真剣で居合ってカッコいい!    作:優柔不断

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二話 極まる趣味

 

 

 季節は秋。美しい紅葉が、庭の木々から感じられるようになったころ。宮本刃は、いつも通り趣味となった居合の修練に励んでいた。

 

 初めて居合の練習を始めてから何年経過しただろう。一年、二年、三年、四年の歳月を得て、刃は小学五年生になった。

 身長は伸び、体重も増え、順調に武術を行うにふさわしい体に成長しつつある。そして成長しているのは肉体面だけに留まらず、居合の技術は、十歳にして一流の領域に届きつつあった。

 

 最初の一年は、オモチャの刀一本につき居合抜き500回。6時間と言う長時間かけて、家にいる時の殆どを修練に費やした。それが二年三年と続き、四年経った今年、その努力は一つの形として身を結びつつある。

 その一つとして、練習に使っていたオモチャの刀が全く壊れなくなった。何千何万と居合を行おうともへし折れることなく、鞘の中で鋭利に研ぎ澄まされるようになる。一度の居合にかける時間も、膨大な練習量による最適化によって洗練され、今では1時間に千回もの居合を放てるようになるに至る。

 

 1日の練習にかける時間は2時間ほどで、それ以外の時間は母と共にテレビで格闘技を見るのが日課となった。

 居合が一番カッコいいと言う考えは今でも変わらないが、だからと言ってそれ以外の格闘技がカッコ悪いと言うわけではない。新たな趣味の一つに、格闘技の観戦が追加されつつあった。

 

 そして現在。絶賛修練中の刃は、いつも通り腰を深く落として、居合の構えをとる。それは通常の連続して放つ居合抜きとは違い、一刀に全てを集中して放つ、必殺の練習だ。

 

 目を閉じて、意識を集中させる。流れる風に揺られ、庭の木から紅葉が絶えず流れ落ち、地に敷き詰められた落ち葉は、風に拾い上げられるように宙を舞った。

 刃の体から、異様なまでの闘気が溢れ出る。

 

 そして次の瞬間──抜刀

 

 まるで、世界が止まったように刃には感じられた。

 抜刀し納刀する。この一連の動作を行う最中、己が目には、舞い落ちる葉の一枚一枚がハッキリと見てとれる。抜き放ったのはオモチャの刀。当然、何も切れるはずがない。だが彼の目には、刀の軌道上にある紅葉が何の抵抗もなく切断される光景が見てとれたのだった。

 

 構えを解いて、その両断された落ち葉を手に取る。やはり幻覚ではない。刃はその弛まぬ努力によって、居合の構えをとっている最中に限り、『気』を扱うことが無意識にできるようになっていたのだ。

 

 気とは何なのか?それは一部の才能ある達人のみが習得できる、特別な力と言っていいだろう。

 気を使えば、向上するのは身体能力だけではない。怪我を瞬時に再生させたり、巨大な偶像を作ることや、果てにはビームすら放つことが出来るようになる。今回刃が使ったものは、気を扱えるものならば初歩とも言うべき技術。物体に気を流し、それを強化する技だ。だが初歩とは言え、この歳にして気が扱えるだけでも大した物であり、刃の才能は並外れていると充分に言えるだろう。

 

 そして当の本人はと言うと──

 

「やっぱカッケェなぁ……!」

 

 自分で自分の技に酔いしれていた。

 切断された落ち葉をクルクル回しながら、目を輝かせる。ひとしきり余韻を堪能した後、満足した刃は家の中に戻っていく。

 

 ピンポーン!

 

「ん?」

 

 練習を終えて家に戻る最中、家のチャイムが鳴る。

 ハーイ、と母が玄関に向かうのを横目に見ながら、誰が来たのだろう?と刃は考えた。

 

 そしてその人物が、これから先の人生で良くも悪くも自身の人生に影響を与える事になるとは、夢にも思わなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも初めまして、俺は天神館って所で学長をしている鍋島ってモンなんだが」

 

 その人物は、まるでヤクザ映画からそのまま出てきたような格好をしていた。白のスーツに白のカウボーイハット、赤色のネクタイに葉巻を咥えた、強面の男だった。

 

「凄い、本物……!?」

 

 刃の母は彼と同様、無類の格闘技好きである。故に当然目の前に立つ男の事は知っていた。

 

 『鍋島(なべしま)(ただし)

 彼は昔、四天王と呼ばれる最強格の武道家であり、川神鉄心という今を生きる伝説的人物の高弟の一人であった。現在は一線を退いており、天神館という学校を作り人材の育成に力を注いでいる。

 

 母は、口に手を当てて年甲斐もなく浮かれる。

 

「ヘヘッ、そう騒がれると照れちまうな。奥さん、サインなら後でしてやるから、ちょいと質問に答えてもらえねぇか?」

 

「え?あ、は、ハイ!何でも聞いてください」

 

 緊張した様子で受け答えする母は、神妙な様子の鍋島を見て気を引き締める。

 

「見た感じ、アンタじゃ無さそうだし。この家に今、他に誰かいるのかい?」

 

「えっと、息子が一人いますが。……あの、うちの子が何か?」

 

「いや、別にその子が何か悪さをしたって訳じゃないんだが。ちょっと会うことはできませんかね?」

 

「はぁ……?」

 

 不可解そうにしながらも何を困ることでもなし、息子の刃を呼びつける。そして廊下の奥から、オモチャの刀を手にした子供が姿を表す。

 その少年は何の変哲もない、普通の男の子にしか見えなかった。

 

(うーん……仄かに気を纏ってはいるが、さっき感じた爆発的な気の持ち主には見えねぇな)

 

 そう、今回鍋島が宮本家を訪れたのは単なる偶然だった。たまたま近くを散歩していた時に、全身に鳥肌が立つ程の強力な気を感じたからだ。住宅街が立ち並ぶこの地域で、誰か達人級の人物が戦闘でも始めたのかと慌てて駆けつけてきたものの、いざ着いてみれば戦闘の跡など微塵も無い。分かるのは、その強力な気の残滓がこの家から漂ってきていたということぐらいだ。

 

 あの時感じた気の爆発とも呼べる強大な力の波動は、全盛期の己に届きうるものがあった。しかし発生源と言える家に居るのは、武術など嗜んでいないごく普通の奥さんと、僅かにだが体に気を纏わせる子供だけである。しかしこの子供がその気の正体では無いとは、断言できずにいた。なぜなら鍋島自身も、子供ながらに大人顔負けの力を持つ子供を既に一人知っていたからだ。その名は川神百代、師である川神鉄心の孫娘。丁度目の前にいる少年と同い年ぐらいの少女で、後に武神の称号を得る事になる天才である。

 

「凄い、本物だ……!?」

 

 だが、母親と全く同じリアクションをとるこの子供からは、百代には感じた天才性が見てとれなかった。

 訝しげにしながら、鍋島は質問する。

 

「よぉ坊主、俺は鍋島ってもんだ。お前の名前は?」

 

「ぼ、ボクは宮本刃って言います。刃物の刃と書いて、ジンです」

 

「刃か……。カッコいい名前じゃねぇか。そんじゃあ刃、お前は何か武術はやってるのか?」

 

「武術ですか?その、趣味で居合を少しだけ……」

 

「(居合ってまさか、そのオモチャでやるのか?)……なぁその居合、いっちょ俺に見せてくれねぇか?」

 

 玄関口で鍋島は物は試しと、趣味でやっていると言う居合を披露してもらおうとする。刃は戸惑いつつも、テレビで見た事のある鍋島の言う通りに居合の構えをとった。

 

「な…ん…じゃあそりゃあ……!?」

 

 その姿は、あまりにも先程までのイメージとかけ離れていた。一切の隙のない構え、気配の鋭さ、そして何よりもこのまるで飲み込まれてしまったと錯覚してしまう程の気の奔流。天才性は感じない?冗談ではない。目の前にいる少年は、紛れもない金の卵であると。

 知らず知らずのうちに口角が上がる。とんでもない逸材を発見してしまったのだと。

 

「……わかった。もう十分だ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。よーく分かったぜ」

 

 構えを解いた刃に目線を合わせるようにしゃがんだ鍋島が、笑いながら提案する。

 

「なぁ刃、武術は好きか?」

 

「はい!めちゃくちゃカッコいいし大好きです!」

 

「そーかそーか。ならよぉ、俺の弟子にならねぇか?お前なら最強になれるぜ」

 

 と、言いつつも鍋島の中では、刃を弟子にとって鍛えることは最早確定的であった。この才能をこんなところで埋もれさせるのは、あまりに勿体ない。今から鍛えれば、将来は四天王として名を連ねるのも夢では無いと確信する。

 

 しかしそんな鍋島の期待とは裏腹に、刃の答えは違っていた。

 

「結構です」

 

「……何だって?」

 

「いやだから、弟子になるのは結構ですって言ったんですけど」

 

「な、なにぃ!?だってお前、武術好きだって言ったじゃねぇかよ!」

 

「確かに言いましたけど、それは見るのが好きなのであって、別にやりたいとは思ってないです」

 

 ひどく冷めた目でそう宣う刃を、鍋島は信じられないモノを見るような目で見やる。

 

「ならおめぇ、その見事な居合は何だ!?一眼見りゃあ分かる、あれは一朝一夕で身につくモンじゃねぇ。確かな研鑽が見てとれる程の見事な技だった」

 

「褒めて貰えるのは嬉しいですが、別にこれは誰かに見せようとか強くなろうって意図で覚えた訳じゃなくて、ボクがカッコいいと思ったからやってるだけです。だから正直、他人の評価とか心底どうでもいいんですよね」

 

 その考え方は、幼いながらにして自身の価値観をしっかり確立させていた刃の本心からのものだった。居合を練習するのは、自分がカッコいいと思うから。格闘技を観賞するのは、自分がカッコいいと思うモノを見たいから。

 だがしかし、刃が何よりも武術家になるのを嫌がる1番の理由は──

 

「それにボク、痛いの嫌いなので」

 

「お前……それでも男の子か?」

 

「何と言われても、嫌なモノは嫌です!」

 

 そのあまりにも子供っぽい理由に呆れ返る鍋島。年相応と言えばそうであるが、同じ男として情けなくて仕方なくなる。

 

「そう言わずにお試しでも良いからよぉ、一回やってみようぜ?な?」

 

「だから嫌ですってば」

 

「そこを何とか!」

 

「いーやーだー!」

 

「……あのぉ、長くなるようなら上がっていきます?いつまでも玄関いるのもアレなのでぇ」

 

 すっかり空気となっていた刃の母は、押し問答を繰り返す鍋島にそう提案する。

 その後、結局刃は鍋島の弟子になる事を拒否したものの、将来自身の運営する学校に入学するよう、熱心に勧誘されるのであった。

 

 

 

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