エヴァのない世界の3年後   作:ヨスキ

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公園

 駐車場につくと、大きなバンがとまっていた。骨董品のような古いバンで、環境に悪そうな、これからギター片手に放浪できそうなバンだ。面白い車だけど、なんでこの車で来たんだろう。ケンスケの表情と全くあっていなくて、それがとても物悲しかった。

 とはいえ、この大きさなら全員が車に乗って移動できる。

 

「かぼちゃの馬車よ」

 リツコさんの意見を聞いても、不満げな表情は変わらず、アスカは腕を組んでそのバンをながめていた。顔を少しかしげて、さっきから今までずっと黙っている。

 ケンスケが黙って運転席に歩いていくと、それを目で追いかけていた。

 きまずい。

「さぁ、みなさまどうぞ。ご乗車くださいませ。」

 明るい口調でトウジが後部ハッチをあけると、座席が車の中心を向いて横ならびになっている。変わった作りだ。

 サクラさんが中を物珍しそうに見ていた。僕ものぞいてみた。

 気づくとアスカが僕の方をにらんでいた。僕が乗らないなら、行かない、ということなんだとすぐに理解した。僕は一瞬たじろいで、そのあとマリの方を目で確認した。

 口を結んで、眉を寄せている。でも許さない、というわけでもなさそうだ。ありがたい。

 僕は、後部ハッチから車にのって、助手席の後ろに座った。アスカが、対面に足を組んで座った。僕の隣にはマリが座った。黙っていた。

「赤木博士」

「なに?」

「なんでお兄ちゃん以外みなさんしゃべらないのに、意思疎通ができるんですか?」

「興味深いわね。」

 

「数分走らせると、大きな公園があったでしょ?そこがいいんじゃない?」

 リツコさんの提案で、車を少し走らせることになった。サクラさんの家の中だと、心を開いて話ができるのか、ということもあったし、少し走らせることで気持ちが少しでも落ち着くのなら、と賛成した。

 車内で、僕はさっきの階段ホールで僕がアスカにしたことを思い出していた。

アスカは窓から外の世界を見ていた。

 

 

 

 僕の手の中で、アスカが腕を畳んでまっすぐ僕のことを見つめている。アスカの目の色は奇麗な青い海の色だった。キラキラと潤んでいた。

 気づくと僕は、アスカの両肩を強く握りしめていた。僕が顔を近づけると、アスカは目を閉じ待っていた。その顔が美しくて、泣きたくなった。

 アスカが何を求めているか、自分がどうしたいかよくわかっていた。

 僕たちの顔は、だんだんと近づいた。いつか一緒に住んでいた時に、部屋で同じように顔を近づけたことがある気がする。

僕の顔はアスカの顔の左側を通り過ぎて、何もせず静止した。僕は彼女の肩を抱いていた腕に力を込めて抱きしめた。彼女の眼は閉じたまま、ただ眉間にしわを寄せて怒っているのが、体を通して分かった。

 離れようとするだろう体を逃がすまいと、肩を抱いていた手を上から背中側にまわし直して、彼女が着ていた服を強くつかんだままさらに抱きしめた。彼女の腕はたたまれたまま、彼女の細い腰が曲がっていくのを感じた。

 アスカは歯を食いしばって、お互いの間に畳んでいた腕を強く押して、僕を突き放そうとした。

 僕は服をつかむ力を強めて、決して離さなかった。

 アスカはさらに力を込めて、体全体で僕を拒絶して体を突き放そうとした。それでも僕は離さなかった。バランスを崩して、二人が一緒になったまま、僕は背中を壁にぶつけた。

 

「離してっ。」

 

 怒気を含んだ小さい声で言った。

 

「アスカ聞いて」

 

アスカは腕と足に力を入れて僕の体を離そうと暴れていた。僕は背中を壁にもたれかけたまま、力を抑え込もうとさらに力をこめていたから、体全体が衣擦れのような音がしたが、僕と彼女の距離は変わらなかった。今ここで伝えないといけないと思った。

 

「お願い聞いて。」

 

声が大きくならないよう、それでも彼女に伝わるよう、力をこめて慎重に話した。

 

「アスカのことが好きだ。アスカの幸せを少年の時から大人の今も願ってる」

 

「離せっ。」

 

アスカは暴れていた。本当は泣き出したかったが、もう泣くわけにはいかない。

 

「マリが好きだ。ケンスケも、トウジも、アヤナミも好きだ。みんなが笑って生きて、笑って死んでいけることを願ってる。みんなが笑ってくれたら、僕が笑って生きていける。死ぬ瞬間まで笑ってほしい。僕はみんなの笑ってる顔を想って死にたい。」

 

 早口でそういった。自分の力がこもっていく感覚があって、自分自身の感情に飲まれそうだった。僕との間にあったアスカの腕は抜け出して、拳を作って僕の背中を叩いた。足は力なくバタバタとしていたが僕を蹴ろうとはしなかった。ただ、子供の用に抵抗していただけだ。

 僕は右手で暴れるアスカの左腕を、僕を叩こうとした左手首を下からつかんだ。アスカの手は抵抗して震えていたけど、そのまま動けなくした。

 その手から抜け出ようと、覆っている僕の体から抜け出ようと暴れたけど、僕は離さなかった。

 僕の鼻がアスカの首筋に触れていた。

 

「離してっ!」

 

「アスカの気持ちにこたえたい。アスカが好きだと何度も言いたいけど、僕にはマリがいて、

アスカにはケンスケがいる。マリが好きだ。いつも君を傷つけていた気がする。不甲斐ない僕でごめん。」

 

 今まで生きてきた中で最も多く話した気がする。まとまりのない、伝わるかわからない正直な本音を。少年の時は、口数少なく話せたはずなのに。大人になったら、大事なものをとりこぼすまいと、あれこれと言い訳のように話をしてる。きっとそれで余計に何かを取りこぼしている。少年の時はそれが嫌で黙ったり、表面だけ取り繕っていた。

 いつのまにか閉じた目の内側で、昔のことが思い出された。

 笑うアスカ、怒るアスカ、照れるアスカ、泣くアスカ、・・・

 お弁当を食べてくれたこと、寝ている唇を奪おうとしたこと、呼吸を合わせてダンスをしたこと、一緒に戦って戦果を上げたこと、キスをしようと言われキスをしたこと。

 僕が手をかけたアスカの首を思い出した。現実じゃないミサトさんの家で。赤い海の浜辺で。そのことを思うと怖くて余計に腕に力が入った。

あの時アスカは、僕に向き合ってくれた。拒絶の言葉を言われて傷ついたけど、アスカだけが僕の前に現れてくれたことを思い出した。僕が絶望して首に手をかけたのに、僕の頬に手を添えてくれたアスカ。

 あの時と同じように、僕は自分をなぐさめるために、アスカを傷つけているのかもしれない。

 アスカの動きを無視しているのに、あの時とは違うんだと、矛盾した気持ちを抱えている自覚があった。

 もう一度同じ浜辺で会えた時には、アスカの幸せだけを願っていた。今も同じはずだ。

 

「アスカが好きだ。だけどごめん。」

 

 最後にそういった。そこでやめた。それ以上話すとまた自分が泣き出してしまいそうだった。僕が泣いて救えるのは僕だけだ。

 力を込めた震える腕でアスカを抱いていた。自分の荒い呼吸と、アスカの荒い呼吸だけが、暗い踊り場に響いていた。

 気が付くと、アスカは体の力を抜いていた。細い体がゆがんだまま、何かを待っていた。

 ハッとしてアスカの顔を見ると、首を右に傾けて固まっていた。目は半開きだけど、僕から視線をそらすようにしていたし、口は体の中にある魂の狭い出口みたいになっていた。

 僕が強く抱くから、足は爪先立のまま、硬直したようになっていた。肩で息をしていて、興奮で赤みがかっていた奇麗な首が見えた。アスカの匂いがした。

 奇麗な頬から、かしいでいる首を通って、浮き出た鎖骨が見えた。はだけたジャケットと、シャツから、左の肩と綺麗な肌が見えていた。美しくて、ドキリとして目が離せなくて、黙っていた。

 

「離して」

 

 小さい声でアスカがそう言った。

 

「痛い」

 

「あ、ご、ごめん。」

 

 腕を解いて、アスカをちゃんと立たせると、アスカは下を向いて腕を一回だけさすった。下を向いて髪がたれて、怒っているのか、泣いているのかわからなかった。僕を拒絶して走ってどこかへ行ってしまうかもと思うと不安になった。何かを言ってほしかった。

 

「アスカ?」

 

 そう声をかけても返事はなく、ただ小さく、フンと鼻をならしただけだった。

 何かを言いかけた時、下の階からマリの足音が聞こえた。

 

 

 

 バンを駐車場に止めてから7人で公園の中央まで歩いて行った。

 公園の中央には大きな広場があり、外側にベンチや、動物の姿をあしらった子供が座る置物が置かれていた。

 アスカがパンダの上に座った。脇に僕が立つ。トウジは、僕のことを気遣って、何も反応しないようにしてくれている。サクラちゃんが心配そうに見ていた。

 碇は離れて同じように黙っていた。

 アスカは僕と向き合おうとしない。

「アスカ」

「・・・何しに来たの?今日はあたしシンジの家に泊まるから」

 みんな黙っていた。

「アスカ話をしよう」

「いや」

 誰も口をはさめなかった。

 碇以外は。

「アスカ」

「なによ」

「僕たちはあっちのベンチに行くよ。」

「あっそ」

「心を開いて話をしなきゃだめだよ」

「子供扱いしないで」

 僕は碇に近づいて

「悪いな。」

と声をかけた。何について悪い、のか。ありがとう、を言い換えたものか。実際のところ嫉妬している相手に格好つけたいだけかもな、と心の中で自嘲していた。でも碇は言葉ではなく、笑顔で返してきた。本当に、僕の行動の全てを許してくれそうな、温かい笑顔だった。こういうところが、アスカが碇を好きなところなのかもしれない。碇は宣言通り、動物の置物から離れた、街路灯とベンチがあるところまで歩いて行った。僕とアスカ以外の4人も碇に続いていった。

「で、なに」

「アスカ、ごめん」

「なにが」

「なんやせんせも、大人になってもモテモテやなぁ。昔の女がかけこんできたで」

「おにいちゃん!」

「しゃれやて」

「相田君は何でケンカしたの?」

「・・・しらん」

「ちょっと教えてよ」

「しらんて。」

「うそ。ぜったいなんか相談受けたはず」

「うそなんかついてません。」

「うそでしょ。じゃなきゃここまで連れてきたりしない・・」

「赤木博士なにしてますのん?」

「ちょっと!」

「最近手に入れた小型の集音機のテストをしてみようと思って。」

「「「おおぉっ」」」

「リツコさん。そういうのは、どうかと・・・」

「ちょっとした機能テストよ。やましいことはないわ。・・・それに気になるでしょ?」

「・・・まぁ。」

「聞きたい人っ」

「「「ハイっ」」」

「・・・・・・」

 アスカがこちらをにらんでいるように見えた。ケンスケがゆっくりとアスカの対面に移動する。動物の置物の上に座って、何か良い言葉が落ちていないか探すように、公園の広場を見ていた。アスカは、黙って待っていた。

「お兄ちゃんちょっと詰めて」

「がっつくなや、お前」

「昔をおもいだすわね」

「しゅみわるいね」

「この密集度だと誰も説得力をもたないわよ」

「・・・・・・」

 

「一人が、好きだったんだ。」

「・・・・・・」

「中学校の時からそうだった。母親はいなくて、父は寡黙な人だった。昔のネルフに務めていて、パソコンをのぞいたりはしてたけど仲良く会話をしたりはしなくて、いつも不機嫌で、正直言うとその当時は嫌いだった。昼間はみんなと楽しくしているつもりだったけど、家に帰らないといけなくなると憂鬱だった。」

「・・・・・・」

「サバイバル術を知ると、家にいなきゃいけない理由もない気がして、よく家出してた。父は探そうという気もなさそうで、それもわかってた。外でキャンプしたり、物思いにふけったりして、それ自体も楽しかった。」

「・・・・・・」

「ニアサーが起きて、世界が変わって子供のように考えてもいられず、段々と大人になって必死に生きていた時に、中学生のままの君が現れた」

「・・・・・・」

「僕たちとは違う複雑な事情を抱えたまま、世界を救おうとする君を手助けできればと思った。」

「・・・感謝してる。」

「感謝するのは僕の方だ。」

「・・・・・・」

「アスカが最後の戦いに船に乗った時、ビデオを残したの覚えてる?」

「・・・うん。とらないでって言ったのに強引にとってた。」

「ハハ。ごめん。」

「・・・。」

「録画停止のボタンを押して船を見送ってから、僕の中の何かが終わった気がした。その後はこの世界を最後まで記録しようと考えていたけど、もしかしたら全てが無くなるかもしれない。そうじゃなくても、最前線で戦うアスカやほかのみんなは、きっと無事じゃすまないんじゃないか、と思っていたから。」

「みくびられたもんね。」

 

「みくびられたもんね。」

「真似すなよ」

 

「エントリープラグと一緒に戻ってきたときは驚いた。うれしかったよ。とにかく嬉しくて・・・体が大きくなっていたことに気づかなかった。」

「そうだったね。」

「エヴァがなくなって、帰ってきた人がいて、帰らない人がいて、復興が始まって社会が変わって、村の人の数も減った。君は僕のそばにいてくれた」

「悪かったわね」

「アスカ」

「何が言いたいの」

「アスカがそばにいてくれることが、怖くなったんだ」

 

「あかんやん。やっぱ別れ話ちゃうん?」

「ねぇケンカの理由教えて」

「・・・言わんよ」

「やっぱり知ってるんじゃん。」

「秘密や」

「男同士の?」

「せやな」

「ずるい」

「二人とも静かにして」

 

「アスカはエヴァに乗ることが一番だった。そうだろ?」

「・・・そうね」

「戦いが終わって、世界が変わって、エヴァが無くなった。碇と別れて、君は村で過ごしていたけど・・・」

「バカシンジのことは関係ない。」

「・・・」

「どうしてシンジの話になるの?」

「君は碇のことがまだ好きなんじゃないか?」

「やめてよ。勝手に考えて、あたしを疑わないで。」

「・・・・・・」

「・・・ハァ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「アスカはきっと僕のそばじゃない方が良いんじゃないかと思ったんだ。」

 

「・・・どうしてそういうこと言うの?」

「君は僕よりもずっと優秀だ。エヴァに乗って世界を救った人だもの。もっといるべき場所があるはずだと思ったんだ。」

「いや。いいじゃない。あたしがどこで生きたって。」

「ダメだよ。アスカはもっと輝いていなきゃ。」

「あたしがどこにいたって、あたしの勝手でしょ?」

「もちろんそうだ。」

「じゃあなんでそんなこと言うの?」

 

「アスカが好きだ。」

「・・・嘘。」

「嘘じゃない。好きだから、僕のそばにいるべきじゃないと思ったんだ。」

「何それ。」

「碇のことは、嫉妬していたけど、きっかけだった。」

「きっかけ?」

「そう、僕は君にふさわしくない、ってことがあったんだ。碇のこともあるけど、そうじゃなくても、もしかしたら僕たちは仲が悪くなっていたかもしれない。」

「もうあたしのこと嫌いなの?」

「そんなことない」

「・・・・・・ハァ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「僕はアスカに憧れていた。中学の時はエヴァに乗りたかったから。戦いが終わって、エヴァじゃなくても、優秀な君が活躍する場が他にあると思った。」

「勝手に決めないで。」

「でもそうだろう?」

「勝手に決めないで。」

「・・・ごめん。」

「・・・・・・」

「二人一緒にいると、好きなのに嫌いになると思った。」

「・・・・・・」

「僕はいい。また一人に戻るだけだ。君はダメだ。もう何が大事か、なにが幸せか知ってる。君は幸せになるべきだと思ったんだ。」

 

 

「勝手ね」

 一言リツコさんがそういうと、緊張感が走った。

 マイクから出る小さな声を聴いていたが、そこにいた3人は、何回もうなずいていた。

「それでも」

 ケンスケが言葉をつなげるのが聞こえた。希望の言葉をつないでほしいと僕は願った。

 

「それでも」

 一旦息を吸った。

「君がいなくなった家が、本当にさみしかった。悲しくて泣きたくなって、ここに来るまでずっとその家のことを考えていた。」

 何かを話すべきなのに、僕がずっと考えていたのは、家のことだった。

 一人の家、家具、道具、ライト、僕一人。

 アスカ。

「僕のわがままは、君にぶつけたくなかった。アスカの心を傷つけたくなかった。」

 いつまで言い訳を続けるんだ。一度深呼吸をした。

「一人が、怖くなった。二人でいるときに怖かったはずなのに。きっともう、前みたいに一人では暮らせない。君を探してしまう。」

 まっすぐアスカを見た。

「・・・また君を傷つけるかもしれない。でも、そばにいてほしい。ひどいことをいった。どうか、許してほしい。」

 アスカの手をとった。目を見た。奇麗な瞳だった。

アスカはすごく大きな息を吸って、一旦肺にとどめて、ゆっくりと吐いた。真面目な顔になり、まっすぐ僕の方を向いて話し始めてくれた。目は少し潤んでいるようにも見えた。

「昔あたしには、エヴァ以外何もなかった。自分の存在意義だったから、乗れなければ生きていけなかった。パパもママもいなくて、友達だっていなかった。」

「日本に来て、ミサトの家で暮らすようになった時、本当は楽しかった。年は違うけど女の人のミサトの言うことを聞いて、バカシンジをバカにして、楽しくて、それで怖かった。いつかそこから出なきゃいけないような、もしかしたら追い出されるような気がして、余計に怖かった。だから、人形片手に一人でやるしかないって、自分に言い聞かせたの。」

 僕と同じだ。

「3号機での事故があって、目が覚めたらミサトの部屋は無くなってて、シンジとレイがいなくなってて、世界がひどいことになってて、みんなに怖がられて、それでますますエヴァに乗るしか存在意義がなくなった。そんな時にあんたが、私の頭をなでてくれた。嬉しかった。あんたが優しくしてくれて、受け入れてくれたことが嬉しかったの。」

本当は、アスカに会って、僕も救われていた。気づいていないふりをした。依存してはいけないと思って。

「だけど、優しすぎることが、たまに不安だったの。いつかあたしが知らないうちに限界がきて、あたしを見限るんじゃないか、って。」

 険しい表情だったアスカの顔が、少し曇った。

「昔シンジが好きだったの。」

うつむいて、申し訳なさそうにそう言った。悪く思うことなど1ミリもないはずなのに。

 僕のせいだ。

 

 そこにいたみんなが僕を見た感覚があった。

 僕はアスカとケンスケの方を見ていた。

 

「疲れた時に、ただなんとなく思い出す日があって、でもそのことがあんたを傷つけていたことが分かって、嫌われる、きっと追い出されると思ったの。あたし自分をもう傷つけたくない。でもあんたを傷つけたくない。どうしたらいいかわかんなくて」

「最後にエヴァで戦った時、気絶して、夢を見て、目が覚めたら、あなたの家の前だった。大事なことがわかった気がして、自分の居場所を、見つけた気がしたの。それが、あそこだったの。」

 アスカが息を一度ついた。

「・・・ケンケンがいる場所だったの」

 上ずった声を隠そうと、もう一度アスカはため息とも深呼吸ともとれる息をした。こめかみに力が入っているのが見えた。

「あなたが好き。あのいえが好き。」

 声を絞り出すように言った。心臓の音がうるさかった。僕は黙っていた。

「あたし」

歯を食いしばって眉間にしわを寄せていたアスカは、だんだんとその目じりを下げた。目が潤んでいくのがわかって、僕はうろたえた。

「あ、あたし」

 一瞬子供のようにしゃくりあげてから言った。

「あのいえに、いてもいい?」

 懇願する子供のように、両目から小さなビー玉のような涙をこぼしながら僕の方を見て、そう言葉を絞り出した。今まで見たことのないアスカの表情だった。

 

 それからは止め処がなかった。両目からポロポロと出る涙に混乱しながら、掌で一生懸命その涙を抑えようとしても止まらなかった。口も目もゆがめて鼻をすすって、口でしか呼吸ができなくなって、その姿がたまらなく愛おしかった。急激に大人になったアスカが、急激に14歳に戻って、もっともっと小さい子に戻ったようだった。

 僕は心がいっぱいになって、近づいてアスカの首に手をまわし、涙を止めようとする手をつかんで、キスをした。

何も話したくなくなって、ただそうした。

 アスカは、酸素が足りなくなって、力なく両手を僕の前に添えた。お願いをするように。

 澄んだ海で悲しい気持ちでおぼれかけていた少女のように、眉毛を下げて涙を流しながら、口でハアハアと呼吸を整えている姿をみて、また愛おしくなって構わずもう一度キスをした。細い腰に手をまわして僕の方に寄せて、アスカの両腕も一緒くたに抱き寄せた。

 僕も泣いていた。海と同じで、しょっぱい味が口に広がった。

 アスカは僕を受け入れてくれた。

 

 

 

「いったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ(小声)」

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(小声)」

 トウジが小さい声で震えながら叫び、サクラさんとマリが手を取り合って、腕がもげるんじゃないかというほど上下させていた。リツコさんは固まっていたけど、笑顔だったと思う。

僕は一番遠くの位置で、二人の姿を見ていた。幸せな気分になった。愛おしい、ということだと思った。

 あんな無防備なアスカをはじめて見たな。

 巡り合う運命があれば、離れる運命もあった。考える幸せの何分の一しか叶えられないことが大人になって分かったけど、二つの衛星みたいに、こんな風に奇跡的に巡り合うことがあるということが、たまらなく愛おしくなった。

 急に空に浮かんでいる月が気になって空を見た。奇麗だな、と思った。

 

 




 そうか。確かに、ノリが軽い。エヴァを見て、深層心理や、生きるか死ぬかの世界での出来事と連想しがたい。
 書きたいように書きました。不快に思われたらごめんなさい。
 ロマンスってだけなら、意外性というかヤマが必要なんだろうな、と今になっては思います。自分の中の解釈を消化しよう、というのが原動力だった気もするので、ケンスケアスカの対話に、その色が強く出過ぎた気もします。そりゃ考え方違えば、ただしゃべりあってるだけだと共感も少ないですよね。本家ありきの二次創作なんだから。そこは反省というか、自己解釈が前に出過ぎたのかな、とは思ってます。解釈は解釈、話は話と考えて全体を見ればよかった。
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