ、フジサマーチ、ベルノライト、そして海堂。

 練習の終わりを告げる中。これらの人物に用があると言わんばかりの視線を、六平が向ける。

 

「マーチ、ベルノ、オグリ、そして海堂。お前らはこの後ミーティングルームに来てくれ。やって貰わにゃならねぇ事がある」

「私も、ですか?」

「ああ。使えるモンを使わねぇとならねぇんだ」

 

 ベルノライトとは異なり、一介の競争バの自分もか、と。

 そう疑問を抱いたフジマサマーチが、六平に質問を投げかける。

 時期から考えるに、呼び出した要件は何となく分かる。だからこそ、その場に自分がいる事に少し疑問が生じる。

 その疑問に対し、六平は答えた。″使えるモンは使わねぇとならねぇ″と。

 納得がいくような、いかないような。曖昧な答えをフジマサマーチに返す中で、六平は要件を伝えた。

 

「対タマモクロス。……んでもって、″対ディクタストライカ″に関わる話だ。拒否権はねぇぞ」

 

 

***

 

 

 何の因果か、それまでは分からない。

 ただ。オグリキャップと戦いたいという明確な意志が、ディクタストライカの競争バとしての人生に、ほんの少しだけ変化をもたらした。

 

 怪我がちであるディクタストライカは、自身の目的を一本に絞った。来たる勝負でオグリキャップ、フジマサマーチの両名に勝つ、という目的に。

 トレーナー、小内は逆算したスケジュール、練習を組んだ。彼女の脚を守りながら、天皇賞にピークを合わせる内容の物を。

 

 目立った基礎向上のトレーニングは行わず、水泳を中心としながら、稀にクイズ大会に参加させるような物を組み、脚を守ることだけに徹底した。

 夏休み後半にはディクタストライカのモチベーションを保つべく、函館記念に出走し、オグリキャップ同様にシリウスシンボリを降すことに成功。

 その後は過度なトレーニング、無理な調整も行わず、怪我がちな自身の脚と強制的に向き合わせながら、天皇賞だけを見据えてトレーニングを積み重ねて来た。

 ディクタストライカも、それに納得した。オグリキャップと戦うために、必要な事だと理解していたから。

 

 つまりは。ディクタストライカも、念願かなって天皇賞に出場するのである。タマモクロスと、同様に。

 オグリキャップ陣営からすれば、厄介な敵が増えた、という事になる。事実、その件は海堂やベルノライトはおろか、六平までもを悩ませる種となっていた。

 

「……強敵、ですね。ディクタストライカの実力は、合同トレーニングで確認してますから」

「あれから何倍にも伸びてるだろうよ。もっとも、トレーニング内容の関係上そこらのウマ娘よか伸びてはねえと思うけどな」

「オグリちゃんと似たタイプ、ですよね。後ろからの末脚が恐ろしい方ですし……」

「ただまぁ、どうなるのかが分かんねえのがレースだ。それがGIとなりゃ、上手く行く方が珍しい」

 

 オグリキャップもディクタストライカも、どちらも差し切りで勝つウマ娘だ。言い換えるのであれば、二人の勝敗はお互いの末脚で決まる可能性が高いという事になる。

 

 現時点での地力の差は、分からない。合宿、疲労も含め、不確定情報が多すぎるが故に。

 ただし。唯一判明している事は、ディクタストライカは脚を守ることを優先してトレーニングに励んでいたという事だ。

 

 見違える程に成長している訳ではない。

 その事実は、データにない脚力でぶち抜かれて敗北する可能性はかなり低い、という事を示していた。

 

 ただし。

 それは、″対ディクタストライカに限る″話である。

 

「問題は、そこにタマモクロスまでいるってこった」

 

 六平はボード上に黒いマグネットを二つ置いた。

 一つはバ群の前方に、そしてもう一つはバ群の最後尾に。

 どちらで来るかは分からない。黒のマグネットは、その色の通り不透明さを意味していた。

 

「前走の宝塚記念では先行し、アキツテイオーをぶち抜いた。だが、奴の本来の力は追い込みで発揮される。当日どっちで来るかは俺にも分からねぇ」

「なら、ゲートの位置によっては先行策を取る可能性も……?」

「だが。相手の事情に合わせて自身のストロングポイントを失う訳にゃいかねぇ。オグリも差しで行くのがベストと俺は思う」

 

 ディクタストライカとタマモクロスを執拗に嫌う。それこそ本末転倒なのだ、と六平は語る。

 力のあるウマ娘に勝つのであれば、こちらも相応の力を持たなければならない。オグリキャップにとってのその力は、二人と同じ力でもある末脚である。

 結局のところ、そうなれば地力の勝負に戻ることになる。誰が最も切れ味の鋭い刀を持っているかの勝負で、その刀を捨てる訳にはならない。

 

「タマモクロスが先行策を取るなり、追い込みで来るなり、どっちにしたって″自分の走り″が出きなきゃ話にならねぇ。大一番で学んだ戦術を捨てる訳のは良くねぇってこった」

「……なるほど」

「……そうですか」

 

 ────大一番で捨てたなんて、言えない……

 六平のその発言に、思い当たる節がある海堂とフジマサマーチが露骨に目を逸らす。

 

 意図的に行い、実際にあの奇策は1年単位で用意した物でもある。実際には、あの奇策は正しい判断だった。しかし、今はそうではない。

 奇策を用意する時間も、学ぶ時間もない。ならばそのまま、正しく最も強い力で波を押し返さなければならない。やはり王道に徹する事が大事だと、全員が強く認識することとなった。

 

「目ぇ逸らすな。……つっても、本番でやっぱやめた、ってなるかもしれねぇのは事実だ。そういう意味じゃ、ここ大一番で奇策を取ったお前らがいてくれて助かる」

「褒められてます?」

「実際に成功してるからな。″大一番で奇策を取った″サンプルが目の前にいる。頭ん中にその可能性を入れとくのと入れとかないのじゃ大違いだ」

 

 タマモクロスも、そうする可能性がある。

 難波のウマ娘。エンターテイメント性と、本人の気性。それらを加味した考察も、六平の発言に含まれている気がした。

 

「ともかく。まず研究しなきゃなんねぇのは末脚でのぶっこ抜き。それとそれを上手くやるためのレースプランだ。まぁ、そこら辺はベルノがしっかりチェックしてくれてるから問題ない、としてだ」

 

 それはそれとして。もう一つ、やる事はある。

 そんな意味を含む言葉の締め方をして。六平は、フジマサマーチへと視線を向ける。

 お前の番だ。フジマサマーチは、そう言われているように感じた。

 

「お前には、やって貰わなにゃならねぇ大役がある」

「やっと……と言っては何ですが、私の番ですか?」

「そうだ。偶然性には頼りたかねぇが、GIが連続する以上話すならここが一番だろうと思ってな」

 

 偶然性。つまりは、オカルト。

 ベルノライトとオグリキャップの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるが、フジマサマーチと海堂はピンと来ていた。

 そして、納得した。これならフジマサマーチを呼ぶ必要性がある、と。

 

「感覚の話で手が出せずにいたが、これも良いサンプルが目の前にいる。使えるモンは使い果たすって。俺はそう言ったからな?」

「……【領域】ですか」

 

 全てを察したフジマサマーチがそう口にすれば、六平は頷きを返した。

 

 

***

 

 

「【領域】……」

 

 その時。

 サポーター同士の談義を眺めて聞いていたオグリキャップが、初めて口を開いた。

 

「アイツは……何かが違う、気がするんだ。ディクタにも、近いものを感じる」

「ほう……ディクタストライカにも、同じ雰囲気を感じるって事か?」

「正しいかどうかは分からないが、私はそう感じた。……領域とは、その事なのか?」

「何時、どんな風に突入するかは分からねぇ。過度な集中力と条件が揃って初めて完成する、自分だけの世界。これが″領域″で……だ。ここで海堂に問う」

「俺に、ですか?」

「ああ。……ディクタストライカとタマモクロスは、お前にゃどう見える?」

 

 【領域】に突入しているか、否か。

 六平の質問は、それを意味している。それを、敢えて【領域】を知覚できない人間である海堂に問う。

 恐らく、そこに意図がある。もっとも、過度な集中と思考によって、【領域】に近しい世界を一度知覚しかけた事があるため、知覚できないという条件はあまり当てはまらないのだが。

 とにかく、海堂はそう考えた。そして、理由のない、直感を前提とした思考を行った。

 

「……″時代を創るウマ娘″だと思います。一方は函館記念のレコードを生んで、もう片方はGI含めた7連勝ですから。彼女らにも、領域が発現していてもおかしくはありません」

「そうか。それなら、″偶然″で負ける可能性があるってこった。オグリが持ってねぇ偶然で負ける。そんなのはあっちゃならねぇ」

 

 力が測りにくい、合宿直後のレース。初のGI、並ぶ強敵。

 ″二人に負けない程強いウマ娘になれば良い″と言える程の時間も残されていなく、正確に実力を測ることもできていない。

 本来、偶然性はレースの要素に含むべきではない。六平はおろか、海堂もフジマサマーチも、そう結論付けていた。

 しかし。この天皇賞では、″偶然性″がレースの流れを変える可能性がある。不確実性な【領域】ですら、議論しなければならない内の一つに含まなければならない異質な状況だった。

 

「こん中で領域を知覚できてんのはマーチだけだ。藁に縋りてぇ訳じゃねぇが、聞いておくに越した事もねぇ。手はあるか?」

「私自身も、何か働きかけられる事があればしてやりたい、とは思っていますが……」

 

 そう言って、フジマサマーチは顎に手を当てた。

 感覚的な話。それをオグリキャップから引き出すためには、何をしたら良いのだろうか。

 

(言葉で伝える……オグリが最も苦手にしている事だろう)

(ならば、私自身の体験を基にオグリから引き出す……それも、難しいな)

 

 自分自身も良く分かっていない中で、オグリキャップから可能性を引き出さなければならない。

 絶対にそうしなければならない訳ではないが、引き出せれば勝てる可能性が上がる。であれば、親友のフジマサマーチにとっては″マスト″でしなければならない事だ。

 

 感覚的な話を、上手く伝える方法。

 対話、では駄目だ。しかし、対話でなければ上手くいかないというのもまた事実。

 

(……いや)

 

 ────ウマ娘には、人間には取ることのできない″対話″の方法が存在する。

 れっきとした″対話″で、オグリキャップも苦手としない″対話″。何より、【領域】を引き出す上で、一番適しているかもしれない方法。

 

「オグリ」

 

 これしかない、と。意を決したフジマサマーチが、何をすべきか伝えるべく。まずは、立ち上がる。

 そうして、オグリキャップへと近づき。その内容を発する前に、オグリキャップに対し″左手″を差し出した。

 

「途中までで良い。明日、私と走ろう」

 

 差し出された左手。

 それは、ライバルとしての″決闘″を意味していた。

閑話

  • オグフジベルノのお遊び回
  • 海堂がプロキオンを府中エスコートする回
  • 海堂奈瀬の雑誌撮影回
  • 海堂フジのお出かけ回
  • 海堂ベルノが視察しに行く回
  • その他
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