妄想投棄場   作:妄想投棄場

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人妻ナリタタイシン概念です。


わたしのママはナリタタイシンと言います

『私の名前はリタです。小学二年生です。今年で5歳になるタイシという弟がいます』

 

『私たちのママはナリタタイシンと言います。パパの名前は弟と同じタイシです』

 

『私たちの名前は、ママとパパの名前からとっているそうです』

 

『私たちはママとパパが望んで生まれて来てくれた宝物だから、しっかりとわかるようにママとパパの名前をつけたそうです』

 

『私はこの名前が大好きです。ママとパパの所に生まれてよかったって思います』

 

『そんな幸せな私の毎日を皆さんにお見せしたいと思います』

 

 

「……よし、出来た」

 

 外はお日様が元気に笑っています。

 元気すぎて外に出れば私たちは溶けてしまいそうなほど暑いです。

 だから、私はクーラーの入ったお家で宿題をやることにしました。

 そして、私は大きな一歩を踏み出しました。

 

「宿題してんだ。偉いね、リタ」

 

 ご飯を食べるテーブルで宿題をしているとママが話しかけてきました。

 ママは私と同じ栗毛の髪で青い目をしています。吸い込まれそうなほど綺麗な青い目を見ながら説明します。

 

「パパが約束してくれたの。ちゃんと毎日宿題できたら、水族館でパフェを食べようって」

 

「ほんと、やる気上げるの上手いな。アイツ」

 

「だから今日の算数プリントと漢字プリントは終わらせたよ」

 

「アンタはチョロすぎるじゃん」

 

「だから、今は今日の分の日記帳を書いてたよ」

 

「へー……見せてよ」

 

「いや」

 

「は?」

 

「ぼくがえがいたのはじょしょう、ぷろろーぐに過ぎないからね」

 

 私は、ママに胸を向かって宣言しました。

 テレビで見たドラマ『世紀末覇王伝』の主人公テイエムオペラオーさんのセリフです。

 すごくカッコよかったので、私も使いたくなりました。

 

「……リタ、序章って何だと思う?」

 

「???……ママ、私はまだ小学二年生だよ?」

 

「知らないで使うな、おバカ」

 

「いた」

 

 デコピンをされました。ママはよくデコピンをします。すごく痛いです。

 パパと一緒におでこを真っ赤にしたことが何度もあります。

 

「まあ、いいや。今日の分はできてないだろうし、明日にでもアタシが見てあげる」

 

「私は見て欲しいなんていってないけど」

 

「あ?」

 

「ちょうどママに見て欲しかったところなんだ」

 

「だよね」

 

 パパはママのこういう所を「ぼうくん」って言います。ママは女の子なのにどうして“くん”ってつけるんだろうって思ってます。説明してくれたけどよく覚えていません。

 「ぼうくん」のママはママの言うことを聞かせた後は、すごく嬉しそうに笑います。

 私もドキドキするくらい綺麗な笑顔です。

 

「全くママはそうやって自分のいけんをおしとおすんだから……『タイシンの笑顔がかわいいから結局許しちゃうんだけどさ』」

 

 やれやれと言った感じでパパみたいに肩を落としながら、はあってため息をつきます。

 

「リタ、アンタ……命が惜しくないんだね」

 

 ぽきぽきという音が聞こえます。

 ママの顔を見るとすごく顔を真っ赤にしながら拳を指を鳴らしていました。

 

「パパがそういうことを言ったらどうなるかアンタもよく見てるよね」

 

 ママはすごく顔を真っ赤にしながら、にっこりと笑顔で私に話しかけてきます。

 とってもきれいな顔のはずなのに私はすごく怖いです。

 耳はぴたって閉じて、尻尾もひゅって体にくっつけます。

 逃げ場はありません。パパはいっつもこんな感じだったんだなって、今日わかりました。

 そしてパパはいっつも最後は言い訳をやめます。だから、私はパパがあきらめた時に遺す言葉を同じように言いました。

 

「『俺の愛バは凶暴だもんな』」

 

「ぶっ飛ばす!」

 

 顔や口をいっぱいつねられました。

 余計なことばっかりいうお口にはお仕置きをしないといけないらしいです。

 先生やクラスの子はそんなこと誰も教えてくれませんでした。

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ全部お皿を洗ってね」

 

「こんなに洗い物多くしちゃって、洗うやつの身にもなれ!」

 

「うるっさい、ささっとしな」

 

「はい」

 

 お昼ご飯を食べた後、私はテレビを見ようとしたらママからお手伝いをしなさいと言われました。

 余計なことを言うくらい時間に暇があるんだったら、手を動かすことに使えと言ってきたのです。

 今日のお昼は私もタイシも大好きなそうめんでした。

 だから、そうめんをしゃぶしゃぶする冷たいお水が入ったおっきなお皿と、麺を入れるざると、おつゆを入れる小皿で、結構な洗い物の量でした。

 小学二年生にやらせるのかと思って、パパが張り切って料理した後ママがよくいうセリフを口にするとデコピンをされました。

 デコピンが痛いので、私は黙って洗い物をします。

 キッチンは私にはまだ高くて、ギリギリ頭が出るくらいです。

 だから、ママは私が作業しやすいように踏む台を用意してくれました。

 その台はすごく丈夫だけど結構錆びついていました。そして、私が洗い物をするのにすごくちょうどいい高さにしてくれました。

 

「シンクの中にあるスポンジはシンクを洗う用だから、吸盤でついた上の方のスポンジを使って。あと、ピンクは油用だから、今回は黄色のスポンジね。洗剤は軽く押して出てくる分だけでいいから」

 

「こんなにスポンジがあってなんの意味が……」

 

「親子って疑問を持つ場所も似るのか」

 

 ママは何やら頭を抱えているようでした。

 

「汚れは上から下に落ちてくるから、下は汚れが溜まりやすい。だから、上は綺麗なもので下は汚いものを置くっていうのが家事の基本ね。油は綺麗にしても思ったよりもヌルヌルが取れないから、それ用を作ってたほうがいいんだよ」

 

「なるほど」

 

「先に全部を水でじゃじゃっと流して。洗剤は濡れてないと泡立たないし、汚れも水で多少は浮くからそっちのが手早く出来るの」

 

「ママ」

 

「ん?」

 

 私は洗い物を水で流しながらママに聞きます。

 

「ママはいつもこんなことを考えながらお家のことをしてるの」

 

「はぁー……やっと気づいた?」

 

「先生も友達も教えてくれなかったよ」

 

「そうだよね」

 

 ママはちょっとだけ寂しそうに笑っていました。

 

「こんなの学校じゃ教えてくれない。教えてくれるのは親くらいだ」

 

 ママは、お水がざーっと流れているのを頬杖を突きながら眺めていました。 

 

「親も教えてくれないなら自分でやるまで気づかないんだろうな」

 

「ママはどうだったの」

 

「あー……」

 

 ママはいつものようなハキハキした感じがなくなっていました。

 なんとなく、あんまり聞いちゃいけないような気がして私は洗剤をちょびっとつけて洗い物をし始めました。

 

「ママのお話はあとで聞きますね。私は洗い物をしなきゃいけないのでそっちを先にします」

 

「……おチビのくせになまいきだ」

 

「ママこれでいい?」

 

 洗いながらママにやり方を聞きます。

 

「ん、そう。早くしようって思わなくていいから。スポンジ全体を押し付けて、拭き残しがないように面で洗う」

 

「ほうほう」

 

「うまいじゃん……そうめんをといたお皿みたいに底が深いヤツは思った以上に隅っこのよごれが落ちにくいから丁寧にね」

 

 

 私はママに教えられたとおりに洗い物をこなしていると終わりが見えてきました。

 

「ふふーん、私はえらい子なのでこのくらい簡単だね」

 

「じゃあ、夏休みの間は洗い物のお手伝いはリタに任せようかな」

 

「それはそれ! これはこれ!」

 

「アンタってヤツは……」

 

 ママはまた頭を抱えていました。

 

「リタねえちゃん、終わった!?」

 

「わ、わわわわ」

 

 グラグラしています。地震みたいに床が揺れてます。

 

「こら、タイシ!!! 台を揺らしたらケガするでしょ!」

 

「だって、ねえちゃんが遊んでくれるって言ったのに、ずっとお手伝いしてるし!」

 

 地震じゃなくて弟のタイシが私の台を揺らしてたみたいでした。

 タイシの耳は横からついていて、黒い髪です。パパの小さいころにそっくりだそうです。

 

「じゃあ、アンタもお手伝いしなさい!!!」

 

「やだ! まだライオン組だからそんなのできない!」

 

「アンタもか……家事に年齢なんか関係ないでしょ!」

 

 やれやれ、ウチの家族は騒がしいなあと、私はパパみたいに肩を竦めました。

 さっきママに言われた通り、食器を食洗器に入れて乾燥させはじめました。二人はまだ言い合いをしているようだったので私はこっそりとその場から離れてテレビを見ます。

 録画していた『世紀末覇王伝』を再生しようとしました。

 

「リタねえちゃん、ママがイジメる~!!!」

 

「聞き分けのない子はしつけしないとわかんないでしょうが」

 

 タイシが私の背中に抱き着いてきて助けを求めます。

 ママは、動物さんのように威嚇しています。

 

「やれやれ」

 

 タイシは助けを求めてきます。

 こういうところを見ると本当にタイシはおこちゃまだなって思います。

 こうなったママからは誰も逃げられません。

 私が言う言葉は一つです。

 

「『俺の愛バは凶暴だもんな』」

 

「ぶっ飛ばす!」

 

 

 

 

 

 気づけば私たちはお昼寝をしていました。

 ママを真ん中にして川の字で寝ているのです。

 小学二年生にもなったので、お昼寝は卒業しています。

 でもタイシは一緒に寝ないとぐずるので私も一緒に寝てあげます。お姉ちゃんだからです。

 ママが私たちにポンポンとするせいで少し目が重たいです。

 

「リタ、寝た?」

 

 ママの声が聞こえました。

 ちょっと瞼が重たいので、姿は見えません

 

「起きてる……よ……」

 

「眼が空いてないけど」

 

「うん……なんか……重たい」

 

「そっか」

 

 ママはくすくす笑っていました。

 質問に答えたのに笑うなんてバカにされてます。

 

「わらわ……ない……でよ」

 

「ごめんごめん」

 

「な……に……?」

 

「さっき言ってたでしょ。ママが誰から家事を教えてもらったかって」

 

「んぁ?……う……ん……」

 

 ???

 そう言えばそんな話だったような

 

「ママはね、ほとんど教えてもらわなかったよ。ちょっとは教えてもらったかもしれない。でも、そんなに記憶にあるくらいママのママとパパは家にいなかった」

 

「ばあば?……じいじ?」

 

「そうそ。今となっちゃアンタらにお熱だけど、あの人たちは共働きだったからアタシが小さいときはアタシはずっと一人だった」

 

「ん…………」

 

「だから見様見真似でやって、いっぱい失敗してきた。普通だったら考えられないってこともミスしたと思う。たぶん、親から教えてもらってたらそんなことはなかったんだろうね」

 

「ん……ん……」

 

 むつかしい話だ

 

「じいじもばあばもアタシのために必死だった。親になった今だからそれはわかるよ。でも、やっぱり、子どもからしたらそんなのわかりっこない」

 

「ん……」

 

「アタシは寂しかったよ。独りぼっちは嫌だった。誰も見てくれないのは辛かった」

 

「……ママ」

 

「フフ……どうしたの、おチビちゃん」

 

「私は……さみしくないよ」

 

「っっ!」

 

「ママも……タイシも……いる。お休みには……パパもいる」

 

「うん……うん……」

 

「ママみたいに、なんでもお家のことしたい」

 

「そう」

 

「だから……私が……できるようになるまで……ママ……教えて」

 

「ばーか」

 

「?……いやだった?」

 

「嫌だって、もうやりたくないって言っても、教えるに決まってんでしょ。おバカ」

 

 眼が全然あきません。

 でも、ママはぎゅって抱きしめてくれた。あったかい。それだけはわかりました。

 

「リタも、タイシも絶対に一人にさせないよ。パパとママの大事な宝物だ」

 

 すっごく、あったかいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼寝も住んでお夕飯の支度をしています。

 今日は! なんと! カレーです!

 ママがそう言ってくれました。だから、私もいっぱいお手伝いをします。

 

「リタにしてほしいことは二つね。一つ、野菜を洗う。二つ、じゃがいもと人参をピーラーで剥く。できる?」

 

「はい、できます!」

 

「よろしい」

 

 タイシはおこちゃまなので、テレビを見ています。夕方の時間はすごく面白いテレビがいっぱいだけど、私はカレーのために我慢します。

 

「そういえば、ママ」

 

「なに」

 

「私が使ってるこの台だけ錆びてるくない? 新しいものにした方がよくない?」

 

「急に口調変えるの気持ち悪いから止めな」

 

「はい」

 

 デコピンされたので止めます。

 

「リタが使ってるその台はね、ママが小さいころから使ってたやつなの」

 

「ほう」

 

「じいじもばあばもお仕事でおうちのことができないとき……ほとんど毎日だったけど。そんな時はママが家のことをしてた。その時のママはリタくらいチビッ子だったから、その台を使ってたの」

 

「じゃあ、ママもずっと踏み続けてきたんだ」

 

「そうじゃない! そうだけど……まあ、なんていうの、ママにとってのもう一人のママみたいな?」

 

「私にとって……三番目のばあば!」

 

「うーん……そうかな、そうかも」

 

 今のママの微妙な反応を私は知っています。

 パパが言っていました。考えるのを止めた人の返事ってやつです。

 

「じゃあ、私とタイシは生まれる前から三番目のばあばに見守ってもらってたんだ」

 

「うん……そうだよ」

 

「じゃあ、捨てらんないや。私、ばあばが使い物にならなくなるまで大事にするね」

 

「それはそうなんだけどさあ……アンタ、もうちょい言葉を選びなよ」

 

 小学二年生になって初めて知りました。私にはばあばが三人いたのです。今度、友達と遊ぶときに自慢しよう。

 

「ほんと、手際良いね。アンタ」

 

「?……そう?」

 

「うん……まあ凹凸はまだ大きいけど、皮がほとんど残ってない」

 

 そう言って、ママは剝き終わったジャガイモとニンジンを見た後に、私の頭を撫でて褒めてくれました。

 

「パパとママの自慢の娘だ」

 

 そうやってにっこりと笑ったママの顔を瞬間に私の体はぴくんってなりました。

 その後に、ママの耳もぴくんてなりました。

 私も、たぶんママもわかりました。

 

「パパが帰ってきたから、おむかえに行ってくる!」

 

「転ぶと危ないから急ぐな!」

 

 ママのお説教はあえて無視して、私はパパの元に駆け寄りました。

 

「ただいまー、今日も疲れた……ってリタ! どうした? 急に抱き着いてきて」

 

「おかえりなさい、パパ」

 

 私は夢中でパパに抱き着いていました。パパはぎゅって抱きしめてくれたあとに私を見ました。

 

「顔が真っ赤だけど、どうした?」

 

「ここまで来るのに、全力疾走だったので」

 

「おう、そうか……お出迎えご苦労」

 

 いつも元気なパパですがちょっと驚いていたみたいでした。

 

「こら! リタ!!」

 

「ただいま、ママ」

 

「お帰り……まだちょっと時間かかるからお風呂入っててよ」

 

「りょうかーい! リタと……タイシー! お風呂入るぞ!!!」

 

「ママとはいるーー!!!」

 

「お父様。タイシは今アニメに夢中ですわ。何を言っても聞きませんの」 

 

「?……そっか」

 

「それでは、お母さま。今からお父様とお風呂にいってらっしゃいますわ。ごきげんよう」

 

「……なんかのドラマのセリフなんだろうけど、ちょっと使い方間違ってるからね」

 

「あー……世紀末覇王伝でマックイーン出てたもんな」

 

「“おしゃっる”意味が意味が分かりませんわ」

 

「……いいから入ってきてよ」

 

「あいよー」

 

 パパはママにそう言われて、私を抱っこしながらお風呂場に行きました。

 

「パパ、お背中おなながししますわ」

 

「お流し、な」

 

「お流ししますわ」

 

「お願いしまーす」

 

 私は、パパやママと入るときはいつも二人の背中を洗ってあげます。

 ママはパパの体よりも小さいけど、筋肉はすごくあります。一生懸命練習したかららしいです。

 パパの体は大きいし、がっちりしてます。ママの方が筋肉があるんじゃないかって思うけど、パパは私とタイシを抱えたママを抱っこ出来るくらいには力持ちです。

 パパが言うには「じゅうしん」の取り方が大切らしいです。

 

「今日もお疲れ様ね」

 

「そうなんですよ女将さん。やっぱり、大変でして」

 

「今日のお仕事どうでしたか」

 

「今日は、外部から逃げウマ娘を呼んで、ひたすら併走をして対逃げウマ娘対策をやってたよ」

 

「……今日もお仕事お疲れ様ね」

 

 よくわかんないや

 パパは、私のごっこ遊びに付き合ってくれます。でも、難しい話をして話についていけない私を見てクスクス笑います。笑うのはいけないってママが言ってました!

 

「そうなんですよ女将。やっぱり、大変でして。……女将さんは今日はどうでしたか?」

 

 パパが私に今日の出来事を聞いてきたので、私は今日知ったとくだいニュースをパパに教えてあげます。

 

「実は、私には三番目のばあばがいたの」

 

「え?」

 

「私とタイシが生まれる前からばあばは居て、ママとパパが住んでるこの場所まで一緒についてきてくれたんだよ」

 

「ええ!? なんだよ、それ。俺聞いてない!!!!」

 

 パパが知らなくてママと私だけが知ってる秘密みたいでした。ママと二人だけの秘密でもいいけどパパにもこっそり教えてあげます。

 

「今日はたくさん三番目のばあばを踏んづけたの」

 

「ええええ!? ウチの娘の倫理感が」

 

「でも、ママはママが小さいころから踏んづけてたって」

 

「ま、ママ!?!?!?」

 

「ああん?……なに、今カレーお皿に移し替えてるところなんだけど」

 

 パパがびっくりしすぎて、大きな声でママを呼んでいました。

 ママも、そんなにおどろいたパパが珍しいのか脱衣所の近くまで来ています。

 

「り、リタが!!! 三番目のばあばが! タイシンが踏んづけたって!!!」

 

「ああああああ! アンタたちは夕飯の前にややこしい話をするな!」

 

「え!?!? 俺も!?!?」

 

「後で話すから、湯船に浸かったあとに上がってこい!」

 

「は、はーい」

 

 パパは私の話にびっくりしていたようですが、ママの声で落ち着いていました。

 すぐに体を洗い流して、私の背中を洗った後に、一緒におふろに入ります。

 

「60、61、62」

 

「60、59、58な」

 

「小学二年生だからまだよくわかんないし」

 

「ブーブー言ってないで、ちゃんと数えないとまたママに叱られるぞ」

 

「はーい」

 

 パパと一緒にお風呂につかりながら数を数えています。でも、私にはもっと気になったことがあったのでパパに聞くことにしました。

 

「ねえ、パパ」

 

「ん?」

 

「どうやったら、おっぱい大きくなるのかな」

 

「!?!?!?」

 

「クラスのお友達が言ってたの。男の人はおっぱい大きい方が好きだから、おっぱいが大きい方が素敵な結婚相手を見つけやすいって」

 

「んんっ!……リタ、遊ぶお友達は選んだ方がいいかもな」

 

「?……そういう差別をしちゃいけませんって先生言ってたよ」

 

「くうぅ、そうだけど……そうだけどっっ!」

 

 パパは頭を抱えています。私の言葉に何か悩んでいるんでしょうか。

 

「り、リタはおっぱいを大きくして付き合いたい人がいるのか?……もう、そういう男の子が出来たのか?」

 

 ちょっとだけ心配そうな声でパパが聞いてきました。

 

「いや、別に」

 

「そっか……そっか!」

 

 ちょっとだけパパは嬉しそうでした。

 

「でも、将来私はパパやママみたいに結婚した後も、楽しく暮らしたい。だから、おっぱいが大きい方が、将来パパとママみたいな結婚生活送れるかなって思ったの」

 

「そっか」

 

 パパはちょっと考え込んでるようでした。

 

「はっきり言うとだな、リタ」

 

「はい」

 

「たぶん、無理だ」

 

「そんな……」

 

「俺も頑張った。7年間頑張ったが、なんの成果も得られなかったんだ」

 

「?……パパもおっぱい大きくしたかったの?」

 

「ああ!……都市伝説は本当なのか確かめたくてな」

 

 やっぱり、男の人はおっぱいが大きくならないみたいです。

 

「でもな、別にそんなのどうでもいいんだよ」

 

「どうして?」

 

「ママはちっさい。ちょびっとだ」

 

「確かに」

 

「でも、パパはママを見つけた。ママしかいないと思った。だから大きさなんて関係ないんだよ!!」

 

「わ!!! すごい!!!」

 

 驚きました。

 せいきのだいはっけんです。

 パパは天才発明家だったみたいです。

 

「あんたたち……好き放題いってんじゃん……」

 

 私とパパが離している間にママは、ガラガラとお風呂の扉を開けていたみたいです。

 ママは鬼のように怒っていました。

 私もパパもそんなママを見た瞬間に「あっ」って言葉が出ました。

 そして、パパと顔をみあって肩を竦めます。

 

「「俺の愛バは凶暴だもんな」」

 

 

「ぶっ飛ばす!」

 

 

 怒られてとっても怖かったです。ちょっと泣いちゃいました。

 でも、泣いた後に食べるカレーは最高でした。

 お休み直前まで、私はテーブルで日記を書いていました。

 

「リタ、そろそろ寝るぞー」

 

 ちょうどよく、パパが来てくれたのでしーってしながら渡します。

 

「これが、今日の分の日記帳。ママには明日見せるって約束したけど、パパには特別に見せてあげる」

 

「へえ、ありがとう。なんか、書いていい?」

 

「いいよ……私はちゃんと約束守るから、パパも水族館とパフェよろしくね」

 

「もちろんだよ……ウチの娘はしたたかな、いい子に育ったなあ」

 

「じゃあ、私は寝るので、よろしくお願いします」

 

 私はそう言って、四人で寝る寝室に向かいました。

 明日は土曜日です。私は夏休みですが、パパもお仕事がお休みなので一緒に遊べると思います。

 早めに寝て明日めいいっぱい遊びます。

 

 あしたも、たのしくなるといいな

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、ママ。見てよ、これ」

 

 子どもたちを寝かしつけた後、俺たちはリビングで大人の時間を過ごしていた。

 二人の姉弟の母であり、俺の妻であるナリタタイシンに向かって話しかける。

 

「それってリタの日記帳でしょ。なんで持ってんの」

 

「リタが貸してくれた。ママには明日見せるからパパには特別ねって」

 

「ほんと、アンタたちってどこまで言ってもクソガキじゃん」

 

 リビングにあるテーブル。氷が溶ける音がする。

 俺とタイシンの手元には氷で割った酒が注がれていた。

 娘の日記帳を肴に酒を飲むなんて、7年前の俺に言ってもたぶん信じないだろうな。

 

「大人なんて、そんなもんだろ。体が大きくなっただけの子どもがどれだけ多いことか……」

 

 今日、外部から招いた逃げウマ娘が所属していたチームのオーナーも中々の癖のある人物だった。

 ウマ娘自体やトレーナーはとっても善良だけど、オーナーはウチのウマ娘が負ければとことんこき下ろし、負ければ気分が悪いと言ってわめき散らすような人物だった。

 ウチのリタの方が10000倍は賢いと俺は胸を張っていえる。

 

「やっぱ、大変?」

 

「まあな。でも、家に帰れば、そんな疲れも吹っ飛ぶ」

 

「ふん」

 

 鼻で笑われてしまう。

 いつものことなので、とくに気にせずリタの日記帳に再び目を移した。

 

「やっぱ、あの子は面白いなあ」

 

「なんて書いてんの」

 

「明日までのお楽しみってことで」

 

「あ?」

 

 出た出た、ウチの暴君のお出ましだ。

 でも、俺としても最愛の娘との約束を果たしたいため、全部は教えない。

 

「あー、わかった。わかった」

 

「早く、見せてよ」

 

「見せるのはダメだって。俺が読むから」

 

「『ママは私と同じ栗毛の髪で青い目をしています。吸い込まれそうなほど綺麗な青い目をしています』、『私もドキドキするくらい綺麗な笑顔です』だって。本当にリタはすごいな。タイシンの一番は俺だと思ってたけど、あの子が成長したら、タイシンの一番を奪われるかも」

 

「ほんっと、アンタたちって、妙なところだけ舌が回るんだから……」

 

 とげとげしい口調だ。

 でも、全然怖くない。

 顔から耳まで真っ赤にして、顔を逸らしている最愛の妻を怖がるなんて俺には無理だった。

 彼女に一目惚れしたのはスカウトした時からだった。

 最初はそのポテンシャルに惹かれていた。しかし、ずっと過ごしていくうちに俺はナリタタイシンというウマ娘自体に惚れていた。

 彼女が引退後に思い切って一世一代の告白をした。その時は、遅すぎると蹴られてしまった。が、無事に受け入れてくれてそのまま結婚し、二人の宝物も授かった。

 

「お義父さんとお義母さんのこともちょっと書いてるな」

 

「まあね」

 

「ばっちり、タイシンの言葉覚えてるみたいだぞ」

 

「え?」

 

「『ママは独りぼっちがさみしかったみたいです。だから、私はお母さんが泣いちゃわないように、出来る限り側に居ようと思います』って」

 

「……ばか」

 

 顔を逸らしながら鼻をすする音が聞こえる。

 俺は黙って酒を飲むことにした。その音もかき消すくらいに氷をくゆらせながら。

 

「リタは、ホントに面白い子だったよな」

 

「ほんっと、私はまだあの子のことがよくわかんないよ」

 

 リタは、ぞくに言う十月十日前後で生まれた。

 でも、なぜか体重がすごく少なくて、俺たちは心配した。特にタイシンはめちゃくちゃに不安だったみたいだった。

 

『ねえ、アタシのせいかな』

『アタシみたいチビが、子供が欲しいなんて欲張ったせいなのかな』

 

 そうやって、タイシンは毎日、頭を抱えながら泣いていた。

 出産して一週間ほどは、リタは赤ちゃん用の集中治療室で治療を受けていた。

 一週間後、俺たちの元に戻されることになった。

 その際治療をしていた看護師さんがこれまでの経緯を説明してくれた。元気で経過が良好だというのははっきりと、何度も伝えてくれた。でも、なんだか煮え切らない説明だった。

 俺たちもよくわからなかったが、とりあえず、無事なことが分かりリタと対面することになった。

 はじめは落ち着いており、授乳の時にその意味が分かった。

 

『ちょ、ちょ、ちょちょちょ! やばいやばいって引きちぎられる!!!』

 

 リタは異常なほど元気な赤ちゃんだった。

 出産直後の深刻さが嘘のようにもりもり栄養を取ったため、すぐに標準体重まで増加した。

 逆に出産直後はなんだったのか医師にも聞いてみた。

 

『うーん、わかりません。……怠けてただけじゃないでしょうか』

 

 んなバカな話があるかと、聞いた時は思った。

 でも、その医者の言っていることはあながち間違いではなかった。

 タイシンは、はじめてのことばかりですごい手間取ってた。

 だから、神経もボロボロで、よく泣きじゃくっていた。

 俺は無力だった。なにもしてやれなかった。

 抱きしめて『ずっとそばにいてやれなくてごめん』としか言えなかった。

 

『どうしよう……この子……一歳半にもなったのに……まだ……歩かない』

 

 いつものように仕事から帰るとタイシンはそう言って、俺に泣きついてきた。

 どうやら、赤ちゃんが立って歩くのは1歳前後が多いらしい。

 タイシンが調べると、個人差はあるが、やはりほとんどの子が1歳5か月には歩き始めるらしい。

 

『タイシン、落ち着こう。リタは大丈夫だ。確かに普段どこ見てんのかわかんないところ見てる。レゴブロックをうちわみたいにあおいで遊んでる。けど呼べばこっちを向くし、見様見真似で、立派なものも作れる。大丈夫だ!!!』

 

 俺は、必死にタイシンを慰めた。

 たぶん、タイシンは正しい両親とか理想の親みたいなものがあるんだろう。そして自分以外はみんな答えを知ってたり、対処を理解してると思い込んでいたんだろう。

 

『……なによりな、ちょっとぐらい成長が遅れてたってなんだよ。この子は俺たちの子だ。タイシンの子だ。俺は健やかに育ってくれさえすればそれでいいんだよ』

 

『うぅ……うぅ……』

 

 その時の俺の言葉はタイシンに届いたのかは分からない。でも、そこまでタイシンもリタの成長についてとやかく言わなくなった。

 

 その後一か月経っても、リタは立たないし、歩かないし、殆ど言葉も発しなかった。

 でも、タイシンも俺も気にせずに言葉をかけたり、遊んでいるとリタはやっぱり、嬉しそうに反応していた。

 そして、ある日、事態が一変した。

 休日で俺も家にいた時、震度3くらいの地震が起きたのだ。

 俺は焦って、ドアや窓を開けて警戒していた時、抱き着かれた。

 

『ぱぱ……ぐらぐら……!』

 

『リタ!? お前、喋れたのか!?』

 

 リタは俺のすぐそばにはいなかった。ちょっと離れていたところで、ぼーっとどこかを見つめていたはずだった。だというのに俺に抱き着いている。

 俺の脳裏に浮かんだのは、怠けているだけという医者の言葉。

 それは確信に変わった。リタが、ちょっと目を見開いた後、ぺたんと床に座り込んだのだ。

 

 無理があるだろう。俺は、そう思った。

 

『リタ、大丈夫!?』

 

 遠くに離れていたタイシンが近づいてくるとやっぱりリタはぼけーっとした顔に戻っていた。

 

『よかったぁ……』

 

 俺はさっきあった出来事をつぶさにタイシンに語る。

 

『タイシン、さっきリタが喋ったんだ。そして俺に抱き着いてきた』

 

『は? 現実みなって。それよりも、アンタが言ったんでしょ。ちょっとぐらい成長が遅れたくらいなんだって』

 

『いや、じつはこの子はサボってただけで……』

 

 まずい、そう思った。

 このままでは俺の父として、夫としての威厳が落ちてしまうと思っていた。

 そして、気づいたのだ。リタは揺れに反応していた。

 

『タイシン、後生だ。一度だけ俺を信じて俺のやることを見てくれ』

 

 タイシンに頼み込み、俺の推論を証明する機会を設けてもらった。

 

『ふん、それでなんもなかったときはわかってんでしょうね』

 

『ああ』

 

 まず、リタをキッチンの隅っこにある台に載せた。

 リタは相変わらずぼーっとしている。

 

『これを、こう』

 

 そうして、グラグラと揺らす。

 すると、リタは反応したのだ。 

 

『!……ぐらぐら!』

 

『リタ!?』

 

 本能的に、タイシンの元にリタは走った。

 そして、やってしまった、という顔を浮かべながらぺたんと床に座り込んでいた。

 

『いや、それは無理でしょ』

 

 1年と7か月。いや、生まれる前からリタは怠け続けていた。

 それを知ってからはタイシンはちゃきちゃきとリタに接するようになり、リタも渋々と言った感じで、遊びや会話をするようになったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほんっと、意味がわかんないわ。普通って何って思ったし」

 

 思い出したことで沸き上がって来た怒りをぶつけるようにタイシンはグラスを少しだけ強く置く。

 

「リタが教えてくれただろ。普通なんかないって」

 

「それは……そう」

 

「今となっちゃ最初のあの心配はどこへやらって感じだな」

 

「それ。ほんとに最初のころ、うじうじ悩んでた自分をぶん殴ってやりたいわ」

 

「そんなことないって」

 

「そうやって、調子のいいことばっかいう」

 

 ジト目でタイシンはこっちを見る。しかし、俺は本当にそんなことはないと思う。

 

「そうやってタイシンが一生懸命考えてくれてたのが、リタにも伝わってたんだからあんな風になったんじゃないかな」

 

「アタシが怠けさせたって言うの!?」

 

 ちょっとだけ言葉選びを間違えてしまった。

 獅子の尾を踏んでしまう。

 

「そばにいたかったってことだよ」

 

「え?」

 

「生まれたら、お腹の中から出ていかなきゃいけないだろ」

 

「……」

 

「立ってあるいたら、色んなところにいかなきゃいけないだろ」

 

「……」

 

「リタは生まれた時、いや、生まれる前からタイシンのことが大好きだったんだよ。タイシンがリタのことを大好きって知ってたから、ずっとそばにいたかったんだよ」

 

「……バカ」

 

 鼻をすする音が少しだけ大きくなった。

 俺はだまって酒を飲む。

 

「リタも、タイシも俺の宝物だ。俺の愛バ、ナリタタイシンとの愛の結晶だ」

 

「急に……なに」

 

 鼻をすすりながら、タイシンは訝しげに俺を見てくる。

 

「いや、強力なライバルの存在を知ったから俺も手放される前にタイシンを改めて口説いとかないと」

 

「バーカ」

 

 タイシンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「嫌だって、もういたくないって言っても手放すわけないでしょ」

 

 そういって、タイシンは吸い込まれるような青い瞳でじっと俺を見つめて、すごく嬉しそうに笑った。

 何度も惚れ直すくらい美しい笑顔だった。

 そして、俺はいつものように肩を竦めていった。

 

「俺の愛バは凶暴だもんな」

 

 明日も朝が早い。子どもたちと遊ぶために俺もタイシンもそろそろ寝ることにした。

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