真剣で居合ってカッコいい!    作:優柔不断

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五話 最も強き者

 

 

 

 東西交流戦、三回戦目が開幕してから30分程たった頃。川神学園が本陣を構える場所にて、一人の少女が暇を弄んでいた。

 

「んー久しぶりに思いっきり戦えたのはスッキリしたけど、こうも待ち時間が長いとなぁ」

 

 長く艶やかな黒髪、スラリと伸びた手足に豊満な体つきで、既に女性としての魅力を兼ね備えている、非常に整った容姿をしている彼女こそが、“武神”として先程天神館を蹂躙した川神百代、本人である。

 

 天神館の生徒達を蹴散らした現在。川神学園の生徒達は、生き残りの残敵掃討の為に、百代と数人の非戦闘員の生徒以外全員が出払っている。今回の三年生の部での戦いは、皆の同意があった事とはいえ百代一人に全て手柄を持っていかれたようなモノ。残った敵の殲滅くらいは、と張り切って出陣していった。

 

 しかしそうして出ていってから30分も経つものの、大将を討ち取ったと言う勝ち鬨の声は上がってこない。確かに、天神館側の戦力は600人以上の大群だ。天神合体による密集によって、百代に一網打尽にされたとは言え、その数はかなりのもの。しかも戦場となっているのは夜の工場地帯と、お世辞にも見通しの良い場所とは言えない。索敵には手間取ることになっているだろう。

 だが川神百代という少女は、元来そこまで気の長い質ではない。現状は大技を放てた満足感から大人しくしているが、あまり長く待たせ続けると、倒れている天神館の一人一人にトドメを刺して回るかもしれない程である。

 

 そんな焦ったそうにしている百代に、非戦闘員でありながら東西交流戦に参加した一人の男子生徒が、諌めるように言葉をかけた。

 

「落ち着け川神。少しは矢場達にも出番をやらなければ、不公平というものだろう」

 

「相変わらず京極は硬いなぁ。もう少しハメを外しても良いと思うぞ」

 

 同級生でありながら、自分とは違い大人の雰囲気を醸し出すその青年に、百代は辟易とした態度をとる。

 

 その青年の名は『京極(きょうごく)彦一(ひこいち)』川神学園の三年生で、言霊部という部活の主将を担っている。彼の服装は皆が制服の中ただ一人の着物であり、その眉目秀麗な顔立ちもあって、百代に負けず劣らずの存在感を放っていた。

 

「あーあ、暇だなぁ。こんな事ならあっさり倒すんじゃなくて、もっと楽しんでからブッ飛ばすんだった」

 

「ふむ。お前には珍しく、初手から大技で決めにいったかと思えばこれか……」

 

 京極は、まるで幼児のように駄々をこねる百代に、呆れたような目をむける。

 百代には、悪癖と言うべき戦い方の癖があった。それは最初から全力を出さず、スローペースで戦いのギアを上げていくと言うものである。この悪癖は、絶対的な力を持って生まれてきたことと、戦闘狂である自身の性格も相まって生まれたものだ。

 これに関しては、周りから是正するように促される事もあるが、改善の兆しが見える様子はない。

 

「──ん?」

 

 それに最初に気づいたのは、地面に座り込んで暇だ暇だ、と騒いでいた百代だった。

 

 川神学園が陣地を敷く場所は、工場地帯の中でも建物が無く広々とした空間だ。その真正面。障害物がなく、まっすぐな道が続く場所を一人の男が歩いてきている。

 その服装は川神学園の物では無く、天神館の物。つまりは敵であった。左手に刀を持ち、足取りは軽く、まるで散歩でもしているかのように本陣まで一直線に向かってくるその男を見て、百代は立ち上がる。

 やがて本陣までたどり着いたその生徒は、百代を見詰めながら確かめるように質問する。

 

やっぱり(・・・・)、キミが大将なのかな?川神百代」

 

「ああ。いかにも私が大将だ」

 

 得意げにそう言い放つ百代とは対照的に、天神館の生徒は疲れたように溜息を吐く。

 

「……ボクの名前は宮本刃。天神館の大将だ」

 

「へぇー……。一人で敵陣に乗り込んでくるなんて、大した度胸じゃないか」

 

 大将として名乗りを上げた生徒、刃は睨みつけるようにして眼前の百代を見据える。対する百代は腕を組み、いかにも余裕と言った風に応えた。

 刃が来たことで、戦闘が始まると予感した非戦闘員組は、素早く二人から距離を取る。その最中京極は、刃がこの場に現れたことに言い知れぬ違和感を抱いた。

 

(奴はいったい、何処から現れた……?)

 

 それは勿論、正面からである。しかし、そんな事は京極とて承知している。問題なのは、刃がどうやって正面からやってこれたのか、その一点だった。

 現在、川神学園三年生の中から選び抜かれた武闘派の生徒達が、周辺を隈なく探索中であったはずだ。本来なら見通しの良い正面を通って、刃が誰の邪魔も受けることなく本陣に向かうことなど、不可能なはずである。

 嫌な予感が、脳裏を過ぎる。

 

「キミ、今すぐ出払っている者達に連絡を取るんだ」

 

「え?は、はい!」

 

 京極はすぐさま側にいた女生徒に、他の生徒達と連絡を取るように指示を出す。突然の事に最初は驚いた女生徒だが、すぐに言われたように連絡用のトランシーバーで呼びかける。だが、その呼び声に応える者は、一人もいなかった。

 

「あ、あの京極君」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「何かあったと言うか、その誰も通信に応じてくれないの……」

 

「なんだと?」

 

 おかしい、そんなはずは無いと再確認するも、帰ってくる答えは同じ、応答されることはなかった。

 連絡用のインカムを渡されているのは、この場に残る非戦闘員の3名と、百代を除いた186人の生徒達を率いる10人の分隊長達だ。各人が運動系の部活の部長を務める武人であり、確かな実力を兼ね備えている。

 連絡が取れない可能性として考えられるのは、此方の持つトランシーバーが壊れているのか、もしくは分隊長達の持つインカムが一斉に故障しているかのどちらかだろう。可能性として高いのは前者である此方の持つトランシーバーが壊れていると言うことだが、見たところ壊れているようには見受けられない。

 

 いったいどう言う事だと、各人が散らばった工場地帯に目をやる京極。だが、どれほど見つめようとも答えは分からない。返ってくるのはただ一つ、静寂(・・)だけであった。

 

「……静かすぎる」

 

 しかし、ふとした瞬間に京極は気づくことができた。周囲が静かすぎるのだ、不自然なほどに。

 そう、それはあまりにも当たり前であり、ごく自然と無くなったことで気づかなかった違和感。

 今行われているのは東西交流戦。合戦である。なのに、それによって起こるであろう喧騒は、全く聞こえてこない。足音、話し声、息遣い。聞こえてくるはずの音が何一つ聞こえてこない現状は、あまりにも異質すぎる。

 これではまるで、この工場地帯から人が消えてしまったかのようであった。

 

「川神!気をつけろ、何か様子が変だぞ」

 

「京極?どうしたんだ急に?」

 

 現状の不審さを感じ取った京極は百代に注意を促すも、それを彼女が汲み取った様子は見られない。視線を戻し正面に立つ男を改めて注視するが、差したる脅威は感じることはできなかった。

 

 黒髪黒目の短髪に、背は170前後と標準的。体付きも割と筋肉がついている方ではあるが、無いよりマシと言う程度。至って平凡的な、地味な男子生徒であった。

 何か武術を嗜んでいる可能性もあるが、刃が此方に向かって歩いてくる所を見るだけでも分かる。目の前の男が、武道を嗜む者なら存在する特有の足取り、しっかりとした体幹が見受けられない。ド素人のそれであった。唯一目立つ箇所があるとするならば、刃が身に纏っている気の膜が常人と比べると少し多いぐらいである。だがそれも、百代からすればドングリの背比べと同じだ。

 

 目立った外傷が見受けられない所を見るに、恐らく先程倒した天神館の生徒達の中に、彼は存在しなかったのだろう。

 そこから考えられる可能性としてあるのは、一人後方で待機していた大将が、観念して潔く最後は一対一の勝負を挑んできたということ。強くは無いが、腰抜けと言うわけでもなさそうだ、と百代は笑う。

 

「いいぞお前、その心意気は買ってやる。ハンデとして先手は譲ってやろうじゃないか」

 

「……じゃあ、ありがたくそうさせてもらうよ」

 

 百代の申し出を聞き入れた刃は、言われた通りに攻撃態勢に入った。

 左手に持った刀を腰元に置き、右手を添える。右脚を曲げ、左脚を伸ばし、上体を下げる。その態勢はまるで、陸上のクラウチングスタートのようであった。

 

 空気が変わるのが、分かる。

 

 今まで場の空気を支配していたのは、完全に百代であった。しかしそれは、たった今塗り替えられる。目の前の男から、尋常では無い量の闘気が溢れ出したからだ。

 空気がひりつき、汗が滲み、水分を欲した喉は生唾を嚥下する。

 

 百代は重大な勘違いをしていたのだと、事ここに至って漸く理解する。目の前に立つ男は、宮本刃は、弱者などでは決して無い。

 その鋭利に研ぎ澄まされた(やいば)を巧妙に隠し、敵の喉元を切り裂かんばかりの鋭い眼光は、正しく自身と同じ壁を超えた、達人の領域だ。

 

 歓喜に打ち震える。握り締めた拳からは、メキメキと音を上げ、限界まで引き上げられた口角は、その美しい顔を凶悪に彩る。

 

「最っ高だぞ……お前……!」

 

 ただの消化試合だと目していた勝負が、極上のデザートへと変貌した今、百代の中の本能が警報を掻き鳴らすのと同等に、思わぬ強敵の出現に感謝した。

 百代も対抗するように全身に気を巡らせる。体勢を整え、来るであろう強烈な一撃に対して万全の姿勢を整えようとするが……。

 

 だがそれは、あまりにも遅すぎた。

 

 何故ならば、それは、刃はもう既に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──構えている(斬っている)のだから。

 

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 それは今まで黙って状況を見守っていた非戦闘員の男子生徒の一人が、思わず発した声だった。

 訳がわからないと言わんばかりに、その顔には困惑が満ちている。彼だけでは無い、同様に見守っていた京極達3人全員が、何が起こったのか理解できていなかった。

 

 気づいたら、それは終わっていた。

 

 気づいたら、刃は百代の後方にいた。

 

 気づいた時には、最強(百代)は倒れていた。

 

 チャキン、と刀が納刀される音が木霊する。

 構えを解いた刃は後ろに振り向き、状況を確認した。そこにあるのは、仰向けで気絶している百代という現実だった。

 

 10秒、20秒とその静寂は続き、やがて刃はその右手を高らかに掲げ、宣言する。

 

「大将、討ち取った」

 

 東西交流戦。その結末は、天神館の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、お主の言っておった若者かの?」

 

 東西交流戦が開戦している工場地帯から少し離れた高層ビルの上で、事の成り行きを見守っていた人物が二人いた。一人は天神館学長、鍋島正。もう一人は川神学園学長の川神鉄心であった。

 鉄心はその長く蓄えられた白髪の髭を撫でつけながら、その光景を目に焼き付ける。

 

 開始早々にして壊滅的被害を被った天神館側の残す戦力は、大将である宮本刃、ただ一人だった。最早、勝負は決したものだと思ったが、それは早計であったと言わざるを得ない。

 何故ならばその残された戦力が、自身の孫娘同様に一騎当千の力を持つ存在だったからだ。

 

 刃は、仲間達が倒された後にすぐさま行動を開始した。倒れていた仲間達が持っていた刀を拾い上げ、討ち漏らした敵を叩くために迫ってきた川神学園の生徒達を、目にも止まらぬ速さで斬り伏せていったのである。

 その姿は、側から見るだけでは何が起きているのか皆目見当がつかない程に不可思議なものであった。刃の側に近寄った者たちは、皆悉く倒れていく。そうして、散開する敵勢力をしらみ潰しに探して回った刃は、総勢196名の生徒達を30分足らずで全て倒してしまったのだ。

 彼が何をしたのか、それは歴戦の武道家である鉄心をしてもハッキリとは目にできてはいなかった。だが、何をしたかは分かる。

 刃は全く構える事なく、無造作に抜き放った刀で斬り捨てたのだ。常人ではとても認識できない程のスピードで。

 

 末恐ろしい、と鉄心は感じた。あの若さにして、いわゆる一つの技の極地に辿り着いている。

 

「実に恐ろしい弟子を育てたのぉ」

 

「ふっ。弟子なんて大層なモンじゃねぇよアイツは。俺がアイツに教えてやった事なんて、一つもねぇからな」

 

「なんと!?では彼奴の技は全て我流か?……ますます末恐ろしいのぅ」

 

 改めて驚嘆の意を表す鉄心を他所に、鍋島は嬉しそうにしながらも、悔しさに歯を食いしばっていた。

 そう鍋島が刃にしてやれなかった事、それは彼の全力をぶつけられる存在を育てられなかったことだ。実はこうして、刃が誰かの為に刀を手に取ったのは初めてでは無い。過去に一度、川神大戦に似せた行事を天神館で取り行った時に、その力を振るったことがある。しかしそこで出された力は全力とは程遠く、先程までの光景同様、何をされたのか全く理解できないうちに刃の属する陣営が勝利して、その戦いは終わってしまった。

 その時に感じたのだ、天神館(ここ)ではダメだろうと。

 

 今回の東西交流戦を企画した理由。一つは師である鉄心に、自分の育て上げた生徒達を自慢する事。

 もう一つは、今から繰り広げられる百代との対決で、刃の本気を引き出す事だった。刃の才能を、更に上の段階に引き上げるために。その目的は、無事に達せられた。

 

 荒れ狂う気の嵐を掻き消すようにして、もう一つの気の嵐が出現する。刃が百代との戦闘を開始したのだ。

 待ちに待った光景を目にし、鍋島は横で目を見開く鉄心に言い放つ。

 

「どうだ師匠?強ぇーだろ、俺の生徒は」

 

 刃は、最強に勝利するのだった。

 

「これは……驚いたのぅ。この歳にしてまだ驚くことがあるとは……。まさかモモが負けるとは思っとらんかったわい」

 

「悔しいか?」

 

「いや、モモには良い薬になるじゃろう。この敗北は、いつか必要な物であったからな」

 

 しみじみと、そう呟く鉄心からは教育者としてよりも親としての側面が大きく現れていた。鍋島も、自身の孫を当て馬にされたことを鉄心が怒っていないことに安堵する。

 

「む?こりゃいかんの」

 

「おいおい、教育がなってねぇんじゃねぇか師匠?」

 

「うるさいわい!まったく困った娘じゃ」

 

 突如、話を弾ませていた二人は飛び降りるようにして、工場地帯に飛んでいく。

 

 聞き分けのない、きかん坊が目を覚ましたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いに勝利した刃は、やり遂げた達成感から頬を緩ませていた。

 

「ふぅ。……これでカッコがつくなぁ」

 

 心の中で思った、勝利するために諦めないという誓いは見事に果たされ、実に晴れやかな気持ちであった。仲間達への義理も果たしたことだし、さっさとホテルに帰って休もうと、帰路に着こうとする。

 

 だがそれは、背後から放たれた特大の闘気によって霧散する。

 

「ッッ!?」

 

 飛び退くように振り返ると、そこには倒れていた百代が起き上がっており、その身から溢れ出る闘気を抑えつけることなく放出し続けていた。すると、その身を緑色の光が一瞬包んだかと思うと、実に楽しそうに百代は振り向く。

 

「やるなぁ!すっかり油断してしまったぞ」

 

「そりゃどうも。あのさぁ一応教えとくけど、この戦いはボク達の勝ちだよ?」

 

「ああ、だろうな」

 

 気絶していたせいで分かっていないのかもと思った刃は、丁寧に教えてあげるも、それは既に百代も承知していた。

 ではなぜそんなにも気を荒立たせているのか、刃には分からなかった。

 

「私達は負けた。だから、ここからは私の戦いだ!」

 

「なに?」

 

 刃には、百代が言っていることを理解することができなかった。

 だがそんなものは関係ない。百代の目に映っているのは、目の前にいる最高の遊び相手だけである。

 

 最強である百代の戦いは、周りに甚大な被害をもたらす。それは周知の事実であり、百代自身気をつけている事柄でもある。しかし、気をつけていても戦闘の余波で何かを壊すのは最早日常茶飯であり、気にしながら戦うのも億劫になってきていた。それに伴い百代は、鉄心から全力での私闘禁止令を出されたのだ。

 戦いが好きなのに戦えない。全力を出せば誰であろうと瞬殺してしまう。そういうジレンマの日々が、百代に少しづつストレスを蓄積していった。

 だからこそ、東西交流戦のような数少ない自身が遠慮せずに暴れられる舞台は貴重なのである。

 ましてやそこに現れたのは、最強の力を全力でぶつけても壊れそうにない、求めてやまなかった存在。

 

 百代には、我慢することなどできなかった。

 

「おいちょっと待て!こっちに戦闘の意思はないぞ!?」

 

「問答無用!『川神流・無双正拳ヅッー!?」

 

「『顕現の参・毘沙門天』!」

 

 闘争本能剥き出しに飛びかかってきた百代は、突如として出現した巨大な足で踏みつけられて、その暴挙を止められた。

 地面にめり込んだ百代と立ちすくむ刃の間に降り立ったのは、急いで現場に駆けつけた川神鉄心、その人である。

 

「な、なんだ?」

 

「よぉ、無事かよ刃?」

 

「鍋島さん!?」

 

 そして鉄心同様に駆けつけた鍋島は、刃の隣に寄り添うように現れる。急転する事態に目を白黒させる刃だが、まだ終わったわけではない。百代を抑えつけている巨大な足が、粉々に砕け散ったのだ。

 

「ジジィ、邪魔するなよ」

 

 穴の底から這い出てきた百代は、憎たらしげに自身の祖父を睨みつける。明らかに尋常ではない攻撃であったはずなのに、それが全く効いてない百代を見て、刃は改めてその化け物っぷりに肝を冷やす。

 しかし、その凄みにビビっているのはこの場で刃ただ一人。孫娘の我儘など今に始まった事ではない鉄心は、臆することなく叱りつけた。

 

「喝ッ!!!」

 

「イテェ!?」

 

ゴギンッ!、と明らかに人体からでないであろう音が、拳骨を振り落とされた百代の頭から鳴り響く。

 

「油断して負けただけに飽き足らず、無抵抗な者に襲いかかるとは何事じゃ!」

 

「だ、だって」

 

「だってもへったくれも無いわい!お前は精神修行からやり直しじゃ!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

 そう叫んだ鉄心は、百代の襟首を掴み夜空へと投げ飛ばし、その後に続くようにして自身も飛んで行ったのだった。

 

「……何だったんだよ、いったい?」

 

 完全に置いてけぼりの刃は、一連の流れを白い目で見つていた。今日はただでさえ疲れたと言うのに、目の前で繰り広げられた人間離れした技の数々に、いつものように反応することができない。

 その刃の様子を見た鍋島は、労いの言葉を自慢の生徒に送る。

 

「よくやったな刃。見直したぜ」

 

「……全部、最初っから、こうなることが分かってたんですか?」

 

「まぁな。伊達に長ぇ付き合いじゃないからな、お前が戦いそうな理由は、少しくらい見当もつくさ」

 

 だがそれは、鍋島としても最後まで取りたくなかった手段とも言える。他の生徒も刃と同じ、大事な子供達だ。それを捨て鉢に使うような事や、刃を精神的に揺さぶるやり方などしたくは無かったと、心の中で一人呟く。

 だが言い訳するつもりはないし、謝罪するつもりもない。そんな半端な覚悟なら、最初からこんな事をやろうとは思わない。埋め合わせは、しっかりするつもりでいた。

 

 すっかり不貞腐れてそっぽを向く刃の肩に手を置き、此方に振り向かせる。

 

「……なんですか?」

 

「そういじけるなよ、とっておきの朗報を伝えてやろうってんだからよ」

 

「?」

 

「いいから、ちょっと耳貸せ」

 

 東西交流戦。3日目の夜をもって、これにて終了。

 

 翌日。世界はとんでもないビッグニュースを二つも聞く事になる。

 

「──!?」

 

 それはまた、刃を退屈させることのない、刺激的な毎日へと誘うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ
簡易版 技説明

居合・壱の型『無拍子』
一切の構えなく、ノーモーションで放たれる居合。
どのような態勢からでも放てるが、威力は低く、雑魚狩り専用。

居合・弍の型『???』
防御用の技

居合・参の型『一閃花』
前頭姿勢から瞬時に踏み込み抜刀する居合。
威力は高く、達人相手でも一撃で意識を刈り取ることができる。
射程距離は10メートル程。(練習していた家の庭が、10メートルほどしか無かったから)

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