迷鳥   作:フェルニケ

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ヴィクセンは特に盾ブレが好きです。

初めてACPPをプレイしたときは、ストーリーをクリアしたらヴィクセン装備が手に入るものと勝手に思い込んでました。


(4)RENDEZVOUS

 

 調査中だった人物の所在が判明した。そこで正式に救出作戦を依頼したい。

 

 救出目標となる人物は、敵対組織の研究施設最深部に囚われている。

 

 電源システムを破壊し、セキュリティの混乱に乗じて目標を救出して欲しい。

 

 救出後、施設最上部にある輸送機を使用して脱出すること。

 

 

 

 

 

 

 通路の影からシェイプシフターの右腕部だけを突き出すと、エルシェ―はトリガーを引いた。

 

 ライフルの小気味好い銃声が三発。

 

 侵入者を感知して寄ってきたスコーピオンが、ピンポイント射撃を喰らって沈黙する。セキュリティメカの装甲はそう厚くない。速射型ライフルの連射に耐えられるはずもなかった。

 

 レーダーで敵影がないことを確認し、シェイプシフターは施設の奥へと歩を進めた。

 

 アンバー・クラウン下層部に作られたこの研究施設は、規模がかなり大きい。しかし、通路は軽く飛び上がれば天井にヘッドパーツをぶつけてしまうほど狭かった。

 

 こうも狭い場所となると、回避機動は著しく制限される。敵戦力の詳細が判明していない現状、軽量機を駆るエルシェ―は、慎重な立ち回りを強いられていた。

 

 幸い、通路に配置されているのは先ほどと同型のセキュリティメカばかりだ。この分なら、最深部に到達するまでAPを温存していけるだろう。

 

 数機目のスコーピオンを破壊すると、彼は無機質な灰色の扉に手をかけた。

 

 依頼主から送られてきたマップデータによれば、第一目標の発電システムはもう少し先にある。そのためには、もう幾つかゲートをくぐる必要があった。

 

 

 

 

 

 クローム製AC「ヴィクセン」のコクピットで、スティンガーは静かに時を待っていた。

 

 スクランブルにも関わらず、整備班は良い仕事をしてくれた。ジェネレーターは常と変わらぬ、規則的な唸りを上げている。

 

 現在彼が待機している場所は、地上から搬入した物資の保管スペースである。ACが動き回れる程度の広さは確保されているが、天井は低く、トップアタックは難しい。

 

 このような場所では武装の火力と機体の耐久力が物を言う。高威力のレーザー兵装と軽量級にしては頑丈な装甲を備えるヴィクセンには、お誂え向きの戦場と言えた。

 

『スティンガー、聞こえていますか』

 

 通信回線を通して語りかけてくる声がある。聞き覚えのある声だった。以前組まされた、あの男か。

 

『間もなく侵入者がそちらに到着します。いいですか、確実に仕留めてください』

 

(小煩い奴だ……)

 

 獲物を前にして手を抜くレイヴンがどこにいる。

 

 スティンガーは眉をしかめた。研究所の連中は、いちいち物言いがくどい。

 

 ネストに在籍していた頃の専属オペレーターが脳裏を過った。担当するレイヴンの気性も踏まえた上で的確なオペレートを行う、聡い女だった。

 

 彼女がいれば、機関のいけ好かないオペレーターに頼る羽目にはならなかっただろう。しかし、ないものねだりをしても仕方がない。死者が生き返ることはないのだから。

 

 青い瞳が炯々として正面上方に設けられたゲートを睨めつける。次第に大きくなるACのブースト音。敵はこちらに向かって迷うことなく突き進んでいるようだった。

 

 レーダーの反応と音の反響から、スティンガーはタイミングを計った。

 

 ──来たか。

 

 灰色のゲートが開かれ、ダークブルーの軽量二脚機が頭上に姿を現した。

 

 発砲はほぼ同時だった。ネスト規格の速射型ライフルとクローム製レーザーライフルが、互いの命を喰らわんと牙を剝く。

 

 地中の奥深くで、軽量級AC同士の死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 無機質な空間にブースト音が鳴り響く。

 

 近づいては離れ、離れてはまた近づく。シェイプシフターとヴィクセンの戦闘は、さながらフラメンコの舞踏のようだった。

 

 その命がけの舞踏の渦中に、エルシェ―は身を投じていた。

 

『どうやら警告は無駄だったようだな……!』

 

 外部スピーカーから発せられる、スティンガーの低い声。

 

 鋭い弧を描いてプラズマの刃が迫る。

 

 ブースターを小刻みに吹かし、すれ違いざま、シェイプシフターは敵機の側面へと抜けた。

 

 回避に成功。獲物を捕らえ損なった雌狐へ、対AC用徹甲弾を連続で叩き込む。

 

 コア背部の噴射口を狙って放たれた弾丸は、しかし僅かに逸れた。背後からの射撃を察知したヴィクセンが、着弾の寸前、機体を傾けたのだ。

 

 クローム製のフレームは頑丈に出来ている。多少コアが傷ついたところで、戦闘に影響はない。

 

 回頭を終えた瞬間、レーザーライフルの銃口がぴたりとシェイプシフターに向けられた。

 

 ヴィクセンが加速する。

 

 ライフル弾の迎撃を受けながらも、その勢いは止まらない。空中で機体を細かく切り返し、被弾を最小限に留めていた。

 

 攻撃と回避の高度な両立。並みのレイヴンにできる動きではない。アリーナの上位ランカーと同等か、それ以上の技量の持ち主だ。 

 

 近距離で浴びせられるレーザーの嵐。この距離で全て避けきることは困難と判断。大きく回避行動を取れば、ブレードの追撃に対応できない。

 

 致命傷となる箇所への直撃だけは避け、シェイプシフターは光弾の中を突っ走った。

 

 青い光条が防御スクリーンを貫通し、装甲を灼く。

 

(くそっ、思ったよりも威力が高い!)

 

 エルシェ―は顔をしかめる。APが随分持っていかれた。

 

 こちらもライフルを撃ち込んでいるが、敵ACの武装が強力すぎる。厄介なことに、パイロットの腕も良い。本来レーザー兵器は近距離での取り回しが難しい武装だが、それをものともせずぶち当ててくる。先ほどからシェイプシフターのロックオンアラートは鳴りっ放しだ。

 

 救出対象と接触できていない今、この男との戦闘を長引かせるわけにはいかない。それに、このまま撃ち合えばこちらはじり貧だ。

 

 彼は短期決戦を選択した。

 

 機体を捻る。左肩のWC-IR24を起動。

 

 長大な砲身が展開を終えるまでには、わずかながらの空白がある。その間隙をついて、ヴィクセンが飛び込んできた。

 

 左腕部先端に煌めく青い光。二条のプラズマトーチが、標的を切り裂かんと振り上げられる。

 

 ブレードホーミング特有の重低音を響かせ、凝縮されたエネルギーの刃がシェイプシフターの右肩口へと吸い込まれていく。

 

 突撃の勢いも加えた空中斬りだ。プラズマの剣は防御スクリーンごとコアを叩き切り、搭乗者を消し炭に変えるだろう。

 

 その脅威を理解していながら、エルシェ―は冷静な眼差しで迫りくる凶器を見つめていた。

 

 (──そうだ、お前が後退を選ぶわけがない)

 

 WC-IR24はグレネードの如き巨大な火球を放つ、レーザー兵装の中では異色の存在だ。この閉鎖空間で近距離から発射されれば、ヴィクセンの機動力を以てしても直撃は不可避である。

 

 スティンガーというパイロットは非常に攻撃的だ。彼ならば砲身の展開時間をつき、キャノンを撃たれる前に必ず勝負を決めにくるだろうと踏んでいた。

 

 故に、この流れは予測の範疇にある。

 

 振り下ろされるブレード。

 

 その発振源であるヴィクセンの左腕部目掛けて、エルシェ―はライフルを銃剣の如く突き出した。

 

『何っ!?』

 

 予想外の打撃を喰らって、白い装甲に覆われた左腕が跳ね上がった。

 

 機体が大きく傾ぐ。

 

 無防備な一瞬。

 

 その隙を見逃さず、シェイプシフターが動いた。

 

「すまんが、」トリガーを引き絞る。「先約があるんでな!」

 

 轟音。そして爆発。

 

 紅蓮の火球がヴィクセンを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 WG-RFM118の発射機構に異常発生。

 

 右腕関節部に損傷あり。

 

 エトセトラエトセトラ。首のコネクタを通して、シェイプシフターが負ったダメージが矢継ぎ早に送られてくる。

 

(こいつには随分と無理をさせてしまった)

 

 エルシェ―は苦笑いを浮かべた。

 

 今回の任務はあくまで対象者の救出。警護のレイヴンに時間を割いていては、最悪身柄を余所に移されてしまう可能性もあった。

 

 故に少々荒っぽい手段でケリをつけたが、その代償がこれである。

 

 帰投後の修理費を考えると頭が痛いが、仕方がない。必要経費と割り切るほかなかった。

 

(まあ、さすがに赤字にはならないだろう)

 

 敵の反応を感知。

 

 曲がり角から姿を現したスコーピオンに対して、シェイプシフターは左腕を振るうことで対処した。ジェネレーターのエネルギーが一点に凝縮される。LS-99-MOONLIGHTから青い閃光が放たれ、セキュリティメカを沈黙せしめた。

 

 発電システムを破壊したため、研究所内は非常電源が作動している。薄暗い通路の中で、非常灯の赤い光が不気味に揺らめいていた。

 

 システムダウンにより、研究所内のゲートロックは一時的に解除されている。今は自由に動き回れるが、復旧までそう長くかかるとは思えない。それまでに、何としても救出対象と接触する必要があるのだが──

 

「で、ターゲットは一体どこにいるんだ?」

 

 エルシェ―はほとほと困り果てていた。

 

 ターゲットとの連絡手段がない以上、こちらは「最深部に囚われている」という一文を頼りに捜索を行うほか手段がない。

 

 そこで片っ端からそれと思しき人物や手がかりがないか探っているのだが、今のところ収穫は皆無。こちらの通信回線に接触してくる者もなし。

 

(こちらの侵入を感知した時点で、身柄を移されたか?)

 

 マップデータに素早く目を走らせる。

 

 ここに来るまでの道中は徹底的に調べ上げた。となると、救出対象は施設上部にいる可能性が高い。

 

 上層へと通じるリフトに飛び乗ると、エルシェ―はスイッチを押した。

 

 シェイプシフターを乗せて、リフトは施設の最上層へとゆっくりと上がっていく。

 

 今はとにかく時間が惜しい。ある程度まで上昇したところでブースターを下方向に全開にし、シェイプシフターは床を蹴って舞い上がった。

 

 高出力ブースターが鋼鉄の巨体を一気に押し上げる。リフトの終着点を目指して飛んでいたエルシェ―は、機体のセンサーが拾った音に眉をピクリと上げた。

 

(機銃の発射音?それも複数だと?)

 

 音の軽さからすると、少なくともAC用マシンガンではない。

 

 更にブースト出力を引き上げる。

 

 最上層に到達。曲がりくねった通路を駆け抜け、最後のゲートを潜る。

 

 音の発信源に回頭したシェイプシフターのカメラアイに、三機の戦闘リグの姿が映った。

 

 先を走るリグ目掛けて、後方の二機が容赦なく機銃を浴びせかけている。パイロットは右に左に機体を振って何とか躱そうとしているが、この狭い空間では大した回避効果は見込めない。淡い桃色の装甲を銃弾が抉り、機体のあちこちから火花が散っている。

 

 その今にもスクラップにされそうなリグから飛び込んできた通信に、エルシェ―は目を見開いた。

 

 

『そこのAC、聞こえてるんでしょ?早く助けに来て!』

 

 

 ──この女か、依頼主の言っていた「救出目標」は!

 

 ヴィクセンとの交戦で速射型ライフルはおしゃかになっている。レーザーキャノンは爆発の範囲が広く、ターゲットを巻き込む恐れがあるため使用不可能。

 

 左腕のレーザーブレードを構え、シェイプシフターは後方のリグに斬りかかった。

 

 少々装甲は分厚かったが、攻撃に気を取られていた二機を切り刻むのは容易だった。

 

 敵が完全に沈黙したことを確認すると、エルシェ―は生き残ったリグに外部スピーカーで声をかけた。

 

「救出依頼を受けて来た者だ。あんたがターゲットか」

 

『ええ、私がそうよ。助かったわ。あなたが例の──』

 

 リグの主がなおも言葉を続けようとしたときである。その声に覆いかぶさるようにして、突如館内放送が響き渡った。

 

『発電システムの回復を確認。全システム再起動』

 

 赤い非常灯が搔き消えた。数瞬の沈黙の後、入れ替わりに白い照明が点灯し、通路が明るい光に包まれる。

 

(もう立ち直ったのか)

 

 さすがに速い。彼は内心で舌打ちした。

 

 施設のシステムが復活したとなると、ここにも増援が送られてくるだろう。

 

『悪いけれど、自己紹介は後ね。今は脱出を急ぎましょう』

 

 輸送機の待つフロアを目指して、彼らは全速力で走りだした。

 

 見るも無残な姿になっているリグだが、動力系は守り切っていたようだ。シェイプシフターの動きにも問題なく付いてきている。

 

 長い通路を駆け抜けた先に、最後のリフトに通じるゲートが見えてきた。

 

 二機が金属製の床に飛び乗り、リフトがゆっくりと上昇を開始したときである。シェイプシフターの頭部コンピューターが、敵側の通信を傍受した。

 

『エレベータ内に侵入者と被験者を発見。これよりカタパルトのメインハッチを封鎖する。作業員は一分以内に退去せよ』

 

「奴ら、こちらに気づいたらしい」レーダーで上方の様子を探りながら、エルシェ―は淡々と伝えた。「一分でカタパルトのハッチを閉じる気だ」

 

『一分ならギリギリ間に合いそうね。敵の数は?』

 

「レーダーで確認できたのは三機。俺が相手をする」

 

 ようやくリフトが最上階に辿り着いた。

 

 シェイプシフターが先行し、輸送機の待つ格納庫へと通じるゲートを起動する。

 

 扉が開くなり、左方向から射撃が飛んできた。

 

(おっと)

 

 格納庫に飛び出したエルシェ―は、右に左にブーストを吹かす。機体がゆらゆらと不規則な軌道を描き、機銃弾はシェイプシフターの防御スクリーンを掠めて飛び去って行った。

 

 ヘッドパーツを巡らせた先には、ACを数機格納できそうな大型輸送機。これが依頼主の指定した脱出手段で間違いないだろう。

 

 その傍らでこちらを睨みつける四脚の無人MTの姿を認め、彼は眉を吊り上げた。

 

(ナースホルンか)

 

 手負いとはいえ、ACが遅れを取る相手ではない。

 

 問題は奴が持つガトリング砲にある。交戦が長引き、あの弾が輸送機のエンジンに掠りでもしたら厄介だ。研究所から逃げ出す手段を失い、彼らは敵陣に取り残される。

 

 ここでは爆風をまき散らすレーザーキャノンは使えない。展開していた砲身を折り畳み、シェイプシフターが突貫した。

 

(残り時間40秒)

 

 先頭の一機をブレード光波で瞬時に引き裂く。

 

 俊敏な動きでガトリングの嵐を躱し、鋼鉄の巨体が次の標的に躍りかかった。落下の勢いも乗せて、光の刃を深々と喰い込ませる。素早くブレードを引き抜くと、最後のナースホルンを袈裟懸けに切り裂いた。

 

「敵は全て片付けた。もう出ても大丈夫だ」

 

 救出対象に向けて通信を送る。

 

 半壊したリグの扉が開き、中から女が飛び出してきた。淡い色の検査服はところどころ血が滲んでいるが、その動きは驚くほど軽快だ。あの猛攻を受けて軽傷で済むとは、恐るべき強運の持ち主である。

 

 コクピットに繋がるタラップを駆け上がりながら、女が言った。

 

『操縦は私がやるわ。あなたは今のうちにACを固定しておいて!』

 

 エルシェ―は機体を輸送機の後部ハッチへと滑り込ませた。

 

 複数のACの運用を想定していたらしく、AC用の拘束具が壁の両側に取り付けられている。そのうちの一つを使ってシェイプシフターをしっかり固定すると、彼はコクピットに呼びかけた。

 

「固定完了、出してくれ!」

 

 エンジンの唸りが大きくなる。振動が暫し続いた後、体を襲う浮遊感に、彼は輸送機が無事飛び立ったことを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 コクピットブロックのハッチを開き、エルシェ―は愛機から滑り降りた。

 

 金属製の床を叩くコンバットブーツの硬質な音。一歩一歩踏みしめるようにして、ゆっくりと歩を進める。

 

 カーゴルームから大地に降り立った彼の目を、陽光が灼いた。

 

 研究所から脱出に成功し、飛行すること数時間。汚染された海を渡り、彼らは大破壊以前に造られた旧軍事施設の滑走路に着陸していた。

 

 ヘルメットのバイザー越しにも感じられる強烈な眩しさに、エルシェ―は思わず目を細めた。これが地上の日光か。噂には聞いていたが、なるほど、人が住めないわけだ。

 

 光を遮るために手を翳す。逆光でよく見えないが、脳に埋め込まれたレーダーはもう一人の生体反応を捕捉していた。

 

「お疲れ様、レイヴン」溌剌とした声が頭上から降ってくる。数時間前に彼が助け出したターゲットだ。

 

「ああ。あんたの操縦も見事だった」

 

 ようやく外界の光に慣れてきた目が、機上に佇む人影をはっきりと捉えた。

 

 荒野を吹きすさぶ風に栗色の髪をなびかせ、女はタラップを降りて来た。血で汚れた検査服の代わりに、フライトジャケットを着込んでいる。恐らく機内で調達したものだろう。

 

 エルシェ―の眼前までやって来ると、彼女はにっこりと笑って言った。

 

「自己紹介が遅れたわね。私はスミカ・ユーティライネン。アンバークラウンのレイヴンよ。助けてくれてありがとう」

 

 ストレートな感謝の言葉を耳にして、彼は目を瞬かせた。とても同じレイヴンとは思えぬ、人情味あるセリフである。

 

 単独での任務遂行を常とする彼だが、クライアントの意向で何度か他の同業者と組んだことがある。しかし、スミカのような初対面から親しく声をかけてくるタイプにはついぞお目にかかったことがなかった。

 

 受けた依頼によって敵味方がころころ入れ替わるため、レイヴン同士の友好関係は長続きしない。それが互いに分かりきっているから、同業者との付き合いは至極ドライなものになる。わざわざ面と向かって礼を言ってくるような物好きなど、彼の周りには皆無だった。

 

 ACだけでなく飛行機を操縦できる点といい、つくづく変わった奴である。戸惑いながらも、彼は名乗りを返した。

 

「……エルシェ―だ。ところでスミカ、今後のことなんだが──」

 

 軽く首肯して、スミカは懐から情報端末を取り出した。エルシェ―の所持している、ネストからの支給品とは異なるデザインのものだ。

 

「さっき届いたメールよ。あなたのところにも来てるでしょう?」

 

 

To:Sumika Juutilainen

From:unknown

 

 研究所からの脱出を確認した。

 

 引き続き任務を依頼する。

 

 追って連絡するまで、こちらの手配したレイヴンとアンバークラウン周辺にて待機すること。

 

 

 

To: Első

From:unknown

 

 目標の救出を確認した。

 

 引き続き任務を依頼する。

 

 追って連絡するまで、救出したレイヴンとアンバークラウン周辺にて待機すること。

 

 

 多少の違いはあれど、メール文にはほぼ同じ内容が記されていた。

 

「つまり、これからはあんたとの協働任務になるわけだな」

 

 改めて口に出すと、任務の奇異さが身に染みる。二人は顔を見合わせた。

 

 長期任務の途中で他のレイヴンと合流するパターンは非常に稀だ。だがそれが依頼主の希望であり、既に金が振り込まれている以上、従うほかなかった。

 

「なんだか妙なことになってきたけれど」端末を懐にしまい、スミカが手を差し出した。「これからよろしくね、エルシェ―」

 

 

 

 

 アイザックシティのランカーとアンバークラウンの腕利きフリーランス。

 

 戦闘特化型と後方支援特化型。

 

 強化人間と真人間。

 

 匿名の依頼人に引き合わされ、何もかもが異なる二人のレイヴンは、こうして手を組むことになったのであった。

 

 

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