華の軌跡   作:たまもおぜん

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今回は会話がメインですね。


幸せな自分

1204年4月17日

トールズ士官学院 Ⅳ組教室...

 

 

「起立、礼!」

 

教室に響くクラス委員の号令。

入学してから二週間弱、武術訓練やクラブ活動等が始まり、学院生活も本格的になってきた頃。

 

「…ついに、自由行動日だ~っ!」

 

ホームルームが終わり担任教官が教室から出て行くと、前の席に座っているコレットが身体を伸ばしながら開放感にどっぷり浸かった声を出す。

 

「あーそういえば、そんな日もあったねぇ。」

 

私も、腕や首を軽く動かして硬くなった身体をほぐしながら、そう返す。

自由行動日…月に何回かある「お休み」の日。士官学院としての体裁上休日という扱いではないが、授業も行事も無く、過ごし方は個人の自主性に任せられている、との事らしい。学習やクラブ活動に勤しむもよし、帝都に行くもよし。要するに、事実上の休日だろう。

コレットは前々からこの日を楽しみにしていたらしいけど、何をするんだろうか…は、大体予想できてしまう。まぁ、コレットだし。

当のコレットが、椅子に座ったまま身体をこちらに向ける。その表情は笑みに満ちており、キラキラしたオーラが溢れている。

 

「明日はトリスタでショッピングしまくるよ♪」

 

予想通りだった、いや、考えるまでも無かったような。

 

「まー良いとは思うけど、程々にね」

 

呆れたような声で返すものの、正直私には明日の予定すら無い。むしろ、休日の過ごし方が下手だ。前の仕事では各地を飛び回っていたから、はっきりとした平日も休日も無かった。時間が空いたら訓練か武器整備。

コレットは買い物に行くらしいけど、私はまたちょっとした訓練と、あまり意味のない武器整備で1日を浪費するだけだろうなぁ。あ、学生だし勉強しようか。

 

「大丈夫大丈夫!ねぇねぇ、リーリャも一緒に行こうよ」

 

椅子から身を乗り出し、顔を近づけてそう提案してくる。その表情は、毎日が楽しそうって感じのいい笑顔だ。

 

「…オーケー、私が荷物持ちの役ってことかな?」

「うっ…そ、そういうつもりは無いけけど…アハハ…」

 

即座にコレットの笑顔が引き攣る。コレットのことだから本心ではなくとも、2割くらいはそう考えていたのだろう。苦笑いで濁しているコレットは、なんとも白々しい。

でもまぁ…友達と一緒に遊びに行くのは、多分凄く楽しいんだろうなぁ。

 

「まぁ、別に重要な予定も無いし。うん、良いよ、行こ」

「ホント?やった!あー、早く明日にならないかな~」

 

私の返した了承の意を受けて、満面の笑顔を見せて喜ぶコレット。掛け値無しに、この子は笑顔がよく似合うと思う。そういった所はやっぱり羨ましかったりする。

 

そう楽しそうにしているコレットの背後に忍び寄る、一つの桃色な影。

その影はコレットの真後ろに立つと、静かに両手を構える。そして、間髪入れずその両手が一閃―――

 

「――――えいっ」

 

コレットの両脇に侵入したその両手は、それぞれの指をフルに動かして脇を蹂躙する。…所謂「コチョコチョ」だ。

 

「ひゃっ!あわ…ま、やめ…っ…ハハハ!」

 

突然脇に手を突っ込まれ、くすぐったさに身を捩るコレット。

 

「あ、もうヴィヴィったら!またそんなこと!」

 

自分の用事を済ませてからこちらに来たリンデが、駆け寄りながら非難の声を上げる。コレットをくすぐっていた手の主―――ヴィヴィは、それに対し「ただの挨拶よ」と冗談交じりに返した。

 

「で、なになに、何の話?」

「んー、明日の自由行動日に何するか~、って」

「ふーん、なるほど。そういえば明日は休みだったわね」

 

今更思い出したかの様に返すヴィヴィの様子は、ついさっきまでの私と同じような気がした。つまり、何も予定が無いと。

 

「はぁ…はぁ…不覚をとったよ…」

「はいはい、しっかりする。私とコレットは、ショッピングにでも行こうと思うんだけど」

 

脇を押さえて荒く息をするコレットを傍目で見ながら、リンデとヴィヴィを遠回しに誘ってみる。というかコレットって、くすぐりに弱かったのか。

 

「特にやることも無いし…そっちに行こうかしら」

 

ヴィヴィは頬に人差し指を当てて少しの間考えると、うん、と一回頷きながらそう返す。さて、明日はどんなイタズラがコレットとリンデを襲うのだろう。

 

「私はクラブ活動の方に…えーと、実技テストの対策とかって、しておいた方がいいのかな…?」

 

ヴィヴィとは反対の頬に指を当て、考えるような仕草のリンデ。

 

「えっ?」

 

突然、話を聞いていたコレットが素っ頓狂な声を出す。

 

「えっ?」

 

リンデもそれに反応したのか、同じ疑問の声を返した。

 

「実技、テスト?」

「え、はい…そうですけど」

「えっ、もうそんなのが…」

 

どうやらコレットは、実技テストの事を把握していなかったらしい。大方、ショッピングのことで頭が一杯だったりとかしたんだろうなぁ。

確かにあの実技担当、サラ・バレスタイン教官の性格から言えば、そこまで真面目にやっていなくとも大丈夫そうだとは思うけど…

 

「そういえば、ホームルームの時に教官が話してたわね」

「コレット、明日の事考えてて聞いてなかったっぽい?」

「…うん、全く聞いてなかったかも」

 

ヴィヴィの言葉の後に、私はそう核心を突っついてみた。

それに対して少しの間を置いて返すコレットの表情は、「ゴゴゴ」と効果音が付きそうなくらいには真に迫っている。

 

「アハハ…来週の水曜日です」

 

なんとも言えないように苦笑いを浮かべていたリンデが、改めてテストの日を伝える。

コレットは慌ててスカートのポケットより生徒手帳を取り出すと、パラパラとめくってから手早くメモを取った。

 

「水曜日水曜日と…うん、ありがと~」

 

メモを取り終えた手帳を元のポケットに仕舞い、満面の笑みを浮かべながらお礼を言うコレット。

スカートのポケットに手帳を入れておくと落としそうになるから、私は上着の方に入れてるんだけど…まぁ、それは別に人それぞれかな。

 

 

------------------------

 

 

「―――それで、運動部に入ってみようと思うんです」

 

向かいのソファーに座るモニカが、会話の流れに乗りながらそう切りだしてくる。

私たちは教室から出た後、同じ2階の階段側にある談話スペースへとやって来ていた。Ⅳ組女子メンバーだけではなく、丁度同じタイミングで教室から出てきたモニカと、偶然談話スペースに居た1年Ⅴ組の女子生徒、ロジーヌも加わった。

今は、私が何気なく振ってみたクラブ活動についての話題になっている。

 

「運動部といえば、ラクロスにフェンシング、水泳…」

「水泳部、ですか?」

「うん、水泳部」

 

何の気なしに運動部を列挙していくと、聞いていたモニカは「水泳部」に反応してきた。水泳部に入るつもりなのだろうか、斜め下に視線を落として色々考え事をしている仕草が見て取れる。

 

「確か、ギムナジウムにプールがありましたね」

 

綺麗な姿勢で座っているロジーヌが、たった今思い出したかのような声で言う。

 

「もしかして、水泳が得意なの?」

 

その隣に座っているコレットが、興味深そうに尋ねた。

 

「いえ…どちらかというと苦手です。泳ぎ方が分からないというか…」

「泳ぎ方、かぁ」

 

それは確かに。泳ぎ方はいろいろあるが、見ただけでさあ出来るかといったら難しいし、言葉で説明するのも少し無理がある。かく言う私の泳ぎも、取り敢えず前に進めれば良いと手足を動かしているだけだったりする。

 

「あ、わかります。私も水泳は得意じゃないので…」

 

リンデが顔の脇で小さく手を挙げながら、モニカに同意する。

 

「でも、リンデの水着姿は良いものよ~」

「なっ…もうヴィヴィ、からかわないでっ」

 

その横から、イタズラっぽい笑みえを浮かべたヴィヴィが割り込んできて、リンデの肩に頭を乗せた。

なんだろうか、もう見慣れたこの桃色シスターズのスキンシップを見ていると、猫のじゃれ合いを思い出す。

リンデの腰に手を回し脇腹をツンツンしているヴィヴィに、それを払おうとするリンデ。リンデの方も本気で嫌がってはいない感じだし、ヴィヴィも一応の節度はある様に見える。…やっぱり仲いいなぁこの姉妹。

だがしかし、普通に可愛い桃髪女子二人がじゃれ合う姿は、士官学院入りたての純粋な男子生徒にとっては色々とアレじゃないだろうかと思う。ほら、たった今カスパルがこっちを見ないように目を逸らしながら通り過ぎた。それに、ニット帽の平民生徒は見ない振りをしているものの、視線はこちらに向いている。

 

「…それで、皆さんはどこに入るつもりですか?」

 

姉妹のスキンシップがひと通り落ち着いてきたところで、モニカが切り出す。

 

「私は今のところ考えてないかな~」

「コレットと同じく」

 

コレットが頭の後ろで手を組みながらそう返し、私もそれに乗っかる。残念ながら、自分がクラブ活動に精を出している姿が想像できない。人生経験薄っぺらいのかな。

 

「部活には入らずに、課外活動の方をと」

「特に決めては無いけど…園芸部とか良さそうね、部長が」

「私は、美術部に入ってみようと思ってます」

 

それから順にロジーヌ、ヴィヴィ、リンデと後から続く。

 

「園芸部に美術部…なるほど。」

 

顎に手を当てて考え込むモニカ。取り敢えず、そんなに深く考えこまないでも良いんじゃないかなとは思うものの、それを口に出すのは責任感が無さそうな感じがするので止めておく。

 

そんな雰囲気のガールズトークが続いて何分か。

 

「あ、私そろそろ美術部の方に行かなくちゃ…」

 

話し込んでいたリンデが、我に帰ったように辺りを見渡しながら立ち上がる。

 

「私も、取り敢えずギムナジウムに行ってみようと思います」

「なら、園芸部の部長さんでも見に行こうかしら♪」

 

その後に続くように、モニカとヴィヴィも席を立つ。というか、結局ヴィヴィは園芸部志望なのだろうか、それとも噂の園芸部部長にイタズラしたいだけなのか。…まぁ後者な気がする。

 

「私は教官に、課外活動の許可を取りませんと」

 

ロジーヌもそう言って立ち上がる。課外活動…確か、ロジーヌは教会のシスターを目指していた筈。…ロジーヌに限らず、コレットもモニカも桃色姉妹も、なんで士官学校に入ったんだろうか。

 

 

 

「また明日~…コレットはどうするの?」

 

そうして皆が各々の場所へと去った後、大分スペースの空いた談話スペースのソファから腰を上げ、隣に座っていたコレットの方に首を向ける。

 

「私は図書館に行くつもりだよ。リーリャは?」

「んー…ちょっとした用事があるんだけど、まぁそこまで時間はかからないかな」

 

私も、この後に行かなければならない所がある。私の事だ、その用事が終わったらそのまま寮に戻ってしまうだろう。

まぁ、それが普通なんだろうけど…

 

「だからコレット…一緒に帰ろう。」

 

コレットの正面に立ち、意を決して、そう言う。

 

「え……?」

 

急な私の申し出に、呆けた表情をみせたコレット。

学院から寮までそんなに距離は無いし、コレットとは寮内でも普通に会うことができる。その上、私はこの後用事を済ませるために商店街まで足を伸ばす。そこからならわざわざ学院に戻るより、直接寮に帰ったほうが断然早い。つまり、私の考えていることはまったくもって無駄な事だ。

 

「こう…私から誘うのって初めてだったよね?それとも…都合悪かった…?」

 

それでも、ここで何も無しに別れてしまうのは…駄目だ。

自分で言うのも何だとは思うが、私とコレットは仲が良い。まだ入学から2週間弱しか経っていないが、クラスの皆から「コレット&リーリャ」と思われているだろう位の自負はある。

しかし、それはあくまでコレットの社交性に助けられたものだ。コレットは、比較的ドライであろう私にも笑顔で話しかけてくれる。コレットが私にボールを投げ、私はそれを受けるだけ。そんな一方的な関係。それは、ちょっとしたことで壊れてしまうだろう。

せっかくの学院生活だ…こんな私でも、ちゃんと友達を作りたい。

 

「…ううん、良いよ。一緒に帰ろう!」

「……うん!」

 

コレットが、人懐っこい笑顔を見せる。何気ない一言だが、私にとっては紛れもない女神の祝福だった。

 

 

 

------------------------

 

同日 17:21

 

 

「……来たか。」

 

カウンター奥の椅子に座り、新聞に顔を向けたままそう言うのは質屋の店主、ミヒュト。その態度は相変わらずのぶっきらぼうで、人を選別し、結果的に客の信頼性を上げているのだろう。

 

「頼んだものと…情報は?」

 

ここで各種弾薬と情報を注文してから一週間。弾薬の特殊性と必要な情報の広さから、商品の「受け渡し」には数日程度の時間が必要だったらしい。まぁ、あの弾薬を普通に用意できるだけでも只者ではないんだけれど…。

 

「注文通り.762×5.1リジュ装薬弾が2400発に、4リジュグレネードが64発だ。全く、面倒なもん注文しやがって…」

 

そう言いながら目線で示す先には、「200CRTG .762lg AMMO」と刻印された金属製の箱が12個に、「32CARTRIDGES 4lg」と書かれた少し大きめの箱が2つ、店の端に積まれていた。

私はゆくっりとその箱に近寄り、上にある箱の一つを開ける。中には、火薬式であることを物語る様に輝くライフル弾が詰め込まれている。

薬莢は真鍮製。弾頭は、鉛の弾体を真鍮で覆ったフルメタルジャケット弾。導力銃が出てこなかったらこれが普及していたであろう、標準的な装薬弾だ。

 

「で…肝心の情報は?」

 

弾薬箱の蓋を閉めると、私は唐突にそう切り出す。今回の主目的は、むしろこちらの方だ。

 

「あぁ…信頼できる情報から言えば、カイエン公爵に雇われたらしい二人組だな。」

 

カイエン公爵…たしか、帝国西部ラマール州一帯を勢力圏とする、帝国貴族四大名門の一つだったかな。報酬的にはそこらの武装集団や自治州よりは断然良いと思う。

それで、その二人組だけど…特徴から推測すると、多分<罠使い>ゼノと<破壊獣>レオニダスだ。それと、クロスベル自治州のマフィアに一人…こっちはあの熊オジサンだろう。すでに会っている。

有力な情報といったら、それぐらいかな。

あとは、全て信頼性の無い噂のようなものばかり。偶然にも帝都とかバリアハートらへんの近くに居た、とかの奇跡は期待できないだろう。そもそも、ここらに猟兵の求める仕事は無いのだから。

取り敢えずは、今度予定を立ててゼノとレオニダスに会いに行こう。それで、離散してからの経緯や現在の状況なんかの情報を共有する。それに、他の団員の居場所も。もっとも、こっちに関してはあまり期待してないけど。

 

「…ありがと。」

 

ミヒュトに礼を言い、店を出る。弾薬類は、外見を偽装したうえで後日寮に届けてくれるらしい。

…今回は有益な情報を得られた。ひとつ心残りがあるとすれば、<西風の妖精>フィーの居場所が分からなかった位、かな。今年で15歳だった筈…ちゃんと生き方は見つけられたかな?…その前に生活できてるんだろうか…?料理とか、洗濯とか、資産管理とかその他色々…はぁ。

ま、フィーの事だし、こっちの心配も知らずに、飄々と生活してたりするんだろうなぁ。

 

「…さて、コレットを迎えにいかないと」

 

私は、学院を目指して歩き出す。

この大陸は広い。そして、<猟兵王>と呼ばれた団長の、その求心力を失って離散した<西風の旅団>には、今のところ再結成の予定も無い。だから、フィーとはもう会うことは出来ないだろう。痛む心を無視し、冷静な頭が下した結論だ。私には、フィーが人並みの幸せを得られるように祈ることしか出来ない。

 

 

私には最近友達が出来た。だからフィーも、新しい仲間に囲まれながら笑えてればいいな…なんて。

 

 

 





はい、ミヒュトさんにはまだフィーの情報は入ってません。灯台下暗しとかいうやつです。
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