迷鳥   作:フェルニケ

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初代ACシリーズには様々な敵が登場しますが、個人的に苦手なのは東雲です。あのパンチは痛い。


(3)HUNTING GROUND

 

 メールの着信を知らせる電子音に、ウィルフレッド・バーンズは意識を浮上させた。

 

 夜遅くに実験場への視察に出向き、自室に戻ってきたのは夜明けを過ぎた頃である。疲れきった体はまだ休息を欲していた。

 

 気力を振り絞って寝台から身を起こすと、バーンズは端末の置かれたデスクへと歩み寄った。

 

 ブルーライトの光が起き抜けの目を容赦なく刺す。目をしょぼつかせながらディスプレイの文字を追っていくにつれ、その表情は険しいものへと変化していった。

 

 もはや眠気も疲労も吹き飛んでいた。メールを読み終わるなり、彼は緊急連絡用の番号をタップした。

 

 数コールも待たないうちに、応答があった。研究施設の警備責任者だ。重役からの急な電話に狼狽えているようだったが、バーンズの知ったことではない。

 

「例のレイヴンが罠にかかったそうだな」バーンズは乾いた唇を湿らせながら言った。「AC部隊は全機派遣したのかね?」

 

「動員可能な戦力は全て投入済みです。ただ──」警備責任者はおずおずと続けた。「ヴィクセンは本作戦から外しました。パイロットは接続実験で疲弊しているため、戦闘には出すなとラボから要請が……」

 

 ──研究所の連中め!

 

 バーンズはこめかみの血管が膨れ上がるのを感じた。奴らときたら、事の重大性を何ひとつ理解していない。

 

(相手は()()が手駒として送り込んできたレイヴンだぞ!?ここで追跡を断っておかねば、奴はいずれここに辿り着く。そうなってからでは遅いのがわからんのか……!)

 

 ヴィクセンのパイロット、スティンガーは警備役だけでなく、例の兵器の被験体も買って出ている。接続の負荷に耐えかねて使い物にならなくなる者が多い中、安定したデータを取れる被験者の存在は貴重だった。

 

 研究者たちはそれが失われるのを惜しんだのだろう。だがよりによって一番腕の立つレイヴンを外すとは、何ということをしてくれたのか。

 

 バーンズは時計に目を走らせた。今から増援を送ったところで、戦闘には間に合わない。しかし、敵にこちらの情報をつかませないよう手を打つことは可能である。

 

「すぐにガレージへ繋ぎたまえ。ヴィクセンを出撃させる、これは決定事項だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇を抜けた先、シェイプシフターのカメラアイに飛び込んできたのは、アイザックシティではまず見られない光景だった。

 

 真っ先に目を引いたのは、周囲を覆う夥しい茶色だ。むき出しになった土くれ。舗装処理を受けているのは道路とそれを支える柱くらいで、他の箇所は自然の姿のまま放っておかれているようだった。

 

 照明がろくに取り付けられていないため、昼にもかかわらずあたりは暗い。周囲の様子を探りながら、シェイプシフターは進軍を開始した。

 

 ECMでレーダーは使い物にならない。高性能ヘッドパーツと電子戦対応コアのおかげで、FCSのロックオン機能にまでは影響が出ていないのが不幸中の幸いだった。

 

 ブーストと跳躍を小刻みに繰り返し、機体は不規則な軌道を描きながら道路を行く。ある程度道なりに進んだところで、エルシェ―はハッと息を呑んだ。己のものとは異なるブースト音。敵がすぐそこまで来ている。

 

(下か!)

 

 ハイウェイが虚空に乗り出したところで、ブースト出力を瞬間的に引き上げ、シェイプシフターは飛び上がった。赤い機影が下から追いすがる。鋭い斬撃を機体を傾けることで躱し、エルシェ―は空中で敵に向き直った。

 

 朱色のフレームはなめらかな曲線を描いている。腕部や脚部の要所には追加装甲が取り付けられており、その形状も相まって武者鎧を連想させた。右手にはレーザーキャノン、左手にはレーザーブレードが装備されている。いずれもネストの規格とは異なる武装だった。

 

 ムラクモ・ミレニアム製AC「不知火」。精鋭部隊のみが拝領を許される、ムラクモの虎の子である。

 

「なぜこいつがこんなところに……」

 

 速い上に頑丈で、おまけに火力も備えている厄介な敵だ。間違っても武装組織がほいほい手に入れられる代物ではない。

 

 心の中で悪態をつきながら、エルシェ―は速射型レーザーライフルのトリガーを引いた。WG-XFwPPkの銃口から光が奔り、不知火を襲う。

 

 不知火のパイロットの反応は迅速だった。近距離では回避不能とみると、空中で機体をひねり、分厚い追加装甲でレーザーを受け止める。肩の複合装甲は融解したが、バイタルパートには達していなかった。

 

(しぶとい奴だ)

 

 必中を期すべく、彼我の距離を詰めた。ブースターが青白い噴射炎を噴き、推力を得た機体が前方へと急加速する。

 

 再びトリガーを引こうとしたときだった。シェイプシフターの集音マイクが、飛翔音を捉えた。背後から迫るこれは──

 

(ミサイルだと?)

 

 攻撃を中断し、エルシェ―は大きく左後方へとブーストダッシュをかけた。

 

 レーダーは未だ機能していない。追撃に備えてカメラアイは正面の不知火を見据えたまま、音だけを頼りに飛翔体の現在位置と速度を割り出し、回避機動をとる。充分引き付けたと見ると、すぐさま右に機体を切り返した。ACの急激な動きに対応できず、目標を見失った二発のミサイルは左へと流れていった。

 

 大地に誘導弾が突き刺さり、爆発を起こす。爆炎の規模を見て、彼は顔を引きつらせた。その威力たるや、ACが装備する中型ミサイル並みだ。連続で当たっていれば大ダメージは免れなかっただろう。

 

「そうか、奴らこのためにECMを使ったな」

 

 エルシェ―は得心した。普通にミサイルを撃ったところで、強化人間相手には容易く避けられてしまう。しかしレーダーを封じ、囮となる前衛機を配置した上で波状攻撃をかけるとなれば話は別だ。延々とミサイルの攻撃に晒されれば、強化人間とて限界はやってくる。

 

 まずはミサイル持ちを優先的に始末したかったが、息をつく暇を与えず、不知火がすかさず追撃をかけてきた。レーザーキャノンが火を噴き、光弾の嵐がシェイプシフターを襲う。

 

 手数は多いが、狙いが甘い。自由落下とブーストを織り交ぜて高度をずらすと、エルシェ―はレーザーライフルの銃口を頭上に向けた。凶悪な攻撃力を秘めた光条が、先ほどの猛攻でジェネレータのエネルギーを消耗した不知火へと殺到する。動きが鈍っている不知火にそれを避ける術はなかった。

 

(まずは一機)

 

 再び何かが大気を切り裂く音がした。高速の飛翔音。今度は斜め前方からだった。

 

 飛翔体の下を搔い潜るようにして、砂塵を巻き上げながらシェイプシフターは驀進した。

 

 ロックオンサイトに反応がある。一時の方角に敵影が二つ。

 

 片方は背部に装備したミサイルランチャーと特徴的なシルエットから、ムラクモ製AC「狭霧」と判明した。もう一方はさらに後方に陣取っていることもあり、判別が難しい。狭霧と比較すると随分小さいため、ACではなさそうだが。

 

 スナイパーライフルの弾丸がシェイプシフターの装甲を掠めた。こちらの接近を察して、狭霧のパイロットは背部兵装から腕部武装へと切り替えていたらしい。

 

(一発の威力は怖くないが、衝撃が厄介だな)

 

 いつどこからミサイルが飛んでくるかわからない状況で、足を止められるわけにはいかなかった。

 

 高速弾を回避するために蛇行軌道をとりつつ、レーザーキャノンを発射。ノーロック状態で放った火球を狭霧は横に跳んで躱したが、爆炎に視界を塞がれたことが仇となった。間髪入れずに放たれたブレード光波が、着地の瞬間無防備となった狭霧を直撃する。青い閃光に包まれ、高エネルギーに耐えられなかったフレームが砕け散った。

 

 これでミサイル持ちは一機削いだ。ほとんど原型をとどめていない狭霧を尻目に、シェイプシフターはさらに進む。

 

 やがて視界に入ったものの正体を認め、彼は笑みを浮かべた。

 

「なるほど、ECMの発生源はこいつか」

 

 灰色のホバーマシンが一機、ふわふわと空中を浮遊していた。武装の類は機銃一本たりとも備えていない。その代わりに、大型のレーダーが取り付けられていた。

 

 タンケッテE。ジャミング能力に優れた無人兵器である。耐久力と機動力に難があるため、実戦では滅多に使われない代物だ。

 

 レーザーの一射でタンケッテは火を噴き、地上に墜落した。それと同時に、周囲のECM濃度が著しく減少する。

 

(あと数機はこれと同じものを配置しているのだろうが)

 

 ロックオンアラートが鳴り響いた。複数のミサイルの飛翔音。左右から同時に仕掛け、挟み込むようにして仕留める気らしいが、もう遅い。

 

 エルシェ―は不敵に笑った。既に「目」は取り戻した。反撃開始と行こうじゃないか。

 

 

 

     

 

 

 

「タンケッテE-5、ロスト」

 

「狭霧3、撃破されました」

 

「応答せよ。不知火2、応答せよ。……駄目です。繋がりません」

 

 装甲車の指揮官用シートで男は苛立っていた。通信から漏れ聞こえる報告は、どれも機関が用意した戦力が撃破されるものばかり。味方の劣勢は明らかだった。

 

(上の連中、いつになったら援軍を寄越すつもりだ!?)

 

 怒り、恐怖、焦燥。様々な感情が沸き起こり、胸の内で渦を巻く。

 

 冷静さを保つため、男は深く息を吸って呼吸を整えた。指揮官の不安は部下にも伝播する。ただでさえ不利な状況下で、これ以上マイナス要素を増やす真似はしたくなかった。

 

「本部からの連絡はまだか?」

 

 肩越しに通信士に問う。増援のACを出すと言ったきり、本部からは何の伝達もない。一縷の希望をこめて尋ねたが、まだ年若い部下は首を横に振った。

 

 とどのつまり、現地の戦力でなんとかしろということか。男は喉の奥で声にならない呻きを上げた。

 

 モニターに目を走らせる。また一つ、味方を示す光点がレーダーから消えた。

 

 こちらに残された戦力は、装甲車の護衛にあたるオーガーが五機。AC部隊を数分で全滅させたレイヴンを相手どるには、心もとない数だった。

 

「散開して奴を遠巻きにするよう伝えろ。いいか、決してブレードのレンジに近づくな。無反動砲で足止めするんだ」

 

 手持ちの駒で仕留められるほど、甘い相手でないことは承知している。しかしいつ味方のACがやってくるかわからない以上、オーガーを出して時間を稼ぐしかない。

 

 各自が担当するオーガーのパイロットへと、オペレーターが矢継ぎ早に指示を出す。装甲車の周囲で待機していたMTが一斉に動き始めた。格闘戦を目的として設計されただけあって、重量級MTにもかかわらず、その足取りは軽い。

 

 隊長機を中心として、部隊は扇状に広がり、アンバークラウンの凝った闇の中を駆けていく。右翼の一機が敵を捕捉した。闇に紛れるようにして低空を飛ぶ、ダークブルーの機影。シェイプシフターだ。

 

「ターゲットを確認。直ちに迎撃する」

 

 隊長機から指揮所に通信が入った。

 

 真っ先に接敵した隊員が無反動砲を数発撃ち込み、シェイプシフターの注意を引く。敵ACはブーストを吹かして後退し、レーザーライフルを眼下に向けた。

 

 銃口から光が迸る。

 

 オーガーの角ばった装甲は実弾に対して高い防御力を誇る反面、エネルギー兵器への防御力は低い。高出力レーザーを喰らった装甲がどろりと溶けた。バイタルパートは辛うじて無事だが、これ以上連射を喰らえば撃墜は免れない。

 

 そうはさせじと、追いついた残りの四機が集中砲火を浴びせた。

 

 相手は軽量二脚機だ。被弾を嫌い、追撃を取りやめるだろうと、MTパイロットの誰もが予想した。しかし、その予測は最悪の形で外れることとなる。

 

 迫りくる砲弾をものともせず、トリガーが引かれた。

 

 レーザーの嵐が傷ついたオーガーに殺到した。カメラアイから光が消え、ACを凌駕する巨体が力なく頽れる。

 

 数瞬遅れて八十四ミリ砲弾が殺到するが、既にシェイプシフターはその場にいなかった。

 

 コア背部から勢いよくブースターの噴射炎を噴き出し、鋼鉄の巨人がハイウェイを疾走する。無人の荒野を行くがごとく、シェイプシフターはまるで速度を緩める気配がない。その進む先には──三両のトーラス。

 

「奴を止めろ!」

 

 怒号が飛んだ。

 

 装甲車と敵ACを結ぶ直線上に、オーガーが滑り込む。内蔵された近接用爆薬ペレットを叩きつけるべく左腕を振り上げるが、それよりもシェイプシフターの方が速かった。

 

 腕部から発振されたレーザーが青い刃を形作る。レーザーブレードが袈裟懸けに振るわれ、バターでも両断するかのような滑らかさで装甲を断ち切った。

 

 

 残されたオーガーは三機。少しでも装甲車に近づけまいと、MTのパイロットたちは果敢に戦った。レーザーと実弾が飛び交うが、その応酬も長くは続かなかった。

 

 最後まで粘っていた隊長機をレーザーキャノンの一撃で仕留めると、シェイプシフターは装甲車の方角へ悠々と向き直った。赤く発光するカメラアイが、護衛を失って丸裸となった三両のトーラスをひたりと睨め付ける。

 

 上ずった悲鳴を上げたのは誰だったのだろうか。

 

 ネスト規格中最高出力を誇るブレードが、先頭車両へと躊躇いなく振るわれた。

 

 強化アルミニウム製の車体が引き裂かれ、搭乗者の断末魔がオペレーターの鼓膜を震わせる。次いで、独特の発射音。男の後方にあった車両がレーザーの集中攻撃を受け、沈黙した。

 

 生き残っているのは男の搭乗する車両のみ。ただし、それも長くは続かないであろうことを皆悟っていた。

 

 レーザーの連射か、ブレードでの一撃か。どちらにしろ敵にこちらを生かすつもりはあるまい。

 

 誰もが生を諦めかけたその時である。オペレーターの一人が小さな、しかし紛れもない歓声を上げた。

 

「上方にACの反応あり。これは……ヴィクセンです!」

 

 地獄に仏とはこのことか。死の淵で希望を見出し、車内のスタッフの顔色が明るくなる。

 

 男も顔を綻ばせた。ヴィクセン。その名前には聞き覚えがあった。

 

 以前アンバークラウンの女レイヴンから襲撃を受けた際、本部から遣わされたのが件のACだった。搭乗者のスティンガーは大変な腕利きで、これまで何人ものレイヴンを撃破している。彼ならあの忌々しいシェイプシフターにも勝てるはずだ。

 

 ACの接近を察したのだろう。レーザーライフルを油断なく構えたまま、シェイプシフターは後方にブーストダッシュし、大きく距離を取った。その直後、天井の岩窟から一機のACが舞い降りる。

 

 薄闇の中に白い機影が浮かび上がった。レイヴンズ・ネストのものとは全く異なるクローム製のフレームに、左肩に取り付けられた蜂のエンブレム。間違いない。スティンガーが駆るヴィクセンだ。

 

「スティンガー、よく来てくれ──」

 

 

 

 

「罠を仕掛けておいてあっさり全滅とはな。使えない連中だ」

 

 

 

 冷え切った鋼を思わせる、冷徹な男の声が響く。

 

 間髪入れずに、ヴィクセンの右腕に装備されたレーザーライフルが火を噴いた。対ACを想定した高出力レーザーを立て続けに浴びて、装甲車が耐えられるはずもない。銀色の車体は無残にひしゃげ、物言わぬ鉄の塊へと変じた。

 

 駄目押しとばかりに、シールド状の左腕が振るわれる。先端に取り付けられた二条のプラズマトーチから、凝縮されたエネルギーが閃光となって放たれた。

 

(俺に一片たりとも情報を渡す気はない、ということか)

 

 エルシェ―は情報管理の徹底ぶりに舌を巻いた。

 

 情報を引き出すため、最も通信量の多かった中央の装甲車──おそらく指揮官が搭乗していたと思われる──は敢えて残しておいたのだが、どうやら無駄になってしまったらしい。ああまで徹底的に破壊されては、データの回収は絶望的だ。

 

(何はともあれ、まずはこいつをどうにかしなければ)

 

 HD-ONEのカメラ越しに、彼は敵機を見据えた。

 

 先ほど装甲車を葬り去ったブレード光波を見るに、ヴィクセンのパイロットが強化手術を受けていることは確実だ。強化人間、それも軽量機同士の戦いとなったとき、果たして狭まったロックサイトで敵を追い切れるだろうか。

 ……同類相手にレーザーライフルで戦った経験はないが、やるしかない。幸い、AC一機を倒すには充分な弾が残っているのだから。

 

 相手のわずかな挙動も見逃すまいと、彼が機体との接続率を引き上げ始めたその時である。不意に、ヴィクセンから通信が飛んできた。

 

「これは警告だ、シェイプシフター。今のうちに手を引け」

 

(警告?)

 

 これにはエルシェ―も面食らった。

 

 彼が知る限り、AC乗りとは須らく殺意に溢れた生き物だ。戦場で出会ったが最後、どちらかが斃れるまで戦うのが常である。

 

 それを、このヴィクセンのパイロットは警告に留めようというのだ。相手の思惑がまるで読めない。不気味なことこの上なかった。

 

 戦う必要がないと考えているのか。それとも戦うことができない理由があるのか。

 

 探りを入れたいが、下手に刺激すれば戦う羽目になる。装備が万全でない以上、戦闘を避けられるのならばそれに越したことはない。彼は慎重に口を開いた。

 

「……随分と都合の良い話だな。お前の任務は俺の排除だろう。」

 

 ヴィクセンのパイロットは鼻で笑ったようだった。

 

「警告に従うかどうかは貴様の勝手だ。だが──」

 

 コア背部からブースターの炎が膨れ上がる。

 

「貴様ごときがこのスティンガーに勝てるわけがない」

 

 鋼鉄製の巨体が軽々と宙に飛び上がった。エルシェ―は思わず目を瞠る。あれは下手な逆関節よりも高く跳んでいるのではないか。

 

 跳躍の勢いをそのままに空中でブーストを吹かすと、ヴィクセンは一気に上昇する。白い機影は徐々に小さくなり、アンバークラウンの闇の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日は失礼した。

 

 当方からの依頼が匿名という事を逆手にとられ、偽の依頼を出されたようだ。

 

 救出という任務は実在するが対象人物の所在は現在も調査中だ。

 

 判明次第、任務を依頼する。

 

 

 

 

 レイヴン専用の情報端末。メールボックスの一番上には、今やお馴染みとなった差出人不明のメールが届いていた。

 

(今更だが、俺はとんでもない案件に首を突っ込んでしまったのかもしれない)

 

 端末を閉じると、エルシェ―はこめかみに指を添え、軽くもみほぐした。

 

 ACは手に入れることは勿論、維持するにも金を喰う。ヴィクセンを始めとした高級ACを部隊単位で運用しようとすれば、一組織の資金力で賄うことは困難だ。これが意味するところは──

 

(俺が戦った組織は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 機体の提供に加えて、資金も二社から援助を受けているのだろう。そうであれば、あの豪勢な戦力も納得できる話だった。

 

 それにしても、と彼は疑問に思う。

 

 クロームとムラクモは地下世界を牛耳る二大企業だけあって、確かにスポンサーとしては申し分ない。だが二社の対立は深刻だ。どちらかに援助を申し込めば、もう一社からの支援は引き出せないと思うのだが。

 

 一旦思考を断ち切ると、エルシェ―はソファから立ち上がった。そろそろガレージでは整備班がシェイプシフターのメンテナンスを終えている頃だろう。

 

 依頼主の名前すら知らされていない現状、彼に事の全貌を知る術はない。それでも、事態が一武装組織を叩き潰すような単純なものではないことは察していた。

 

 当初の予想を超えて、アンバー・クラウンでの生活は長期化しつつある。アイザックシティに戻れるのはまだまだ先になりそうだった。

 

 

 

 

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