ウマ娘 ワールドダービーDLCカサマツ編 東海ダービーレギュレーション 作:ウママママ
「……とりあえず、一通りは終わったかな」
「そうですね。注目されてる海外ウマ娘4人は全員確保できてます!」
天皇賞を終えた後。オグリキャップは、次のレースにジャパンカップを選んだ。
有マ記念を見据えて戦うのであれば、2400mの距離であるジャパンカップに出た方が良い。それが決定的な理由となった。
────タマもディクタも、きっと有マに集まる。
────そこで2人と戦って、2人に勝つ。それが一番だと思う。
ディクタストライカと戦えないことに関しては、オグリキャップ自身も悩んだが。
年末の勝負で纏めて2人と戦い、2人に勝ってしまう。本人曰く、それが一番とのことらしい。
ジャパンカップ。海外の実力派ウマ娘が集まる国際的レース。
出走ウマ娘の特性上、ポジション争いの煩雑さなど、異なる対策を要求される。今までの国内向けデータはほとんど活用できない。
故に、より精密な対策を行わなければならない。
調べようとしても記事は全て外国語で、出走したレースのデータを確保するにも一苦労。それに、海外のウマ娘はレースを行う日本で大々的に調整を行うことが確定している。
ならば、自分の目で直接見た方がデータの収集は速い。そう考え、六平はベルノライトと海堂を調査隊に任命し、現場へと派遣した。
その際出された六平の指令の内容は、こうだ。
────ベルノは普段通りやれば良い。普段の調査だ。
────海堂。お前は″強み″を活かせ。目に見えないモンを持って帰って来い。
2人はそれぞれの指令を果たすべく、奮闘した。
オグリキャップ陣営とバレてしまえば警戒されてしまうので、バレないように変装────といっても簡単なものをして、調査を行った。
「……みんな、ガタイが良かったね」
「……欲しいなってなっても、手に入りませんからね」
「たまに失礼なところがあるよね。穣さんとのやり取りを遠くから見てて、たまに思ってたけど」
「私は事実を述べただけですからね?」
「仲良くなれてる証拠なら、まあ許せるかな」
────エラズリープライドも、トニビアンカも、ミシェルマイベイビーも、俺より大きい……
────せめて、エラズリープライドには勝ちたかったな……
と。途中から、調査の中に私怨が少し混じり始めていたのは、それはまた別の話であるが。
ベルノライトは走り方の特徴や調整方、海堂は会話の中から見えるこのレースに対する想いやスタンスなど。それぞれある程度の結果を持ち返ることには成功していた。
「というか。海堂さん、英語喋れたんですね」
「いつか役に立つと思って覚えたものだよ。そういうベルノこそ、その歳で凄いね。英語が喋れるなんて」
「私はまあ、スポーツ用品店の社長令嬢なので……小さい頃にお付き合いとかもあったりして……」
「……まあ、で流して良い情報じゃないと思うけれど?」
「″いつか役に立つ″でさらっと覚えるのも大概だと思いますよ? ……それじゃあ、続きをやりましょうか」
ただ。残り一人────″オベイユアマスター″の調査が終わっていない。
しかし、こういうものは運の要素が強いという事も理解している。今日が調整日ではなかった、とか。出会えない理由はいくらでもある。
仮に出会えなかったとしても、調整中の走りを見れるだけでも充分。そう思い、再び調査に向かおうとし。
その時だった。
「……」
「……」
「……Yeah! Excellent!」
芝生に顔を突っ込み、呼吸を繰り返し。そして2人を気にも止めずにガバッと立ち上がるウマ娘を目撃した。
最初は戸惑ってこそいたが、顔を見た瞬間、2人の間に直ぐに緊張が走った。
(″オベイユアマスター″……!)
(最後の調査対象……ここにいたんだ……!)
ジャパンカップ出走ウマ娘であり、未だ調査できていなかった最後の一人、オベイユアマスター。
「失礼。彼女の戦績を」
「は……はい、先輩!」
ベルノライト────″後輩″役から資料を手に取り、海堂は改めて内容に目に通す。
(23戦で3勝、内GIは0勝……)
(力不足、ではないけど。ジャパンカップに来るにしては、無謀な気もする戦績……)
奇妙な戦績。だが、だからと言って手を抜く必要はない。
こういう手合いこそ、厄介な可能性がある。海堂もベルノライトも、慢心はしなかった。
情報を得るチャンスだと判断した2人は、早速オベイユアマスターに話しかけることにした。
「
「アメリカと比べてかぁ……ジャパンの芝は、香ばしいね!」
「日本語が喋れるんですね。……今までの戦績を考えると、ベストは2000m。走り慣れない2400mのコースに、どうお考えですか?」
「これはもう、一択! ヘトヘトだね!」
「……そうですか」
この時。
あまりの情報の手に入らなさから、ボロが出る前に撤退しようと。ベルノライトは、海堂に暗に伝えるつもりでいた。
手ごたえのない相手は早々に見限り、こちらの情報の流出を最小限にとどめる。諜報活動においては、最も正しい行動と言える。
「……海堂さん?」
しかし。撤退の提言をされる前に、海堂はベルノライトの服を掴んだ。オベイユアマスターには、決して見えないように。
″撤退してはならない″。海堂は、理論的ではなく本能的にその決断を下した。今の数回のやり取りの末に。
無言で懐中時計を手に取る。まだもう少し時間が欲しいという意味の合図を受け取れば、ベルノライトはこくりと頷いてみせた。
「……へえ。逃げないんだね」
今のやり取りで直感を得た事への賞賛か、何も気づいていない事に対する嘲笑か。
とかく。2人のやり取りを目にして、オベイユアマスターは、ニヤリと笑って見せた。
「ただ、惜しいね。調査対象がいる前でそんな行動したら、バレバレだよ。口も割らないし、それに……」
ゆっくりと、2人に近づき。ベルノライトからは帽子を、海堂からは眼鏡を。それぞれ取り上げてみせて、お見通しだと言わんばかりの表情を浮かべた。
「さながらスパイごっこといった所かな? ベルノライトくんに、海堂さん?」
「ッ……! 海堂さんの名前ならともかく、私の名前まで……」
「さあ、どうしてだろうね? ちなみにキミたちのオトモダチの事も、そのトレーナーの事、海堂さんのカサマツでのも知ってるさ。シンボリルドルフにスカウトされたトレーナーなんだってね?」
「い……いったい、どれだけのリサーチを。カサマツ時代の事まで……」
そして。
海堂は、2人のやり取りをただ黙って見守っていた。
(……違う)
(彼女の真に注意しなければならない点は、この異常なまでのリサーチ力じゃない)
────この違和感は、何だ?
────何処から発生している?
下腹部に泥が溜まるような、拭うことのできない違和感。
オベイユアマスターと話していると、それを覚える。普段なら決して覚えることのない違和感は、海堂の脳を刺激した。黙らざるを得なかった。
(ベルノライトや俺まで調査するリサーチ力。それは、異常だ)
(だけど。それ以上の″何か″を、オベイユアマスターは隠している……!)
直感がそう言っている。オベイユアマスターには、まだ隠し事がある。そしてそれを当てるまで、帰してはならない、と。
自分の強み────ウマ娘を″見る″目で見つけた、オベイユアマスターの違和感。尽くすなら最善をと、自分にもそう言い聞かせたはずだ。
違和感の原因。その特定に時間を費やしていれば、眼鏡が返された。これ以上のやり取りをする気はないという意志表示だと、察する。
そうして振り返り、オベイユアマスターが去る直前。海堂は、彼女を引き留めた。
「
「ゴメンね。私からもうキミ達に話すことはないんだ。でも優しいから、最後にそのお願い事だけ聞いてあげる。カワイイ海堂トレーナーのお願いだし、ね?」
「たった一つだけ。……ええと、どうしたものかな。どう伝えようかで、悩んでいるんだ」
だが。引き留めたは良いが、その先で何を展開すれば良いかが分からない。違和感を拭うためにすべき事が見つかっていなく、しどろもどろになるしかない。
できるだけ長くここに滞在させる最適な一言。必要以上に怪しまれない一言。反射的に呼びかけたが故に、何を理由に引き留めるかはまだ決まっていなかった。
そんな海堂を、オベイユアマスターは不思議そうに見つめている。彼女が抱くイメージの海堂は、こんな反応を決して見せることはないから。
「……一人の男性として、連絡先を交換したい。駄目かな?」
遂に暴走した海堂の脳内コンピューターは、エラーを吐き出した。
***
「初対面のウマ娘に対して、連絡先を交換したいだなんて……ニッポンのトレーナーは、随分と積極的なんだね?」
「海堂さん……見損ないましたよ……」
「いや、そうじゃなくて。ああ、でも確かにその意図もあって、ね。……ううん、これは困ったな」
このままだと勘違いされかねないし、この話題がどこかから漏れでもしたら困る。
主に、聞かれたくない相手が3人いる。元担当ウマ娘と、″皇帝″と、最近知り合った小悪魔のようなウマ娘。知られでもしたら、面倒な事になるのは目に見えている。
そう考えた海堂は、大人しく両手を挙げ。まずは、ベルノライトへと視線をやった。
「ベルノ」
「はい……?」
「トニビアンカの視察に向かってくれ。オベイユアマスターと、2人きりになりたい」
「……ナンパのためにですか?」
「そうじゃない。……とにかく、手分けをしよう。得意分野を活かすためにも分担するべきだ」
″得意分野を分担するべき″。つまり、今から海堂はリサーチを行うつもりでいる。
何かを掴んで、その何かを口にするには自分がいない方が好都合なのだろうと。察したベルノライトはその言葉に頷き、海堂を信じてその場から離れていった。
「次に、オベイユアマスター」
「何かな?」
「……海堂真という人間が嫌いになるかもしれない。今からそういう話をする。逃げたければ、話の途中で逃げて貰っても構わない。逃げる権利が、君はある」
「ナンパではなく?」
「違う。……あれは半分本当で、半分嘘なんだ。君をここに引き留めるための、嘘ってやつだ」
その言葉に頷くことはなかった。言葉も、返されなかった。
ベルノライトとは違い、何も変化のないオベイユアマスターの顔を見て。本当に言うべきかどうか、海堂は迷う。
(……分かった。彼女が、何を隠しているのか)
オベイユアマスターから覚える違和感の正体。それが、やっと分かった。
どんな一流トレーナーでも気づくことができない隠し事。本能的な人間なら、もしかして気づくことができるかもしれない蜘蛛の糸。
かく言う海堂でさえ、気づくにしては時間がかかった。一瞬で気づくか、一生かけても気づかないか。そのどちらかしかない中で、十分程度を要した。
(今までのトレーナー人生の中の経験。……違和感を覚えた理由は、それだ)
(だとすれば。……俺なら、絶対に気づかれたくない事だ。触れられたくもないと、思う)
記憶を探る。似た事をした経験があると、思い出す。
ただ。自分の想像している事と一致しているのであれば、これは、オベイユアマスターの地雷を踏み抜く行為である。それを分かった上で実行しなければならない。
故に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。主導権を握るのはこちらだと言うのに、″本当はそんな事したくない″という本音が、見え隠れした表情を。
(言わないで帰ることも、できる)
(できるけど……それじゃ、平等じゃない。俺はそう思う)
(そう感じてしまった以上、もう引けない。こっちが″最善″だと、俺は信じる)
オベイユアマスターの表情に変化はない。ただ、心には何か変化が起きている。なんとなく、そう感じる。
一言目。如何にして、話を長く続けるか。頭を回転させながら、言葉を口にした。
「……君と俺は、似ている。俺も、君と同じ事をしたことがあるから。分かってしまうんだ」
ふう、と一拍置いて。海堂は、オベイユアマスターの眼を見て話す。
こちらからは逃げず、真正面切って話をする。それが、せめてもの礼儀だと判断したから。
「オベイユアマスター。本当の君の言葉を聞きたい」
その言葉を聞いた瞬間。
オベイユアマスターの眼から、星のような灯が奪われた。
***
逃げるのが最善。オベイユアマスターの脳内で、警鐘が鳴らされる。
数秒でも長く話していれば、それだけ情報が抜かれる。今までに積み重ねてきた事の全てが無駄になる。こんなどこにでもいるトレーナーの戯言など、聞かなくて良い。
じり、と。1歩後ずさりする。だが。その後ずさりは、自身の秘密を見抜いた男の顔を見て止まる。
────何故。
────何故キミが、そんな顔をするんだ?
苦しみを理解しているかのような、苦い顔。相応の覚悟をもって相手も口にしているのだと、見るだけで分かる。
ジャパンカップに全てを捧げるために行ったエミュレートを、この男は一瞬で見抜いた。どんなトリックで見抜いたのまでかは、分からないが。
逃げるのが最善。ただ、オベイユアマスターは逃げるのをやめた。海堂の表情を目にしたためだ。
その表情を浮かべる人間に害意がない。それは、信じることができる。
模倣をしていた人間として、目の前の人間が浮かべる表情の真偽程度なら分かるから。
故に、オベイユアマスターは後ずさりをやめた。距離を戻すべく、1歩前に出て、口を開く。
「……私から話せる事なんて、何もないよ」
「それで構わない。……君の本音が聞けるだけで、嬉しいからね」
苦虫を嚙み潰したような顔から、優しい顔へと転ずる。
ホッとしたような、案じているような。人間本来の優しさだなと、そう思う。
「何故、分かった?」
「さっきも言ったけど、同じような事をしたことがある。……君に探りを入れたいわけじゃないから、返事はしなくて良い。ただの自語りだと思って聞いてくれると嬉しい」
黙って、海堂の眼を見た。
「″海堂真″の仮面だ。自分で、自分の仮面を作って、振る舞っていた。たぶん、君も同じ事をしているんだろう。だから分かる。君の覚悟や、背負うものが分かる」
「……そうか」
「初めて担当したウマ娘の夢を叶えられなくて。心が、耐えられなくなった。心が耐えられないならいっそ、強いトレーナーの姿を演じようと思ったんだ。その姿が、今の君と被った」
無言のまま。頭の中で、納得する。
ベルノライトを巻き込んで話さなかった、真面目さ。
心の底から生まれる感情が正しいものだと見て分かる、純真さ。
可能な限り言葉を選んで自分と対話を試みる、優しさ。
その全てが本物だとすれば。この男がどれだけトレーナーに向いていて、トレーナーに向いていないのかが、簡単に分かる。
強い自分の仮面を装着し、本当の自分を隠す。それを年単位で行っていたのだとすれば見抜かれてもおかしくないと、納得できる。
「オベイユアマスター。この情報を、どうして欲しい?」
「言うか、言わないか、という話? ……結果によっては、キミが所属するチームに対する背信行為になるだろう。最善を尽くすなら、私の全てを口にするべきだ。堂々と」
「君の意見を聞きたい。チーム内でのみ共有するか、否か。君に選択権を与えたい。随分と上から目線なのは、申し訳ないけど」
「……質問の答えになってない」
それに、と。オベイユアマスターは、言葉を続ける。
「ここでどちらを言ったって、君がどうするかは私には分からない。許可どうこうの話をするだけ無駄だと思うけれど」
「そうか。……でも、信じさせることはできる。言葉を用いて、嘘を言っていないと」
トレーナーという職業から外れた、海堂真という人間の考えでは。
ここで話した事の全てを、秘密にしたかった。
本当の自分を捨てて戦う覚悟。
本当の自分で戦うことができない苦しみ。
それらの全てを、海堂は理解しようとする。理解しようとすることができるだけの過去がある。
強い自分で覆い、強い自分を演じ続けた。
オベイユアマスターのように、それで何かが明確に変わりはしなかった。だが、背負う覚悟は同じ物だと、海堂は信じている。
なら。隠すのが礼儀だと、そう思った。暴かれた時の苦しみは、理解できるから。
「ここまでの覚悟を決めてきたウマ娘の、覚悟を踏み躙るような行為は俺にはできない。悪用はしないし、約束は守る」
「……覚悟を踏み躙ってまで勝つのは、フェアじゃないと?」
「全てを捧げてまでこうしているんだろう? それを妨害するのは、人間として間違っている。″海堂真″としてはそう思う」
じっと眼を見て、次の言葉を待つ。
「正直に君に話したのはそういう理由だ。全てを捧げて隠したつもりで何も隠せていなかったなんて、屈辱過ぎる。俺が君なら、努力が無駄になったとかではなく、走るのを辞める」
眼を逸らすことなく、言葉を待ち続ける。
「俺は君にそんな事をして欲しくない。1人のトレーナーとして心配しているから。ただトレーナーとしては背信行為になるから、良い落とし所をつくりたかった。……どう? これで″海堂真″という人間の事は理解できたかな?」
理解できた。嫌という程。
「……キミは、優しすぎるね。トレーナーではなく、カウンセラーになるべきだ。向いてないと思うよ」
「……何度も言われてるよ」
そう言って、海堂は笑ってみせた。
本当に何度も言われているのだろうな、と思った。
(……真、か)
真。日本語で、正しい事を意味する言葉。
この人間が付けるのに最もふさわしい名だと、オベイユアマスターは思い。ただ一言だけを告げた。
「
それだけを残して。オベイユアマスターは、海堂の下を去って行った。
その表情は、どこか柔らかいような気もした。本物も、贋作も、しないような表情で。
────案外、ナンパだったとしても悪くなかったかもしれない、と。
オベイユアマスターは、そう思うのだった。
この回の落とし所を悩んでいたのもあって、難産になっていました。無事に書き切って何より。
プリティー要素、どのくらい欲しい?
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たくさん
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おおめ
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それなり
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ほどほど
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すくなめ