妄想投棄場   作:妄想投棄場

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タキオンがダスカとトレーナーの子守をする話。


モルモット君とスカーレット君に若返りの薬を飲ませてしまった。

 今日は実験室で細胞を復元、複製の促進を底上げする作用を持つ薬の実験を行っていた。

 最終的な到達地点は任意で肉体の年齢を操作することが出来るようにすること。つまり、人によっては若返り薬とでも呼称される代物になる系統の実験を行っていた。

 実験自体はパブリックで有用性を示すことに繋がることを想定しているため、いくらアグネスタキオンの研究概要書と言えども、職員は認めざるを得なかったようだ。

 主目的である実験は順調だった。順調すぎた、想定をはるかに超えた結果を私は叩き出してしまったのだ。

 

「タキオン、だっこー」

「あ、ずるいアタシがさきにだっこしてもらう!」

「痛たたた、モルモット君! スカーレット君! 私は一人しかいないんだ。そんなに引っ張るのは止めたまえ」

「「……ごめん、なさい」」

「はぁ~~~~(クソデカため息)……ケンカしない、私の言うことを聞くという二つが守れるかい?」

「「わぁぁ……うん!」」

 

 そう言うと、モルモット君とスカーレット君は私の元に遠慮なく飛び込んできた。

 年長組程度の体格だったからいいものの、元の大きさだったらどうなっていたか分からないね、全く。

 

 元の大きさだったら、危なかった。

 つまりは、そういうことなのだ。

 私はいつものようにモルモット君の紅茶に入れて効果を検証しようとした。しかし、どういう訳かスカーレット君が先に私の元に来てしまったため、その紅茶を出さざるを得なかった。すぐさまスカーレット君に効果が出てしまった私は、驚きのあまり、急いでやって来たモルモット君にも間髪入れずに残った紅茶を飲ませてしまったのだ。 

 その結果がこれだ。

 偉大なる野望のための犠牲がまた二つ転がってしまった。

 とりあえず、今回は試験的に作ったのもので、一時間程度で効果が切れる調整を行っているためそこまで不安はない。

 しかし、ここまで幼くなるとは思っていなかった。いささか子どもというのはよく分からないので少しばかり骨が折れそうなのが目下私にとっての悩みの種である。

 

「タキオン、タキオン」

 

 小さくなってしまったモルモット君は、私の白衣の左袖を掴み、耳打ちをしてくる。

 

「ボクが大人になったらお嫁さんになってくれる?」

「ずるい! タキオンさんはアタシのお嫁さんになるんだもん」

 

 う~~~~ん?

 好感度を上げる成分なんてのは知らないんだがね。というか、二人とも勝手気ままに私の袖を引っ張るので、白衣が伸びきってしまいそうだ。

 

「ええい! 全く、子どもと言うのは本当に面倒だね。私の気持ちというものは一切考慮してないのかい!?」

「タキオンはボクのこと好きだもん」

「タキオンさんはアタシの方が大好きだもん!」

「ボク!」

「アタシ!」

「ボク!!」

「アタシ!!」

 

「ケンカしない、と私は言ったはずだが?」

 

 二人のケンカする声は私には少々うるさすぎた。徹夜あけの頭に子ども二人の声は虫の居所を悪くさせるには十分すぎる。少しばかり語気が強くなるのを自覚しながら二人に注意するとすぐに沈黙が訪れる。

 うんうん、これぐらい、静かな方が私には居心地がいい。

 まあ、二人に罪はないが、こればっかりはしょうがない。大義のために犠牲はつきものさ。

 

「うぅ……」

「うぅ……」

 

 …………まあ、私が気にするところではないだろう。

 良心の呵責がないとは言わないが、私よりももっと二人の面倒を見られる適任者がいるのは間違いない。

 二人にとってもそっちの方がいいだろう。

 

「ああ、すまなかった。強い言葉を使ってしまって悪かったね。私よりも優しくて面倒を見てくれる人材を見繕ってこよう、その方が君たちもいいだろう」

 

 そう言うと、私は二人を抱いていた腕を放して、連絡を取るために立ち上がる。

――デジタル君、は後々面倒になりそうだな。となると、まあカフェかな。

 

「グェッ」

 

 そんなことを考えながら歩いていた私の体が後ろに引かれる。

 

「いっちゃだめ!」

「アタシたちいい子にするからいかないで!!」

 

 どうやら私の白衣を二人が握りしめていたみたいだった。

 少しばかり待ってみるが、一向に手離す様子は見られない。二人も私の視線に気づいたようで、涙を目に浮べながら真剣な表情を浮かべている。

――こんな小さい頃から本質は変わっていない、と言ったところだろうか。

 学園内で何度か目にした表情にそっくりだった。それこそ、死に物狂いになっている時にしていた瞳だ。彼らの言葉に嘘はないのだろう。まあ、その事実が私にとって関係あるかと言われればそんなことはないが。

 

「「じーっ」」

「……」

「「じーっ」」

「…………これが最後だということを努々忘れないでくれたまえよ」

「「やったー」」

 

 はぁ~~~~、子どもは嫌いなんだけれどね。どうしてか、ついつい私の方が道を譲ってしまっている。本来なら全くもって考えられないことだ。

 

「まあ、いいか」

「「???」」

 

 ぼんやりしていた私の口からぽつりと言葉が漏れてしまった。二人は不思議そうな顔を浮かべていたが、段々と、顔がしおれてしまっていく。

 

「「タキオン(さん)、おなかすいた」」

 

 二人ともお腹に手を当てて切なそうに私に訴えてくる。私としては徹夜一日目なのであまり空腹を感じてはいないが、このまま我慢しろというのも、ケンカを誘発する因子になるのは明白だ。ならば、やることは一つだろう。

 

「ふむ、では食事をするとしようか。……カフェテラスまで少し距離はあるけれど問題はないかな?」

「「だっこ!!」」

「はぁぁぁぁぁ? 何を言っているんだい?」

「「ううううう」」

「ああ、もう! いいだろう! 君たち、この私にここまでさせるんだ覚悟しておきたまえよ」

「「はーい!」」

 

 そんな脅しも虚しく、気づけば私は両腕に二人を抱えながらカフェテリアの方に歩いていた。

 そこまでの道のりではないが、二人を抱えて歩くというのは思いのほか心的ストレスがかかるね。気疲れのせいか、足取りが重くなっていく私に一人のウマ娘が声をかけてきた。

 

「タキオンさんが子どもを? まさか、隠し子」

 

 馴染みのある声に私は勢いよく振り向くと、そこには見慣れた青鹿毛のウマ娘が私を見て立ち尽くしていた。

 

「おや、おやおやおやおや。これはこれは、カフェじゃないか。奇遇だね」

「カフェだ!」

「カフェさん! タキオンさんと仲良しさん!」

「???……タキオンさんのトレーナーさんと、スカーレットさんの子ども?」

「いやー、私もここまでの不義理はしたくはなかったのだけれど、二人からどうしてもとせがまれてねえ!」

「いえ、それは無理がありすぎると思いますが。今度は何をしたんですか?」

「……まあ、話せば長くなるがね、若返りの」

「委細把握しました。いつものですね」

「ああ、そうさ! だからこそ、君も道連れになるんだよ、いつも通りねぇ!」

「やっぱり、タキオン。カフェと喋ってるとき楽しそう」

「タキオンさんはカフェさんのお嫁さんなの?」

「どうして、君たちはすぐに伴侶の話になるんだろうね!?」

「だって、アタシがタキオンさんと結婚するから!」

「お嫁さんにするのはボク!」

「アタシ!」

「ああ、もう!……まったく、惚れ薬なんて作った覚えはないんだけどね」

「いえ、これは自然な流れかと」

「おいおい、カフェ。君まで何を言い出すんだい」

「いえ、お二人のタキオンさんに対する気持ちは、紛れもない本物だろうな、と」

 

 口元に手を当てながら、カフェはそう言って微笑んだ。彼女は時折理解不能なことを言い出す。今回もそうなのだろう。まあ、気にするほどのことでもない。

 

「これから、タキオンさんたちはどこへ?」

「カフェテリアさ。この子たちはお腹が空いているようでね、空腹を満たしに行こうってわけさ」

「お腹ペコペコ」

「私、甘いのがいい」

「ふむ、タキオンさんの言う通り私も着いていきましょう」

「いいのかい、こういってはなんだが、貧乏くじを任せているようなものだ」

「ええ、構いません。困っているあなたが見られるだけで、おつりが返ってくるほどです」

「いい性格してるじゃないか、君」

「これに懲りたら、いえ、すいません。無理なことを言うべきではありませんでした」

「ああ、わかった! 混乱に乗じて反逆しようというんだね、いいだろう、受けてたとうじゃないか」

「なんか食べたいー」

「甘いものー」

「こちらばかりお話してすいません。……お二人はパンケーキはご存知でしょうか?」

「「???」」

「カフェテリアにあるパンケーキは出来立てのふわふわトロトロで一かけらのバターにたっぷりのハチミツとあまいアイスが載った、とっても美味しい食べ物です」

「うわぁ」

「お、美味しそう」

「ええ、私がご馳走しましょう。ですので、いい子にして、いられるでしょうか?」

「「うん!!!」」

 

 私が抱いている二人に目線を合わせながら、カフェが提案する。二人は目を輝かせながら元気をよい返事をしていた。私が聞いた時よりもいい返事をしているな、二人とも。

 

「やはり、ベビーシッターをするならば、私よりも君の方がよっぽど適性があるじゃないか」

「子どもが苦手なタキオンさんには難しいでしょうね」

 

 歩みを進めながらカフェを揶揄すると、彼女は笑いながら受け流す。

 そして、私の方を向いて言い放った。

 

「しかし、お二人が求めているのはベビーシッターではなく、あなたの愛、ですので」

「は?」

「いえ、なんでもありません」

 

 それ以上カフェが何かを言うことはなかった。二人も黙ってカフェテリアでの食事を期待しているようで、先ほどまでとは比べものにならないほどの足取りで、スムーズにカフェテリアに向かうことができた。

 

「フワフワ!」

「トロトロ!」

「冷たい!」

「甘い!」

「満足いただけてなによりです」

「ああ、普段はこんな食事など非効率だが、ここまで快楽と糖分を摂取できるのは食事の素晴らしいところだと言わざるを得ないね」

「タキオン、おすそわけ!」

「あ、アタシもあげる!」

「ええい! 君たちは自分の空腹をみたしたまえ」

「大人気ですね、タキオンさん」

「君のその態度は心底私の癪に障るがね」

 

 ここぞとばかりに私に対してグチグチといってくるカフェにあらん限りの嫌味を言ってやりたいが、それ以上にモルモット君とスカーレット君の猛攻がすさまじい。二人とも口元に食べかすがべっとりついているから、拭おうものなら、競うようにもう一人も要求してくる。

 子育てなんていうのは知らないが、こんな短い時間でも精神的ストレスがすさまじい。親、という存在に対する認識を少し改めなければいけない。なんてことを考えていたらカフェが口を開く。

 

「お二人はタキオンさんのことが好きですか?」

「「好き!!!」」

「では、どういう所が?」

「いっしょうけんめいで、どりょくかで」

「べんきょうも教えてくれて、いっつもしんせつで」

 

 それは本当に私なのだろうか、というか今の二人にそんな姿を見せた記憶はないが。

 

「誰よりも速く走れるし、誰が相手でも絶対に諦めない」

「私がお父さんやお母さんと同じぐらい尊敬できる憧れ」

 

「「それが俺(私)の大好きなアグネスタキオンだ(よ)」」

 

 言葉を紡いでいくうちに、二人の声音が大人びたものに変わっていった。カフェテリアで座っている子ども用の椅子では支えきれなくなり、つま先で立つような姿勢を求められる。

 どこまで、二人に記憶があるのかは分からない。しかし、二人の表情はみるみるうちに赤くなっていく。

 

「こ、これはその」

「あははは、いや、なんで、アタシあんなことを……」

「…………まあ、その、なんだすまなかったね。君たち」

「いや、いいんだよ。タキオン」

「大丈夫です、気にしないでください! 何を気にしないのかよくわかんないけど」

「ふふふ、タキオンさん。顔、真っ赤ですね。満更でもないのではないでしょうか」

「よーし、わかったよ、カフェ。次は君が犠牲になりたいとそう志願しているわけだ。そうだろう!?」

「真っ赤にして言われましても、説得力がありませんが」

 

 私が体を動かすやいなや、カフェは既に駆け出していた。正直、この場所にいるのに耐えられなくなった私としては好都合だった。こんな人目につく場所で大立ち回りをすれば、さすがの私でも少々面倒な後処理をしなければいけなくなる。

 だから、私は駆けだした。少しだけ体温が上がってしまったのも、心拍数が多くなっているのもカフェへの興奮によるものに違いないだろう。

 細かいことは彼女への報復が済んだ後にしよう。

 

 ああ、だが、しかし。

 先ほどの感情の揺れについてはレポートに記録しておく必要があるかもしれないな。

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