まさかランキングに載るとは思ってなかったので、今朝見た時は眠気が一気に吹き飛びました。
これだけ期待されるとプレッシャーが凄いですが、あと数話、頑張ります。
東西交流戦は、川神市にある工業地帯で夜に行われていた。噂通りに行われたこの東西交流戦は、かなりの大規模で開催されることが決まり、一部メディアで放送される事態にまで発展している。
各学年から200人を出し合い、敵大将を討ち取った方が勝利する集団戦、三本勝負。東の川神学園。西の天神館。互いのプライドをぶつけ合う決闘は、2本目の勝負を終えた時点で、川神学園の勝利で終わると目されていた。
一回戦。一年生同士の戦いは天神館の勝利に終わった。川神学園に所属する、“剣聖”黛十一段の娘、黛由紀恵の活躍により序盤から中盤は終始優勢に進んだ。一時は大将の目前まで迫られたが、何を血迷ったのか突然飛び出してきた川神学園側の大将を袋叩きにするという結果で、呆気なく終わる。
二回戦。二年生同士の戦いは、今度は川神学園が勝利する。戦いが始まる前の下馬評では、天神館が誇る西方十勇士が全員所属する二年生故に、川神学園側の勝ち目は薄いとされていた。しかしいざ始まってみれば、十勇士達は次々に討ち取られていき、最後には大将である石田が、空から降ってきた源義経を名乗る少女に切り捨てられたのだった。
ここまでの戦績を比べれば、互いに一勝一敗で均衡しているように思えるが、ではなぜこの時点で川神学園側が勝利すると目されているのか……それは、残った三年生の部に“武神”が所属しているからだった。
川神学園所属、川神百代。武神と名高い彼女がいるからこそ、周囲では戦う前からもう勝負はついているとまで言われている。
しかし周囲から何と言われていようと、天神館の三年生達は負けを覚悟で挑んでいる者なぞ一人もいなかった。
「ついにこの日がきたな……」
各陣営で戦いの準備を進める両者。天神館陣営で準備を進める三年生達は、直に相手になる武神との戦いを前に、戦意を燃え滾らせていた。それは天神館の三年生達だけに留まらない。この三回戦に限り、天神館側は大量の助っ人を味方に引き入れることが出来たのだ。その数は規定人数の三倍、有に600人以上である。これは川神学園側も承諾済みであり、武神を相手するにはそれぐらいでなければ相手にならないという余裕の表れに他ならない。
しかし、その態度に反感を抱く者は一人もいない。皆分かっているのだ、今から戦う事になる存在が、途轍もない強敵であるということを……。
「二年生達が負けたのは想定外だったが、問題ない!私達が勝って、天神館に勝利の凱旋をするぞー!!」
【おおーーー!!!】
気合充分、拳を突き上げて、気持ちを一つにする一同。
一団の先頭に立ったリーダー格の男子生徒は、その光景を見て安心する。ここまで共に切磋琢磨してきた仲ではあるが、事ここに至って怖気付いている者は一人もいない。鼓舞し合う者、緊張を解す為に頬を叩いて気合いを入れる者など、各々が戦いに備えていた。
助っ人で呼んだ外部戦力の方々とも、関係は良好。これならば、練習通りの実力を発揮できると確信する。
そこでふと、気になるモノが目に入る。それは、今回学長の推薦で大将の役をする事になった宮本刃であった。
昨夜の二年生同士の対戦。それだけではなく、勿論一年生同士の対戦でも、刃はその光景を食い入るように見やり、終始テンション高く騒いでいた事を思い出す。あの生徒が凄いだの、この生徒は残念だのと、隣に座る生徒に話しかけてはウザがられていた。
しかし今の彼は、一人一団から一歩引いたところで、暗い表情で佇んでいる。その様子は、昨夜のはしゃぎようからは想像できないほど静かなものであった。
士気は問題ない事を確認した三年生のリーダーは、一人寂しそうにしている刃の元へ向かう。
「どうしたんだい宮本君?随分と暗いな、昨日まではあんなに元気そうだったのに……」
「ん……?何でも無いよ、心配しなくていい。……ただちょっと、不安なだけだから」
それを聞いて、──ああそうか、と考えもしなかった彼の心情を察する。
「そうか……。確かに大将の君は、私達よりもずっと強いプレッシャーに晒されているのだろうな」
ずっと勘違いしていた。天神館にいる間、大将役になった彼を見て、これで無理矢理に練習に参加させられなくてすんで、彼も安心しただろう、と。お門違いも甚だしい。宮本君は安堵したのでは無い、私達なんかよりも、ずっと重い役目に就かされたのだ。
心の中で刃に対して謝罪すると同時に、リーダーの男子生徒は、今できる精一杯の励ましの言葉を送る。
「不安に思うことなんて何も無いさ。宮本君も見てただろう、頑張って
「…………」
励ましの言葉を送るも、効果は見られない。むしろ、より顔が険しくなったようにすら感じる。だが、何時までも刃に時間を割いている暇はない。開戦の時刻が迫ってきていた。
「心配するな、大丈夫。私達はきっと勝てるよ」
「……あぁ、ボクもそう願ってるよ」
最後に言葉残して去っていく後ろ姿を眺めながら、刃の心の曇りは、依然として晴れることはなかった。
∞
「さて、と。いよいよ始まったか」
最終決戦である三回戦が始まる時、大将である刃は、既に一人遠くに避難していた。だが、どこか狭い場所に隠れ潜むつもりは毛頭ない。それではせっかく楽しみにしていた今回の戦いが見ることができないのだから。潜伏場所は、戦いが一望できる高所が望ましい。
刃は戦闘の余波が及ばない離れた鉄塔に登り、戦場を見渡す。
まず一番初めに目に飛び込んできたのは、今日ここに至るまでずっと観察し続けてきた仲間達の連携技だった。その名も『天神合体』。ネーミングそのままに、彼らが合体し巨大な一つの生物となる奥義である。
数百人が連なることで完成する巨人の異様を改めて見て、妙技と謳われるだけの威圧感があると実感した。その巨体は、戦場である工場地帯を覆うほどであり、並の相手なら腕の一振りでペシャンコだろう。
けど、今回ばかりは相手が悪い。
タラリと一筋の冷汗が頬を伝う。仲間達が対峙する相手、川神百代のその圧倒的な闘気に、刃は確信する。
──あれは……勝てない。
彼我の距離は、常人では豆粒にしか見えないほど離れているが、刃の目には確と見て取れる。その武神と呼ばれる川神百代、その少女の実力が。
「やっぱ映像で見るのと、生で見るのとじゃ迫力が段違いだ」
誰もが知るレベルで有名な百代の事は、もちろん武術マニアとまで呼ばれる刃が知らないはずもない。昔の決闘から、過去川神学園で行われた特別行事、川神大戦の映像も視聴済みである。だが、映像だけでは見て取れない、その身から溢れ出る気の大きさは、数百人の集合体である仲間達をたった一人で凌駕していた。
楽しそうに獰猛に笑う百代。圧倒的質量を前にしても、一歩も怯んだように見えない。技が完成するまで、律儀に待っていることからも相当な自信が伺える。正しく、強者の余裕と言えるだろう。
両者、出方を伺うように動かないが、先に動いたのは天神館の生徒達であった。その有り余る巨体を生かした質量攻撃で、押し潰そうとする。
それに対して百代は、正面から打ち破ろうと身体に力を込め、掌に眩いばかりの気が凝縮する。その出力は、刃が過去目にしてきたどの武人よりも強力で、とても同じ人間がやっている事とは信じられなかった。
そして、溜められ放たれた気弾は、巨大な生物として結合していた仲間達をあっさりと打ち抜く。断末魔をあげて、合体が崩れていく。百代の放った一撃は、彼らの努力の結晶を容易く打ち砕いたのだ。
「すげぇな……」
仲間達が容赦なくやれる光景。それを目にしながらも刃の感情は、素直な気持ちを思わず言葉にしてしまう。もしこの場所がバレれば、あの攻撃が此方に向かって放たれるかもしれない。分かっている、今や余裕など微塵も無いことなど。だが、それでもと、目を輝かせながら思ってしまうのだった。
「ぐわぁー!」
「なんだ!?」
鮮烈な光景を目にした余韻に浸っていたところ、そこに先程の攻撃の余波で吹き飛ばされた仲間の一人が、刃目掛けて吹っ飛んできた。思考を中断して、慌てて受け止める。そいつは、いつの日か刃に話を振ってきた、男子生徒だった。
「おい大丈夫か?」
「お、おぉ……宮本か、全然大丈夫……だ、ぜ……」
「まったくそうは見えないんだけど」
全身ボロボロで今にも気を失いそうな彼は、見るからに分かる痩せ我慢を披露する。彼の惨状を目にした刃は、いよいよリタイアする時間が来たな、と心に思っていた。
しかし、そんな刃の心中など全く知らないその男子生徒は、しがみ付きながら最後の希望を託す。
「逃げろ、宮本……。ハァハァ……お前さえ無事なら、俺達の負けには、ならない。
体勢を……立て直し……て──」
体力の限界だったのだろう。最後まで言い切ることなく、彼の意識は途絶えてしまう。
威勢の良い男子生徒を抱き止める刃は、彼の最後まで諦めない精神力に驚愕するのだった。
「何でお前らは、そんなに頑張れるんだよ……」
それは、刃には無いモノであった。
天神館にいる間、ずっと見てきた。天神合体を成功させる為、何度も何度も転げ落ちて怪我をする彼らを。痛かったはずだ、しんどくて、苦しくて、ちっとも楽しそうには見えなかった。なのに、誰一人として諦める者はいなかった。
漸く成功させた技も、先程いとも容易く破られてしまったと言うのに、彼は折れなかった。いや、折れていないのは彼だけでは無い。倒されてしまった天神館の仲間達の中で、勝負を諦めている者なぞ一人もいないのだろう。
──ああ、それは何とカッコいいモノなのだろうか。
心の底から、そう思った。
刃は思う。本来なら、リタイアすると決めていたタイミングだ。だが、その選択肢はもう無い。彼らの練習を見ている時に、ずっと感じていた違和感、その正体が漸く分かったからだ。
カッコ悪いと、感じたのだ。誰一人諦めていないこの状況で、何の努力もしていない自分の勝手な都合によって彼らを負けさせる事は、この上なくカッコ悪い、と。
抱き止めていた彼を丁重に下ろし、重い腰を上げる。
刃の目には、かつて一度も宿った事ない戦意が迸っていた。
話の展開が急すぎて情緒が無いかなぁと不安に思いましたが、短編なのでテンポ良くいこうと思います。