華の軌跡   作:たまもおぜん

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俺tueeee回です。


再開、過去 (前)

「―――フィー!?」

 

不意に聞こえたのは、もう二度と聞くことはないと思っていた声。

 

目の前に居るその少女は、自らの記憶にあるままの姿でそこに立っていた。

いや、厳密に言えば目の前の少女は士官学院の制服を着ている。

その色は、紅だ。

 

「ん、久しぶりだね。」

 

短く、透き通る白髪。

全てを見透かしてしまうかのような黄の丸い瞳。

幼さをの残る、滅多に動かない表情。

相変わらずに、気まぐれな子猫を思わせる雰囲気を纏ったその少女……フィー。

元《西風の旅団》所属、特科クラスⅦ組フィー・クラウゼルが、階段上から不意に跳躍する。

 

「えっ、ちょっ・・・!」

 

音も立てずにふわりと飛び上がった彼女は、そして重力に引っ張られ、そのままこちらに向けて落ちてきて。

 

「ーーーわっ・・・!?」

 

受け止める。小さな体に塞がれる視界。

ぽすり、と私の出した両腕に収まる華奢な体躯。

それを落としてしまわないよう、しっかりと抱き留める。

予想よりも軽い衝撃。二、三歩退がるものの、フィーの腕が私の背中に回るのを感じた。

 

「・・・っと」

 

ゆっくりと、その体を地面に下ろす。

しかし、互いを抱き留めている腕は離さない、離れない。

 

「・・・さすがに死んだかと思ってた。」

 

フィーの、変わらないいつも通りの口調。

そこに、僅かばかりの強がりが含まれていることは、すぐに分かった。

 

「まぁ・・・しぶとさには自身があるから、ね」

 

だから、私も少し強がってみせることにした。

 

「フィーこそ、ちゃんと生活できてたの?」

 

「ん・・・問題ない」

 

なんともフィーらしい、極めて短く、端的なその言葉。

それすらも、今は懐かしい。

 

「・・・聞いたよ。団長の一騎討ちの事」

 

私より、頭一つ分ほども小さな体

 

「ん・・・それで、病院から?」

 

「うん。残党狩りを警戒して、ね」

 

「そうなんだ・・・」

 

こちらを見上げる表情

 

「とにかく」

 

ふと、その形が和らいだ。

 

「生きてて、良かった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・私、もしかしてお邪魔だったかしら。」

 

「サラ、居たんだ。」

 

「居るわよ。というか、随分と仲よさげみたいだけど、つまりはそういうことよね?」

 

「はぁ、まぁ・・・」

 

「ん、リーリャは私の仲間。西風の・・・家族。」

 

 

 

 

───────────────

 

2年前

ゼムリア大陸中西部サンタ・クララ市郊外

 

 

 

なだらかな丘陵と森林が連なり、南国の穏やかな風が吹く田園。それが、戦前のサンタ・クララの評判だった。

 

これまでの主戦場は主に、砂漠化の進む東側の不毛地帯であり、国の中心地に位置するここは未だ戦禍に巻き込まれておらず、表面上では静かだ。

しかしその静寂も、東から進撃してくる反政府軍によって、あと少しで終わるだろう。

目の前にある政府軍の前線基地も、その反政府軍を撃退するための物なのだろうから。

 

「・・・。」

 

視界を覆っていた木々が途切れ、深い森林の中にあっても陽光が落ちているこの広場において、私・・・フィー・クラウゼルは、深い森の奥に意識を向けて、魔獣や敵兵がやってこないかを警戒している。

 

「・・・」

 

何気無く足許の小石を蹴り飛ばす。

私は・・・うまくは言えないけどモヤモヤしていた。

集結地点で私に言い渡された命令は「敵前線基地への破壊、妨害工作」だった。

敵戦線後方とはいえ、市内が戦場となっている今、そこに到達するのに何ら障害は無い。やる事も、少々の爆薬を仕掛けるなりして敵を萎縮させれば良いようなものだ。

団長やゼノ、レオ達は皆市内の方へと向かっている。つまり私は、苛烈な主戦場から外され、「比較的穏やか」な任務に回されたのだ。

 

「足手まとい、なのかな」

 

自嘲気味に呟いた声は、不意に吹き抜けた風に掻き消された。

 

「うーん・・・民間人はほぼ居ないから、確実に砲撃合戦になるし、インフラはメチャクチャになる、多分ね。」

 

私が哨戒している中、その後方に居るのは、同じく破壊工作を命じられたリーリャだ。

 

「ほうほう、つまりは共和国系の、民間の建設会社が狙い目ってことかな?」

 

その向かい側で話しているのは、《北の猟兵》の“ティリア”と呼ばれているリーリャと同年代の、武器弾薬の調達と配達を専門としている猟兵だ。火薬式の武器を幅広く扱っているらしく、どうしてもという場合は自前で設計までするらしい。

火薬式の武器を主とするリーリャは、よくティリアに補給を頼んでいる。

確か今は《ニーズヘッグ》と提携してる、と言っていたか、彼女の後ろで反対側を哨戒している数人は、そのニーズヘッグの所属のようだ。

 

「そういうこと。」

 

二人の横には、大量の物資が積み込まれた導力トラックが1両。リーリャが注文した武器弾薬、その他必需品だ。

 

「兵器会社のほうは?」

 

「ここで大体決まるだろうし、軍需関係はこれからストップ安が続いて一気に値下がりかなぁ・・・」

 

「じゃあ~・・・そうだ!ヴェルヌ社の民間向け導力車部門とかの銘柄!土木工事とか運輸用に大量発注されるかも!」

 

一方その二人は、株価がどうの銘柄がどうの、よく分からない話をしていた。

リーリャの言うところによると、戦争が始まったり終わったりする事自体で儲けてるらしい。

《西風》の持つ影響力はそれで儲けるのに相応しいのだと。

 

「あ、それいいねぇ。私のもお願い」

 

「おっけー!任せといて~」

 

「ティリアさーん!そろそろ防空レーダーが復旧してしまいますよー!」

 

二人の話が一段落したらしい所に、哨戒していたニーズヘッグの1人が声を掛ける。桃色の髪を二つに結んでいる、ナイフ使いだ。

 

「おっけーアイリ!今いくー!」

 

その声に振り向いたティリアは、リーリャと・・・私の方に手を振り、ウィンクを残して、ニーズヘッグと共に森の奥へ去っていった。

 

「さ、いこっか」

 

見上げると、リーリャが森の穏やかさによく似合う柔らかい表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

基地より南西の森林内

 

「・・・けっこう大きいね」

 

「そうだねぇ」

 

双眼鏡の先、レンズを通して拡大された視界の先には、大規模な基地が広がっていた。

バラックを拡張させれば最大でおおよそ一個連隊、3000人規模の兵力を駐屯させることが可能だろう。

南側中央のゲートを出入口とし、周囲をフェンスと土嚢壁、鉄条網で囲われた中、北側と南側には半円筒形やテント式の兵舎が多数建ち並び、中央にはプレハブの建物・・・おそらく司令部だろうものがある。

東側は倉庫となっており、多数のトラックや装甲車両、戦車まで停まっていた。武器弾薬も豊富に備蓄されていると見える。

西側は・・・飛行艇の発着場だ。

敷地を四角形とすると各頂点にそれぞれ高さ10アージュ程度の監視塔が存在し、基地周囲は2セルジュ程度の距離まで開けた土地となっている。

今現在、駐屯してるのは一個大隊くらいか。

どうするにしろ、相手は重装備を持つ正規軍だ。真正面から挑めば西風の総力を以ても厳しいだろう。

 

「・・・!」

 

後方に気配、距離は60アージュ程度。2人・・・敵のパトロールだ。

幸い、こちらには気が付かなかったらしく、気配はそのまま遠ざかっていった。

草に偽装したネットが役に立ったようだ。

 

「下手に手を出すと危険。どうする?」

 

双眼鏡から目を離し、隣で同じように基地を観察しているリーリャを見る。

 

「んー、まぁ・・・想定してた以上ではないし、壊滅させとこうかな」

 

「・・・本気?」

 

思わず私は眉を顰める。

とある有名な学者の言葉で、戦闘における損害は(Xt^2/α)-(Yt^2/β)の式で表される、と聞いたことがある。意味はよく分からないがリーリャが言うには、数の多い方が圧倒的に有利、ということらしい。

2対多数、そもそも数じゃ勝負にならない。

しかし、そんな私の懸念を余所に当の本人は

 

「本気も本気。こんな拠点残しといたら、前線が面倒になる」

 

普段と変わらない様子を見せている。

 

「・・・どうするの」

 

「じゃあ・・・今から12時間くらい使って基地の周囲を掃討してほしい、かな。あぁ、魔獣だけね。人間には絶対に見付からないように」

 

 

 

 

 

――――――――

14時間後、深夜

 

 

 

「行くよ・・・!」

 

周囲を照らすサーチライトの光条が通り過ぎたのを見計らい、飛ぶように走り出す。

 

基地まで150アージュ、小さな破裂音。

リーリャが撃ったであろう火薬式狙撃銃の銃声は、減音器によって夜の風音に紛れる程に静かだ。

そして、その射撃は正確に監視塔の兵士を打ち倒していた。

 

残り100アージュ。双銃剣をホルスターから抜く。

破裂音が2回、正面の機関銃陣地に詰めていた兵士二人が、ほぼ同時に倒れる。

 

横に螺旋を巻いた鉄条網のバリケードを飛び越える。残り50アージュ。

 

『そろそろ位置に着くね』

 

リーリャからの無線と同時に、監視塔の根本にたどり着いた。

間髪入れずに跳躍、壁を蹴り一気に監視塔を登る。

 

「ん、始めるよ」

 

監視塔からは、基地内部が広く見渡せた。

 

「ここからなら・・・」

 

双銃剣を床に置き、背中に手を回して掴んだのは、全長70リジュ程度の筒。背負った3本のうちのひとつを目の前に持ってくる。

その後部の蓋を開けると、中にあるもうひとつの筒を引き伸ばし、右肩に乗せて構える。

リーリャが用意した、使い捨ての火薬式携行型軽対戦車砲。

倒立式の照門と照星を起こし、狙いを着ける。

目標は、基地中心部・・・その一角に存在する導力アンテナ群。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

突如鳴り響いた爆発音に、基地司令を始めとして将校達が集まっていた司令部は騒然となった。

 

「何事だ!?」

 

直後にもう二回、同じ音が鳴り、地面が揺れる。

 

「奇襲・・・反乱軍の浸透攻撃かもしれん、警報を出せ!被害状況を確認!哨戒と検問所、前線司令部にも確認しろ!」

 

司令官は素早く指示を飛ばすが、直後にそれは、無線手によって遮られる。

 

「・・・駄目です!通信が繋がりません!」

 

「何だと!」

 

そこに、一人の兵士が慌てた様子で駆け込んできた。指令棟の門番だった兵だ。

慌ただしいながらも敬礼を行う門番は、そのまま声を張り上げる。

 

「通信アンテナが破壊されました!砲撃です!飛行艇と、南西監視塔もやられました!」

 

途端に、将校たちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「何ということだ・・・司令、これは計画的な襲撃です」

 

「だろうな・・・。よし、伝令を出し指揮系統を回復する!少佐、小隊を一つ借りるぞ。」

 

「はっ!」

 

副官と中隊長の少佐が伝令の内容の確認を始める。

そうしている間に、一際大きな爆音が鳴り、兵舎の方から火の手が上がった。

 

「重砲まで装備しているというのか・・・」

 

音を立てて飛翔してきた砲弾が、空中で炸裂する。それによって生まれた高速の弾片は雨のように降り注ぎ、直下に居る兵士達を兵舎単位で薙ぎ倒し、それが連続する。

いきなり最前線に放り込まれたとも錯覚するほどの砲撃だ。

 

「敵の砲兵はまだ見つからないのか!」

 

「もしかしたら南西のほうかもしれません。監視塔が破壊されたのも、見つかりにくくする為だと」

 

「しかし、妙です。15リジュ級の重砲ならば嫌でも目立つ筈ですが、歩哨からはそのような痕跡があった報告すらも上がっていません。それに、いくら高精度の砲だとしても、たったの一撃でアンテナに命中させるなど・・・まさか!」

 

「報告します!北西監視塔の兵が行方不明!戦闘の跡を認む!」

 

「・・・基地内に侵入者が!」

 

次の瞬間、天井を貫通してきた砲弾が、司令室のど真ん中で炸裂した。

 

 

 

―――――――

 

北西監視塔

 

「・・・命中、射撃停止。」

 

基地内の各所で火災が発生し、辺りが炎の明かりに照らされる中、屋根の上で寝そべりながら双眼鏡を覗く。

視界の先で爆散するプレハブ小屋、それを確認しながら私は、無線に向かって呟いた。

 

『よーし、次』

 

その向こうからは、能天気とも取れる声。しかし、不思議と悪い感じはしない。

そして、言われた通りに次の目標物・・・破壊すべきもの、重要施設を目で追おうとした時。

 

「次・・・まった」

 

『どうしたの?』

 

「敵砲兵がそっちを狙ってる、10リジュ級の榴弾砲が3門」

 

南西の方を向いている、タイヤが二つ着いた牽引式の大砲・・・おそらく10.5リジュ榴弾砲が3つ。

いくら監視塔を破壊しているからといっても、あれだけ撃ってたら流石に見つかるか。

と、そこで自分の居る監視塔の下に、沢山の気配が集まるのを感じた。

 

「っ・・・足元が騒がしくなってきたかも。別の地点に移るね」

 

そう言うは早く、跳躍。

監視塔の陰、炎に照らされてより一層濃くなったその影の中に、音も無く着地する。

 

『りょーかい、っと。パトロールに見つかった!私も射撃ポイント変えるよ』

 

辺りの気配を素早く探り、破壊された兵舎の陰から陰へと走る。

幸いにも、敵の意識はさっきまで居た監視塔の方へと向いており、私はその間を見付からずに潜り抜けることが出来ていた。

 

その時、大きな破裂音が三回、ほぼ同時に鳴り響く。

榴弾砲の発射音だ。

 

それを横目に、懐から手書きの地図を取り出す。

その地図には縦横に罫線が入っていて、基地内の施設や戦力配置なんかが、事細かに記されている。

 

この地図を用意したのはリーリャだった。

私が基地周辺を掃討していた12時間弱、その間にリーリャはひたすら基地と、その内部の兵力を監視し続け、なおかつ正確な縮尺でそれを書き上げていた。

私が掃討を終えて戻ってきた時に、リーリャの頭の上には小鳥が留まっていたくらいなので、どんなに監視を行っていたかは大体想像がつく。

 

『移動完了、射撃用意よーし』

 

「火力支援要請。座標。X、5、2、0。Y、6、3、0」

 

読み上げるのは罫線に書かれた数字、それから表せる砲撃陣地の位置。

地図に記されている建物の位置関係から榴弾砲の位置を目測で割り出し、そこに走っている罫線の数字を横、縦の順番でリーリャに告げた。

 

『座標X520、Y630、発着信管。半装填~発射!』

 

リーリャの気の抜けた掛け声と共に、ポン、という発射音が無線の向こう側から聞こえる。

火薬式の12リジュ重迫撃砲の発射音だ。

高性能爆薬を弾頭に充填しており、導力砲に換算すれば15、もしくは20リジュクラスのものに匹敵する破壊力を持っている。

さらに、その迫撃砲をトラックの荷台に載せていて、素早い移動が可能らしい。

 

さしずめ自走迫撃砲だ、とリーリャは言っていた。

恐らくは、先程の対砲兵射撃からも難なく逃れられたのだろう。

 

そして、砲弾が飛翔する風切り声の後、爆音。

リーリャの放った砲弾は砲兵陣地から大きく外れ、駐車されている導力トラックの列を吹き飛ばした。

 

「初弾、西に60アージュ、北に90アージュずれたよ」

 

『了解、西60に北90で・・・こっちは25ミルくらいかな・・・と、修正完了。第2弾、発射ーー!』

 

再び発射音。

しばらくの後、飛んできた砲弾は敵砲兵陣地の真ん中で爆発した。

 

「命中したよ、効力射」

 

私のその合図をきっかけに、次々と砲弾が飛来し、同じように炸裂する。

1秒に1発のペースで飛んでくるそれによって、あっというまに砲兵陣地が叩き潰されていった。

 

リーリャは、戦術オーブメントの身体能力向上機能によく馴染むらしく、素早くはならないが、物を持つのには苦労しなくなるらしい。

本来人1人分の重量を誇る12リジュ迫撃砲弾を片手で掴み、ポンポンと砲口に投入していく姿を見たある団員は

 

『1人で1個砲兵中隊に匹敵する火力』

 

と言っていた。

 

事実、突然始まった砲撃に敵はまったく対応できていない。

そうしている内に、敵砲兵陣地で大爆発が起こった。

積んであった導力砲弾に直撃し、一斉に誘爆したのだろうか。陣地はまるごとひっくり返されたかのように土砂にまみれ、そこに砲が設置してあったとはとても思えない有り様だった。

 

「敵砲兵陣地の破壊を確認、射撃停止」

 

『はいよー、射撃停止。丁度砲弾使いきったとこだったし、ギリギリだったかな?』

 

あははー、と間の抜けた笑い声を漏らすリーリャに少々呆れかけたとき、基地の一角に違和感を感じる。

 

「・・・まった」

 

『どうしたの?』

 

物陰から確認すれば、基地の正面ゲートに集まる敵の姿を確認できた。

歩兵だけではない、無砲塔の旧式とはいえ戦車も居る。

 

「敵が集結してる。戦車3輌にトラック5輌、歩兵が中隊規模。多分、そっち狙いだよ」

 

『あー、なるほど。そりゃさすがに出てくるよね。おっけー、こっちで対応しとくね』

 

リーリャの声は、緊張を感じさせないままだった。

 




続きます。
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