グラウンドに着くとそこには既に何人かの生徒たちが集まっており、隣と喋っていたり、緊張や不安で無言になったりとその場の空気は人それぞれだった。
しばらく待っていると、校舎の方から先程の金髪の男、ミハイル少佐を先頭に、教官と思われる数人の男女が歩いてきた。
その瞬間、グラウンドの空気は一変した。先程喋っていた生徒も、緊張と不安で無言になっていた生徒も、全員が2人の人物の登場にざわめき出す。
「まさか……《黄金の羅刹》……?」
「そ、それに、あの黒髪の人って、確か……」
「ええっ…間違いないわ…あの有名な…!?」
「ククッ……まじかよ」
「ふふっ……これは予想外、ですね」
「《灰色の騎士》……」
「……うそ……」
「…………」
(まさか、《黄金の羅刹》と《灰色の騎士》の登場とは……」
――ドクンッ
(っ……?)
他の生徒達同様、《黄金の羅刹》と《灰色の騎士》の登場に驚いていると、突然心臓に痛みが走った。
突然のことに驚き胸を押さえるが、痛みは既になくなっていた。
(何だ、今の痛みは……気のせいか?)
心臓に走った痛みに疑問を抱いたが、気のせいだと思い再び教官達の方を見る。
教官達が生徒たちの前に立つと、ミハイル少佐が口を開いた。
「静粛に!許可なく囀るな!」
ミハイル少佐の一声により、先程までざわついていた生徒達が次々と静かになる。
「これよりトールズ士官学院、《第II分校》の入学式を執り行う。略式のため式辞・答辞は省略!これよりクラス分けを発表する!まずは――」
その後、クラスの担当教官により《VIII組・戦術科》、《IX組・主計科》に所属する生徒の名前が呼ばれたが、俺を含めた4人の生徒の名前が呼ばれることは無かった。
「静粛に!これより第II分校分校長、オーレリア・ルグィン分校長からのお言葉がある!――分校長、お願いします」
「うむ」
ミハイル少佐に名を呼ばれ、《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンが前に出る。
「《第II》の分校長となったオーレリア・ルグィンである。外国人もいるゆえ、この名を知る者、知らぬ者もいるだろうが、一つだけ確と言えることがある」
「薄々気づいているとは思うが、この第II分校は"捨石”だ」
「「「「「「!?」」」」」」
(なるほどな…。予想はしていたが、まさか分校長から直々に話があるとは。その理由は多分…)
教官達が動揺する中、俺は確信する。分校長が何故こんなことを言うのか。
動揺する教官達、生徒達がいるなか、それに構わず分校長は話を続ける。
「本年度から皇太子を迎え、徹底改革されるトールズ本校……そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰すためのな。そなたらも、そして今この場にいる私も教官陣も同様であろう」
「…………」
「おいおい……」
「ぶ、分校長!生徒達の前でそれはあまりに――」
ミハイル少佐が止めに入るが、それでもなお分校長は話すのをやめない。
「――だが、常在戦場という言葉がある。平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所でもあると言えるだろう」
「自らを高める覚悟なき者は今、この場で去れ。教練中に気を緩ませ、女神の元…すなわちあの世へ行きたくなければな」
しかし、逃げ出す者など1人もおらず、逆に生徒全員が真剣な眼差しで分校長を見つめていた。皆、この学院に入学すると決めた頃から既に覚悟は出来ているのだろう。
「フフ、ならば、ようこそ《トールズ士官学院・第II分校》へ!」
「『若者よ、世の礎たれ』」
「かのドライケルス大帝の言葉をもって、諸君を歓迎させてもらおう!」
分校長の予想だにしない挨拶後、入学式は終了し、それぞれの科の生徒達が担当教官のもとに集められ教室に移動していったが、俺を含めた4人は何も知らされず、その場に留まっていた。
「え、えっと、なんか、気迫に飲み込まれちゃってたけど……」
「結局のところ、僕たちはどうすれば」
「確かに。俺たちだけクラスを発表されてないしな」
「…………」
4人共どうすればいいのか分からず、混乱していると、リィン・シュバルツァーが口を開いた。
「……分校長。そろそろクラス分けの続きを発表していただけませんか?」
「…………!」
「へ……」
「なるほどな……」
「フフ、よかろう。本分校の編成は、本校のI〜VI組に続く、VII〜IX組の3クラスとなる。そなたら4名の所属は《VII組・特務科》…担当教官はその者、リィン・シュバルツァーとなる」
〜アインヘル要塞〜
分校長からVII組所属を伝えられた俺たちは、ミハイル少佐とシュミット博士に先導され、先程シュミット博士と話していた女子と共に分校の奥にある要塞のような施設に来ていた。
「VII組・特務科には入学時の実力テストとしてこの小要塞を攻略してもらう」
「こ、攻略……?」
「そもそも、この建物は一体……」
ピンク髪の女子と青髪の男子は状況がつかめないらしく、疑問の声をもらす。
シュミット博士曰く、此処は実験用の特殊訓練施設らしく、難易度などの設定が可能らしい。しかし、1番驚いたのはこの小要塞の中には魔獣が放たれているということだった。俺は魔獣との戦闘経験は何度かあるからあまり動揺はしないが(白い髪の女子に関してはさっきから無表情だし)他2人は違った。
「な……!?」
「ま、魔獣……そんなの冗談でしょ!?」
完全に動揺していた。それもそうだ、それが一般的な反応だろう。生徒たちが動揺する中、ただ1人、リィン教官だけが状況を理解していた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ピンク髪の女子が我慢の限界らしく、声を荒げる。
「黙って付いてきたら勝手なことをペラペラと……。そんな事を……ううん、こんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」
それに関しては俺も同意見だ。VII組・特務科に所属するなんてこと、俺たちは一言も知らされていなかった。だというのに、突然VII組に所属しろと言われても不満しかないだろう。
「適性と選抜の結果だ。クロフォード候補生。不満ならば今すぐ荷物をまとめて軍警学校に戻っても構わんが?」
「くっ……」
軍警学校。確かクロスベルの……。あの辺りは前に通ったことがあるからどんな状況かは理解しているつもりだが……。
(それにしてもこのピンク髪の女子、どこかで……)
「……納得はしていません。ですが、状況は理解しました。それで、自分たちはどうすれば?」
「ああ……シュバルツァー教官以下5名はこのアインヘル要塞内部に入り待機」
そう言った後、ミハイル少佐はリィン教官に5種のマスタークオーツを渡しARCUSIIの指南を命じた。
「フン、ようやくか。これでやっと駆動テストが出来るか。グズグズするな、弟子候補!10分で準備してもらうぞ!」
「は、はいっ!」
〜アインヘル要塞内部〜
要塞内部は機械仕掛けになっていて、広さはそれなりだった。リィン教官と白髪の女子は知り合いらしく、何か話をしていた。
その後、リィン教官の提案により互いに自己紹介をすることになった。
「俺は――「フン、名乗る必要なんてないでしょう?《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー。学生の身でありながら1年半前にあった帝国の内戦を終結させ、クロスベル戦役でも大活躍した若き英雄。帝国どころかクロスベルでも知らない人はいないくらいの有名人じゃないですか」
「補足すると、その後も本校の方に在学しながら帝国各地の事件や変事を解決していたとか」
「ちなみに、昨年10月の《北方戦役》ではオーレリア、ウォレス両将に協力する形でノーザンブリア併合に貢献したらしい」
青髪の男子と俺がピンク髪の女子に続く形で補足する。
「そ、そうなの!?オーレリアってさっきの……。ていうか、ノーザンブリア併合に貢献って……!」
ピンク髪の女子がリィン教官を睨みつける。
「誤情報ですね。実際には――「いや、よく知ってるな。英雄なんて過ぎた呼び名だが」
「それでも改めて名乗らせてくれ。リィン・シュバルツァー。トールズ士官学院・本校出身だ。先月卒業したばかりでここ第II分校の新米教官として本日赴任した。武術、機甲兵教練などの担当、座学は歴史学の担当になる。《VII組・特務科》の担当教官を務めることになるらしいからよろしく頼む」
リィン教官が自分の自己紹介をした後、次は青髪の男子が口を開いた。
「では、自分も。クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身です」
ヴァンダール流。師匠から一度話だけを聞いたことがある。確か、帝国剣術における二大流派の一角だとか。
「ヴァンダール――そうだったのか。すると、ゼクス将軍やミュラー中尉の……?」
「ミュラーは自分の兄、ゼクスは叔父にあたります。まあ、髪の色も含めて全然似ていないでしょうが」
「それは……」
どうやらリィン教官は心当たりがあるらしく、察していた。
「それはともかく、その眼鏡は伊達ですか?あまり似合ってないと思うので、外した方がいいと思いますよ」
「うっ……」
「ぷっ……あはは……!」
「確かに一理あるな」
「まあ、それなりに需要はありそうですが」
クルトの一言により、生徒たちからあれこれ言われるリィン教官。
「…はあ、似合ってないのは自覚してるから勘弁してくれ。よろしく、クルト。……それじゃあ続けて頼む」
リィン教官が次の自己紹介を促すとピンク髪の女子が口を開いた。
「ぐ……ああもう。分かりました!ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身です。正直、よろしくしたくないけど……そうもいかないのでよろしく!」
クロスベル警察学校か……。確か今はクロスベル軍警学校のはず。リィン教官も俺と同じことを思ったのか、それを指摘すると、
「併合前は警察学校でした!それを帝国が勝手に変えて……。それとも正式名称以外は使うなって言うんですか!?」
当然のことながら激怒していた。それもそうだ。クロスベル出身者にとってクロスベル軍警学校という名前は受け入れ難いのだろう。
「いや、他意はない。無神経だったようだ。すまない」
「っ……いえ。あたしも言い過ぎました。でも、納得はできません」
「……ああ。だろうな」
「……?」
リィン教官とユウナのやり取り対してクルトは疑問を抱いていた。
「次は私ですね」
そう言って白髪の女子が口を開いた。
「アルティナ・オライオン。帝国軍情報局の所属でした」
「……!?」
「へ……」
「まじか……」
驚いた。まさかこんな少女が帝国情報局の人間とは。他2人も俺と同じらしく驚いていた。
「一応、ここに入学した時点で所属を外れた事になっています。どうかお気になさらず」
「……聞き捨てならないことを聞いた気がするんだが」
「ま、気のせいではないな……」
「情報局って、噂の……ってそれより"事になっている"って何よ!?」
「失礼、噛みました」
ユウナの指摘にアルティナは無表情で返す。
「ハハ……それじゃ、最後は君だな」
そう言ってリィン教官は俺に自己紹介を促す。
「ヴェルザ・ヴォーケルです。此処に入学する前は旅をしていたので出身地はありません」
「旅って、1人で旅をしてたの?」
「いや、師匠もいたから2人だな」
「なるほど。ありがとう、ヴェルザ。これからよろしく頼む。ところで、君の師匠についてなんだが……」
『お、お待たせしました!アインヘル訓練要塞、LV0セッティング完了です!《ARCUSII》の準備がまだならお願いします!》
リィン教官が俺に何か聞こうとしていたが、スピーカーの電源が入るような音が鳴り、さっきの金髪の女子が喋り始めた。
「これって、さっきの金髪の……」
「僕たちと同じ新入生だった筈だが……」
「おっと、もうそんな時間か。すまない、ヴェルザ。この質問はまた後で改めて聞くことにするよ」
「は、はあ……分かりました」
「了解だ、少し待ってくれ!」
リィン教官は金髪の女子に大声でそう返答すると、再度俺達の方を向いた。
「さて、いきなりになるが、4人とも、これを持っているか?」
そう言ってリィン教官は端末のようなものを取り出した。
「ええ、それなら……」
「送られてきたやつね。まだ起動はしてないけど……」
「これをどうするんですか?」
「これは戦術オーブメントと言って、所持者と連動することによって様々な機能を発揮する個人端末だ。動力魔法が使えたり、身体能力が向上したりと機能はいろいろだが、この最新端末《ARCUSII》には更なる新機能が実装されている」
「《ARCUSII》……」
「ENIGMAとは違う、帝国製の戦術オーブメントか……」
「正確には、帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同開発ですね。いよいよ実践配備ですか」
「ああ、新機能についてはおいおい説明するとして――4人とも、これを受け取ってくれ」
そう言ってリィン教官はマスタークオーツを取り出し、それぞれに渡した。俺は火属性のマスタークオーツ、ベオウルフをリィン教官から受け取る。
「これは……」
「俺の師匠も確か同じようなものを持っていた気がします」
「エニグマにもあった……たしか"マスタークオーツ"でしたっけ」
「ああ、基本概念は同じはずだ。開いたスロットの中央に嵌められるからセットしてくれ」
「……了解」
「えっと、ここかな……?」
「これでよし」
リィン教官にそう言われ通り、ARCUSIIを開き、スロットの中央にマスタークオーツをセットする。マスタークオーツをセットし終えた瞬間、全員の身体から光が発せられる。
「わわっ……」
「これが……」
「ARCUSII……」
「マスタークオーツが装着されることによってARCUSIIが所持者と同期した。今の光がその証拠だ。これで身体能力も強化され、アーツも使えるようになった筈だ」
「なるほど……」
「確かに凄いな……」
「な、なんかエニグマとは結構仕様が違うような……」
それぞれがARCUSIIの凄さに驚いていると、再度マイクが入る音がした。
『フン、ようやく準備は済んだか』
「シュミット博士。ええ、いつでもいけます」
『ならばとっとと始めるぞ。LV0のスタート地点はB1だ。そこから地上に辿り着ければクリアとする』
『は、博士……?その赤いレバーって……。ダ、ダメですよ〜!そんなのいきなり使ったら!』
『ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない……!それでは見せてもらうぞ。《VII組・特務科》とやら――この試験区画を、基準点以上でクリアできるかどうかを……!」
何だろう……とても嫌な予感がする。
「!!みんな、足元に気をつけろ!」
その瞬間、足元の床がガタンッと開き、大きな落とし穴が出現した。
「え……」
「なっ……!?」
「しまった……!」
反応が遅れた俺、ユウナ、クルトはそのまま穴に向かって滑り落ちていった。
「バランスを取り戻して、落下後の受け身を取れ!」
リィン教官の指示通り、なんとかバランスを取り戻し、落下後に備えて右手で落下速度を減速させ、受け身の体勢を取る。
反応が遅れた他2人を見ると、クルトはバランスを取ることに成功し、落下後に備えて受け身の体勢を取っていた。
しかし、ユウナは完全に動揺してしまっていて、未だに受け身の体勢を取れないでいた。
(くっ……さすがにあれはまずいな)
このままでは着地の瞬間に受け身を取ることが出来ず、床に激突し怪我をしかねない。
そう思った瞬間、俺は減速に使っていた右手を離し、斜めになった床を蹴ってユウナに向かって飛び、守るように抱え寄せる。
そしてそのまま俺たちは穴の底へ落下していった。
読んでいただき、ありがとうございました。
ユウナを助けに行ったヴェルザ君ですが、この後どうなるか予想は出来てる人もいると思いますw
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