七曜暦1204年初頃
ゼムリア大陸西部、クロスベル自治州...
総資産額大陸一を誇るIBC(クロスベル国際銀行)本社を擁し、大国エレボニア、カルバートに挟まれ大陸横断鉄道の要所ともなっている経済・貿易都市クロスベル。
その一角にひっそりと存在する裏通り。煌々としたネオンが放つ光に妖しく照らされ、街を包む昼間の喧騒から切り離されたその通りのまた奥。黒一色のスーツにサングラスの、明らかに一般人ではない男二人に守られている建物、その正面の出入口より一人の少女が出てくる。
綺麗なブロンドの、肩に掛かるくらいのサイドテールを揺らすその少女は笑顔を浮かべ、しかし僅かに落胆の雰囲気を滲ませながら、今しがた通った出入口の方に振り返る。
「…じゃ、おじさん。またいつか。」
旧知の友人と別れる様にそう言う少女。
少しの間を置いて、その言葉に反応したかの様に同じ出入口より大柄な男がゆっくりと出てくる。
焦げ茶色の髪をオールバックにし、カーキ色のスーツに身を包んだ男。服の上からでも分かる強靭な身体とその鋭い眼光は、そこら辺のチンピラとは一線を画す強者の風格を漂わせている。
入り口を守っていた黒服達が、慌ててその男に頭を下げる。男はその黒服達を気にせず、目の前に居る少女に尋ねる。
「……これから、どうするつもりだ?」
そう聞かれた少女は男から視線を外し、建物の合間に覗く空を見上げながら僅かに考える。
「うん…取り敢えず、帝国方面に行ってみようかな…って。」
頭の中の纏まらない考えを、そのまま口に出して呟く様に、静かに。
「…どうせ、あては無ェんだろう。」
男は、少女の言葉を切り捨てるように言い切る。
図星だったか、次に繋げる言葉も見つからない様に、その少女は口を閉じる。
「……。」
「だろうな…こいつを持っていけ。」
僅かな沈黙の後、男は呆れたような声でその様子から勝手に納得する。それから、予め用意していたのだろうか、いくつかの書類を無雑作に持ってくると、少女に対して押し付ける様に渡した。
それを受け取った少女は、疑問を浮かべながら書類に軽く目を通す。
「これって…?」
それは、エレボニア帝国の入国許可証や、偽の身分証明書等だった。
クロスベルマフィアが、エレボニアの高官と癒着している市議会の帝国派議員から入手し、逃亡や密輸の際に良く使われる偽装書。いや、帝国から直に横流しされているので、本質的には本物と言えるかもしれない。
どちらにしろ、おいそれと他人に渡すものでは無い。
「タダの余り物だ、勝手に使え。」
しかし男は、まるで何でもないとでも言うかの様にそれだけ言うと、ゆっくりと踵を返し中に戻って行く。
その書類の中には、場違いな証書が紛れ込んでいた。少女はそれを見つけ、男の言わんとしている事を悟ると、何とも言えないような笑みを浮かべて呟いた。
「…うん、ありがとうね。おじさん。」
書類を脇に抱えながら、裏通りを歩く少女。その抱えている書類束、その中から、一枚の証書が頭を覗かせている。目立つのは、赤地に金の一角獣の紋章。
『――――トールズ士官学院 入学申し込み書類』
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「若頭、さっきの奴は一体誰なんですかい?」
少女が立ち去った後、脇に着いていた黒服達の一人が男に疑問を投げかける。
男はその鋭い眼光を僅かに弱め、手の届かない様な遠くを見る様に視線を上げる。
「……家族、みたいなモンだ。大分昔の、な。」
どうもこんにちは、たまもおぜんと申します。
まだまだ経験不足なので、読みにくいところばかりだと思いますが、どうかよろしくお願いします。