中二少女の冒険記   作:ふえぇ…

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ある日、森の中

「――凍れ」

 

一人の少女が左手を前に突き出し、唱えたその言葉。紡がれたその意思に従い、目の前の『魔獣』は――肉体全てを瞬きの間に凍り付かせた。

 

一瞬、硬直すると、しかし。すぐに少女は動き出す。

そして自分の左手を目の前にやり、困惑した様に呟いた。

 

「……おかしいな」

 

そして、数分それを続け、ため息を付くと――次の瞬間。

 

「――『転移』」

 

呟かれた言の葉は単純で。そして、あり得ない物。だが、現実として――少女は姿を消していた。

 

影も形もなく、ただそこにいた証拠として、憎悪に燃えた『魔獣』の姿だけが綺麗に残り続けており――、

 

(――おいおいおいおい!マジかマジかマジか!!あり得ねぇ!あり得ねないだろ!)

 

――そしてそれは、その光景を捉えていた一人の『討伐者』にとって、絶望的な事実を伝えることでもあった。

 

最初は、付近の村の討伐任務を受けに来ただけ。道中、人の気配を感じ、パーティーメンバーにしばらくたっても戻ってこなかったら村へ退避しろとの言葉を残し先立ち――見たのは、『魔獣』を凍りつかせる一人の少女。

 

(……魔術の使用?『おかしい』?つまりあれはまだ完成していない――まあそれは良い――いや良くねぇが……『転移』よりはマシだ)

 

そもそも、『転移』と言うのは伝承の中、と言うか物語の中でしか存在しない『魔術』だ。開発されれば甚大な利益を生み出すであろう『転移魔術』は、作り出されれば理外の功績と名誉を得られる、いわゆる『一発でかいの当ててやろうぜ!』意識を持つ魔術師達が無理を承知で突撃する類いの物だった。

 

本来『魔術』には一つ一つ利権があり、おおっぴらに使用するには『魔術師連盟』に名を連ねる必要がある。転移魔術も開発された場合魔術師連盟が多額の資金をもってその利権を借りる、もしくは買い取るのだろう――いや、事が事ゆえ、国と連盟の利権の取り合いになるのだろうか。

――とは言えそれは置いておいて、だ。

 

少女が使った氷の魔術。一応、連盟の『下級魔術師』として登録し、下位の魔術は粗方知り尽くしているが、だが。唱えただけで発動する魔術など、『魔術』ではない。

 

仮にも魔術を噛ったものだからこそ分かるが、魔術一つ一つにはそれぞれ綿密に構成された理論があり、理路がある。それに乗っ取らずそれら魔術を発動することなど本来は不可能――だが少女はやってのけた。

 

(……つまり、『アレ』は完全に魔術根本から使っている理論が違う?いや、そんなのよりもっと大きな――)

 

「――ねえ、何してるのよ」

 

「――ッ?!」

 

突然後ろから聞こえた声に、目を見開く。慌てて飛び退くが、すぐに警戒は溶けた。

魔術師特有の補助具である杖に、理知的な輝きを持つ瞳。パーティーメンバーのミランがそこにいたのだ。

 

「……なによ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して。で?なにかいたの?」

 

「……いや、なにもいなかった」

 

ゆっくりと答えると、ミランは訝しげな瞳を向ける。

 

「……まあいいわ。さっさと行くわよ。じゃんけんに負けたばっかりで気分悪いんだから」

 

「俺の迎えは罰ゲームかよ……」

 

「少なくとも今回はそうでしょ。ソール、あんた自覚ないの?さっさと行くわよ」

 

急ぎ足で戻るミラン。それを横目に、ソールは後ろを向く。

 

なにもない(・・・・・)、ただの森林がそこには広がっていた。

 

(……なんだったんだ、アレは)

 

一瞬足が止まるが、前からのキツイ視線にすぐに慌てて歩を進め始め、やがてその悩みは――忘れ去られてしまった。

 

 

◆◇

 

 

私は闇の魔術を継ぎし後継者。――そう!闇の魔術師(ダーク・アデプト)

 

ふふ、まだ魔術は使えないが(つまり闇の魔術師ではない)いずれ使えるようになって見せる!

 

――と言うことでいつも通りの練習場所に来た!

 

左手を突き出し、凍れー凍れーと祈ってみる。ダメだった。

 

ふっ、だがまだ私は闇に呑まれていない。いずれ闇に呑まれたときこそ私が真の力を解放するとき……ふふ。

 

と、そんなことを考えていたら目の前に小さな兎が現れた。見た目は普通だがなんか目の色がおかしい。

……じっと見詰めてきた。なんだこいつ?私をなめてるのか?

 

……よし、私の力を見せてやろう。魔力(良くわかってない)を集中し――

 

「――凍れ」

 

――そして、兎は凍った。

 

…………は?

 

「……おかしいな」

 

一回感想を呟いてみる。心の中でももう一回。おかしいな。

 

うん、一回状況を見直そう。私が手を突き出し、のりで『凍れ』と言ってみた。

うん、ここまではいい。

 

そして、兎が凍った。うん、なんかおかしいな。

 

結構前に読んだ小説の影響でこんなところに来ることをかれこれ一年は続けている私だが、なんか『思い込む』のが楽しいのだ。

村の皆は優しいし、別に不満があるとかじゃない。けど、なんか……こう、もやもやが貯まって、発散したくなってこんなことを続けていた。

 

……いや、でもなんで本当に凍るんだよ。

 

しばらくまじまじと手を見詰めるが、別におかしなところはなにもない。

 

ため息をつく。もしかしたら見間違え、もしくはあの兎が所詮言うところの『魔獣』と言うやつで、もしかしたら自分で凍る能力を持っていただけかも知れない。意味不明の生態だが。

 

ああ、でもここから帰るのだるいなぁ。……あ、本当に魔法使えたかどうか、試しに転移って言ってみよう。

息を吸って、そして言葉を放つ。

 

 

「――『転移』」

 

 

そして、目を開けたら――見えたのは砂漠だった。

 

……本当に転移しないで欲しい。

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