「もしかして、朱莉? 桃井朱莉、ですか?」
一瞬、誰かわかんなかった。顔付きもあの時よりも大人っぽくなってたし、声も綺麗になってたし。でも、なんとなくの面影と呼び方でわかった。
「うん。えっと……風音だよね?」
きっと、この制服が宮益坂女子な高校生は、
「正解。久しぶりだね〜、三年ぶりとかかな?」
梅宮風音だ。
梅宮風音。私の小学生の頃の親友。小学校の時は毎日のように遊んでた。お互い小学生のころはスマホ持ってなかったし、中学校が別々なのもあって中学校からはめっきり会わなくなっちゃったけど。
本当に、懐かしいな。
「そうだね。風音は相変わらずピアノ弾いてるの?」
すると、風音は顔を背けてこう言った。表情は分からなかった。
「あー……そのことなんだけど。長くなるかもしんないし、お互い積もる話もあるでしょ。近くにおすすめのカフェあるから、そこでも行かない?」
カフェはやけに怖いビビッドストリートなるところにあった。
たぶん神山高校の同級生であろう人が歌っていたが、私たちを見つけると注文を取ってくれた。
私はウインナーココア、風音はミルクティーをを注文したところで、風音は話を切り出した。
「わたしね、音楽辞めたんだ」
え? 音楽を辞めた? あの風音が?
その言葉は私にとって衝撃的だった。
だって、小学校の頃に風音の家に遊びに行ったら風音はピアノをずっと弾いてた。それに、ピアノで小さい頃から何回も賞を取ってきてたし、風音自身の将来の夢もピアニストだった。
そんな風音が音楽を、ピアノを辞めた?
「え……なんで、」と掠れた声しか私は出なかった。
おもむろに風音は右手を出した。
私は今見たものを信じれなかった。否、信じたくなかった。
風音の右手首に、大きな傷痕が残っていることなんて。
「どうしたの、その傷! 小学校のころにはそんな傷なかったじゃん!」
風音はにっこり微笑んで告白した。無理して笑顔を作ってるように見えた。
「あのね、中学三年の時に大きなコンクールに出るチャンスを頂いたの。今までで一番大きな、これで賞を取ったらスカラシップが貰えるほどの大会。その前の日、ホテルに泊まってたんだけどね。夕食を食べにレストランに行こうとしたの。その時ね、」
風音の笑顔の仮面が取れて、真顔になった。
それが、恐ろしく嫌な予感を増幅させた。頭の中に予想がついてしまった。あまりにもおぞましくて、この予想が外れることを願った。
「車に撥ねられたの」
あぁ、当たってしまった。
私は深い絶望感を持った。
「その車、飲酒運転しててね。私の命には特に何も無かったんだけど……。その衝撃で飛ばされて、尖った石が手首に刺さったの」
もう聞きたくない。大好きな親友のこんな話、聞きたくない。
お願い。もう終わって。そう言おうとしたのに、言葉は口から出てこなかった。
「お医者さんによるとね。もうピアノとか手先のたくさん動かすことはしない方が良いって。ピアノは辞めなきゃダメって言われた。パソコンのちょっとゆっくり目のタイピングが限度だってさ」
もう話さないで。もういいから。
「だから私は、」
音楽を、ピアノを辞めたの。その言葉は宙に溶けて消えた。
女の子が飲み物を運んで来てくれたが、甘ったるいウインナーココアは今は飲む気にはなれなかった。
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バチクソシリアスです。ここまで行くとは私も思ってすらいなかった。
重ぇ……重ぇんだよ風音の過去が……!