ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション   作:ウママママ

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N61-最高の舞台で

 ────鷹巣山特別。

 東京レース場で開催される、距離1400mのマイル戦。

 

 因縁さえも勝因に利用する。その想いで、海堂は2戦目にこのレースを選んだ。

 オグリキャップが敗北した東京レース場で、フジマサマーチが挑む。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、フジマサマーチならきっと吉に転じる。

 

 それだけを信じ、綿密な調整を行い。当日を迎え、普段と変わらずアドバイスを行って見送った。

 そして海堂は、観客席────ではなく。関係者用通路を通り、そのまま関係者用席へと足を運んだ。

 

「……六平さんに言われてここに来たけど。誰もいないな」

 

 ────関係者席に行け。行っとけじゃねぇからな、と。

 レース前日。六平は、海堂にアドバイス……と言うべきかもわからない、助言のような何かをした。

 観戦する席の指定。推奨ではなく、必須。理由を聞けば、″まあ分かる″の一点張り。理由になっていない答えしか貰えないのであれば、大人しく従うしかなかった。

 

(まさか、ルドルフが何かやったか……?)

 

 今度は連絡もなしに、シンボリルドルフがこのレースを見にきた、など。そんな予想が一瞬頭に浮かぶが、そんな事は絶対にないと頭を振る。

 連絡もなしにしてくるようなウマ娘ではない事は分かっている。重要な事を行う前には必ず一報を入れるが、ここ最近の会話は日常的な内容の物しかない。有り得ない。

 

 ならば、一体何の用で。

 そう思って座って待っていれば、背後から聞き慣れた声がした。

 

「ここで合っているか……よし、合っているな。海堂がいる」

「オグリ……!? どうしてここに?」

 

 驚いて立ち上がると同時に、合点が行く。

 確かに。2週間前に激闘を繰り広げた葦毛の怪物を一般席に放つとなると、何が起こるかは分からない。

 ならば関係者席に連れて行ってしまった方が合理的だろう。問題は、ここに来ることを知らされていなかった事であるが。無事に来ることができた今、それは今はどうでも良かった。

 

「今日は休みにしたいと願ったんだ。ろっぺいにも、今日くらいはトレーニングは控えて構わないと言われた」

「休みにしたいと願ったって……このレースを見るために?」

「そうだ。前回のレースは遠くて行けなかったからな」

「来てることは? 伝えてるのか?」

「個別で伝えている。伝えるかどうか迷ったが、伝えた方が良いと思った」

「それは……ライバルとして、マーチを見た時に?」

「そうだ。マーチならやる。私が見ていることをバネにしてくれると信じている」

 

 海堂が座る隣の椅子に腰かけ、オグリキャップはターフを眺める。

 2週間前に走ったレース場。自分はターフの上にいて、ライバルは観客席にいた。そして今回は、それと真逆になっている。

 今になって思えば、ここから見る景色は初めてだった。外から見たターフは随分ときれいな色をしているんだな、などと思うなどして。

 

 オグリキャップは、口を開く。

 

「……海堂」

「どうしたの?」

「無駄にしてしまった、と。思ったんだ。天皇賞で負けた時」

「無駄に……もしかして、【領域】の話?」

「ああ。……マーチのがんばりを、無駄にしてしまった。尽くしてくれたのに、私には何も見えなかったんだ」

 

 領域が発現していれば、勝ったかもしれない。

 現に自分の前の2人は、間違いなく領域を発現させていた。ならば自分にも。そう思い、願った結果、発現しなかった。

 尚更思う。同じ力があれば、追いつけたと。2週間経過した今でも、そう思わせるレース結果だった。

 

「あれは、まあ。感覚的な話だから仕方ないと思う。マーチもオグリも最善を尽くしたさ」

「……私には、才能はないんだろうか?」

「領域に関してはそうかもしれない。それでオグリキャップというウマ娘が弱くなるわけではないけどね」

 

 負けたのが響いているというよりかは、申し訳なさの方が勝っているようにも思える。オグリキャップの優しさ故だろう。

 こういう相手を救うために、自分の強みを活かすべきだと。ミルワカバから学んだ。あの時のやり取りを思い出して、オグリキャップを見る。

 

「模擬戦、楽しかった?」

「楽しかった。久しぶりにマーチと走れて、あの時の再戦ができた気分になった。……途中で止まったのは、少し不満だ」

「そっか。……戦績とか、結果を求めてると。どこか事務的というか、数字を求めるようになる。自分の原点を忘れるんだ」

「……ふむ」

「それはオグリも例外じゃないと思うからさ。俺としては、オグリにその気持ちを思い出させただけでも収穫だと思うよ」

 

 海堂のその言葉を聞いて。オグリキャップは、少し合点がいった。

 中央に移籍し、日本ダービーに出場すると志し、その夢が叶わず破れ、何を目指せば良いか分からなくなりながら、レースに挑み。

 その過程で、何時しか″レースは楽しい″という気持ちが薄れて行ったようにも思った。今こうして走れるだけでも、奇跡だというのに。

 

 その気持ちを思い出させ、自身の領域形成にまで繋げてくれたのは、他でもない親友────フジマサマーチのお陰だ。

 その気持ちがあったからこそ、天皇賞は変に気負わずに走ることができた。思考もクリアで、最後には負けたくないと心から思えるライバルもできた。

 充分収穫があったじゃないかと、納得した。

 

「領域の中で。マーチには″山の頂″が見えたらしい。マーチにとっての走る理由だ」

「私にとっての走る理由……レース中、余力を持って思い出せば、私にも領域が出るだろうか?」

「レースの終盤、限界の手前で気持ちを押し出す。そうすれば、領域は出るよ。きっとね」

「そうか。マーチのトレーナーが言う事だ。信じるさ」

「前にもこんなやり取りをしたね。随分信頼されてるみたいで何より……と。そろそろ始まるね」

 

 パドックを見やれば、フジマサマーチが壇上に上がっているのが見えた。

 3番人気、フジマサマーチ。この場に親友がいる事を知っているにも関わらず、普段通りの落ち着いた表情をしている。

 

 前走で中央の壁の高さを知ると同時に、通用した事実があること。

 先日の天皇賞を生で目撃し、モチベーションが上がっていること。これらが要因となり、フジマサマーチを落ち着かせていた。

 

 出走ウマ娘の紹介が終われば、全員がゲートへと行っていく。

 

「マーチのライバルに、1つ意見を聞きたい」

「ああ。なんでも答えるさ」

「1400mのマーチに対する印象だ。他の距離と比べてどう思う?」

 

 海堂のその問に対し、考えるまでもなく。

 オグリキャップは、こう即答した。

 

「間違いなく強いぞ。1400mのマーチは」

 

 その言葉と共に、ゲートは開かれた。

 

 

***

 

 

 フジマサマーチが中央でも通用するという言説は、ある一戦での勝利が原因となっている。

 その理由。同じくして1400m。オグリキャップが強いと即答する距離。フジマサマーチが、その距離でオグリキャップに″完勝″しているからだ。

 

 完勝。それは、大差で勝ったなど、そういう意味での完勝ではない。

 バ場も良く、天気も良く、言い訳となるような外的要因も一切ないレースで勝った。つまりは、スペック勝負でオグリキャップに勝った。故に″完勝″である。

 

 余計なハンデなしに戦ったのは、ジュニアクラウン────1400mのあのレースのみだ。

 ハンデなしの対オグリキャップで、フジマサマーチは勝ってみせた。同じような条件で勝ったのは、タマモクロスとディクタストライカのみだ。

 怪物に勝利したウマ娘が、唯一真正面から戦って勝てた距離。フジマサマーチは強いと評される所以となったその距離を、海堂は2戦目に選択した。

 

 

 ────あの時の勝利を思い出そう。

 ────成功体験は良い影響を与えるから、それを再現する。

 ────ジュニアクラウン。1400m。初勝利を飾るにふさわしい距離だと思う。

 ────怪物を倒した距離と同じだ。やる気が上がると思わない?

 

 

 総合力こそ並だが。切れ味ある末脚と、堅実かつ花形のレースを展開する能力を兼ね備えた、マイルが良く似合うウマ娘。

 東京レース場で二度走ったからこそ、オグリキャップには分かる。フジマサマーチにも最も適した条件のレースは、東京レース場でのマイル勝負だと。

 

 5枠7番の真ん中からスタートしたフジマサマーチは、ゲートが開くなりスピードを上げた。

 開幕して直ぐに上り坂になり、300mもすればコーナーに入る。息が入りやすいスローペースな展開になるなら、好位を確保するためのスタートダッシュに多くの力を回すことができる。

 その考えの下。ハナを取るのではないかという勢いのトップスピードを出し、コーナーの入り口に入る頃には3番手を確保して見せた。

 

「綺麗、だな」

「綺麗?」

「ああ。マーチの走りは考えられてる。やりたい事を頭から考えて実行できるのは、マーチの強みだ」

「お手本みたいなウマ娘だと思うよ。オグリの同期で言うなら……メジロアルダンが近いかもね」

 

 研究、実践、実行。それらを数多の数繰り返すことで、最適解を導き出す。

 大外を駆ける脅威的な末脚や、変幻自在の領域など、明確な強みを持っているわけではない。それを持っていないと当人が理解しているからこそ、理論を徹底する。

 

(ただ……だからこそ、ウマ娘としての天井はどうしても近くなる)

 

 理論的。故に限界が近い。

 単純な実力差での勝負を押し付けることしかできない。それで、ディクタストライカやタマモクロス、ひいては隣に座るオグリキャップに勝てるのか。その不安は残る。

 

(そういう意味じゃ、これは試練みたいなものだ)

(得意な距離、良いシチュエーション……それでも勝てなかったら、この先は厳しくなる)

 

 極限までお膳立てをし、それでも尚勝てなかったら。この先、フジマサマーチには苦難の道が待っているだろう。

 次のレースは幾らでもあるが、これ以上の環境という意味ではもう後はない。レースに挑んでいるフジマサマーチも、それは理解している。

 

(がんばれ、マーチ)

(君なら、きっと勝てる。私はがんばりを信じてる)

 

 レースが終盤になるにつれ、2人の体に力が入る。

 海堂も、オグリキャップも、無言で見守ることしかできなくなった。

 

 

***

 

 

《最終直線、フジマサマーチが抜けました!》

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 先頭へ立ち、ゴール板を駆け抜けるために。今はただ、前を走ることだけを意識する。

 

(ペースは弥彦記念よりも遅い、それは、分かる!)

(ハイペースだった初戦で体が慣れた。あの時の負けは、決して無駄ではなかった!)

 

 スローペースのマイル、長い最終直線、前回以上の好位置。

 全体で見た距離は200m短くなっているが、ペース自体はほとんど変わらなく、寧ろやや遅い。殺人的なまでに高速化された弥彦記念で、体が慣れたのたろう。

 二度目の初陣とは異なり、頭の中もクリアなまま。最後まで冷静にレースを運ぶだけのリソースは残っている。

 

 これなら、行ける。フジマサマーチは、最終直線に控えた坂へと挑む。

 

(同じ距離で、オグリに勝ったんだ)

(オグリが見ている前で、負けることなど。出来ん!) 

 

 目の前には1人のウマ娘。バ身差はおよそ1と1/2。

 だが、東京レース場は後方からの追い上げが主流のレース場である。先日開催された天皇賞でも、ディクタストライカとオグリキャップの2人が追い上げで勝ちかけた。

 つまり、この局面において真に警戒しなければならないのは、前方よりも後方。その上で、後ろは決して見ない。

 

(後ろを見れば走りに乱れが生じる。ジュニアクラウンでもそれを意識した!)

 

 あの時。海堂が捧げたアドバイスを、懸命に思い出す。

 最終直線で後ろを見ない。その約束を信じ、挑み、オグリキャップに勝った。

 ジュニアクラウンと同じ距離。成功体験を思い出す。ならば、あの時与えられたアドバイスを今も信じる。

 

《フタバストーム! フタバストームが後方から上がる!》

《フジマサマーチ、先頭を走るコールアンサーに並びます! 残り200m! 誰が最も速く駆け抜けるか!》

 

 残り200m地点で、フジマサマーチは先頭を走るコールアンサーに並んだ。

 2番手の位置からレースを牽引していたコールアンサーは、おそらく落ちる。落ちれば、自分の隣を走る者は誰もいなくなる。

 抜かれなければ勝ち、抜かれれば負け。勝利条件は明白。

 ここまで来れば地力勝負。平坦な道を、誰が最も速く走るかの勝負となる。

 

(末脚勝負。私の得意な形に持ちこんだ!)

(フタバストームの追い上げも感覚で分かる。が……追いつけない程度の距離は、確保したつもりだ!)

 

 100%の末脚と、65%の末脚。

 当然、スピードは100%の末脚────フタバストームの方が、出る。順当にいけば、フタバストームはゴール板の手前で追いつくだろう。

 だが、残りの35%を埋めるべく、フジマサマーチは丁寧にレースを展開した。可能な限り距離を離し、スタミナを抑え、この瞬間に全ての力を回せるよう、綿密なプランを立てた。

 

 総合的なポテンシャルでは互角だが、ラスト200mではフタバストームに軍配が上がる。

 しかし。軍配が上がるからといって、そのまま負けて良い筈がない。たった1つの勝利を求めるべく、フジマサマーチは″前″だけを見る。

 

 前、前、前。何も考えない単調な走りで、ある意味で原始的とも言える行為。

 

 故に。

 故に、思い出す。

 

(あの景色を、もう一度────!)

 

 あの時にも見ることのできた、美しい世界を。

 

 

***

 

 

 これは。

 これは、決して。縋ったわけではない。

 ただ。ウマ娘としての本能に、手を引かれた。それに対し、頷いたのだ。

 あの美しい【領域】の世界へ、もう一度。向かえるものなら向かいたい、と。

 

 目の前が開け、東京レース場が視界から消え、足音も潰える。

 視界に広がるのは、天を貫くモノクロの山脈。1つ、また1つと頂上に光が灯り、己に対し″登れ″と語りかける。

 山の頂。自分自身の中にある、″走る″理由。

 1つ登ればまた新たな頂が現れ、それはきっと、引退するまで終わらない行為なのだろう。 

 

(それが、私にとっての、走る理由なんだ)

(いつまでも、いつまでも。山の頂がある限り、走ることは、やめないさ)

 

 にこりと。レースの終盤で、微笑んだ。

 この美しい景色を味合う時間は、もうどこにもない。コンマ数秒の内に、無意識の世界へと落ちることが、分かっている。

 

(────見て、いるか?)

(オグリ、海堂トレーナー。見ているか?)

(勝利を届けたい。心からそう思う2人の前で)

(私は、勝ってみせるぞ)

 

 ぷつり。その音と共に、意識は途切れる。

 目の前から全てが消え、感覚も、音も、無くなり。″走る″という原始的な行為の末に生まれる、″勝利″を求めるべく。

 フジマサマーチは、無意識下で二度目の加速を行った。

 

 それから先の事は、何も覚えていない。

 ただ。その感覚が心地良いものだったことだけは、魂に刻まれていた。

 

《鷹巣山特別を制したのは5枠7番、フジマサマーチ! 続いて、8枠13番フタバストーム! 7枠11番、シービーサニー……》

 

 そして。

 意識のない薄浅葱の影は、誰よりも疾くゴールを駆け抜けた。

 

 

***

 

 

「勝った……! 勝ったぞ、海堂!」

「……ああ。勝ったな」

 

 今できる全てを用いて、極限まで″絶対″に近づけた。しかしそれでも、負ける時は負ける。

 油断はしなかった。慢心もしなかった。走るフジマサマーチだけでなく、それを見守る海堂や、オグリキャップも。駆け抜けるまで、″勝った″とは思わなかった。

 

 勝利が確定したとなれば、力が抜ける。ふう、と。大きく息を吐いて、海堂はオグリキャップの目を見た。

 

「淡白な返答でごめん。まだ緊張が抜けきってないんだ」

「……海堂でも、緊張するんだな」

「人間だからね。未来を視ることができると思ったら大間違いだ」

 

 掲示板に目をやる。1/2バ身差での勝利。

 接戦。負けに転じていたかもしれない戦い。弥彦特別では負けに転じ、鷹巣山特別では勝ちに転じた。

 まだまだ磨き上げる余地はいくらでもある、未熟なウマ娘だ。

 それでも、今は勝利を噛みしめていたかった。シンデレラはここにもいるという証明を、したかった。

 

 オグリキャップは、フジマサマーチを見やる。

 限界ギリギリまで力を吐き切った姿。余裕なんてどこにもなかったという、オグリキャップからすればらしくもない表情を浮かべている。

 

 そうなってまでも、勝利を示したい相手がここにいた。

 勝ちたい。そう思うのは当然。しかしこの場に自分がいることで、より勝ちたいという気持ちが強まったのではないか、と。

 その姿を見て、オグリキャップは思う。

 

 ────勝ったぞ、オグリ。

 ────待っていてくれ、必ず。

 

 口が動いたわけではない。

 ただ。そう伝えられたような、気がした。

 

「……マーチ」

 

 想いが、溢れ出る。

 その想いを口にするなら、今ここで漏らすように呟くのではなく、直接伝えた方が良い。それは、分かる。

 だが。この溢れ出る想いだけは、今この瞬間に口にしたかった。

 

「最高の舞台で、私は待ってる。そこで戦おう」

 

 オグリキャップは、ガラス越しにそう呟く。

 その言葉に呼応するかのように。フジマサマーチは、ターフの上で握り拳を作ってみせた。




 アニメ2期1話目の放送日とこの話の投稿日が被るの、運命というか、なんというか。

プリティー要素、どのくらい欲しい?

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  • おおめ
  • それなり
  • ほどほど
  • すくなめ
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