最後の方にちょっと独自設定が入ってます。
さんさんと照っていた日が傾き始め、段々と導力灯の明かりが付き始めている商店街。その一角にある店の中、コレットを始めとするトールズ士官学院Ⅳ組の女子達が集まっていた。
「本当にすみません!妹がまたイタズラを…」
申し訳なさそうな表情で手を前に組み、桃色の三つ編みを大きく揺らし深く頭を下げるリンデ。というか「また」なのか。
「あー、もういいよ~」
一方コレットは流石にもう責める気も起きなくなったのか、顔に笑みを貼りつけユラユラと手を振っている。大方、色々あってどうでも良くなったんだろう。
ブティックでの騒動の後、一行は駅前の喫茶店<キルシェ>に来ていた。夕食時も近いからなのか店内は比較的賑わっており、クラブ活動を終えた後なのだろうか同じ学院生も多い。私たちはその中でも入り口から最も遠い、奥にあるテーブル席に座っている。
その中で、リンデのみは頭を下げる為にテーブルの脇に立っていた。
「ですが……」
小さくそう声を出したリンデは、半分だけ頭を上げ、眉を下げた上目遣いでこちらを伺う。なんだろう、この雰囲気は誰かに似ている気が…あ、モニカか。
あれからモニカとは登校中や放課後、寮内でもそれなりに交友する仲となっている。最近は運動系のクラブ活動に参加したいと言ってたけど、もう決めたのかな?
「…まぁ、確かにコレットも代金もらってるんだし。とりあえず、何か頼まない?」
私はそんな事を考えながら、極めて軽い口調で脇からそう発言する。同じ物が2個あっても特には困らないだろうし、金銭的な損失も0だ。ヴィヴィの1800ミラは自業自得で、本人も納得している。唯一の被害者リンデに関しては、まぁ、姉妹の問題としてなんとかしてほしい。
と、いう訳で私やコレットに謝る筋合いはあまり無いと、私はそう思っている。
「ほら、二人もこう言ってるじゃない。」
「ヴィヴィはちゃんと反省して!」
私とコレットの言葉に乗っかり、反省もなにも無いような声で姉に向き直るヴィヴィ。一方リンデはそんな妹の態度に対し、顔を潮紅させる勢いで怒りはじめる。
「はーい」
「もう……っ!」
だがそんな姉の怒りも、ヴィヴィにとっては何処吹く風。その飄々とした様子はリンデの火に油を注いだらしく、またもや姉妹喧嘩が勃発する。といっても、傍から見れば、突っ掛るリンデをヴィヴィが軽くいなしているといった感じだ。しかし、リンデも本気で怒っているようではないらしく、その言語に刺は少ない。おそらく、あの喧嘩も姉妹のコミュニケーションなんだろう。
「…ははは…なんというか、賑やかな姉妹だよね。」
そんな桃色姉妹の様子に、コレットは苦笑いを浮かべながらそう呟く。
「本当に…どっちが姉か分からなくなりそうだこと…。」
………妹、かぁ。
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陽が沈み、もう半刻程度で闇に包まれようとしている、鬱蒼とした森の中。
草花を揺らし木の根を飛び越え、静かに、されど素早く目の前を駆けるのは、私より二つ年下の小柄な銀髪の少女。後に続く私も、木々の間を走り抜けその背中を追いかけるが、その差は一向に縮まらない。
「………っ」
石を飛び越え、草木をすり抜け一陣の風を巻き起こすは、まるで伝承に伝わる妖精のよう。私は焦りながらも、どこか憧れを含み、その小さい背中に見惚れていた。
そうやってしばらく走っていると、遠方に僅かな灯りが見えてきた。そこには幾つも野営の為のテントが設営されていて、その周りでは慌ただしく人が動き回っていた。それを見た銀髪の少女は、その脚をさらに速める。私も負けじと足に力を込めるが、結局追い越すことは出来なかった。
私はテントに到着すると、なるべく自身に負担が掛からないようにゆっくりと足を止める。先に到着し目の前に居る銀髪の少女は、何時もは無表情を貼りつけているその黄色い瞳を僅かに緩めた。
「……ん、私の勝ち…ぶい。」
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「……今頃、何処で何してるんだか。」
ふと頭に浮かんだのは、昔の思い出。まぁ、昔といっても精々3年前なのだけど。…血の繋がりがある訳ではないが、私の妹のようだったあの子。
「……リーリャ、どうかしたの?」
ふと気が付くと、コレットが心配そうにこちらを伺っていた。
「ん~?別に何でもないよ。」
大方、今の呟きが聞かれたんだろう。私は思考の海から自身を完全に引き揚げると、我ながらなんとも気の抜けている口調でそう返した。
「―――だから!――――!」
直後に聞こえるリンデの声。どうやら、目の前の双子姉妹の喧嘩はまだ続いているみたいだ。ここでも、カウンターに立っているマスターや、空になったグラスを運んでいるウェイトレス、店内にいる他の客達の注目を一手に集めている。
このままでは目立つこと此の上無いし、リンデもそれは嫌だろう。そう考えて静かに立ち上がると、横からそっと声を挟む。
「リンデ、ちょっと…ほら…」
そのままリンデの視線を誘導するように、私は店内を見渡した。
「――――え?あっ…」
それに釣られて店内の注目に気がついたのか、一瞬そのままの状態で固まったかと思うと次の瞬間には、収穫時期のにがトマトのように顔が思い切り真っ赤になっていた。
「す…すみませんでした…」
その真っ赤な表情のまま小さく謝ると、ストンと力が抜けたように椅子に座る。うん、すごく恥ずかしいってのは分かる。
「お騒がせしました…」
「あはは、大丈夫大丈夫」
両手を脚の上で組み、小声でそう言うリンデ。コレットは既に苦笑いだ。さて、どうしよう…微妙な雰囲気になってしまった。
と、その時。横から私たち以外の声が飛んできた。
「まぁまぁ。若いと色々あるのかもしれないけど、喧嘩はしないの。」
私たちの視線が声の主に集まる。そこに居たのは、右手にコーヒーカップを4つ程載せているトレーを持ち、テーブルの脇にやって来たキルシェのウェイトレスだ。
「あ、ドリーさん。」
さすがコレット。既に知り合いなのか、即座に名前で呼んでいる。
「はい、コーヒーでも飲んで落ち着いて。」
側に来たそのウェイトレス、ドリーさんは温かいコーヒーの注がれたカップを、慣れた手つきで手際良く並べていく。あれ、コーヒーって注文したっけ?
「コーヒーって…誰かもう頼んだ?」
「これはマスターの奢りよ。じゃあ、若者同士仲良く、ね。」
私の疑問に応え、そう残して去っていくドリーさん。カウンターにいるマスターの方を見ると、新聞越しにウィンクが返ってきた。多分、気を使ってくれたのだろう。
「ふふ、つまりタダ飲みね。」
「あ、ありがとうございます!」
小さく笑いカップに口をつけるヴィヴィと、ちょこんとマスターに頭を下げるリンデ。
「おぉ~やったね♪」
「うん、これはラッキー。」
コレットもその気遣いに喜び、私もそれに同意する。そして、まるで示し合わせたかのように4人同時に、そのコーヒーを一口。
「「「「…………ふぅ」」」」
ちょっと熱かったけど、誰が言ったか、喉元過ぎれば熱さ忘れる。熱いコーヒーが暖かくなり、カップの底が見えてきた頃には、既に皆は喧嘩の事などどうでも良くなっていた。
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同日、18:45
コレット達と一旦別れた私は、商店街の外れにひっそりと存在する質屋<ミヒュト>に来ていた。
店の看板は”準備中”となっていたが、まだ灯りがともっているから多分大丈夫だろう。そう考えながら、幸いにもまだ鍵の掛かっていなかったドアを開ける。
「…なんだ、もう閉店時間は過ぎてる。ガキはさっさと帰んな。」
入るなり、新聞から目を離さずぶっきらぼうにそう言い放つ店主。私はそれを無視し、扉を閉めてカウンターに近づく。
「…ナインヴァリのアシュリーさんの紹介。」
カウンターをはさみ、ミヒュトの目の前でそう呟く。
「…ちっ……で、要件はなんだ。」
ようやく新聞から顔を上げ、こちらを向く店主。その表情は、至極面倒そうだ。
「これを用意して欲しいの。」
私はポケットから、一枚の紙とミラ札を一束取り出すと、それをカウンターに置く。ミラは前の稼業で随分と稼いだが、特に使い道も無かったので溜りに溜まっているので問題無いし、士官学院の入学金や各種生活費も、これで賄えている。
「なんだ….762×5.1リジュ装薬弾に…4リジュグレネード弾…?共和国製のタマ、しかも火薬式じゃねぇか。戦争でも始めるのか?」
紙を見て、ミヒュトの表情が変わる。まぁ別に大丈夫だろう、それだけのミラは出している。
「んーん、タダの備え。それと、もう一つ。」
「……何だ」
そして、私にとっての本題に入る。先程の買い物は、この要件を上手く通すための色着けに過ぎない。
「<西風の旅団>について…何でもいいから…。」
【独自設定】
.762×5.1リジュ装薬弾
ヴェルヌ製火薬式弾薬。
弾頭直径0.762リジュ、薬莢長5.1リジュ、薬莢形状はボトルネック型、無煙火薬を使用している。
弾頭初速は平均して840アージュ/秒、有効射程は大体8セルジュ前後、殺傷力も高くバランスの取れた弾薬。しかし反動が強く、開発時期が導力革命の黎明期だったため後に導力銃に取って代わられ、今では一部の猟兵が使用しているに過ぎない。
4リジュグレネード弾
ヴェルヌ製大型弾薬。
弾頭直径4リジュ、薬莢長4.6リジュ、初速76アージュ/秒、最大射程4セルジュの大型弾薬。弾頭には複数の種類がある。一般的な導力式炸薬弾、催涙弾、照明弾、発煙弾。猟兵がたまに使う、高性能爆薬を使用する高威力の対戦車成型炸薬弾。
性能はそれなりに良い弾薬なのだが、現在主流の機甲戦では心細く、かといって警察や遊撃士が使うには破壊力が大きすぎると、意外と使われていない不遇の弾。