Keep ☻n Smile   作:榛名なのは

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第8話 ナルシスト??

「……何? オレ急いでるんだけど。そろそろクラスメートがオレのこと呼びにくると思う」

 

 

 

 こいつ見たことあるかも。もしかして、こいつ……

 

「梨田拓真?」

 

 

 

 そう言うと、彼はニパッと笑って言った。

 

「あー、なんだ、知ってんじゃん。何? 告白?」

 

 

 ……なんだコイツ。ナルシストか何かか?

 とはいえ梨田拓真は、1年A組の中心的な人物だと聞いたことがある。クラスの真ん中にいたらそりゃあモテるんだろう。こうなるのもよくわかる……かもしれない。

 

 

 

 

「いや、ある種の告白だけど、恋愛的な意味じゃないな」

 

 途端に梨田は怪訝な顔をする。

 

 

 

「何? あ、もしかして……」

 

「絵を描いてほしいの」

 

 

 

 

 時が止まる。

 

 

「……ごめん、今なんつって」

 

 

 

 

「だから! 絵を描いてください!」

 

 

 

 顔をあげると、目が鋭くなっていた。表情もない。怖い。でも、退くわけにはいかない。

 

 

 

 

 

「お前、なんで絵のこと知ってんだ?」

 

 

 

 すーっと息を吸い、精神統一する。

 

 

 

「ごめん、電車の中で見た。見たというか、見えた」

 

 

 

「……なるほど。じゃあ君は何も悪くないわけだ。ごめんね、キツく言っちゃって」

 

 

「いや、私も同じ立場になったらそんな反応するよ。電車で同級生に画面覗かれるって怖いよね、こっちこそいきなり声をかけてごめんなさい」

 

 

 

 

 そう言うと、彼はジロっと私を見る。まるで品定めするみたいに。

 

 

 

「んで、絵、だっけ。何に使うの?」

 

 

 

「あのね。私、ゲーム作ってるんだけど。一人のゲーム制作には限界があるから、誰かに協力してほしくて。で、梨田くんのイラストがあったら私のゲームは絶対よくなるから……」

 

 

 今の私の精一杯を。ここでやっと見つけたんだ。この大人も尻尾を巻いて逃げるような才能を、儚いタッチを、心がギュッとなるような色使いを、その全てで私のゲームを昇華させてほしい。

 

 梨田くんのイラストが欲しい、どうしても。なのに

 

 

 

「ヤダ」と遮られてしまった。顔を上げると、無表情だった。

 

 

 

 

 その無表情が、やけに怖かった。

 

 

 

 

「ごめん、そりゃそうだよね。絵師さんなんだからお金いるよね。成功報酬でいいなら……」

 

 

 

「んー、そーゆーことじゃないんだけど。僕はもう、絵を描く気はないんだ」

 

 

 

 

 

 ……どういうこと? 

 さっき、描いてたのに?

 

 

 不思議そうな顔をしてるのが伝わったんだろう、梨田くんはこう言った。

 

 

 

 

 

「僕、もう絵があんま好きじゃないからさ。もう僕は絵を公に出さないって決めたんだ。ほらぁ、好きじゃないことなんてやってもムダでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 そんなことない、そう言おうとしてやめた。

 だって私には、止める権利がない。

 

 私は依頼している側、断られるのは当たり前っていう考えが抜けていた。それに、こんなのやりたくないこと押し付けて。そんなのはだめ、私のエゴだ。

 

 

 

「じゃ、ばいばーい! えっと……そう、桃井朱莉さん!」

 

 

 

 

 

 

 

「そう、僕は関わらない。絵には」

 

 

 このとき私は後ろからの視線には気づかなかったし、梨田くんを逃した喪失感で気付けなかった。




梨田くんェ……

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