風音は、すごく辛そうな顔をしていた。
こんなこと言わせちゃってごめん、という気持ちとそんな大事な時に一緒に入れなかった後悔が私を襲う。
でも、私の口から出てきたのはもっと違う言葉だった。
「なんで音楽まで辞めちゃったの?」
「え?」
「なんで、ピアノだけじゃなくて音楽も辞めたの?」
ごめん、風音。
こんな辛い時なのに、私のわがままに付き合わせようとして。
「だって、私からピアノを消したら音楽をやる意味なんか残らないの!」
「そんなことない!」
ゴホン、と店主っぽい男の人が咳払いをする。すこしうるさくしすぎたかな。男の人に軽く頭を下げる。
「ねぇ、風音。私の……仲間になってくれないかな?」
さぁ、次に話すのは私の番だ。
私は、小学校の頃は本当に普通だった。ただ、優等生なだけだった。少し頭が良かっただけだった。
「朱莉ちゃんは頭がいいんだね!」
「えへへ……ありがとう! でも私、もっともっと頑張るね!」
小学校の頃、アニメより漫画よりも、私はプログラミングにハマった。
そして、運がいいことにその才能を早いうちから開花させた。
「今回の小学生プログラミングコンテストの優勝者は……小学四年生! 桃井朱莉さんでーす!」
「やった! 優勝……! これで何回目だろう……? でもすっごく嬉しい! ありがとうございます!」
でも、中学校に進んでから、私は変わった。いや、私は変わってない、周りが変わったんだ。
「ねぇ、朱莉ってウザくない? なんというか、頭いいことを鼻につけてそうだよね」
「わかるかも。プログラミングなんて粋がっちゃってさ。やっても将来役に立たないっつーの。ねぇ?」
「っ……! そんな風に私のこと思ってたんだ……。裏切られたとかそんなんじゃないのに、騙されたみたいな気分……」
そうやって、いつのまにか周りが敵だらけになっていた。
「ほら桃井。姉とは大違いだなぁ? 姉はアイドルなんてみんなを元気付けることしてるのに、お前は俺らに嫌な思いばっかりさせてるな」
「ねー。ほら、アタシたちにこんなことしたお詫びにアタシたちのジュース買ってきてよ。ホントにイヤな思いしたわー。アンタのせいで。少なからずアンタも稼いでるんでしょ? アタシたちに嫌な思いさせて稼いでるんだし、いいよね、別に」
「買わない。私が賞を取ったことでどんな迷惑をかけたわけ? 嫌な思いって何よ、私は何もしてない! ただ、好きな事を貫いていただけ!」
でも中学三年生の頃、私が壊れる決定的な言葉と出会っちゃったんだ。
「あんたなんか……あんたなんかなんで生きてるのよ!」
パン。
あぁ。自分の中の何かが壊れる音がした。
それからは学校に行かなくなった。というか、行けなくなった。
学校に行こうと玄関に立つと、足が棒のようになって動かないのだ。カバンを持つと、どうしようもない吐き気に襲われる。
私、どうしようもなく虚しくなって、死のうとしたの。でも、その時だった。
私は、ゲームと出会ったの。
なんだか、心がサッと透明になって、こんなに楽しいことがあるんだって思った。
死のうとしてた事なんて忘れて、プログラミングの技術を活かしてゲーム作りを始めたの。
ゲーム作りでもね、高校生以下の大会だったら何回か日本一になったこともあるんだよ。
でも、足りなかった。
私が目指してるような、あんな背中を押してくれるようなゲームは作れないの。
ふと前も見ると、風音は絶望したような表情をしていた。
ちょうど風音の話を聞いたときの私みたいな。
ごめんね、こんな顔させちゃって。すぐに終わるからね。
「それでなんだけど。風音が私の仲間になって欲しい!」