エヴァのない世界の3年後   作:ヨスキ

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誕生

 シンジ君が、新しい世界を創生した。ネオンジェネシス。

 僕の役割は、もうおしまい。

 幸せはなった。

 無限とも思える生と死、何度も彼を苦しめ、救えなかった。

 僕も何度も苦しんだ気がする。

 苦しみとはなんだったか。わからなくなる程に何度も。

 何度も見た棺からの風景。

 それも君に出会うため。そして君を幸せにするため。

 リョウちゃんが、僕の幸せを導いてくれた。

 それからシンジ君の幸せを願った。

 結果としてはこれ以上ないものだった。

 グッドエンドだ。

 グッドはあそこで終わったのだろうか。

 

「これに、サインをするんですか。」

「えぇ、そう。」

 何度も見返した。意味はわかる。意義も分かる。でも書かなければいけないという事実だけがどうしても理解できなかった。

「今日の診察で赤ちゃんの心拍が確認できないところがあったの。止まっているというわけではないわ。でも少し不安要素がある。このまま予定日まで引き延ばして普通分娩で、ということがあなたには一番ベストかもしれないけど、医学的に言うと、帝王切開の方がリスクが低いの」

 その説明も理解できた。

 しかし僕がサインしなければならない目の前の書類からは、好意と言う物を感じない。

 

目の前にいる女性は、聡明で、優しさを持っている、シンジ君が信頼に足ると判断した女性だ。僕自身もその事実を受け入れている。

 しかし渡された書類を理解できず、それに伴ってこの女性を理解できなくなっていた。

 なぜこの書類を僕の前に出してきたのだろう。

 僕の出自について、かいつまんでは話をした。

 以前ネルフにいたことも、彼女は知っている。

 その後僕がどうなったかも、シンジ君の創造した世界で、僕がどうなったかも。

 相補性のある世界で、僕はシンジ君たちと同様の生命を得て、またこの世界に立つことができた。

 これは最後の世界だ。

 棺がもう開くことはない。

 僕が永遠に目を閉じた時、その目がまた開かれることはない。

 そんな中彼女に出会った。

 

 綾波レイ。

 僕と同じ。

 でも僕と違う。

 新しい世界で、彼女の姿を見つけた時、彼女は僕のことを正面にとらえていた。

「はじめまして」

 何度も言った矛盾した言葉。僕は彼女を知っていた。

 しかし、彼女は笑顔だった。今まで見たことがない笑顔で僕に挨拶をした。

 新しい世界の出来事は、僕にとって唯一無二のものとなった。流れた時は、二度と僕のもとに戻ることはなく、僕以外の人は、みなそれを普通のことと感じていた。僕には、目の前の出来事が、空気が、水が、匂いが、人が、電車が、太陽が、目の前のコーヒーが、すべてが新鮮で、愛おしかった。何一つ次の瞬間には別の存在になっているような、その瞬間瞬間を愛おしく思っていた。

 シンジ君にも多く変化があったようだ。それはとても幸せなことだった。久しぶりに彼と会った時に、多くの変化が彼をとりまいていた。よく笑うようになった。それでも彼自身が全く変わっていないように感じた。矛盾したことのはずなのに、その矛盾すら愛おしかった。

 人は、刻一刻とその姿を変化させる。心の動きと同様に、次の瞬間には別の人間に代わっているのではないかと思う時がある。

 綾波レイ。

 僕に近しい運命を背負っていたはずの彼女。

 シンジ君の創生を間近に感じていた女性は、新しい世界で、今を、未来を見て生活していた。

 もう昔のことは忘れてしまったのかもしれない。僕も聞かない。

 今を楽しみ、僕との会話に表情を、心を何度も変化させる彼女が、僕をとらえた。いろいろな話をした。多くの小説や映画を一緒に楽しんだ。エヴァがあった時の話はしなかった。

 僕は彼女と友人になりたくなった。シンジ君のように。

 それから、彼の父上と母上のような関係になりたいと思った。

 何が普通かわからない。それは気にすべきことではないと感じていた。ただ、シンジ君の姿を見て、幸せとはなにか、ということは気にしていた。

 今その瞬間が幸せなのだろうと思った。きっと疑う余地などないと思った。

 レイと幸せな瞬間を紡ぎ、このまま自分の生を全うし、身近にあった死にまた出会うことで、僕の存在は完結すると思っていた。

 しかし、レイからお腹の子の存在を聞き、突然世界が混乱しだした。

 幸せであることは間違いない。でも幸せにも多くの種類があることを実感した。

 幸せも刻一刻と変化し、同じ幸せが存在しないのだと知った。

 不安や絶望が、僕をここまで揺らしたこともなかったと思う。

 

 レイがお世話になっている赤木博士に、すべてをゆだねていた。僕は新しい世界では、とても無力な一般人だった。知識はある、ピアノも弾ける、だが自分一人で何もかもするには、世界は広すぎるのだと思い知った。目の前の女性の心の全てを理解することは出来ず、本当は自分自身すら理解していなかった。

 動揺していた。

 赤木博士から書類を見せられて、言葉の意味をとらえることができるのに、どうしても頭に入らない。

 手術のリスク

 最悪の可能性

 そうしたものが羅列されている。

 そしてそれらを理解した、という文言のサインを求める欄。

 そこにサインが必要になっている。僕の。

 サインがなければ、手術がされない。

 サインがなければ、レイも、子供も手術されない

 

 赤木博士がこれを示してきた。

「僕も彼女も特殊な存在です。それはあなたがよく知っているはずだ。」

「えぇそうね。」

「この書類は、必ずしも必要なものなのでしょうか?」

 僕の質問に対して赤木博士は一息ついてから、まっすぐ僕を見ていった。

「ない場合でも、私は全力を尽くして彼女を手術するでしょうね。」

 言葉が宙をまって、それから地面に落ちて消えた。

ますます混乱した。ではなぜサインが必要なのか。

 最悪の場合に備えた書類を。

 僕自身が、ここまで混乱すること自体、よくわかっていなかった。これまで生も死も等価値だと言ってきた。今は死が恐ろしい。彼女の死が。子供の死が。

「必要なことだと思うの。」

「必要?」

 眉間にしわが寄るのが分かった。

「多くの人は、この書類にサインをして、手術を経て、無事出産に至るわ。」

 それは多くの、普通の、人たちのことだ。きっと僕たちには当てはまらない。

「何度か、そういった場に居合わせたことがあるわ。不安になりながら、サインをして、手術の結果を待つ人を。」

 言いたいことがわからなかった。

「あなたは、今多くの出来事を吸収して生きていると思うの。」

「そうですね。」

「それは彼女も同じよ。」

「知ってます。」

「そして、それ以上に純粋無垢な存在として子供は、世界の全てを吸収するために、この世界に生まれてくるの」

 言われて、何も言い返せなかった。

 確かに、そうだ。

 僕や彼女以上に、世界を知らない、無力な子供が、この世界に出ようとしている。

「あなたは、父親として、サインをして、覚悟をすべきではないかと思ったの。」

「覚悟。」

 ただ無感情に反復した。自分の心に、ただ正直に乗せるべき言葉の気がした。

「そう。彼女とその子供の、生と死を受け止める覚悟。」

 言葉が出てこなかった。

 自分以外の人の生と、死。

 父親として。

「その事実が書かれている書類。そして、普通の、多くの人が経験する、覚悟を持つ時が必要だと思ったの。」

 彼女の目を見ると、本気でそう思ってくれている断固たる決意が見えた。強い意志を持った、強い女性の目だ。

「私自身子を産んだこともなければ育てたこともない。もし不快に思ったならごめんなさい。でも私は、貴方たちに向き合おうと、本気でそう思ったの。」

 書類に目を戻した。

 見方を変えれば、責任が生じた際の逃げ道にも見えた書類。それが今、自分にとって、重要な書類に感じられた。

「わかりました。」

 サインをする手が震えていた。

 動揺していた。

 シンジ君の姿が目に浮かんだ。

 

 手術の直前にレイに声をかけることができた。

「なにも心配いらないよ。」

「そうね。」

 笑顔を浮かべてそんな会話をした。

 

 手術室に入ろうとする赤木博士に正対した。

「よろしく、おねがいします。」

 何も言葉が浮かばず、そう言った。ただ腰を折って、頭を下げるしかできなかった。僕は無力だった。

「ベストを尽くすわ。」

 彼女の言葉には、誠実さと愛を感じていた。

 それから先は、あまり覚えていない。

 赤木博士のいる研究所から連絡をうけ、予定を全てさきにのばしてもらって、会社を退社した。事情を話して、僕だけ先に行こうとしていたら、マリが走って追いかけてきた。彼女の方が、会社の予定が詰まっていたような気がしたけど、笑顔で話してくれるマリがまぶしかった。

 トウジ、ケンスケ、アスカ、委員長は、先についているはずだった。

 タクシーを使って、研究所へ向かった。天気の良い日で、緑がまぶしかった。コンクリートの照り返しが強くて、窓を少し開けてもらうと、心地よさが広がった。

 それと同時に不安だった。

 連絡は切迫した雰囲気はなかったのに、目の前で確認しないことには、安心ができなかった。自分のことでもないのに、余計に心配することはないのに、なぜか心臓がせわしなく動いていた。

 車内から外の景色を見ていたら、マリがシートに置いた僕の手を包んでくれた。驚いて顔を見ると、優しい笑顔でただこちらを見ていた。

 どうしてこの人は心が読めるのだろう。

 

 研究所の中に入ると、広い受付代りの部屋で、みんなが待っていた。

「おう、シンジ。きたな。」

 トウジが大きい声で、言ってくれた。安心感のある大人の男の人の声、だと思った。

「いやあ、よかったなぁ。めでたいこっちゃで。」

「そうだね。本当にそうだ。」

「とりあえず碇がきたらみんなで入ろうって話してたんだ。綾波ももう落ち着いて病室にいるらしいよ。」

「そうなんだ。ごめん、遅くなって。」

「いや、そこまでやないで。まぁ入ろうや。」

 ケンスケとも話して、アスカ、委員長とも一緒に、所内に入った。

 アスカとマリと委員長が話をしていた。みんな表情が明るいけど、どうしても僕は不安だった。こういう場に慣れていないからなのか、カオル君と綾波のことが気にかかっていて、どうしても会うまでこの不安がぬぐえなかった。

 この不安は、たぶん不適切なんだろうな、と思ってた。僕が考えすぎているだけだ。

 

 何度か大きい、清潔で無機質な自動ドアを抜けると、ベンチに座る白髪の男性を見つけた。

 カオル君だ。

 以前より髪が短くなっていた。さっぱりしている。彼は僕たちの方を見ると、すぐに立ち上がって、こちらに歩いてきた。

「カオルくん、おめでとう。」

「シンジ君」

 笑顔で、いつものように声をかけてくれた。いつものように透きとおった、涼しい声だ。

 カオル君の表情は、いつもと同じように穏やかな笑顔で、ほっとした。カオル君の笑顔に何度も救われている気がした。

 でも僕の目の前にきたところで、その笑顔が、今まで見たことがない、眉間にしわが寄ったものにかわったことに、驚いた。今にも泣きだしそうな顔になっていた。

 カオル君はまっすぐ僕の首に両腕をまわして抱き着いた。

「やっぱあんたシンジが好きなの?」

と、アスカが軽口を叩いて、みんなが笑ったんだけど、表情がわかりにくいカオル君は動かなかった。

 誰もしゃべらなくなった。何かよくないことが起きたんじゃないかと、不安が僕たちを包んだ。

「おめでとう、カオル君」

 もう一度同じセリフをカオル君の背中に手をまわして言ったけど、返事がなかった。カオル君の手には力が入り、小さく震えるのが見えた。

「生まれたんだ」

 少し間をおいて、小さい声でそういった。

 

 僕たちは小さくほっとした。やはり不安があったのは僕だけじゃなかったみたいだ。

「うん、良かった」

 なるべく、優しい言葉を心がけた。カオル君の心が落ち着くように。

 背中をさすりながら。

「この世界に、生まれてくれた」

「うん」

「僕たちが生きている、同じこの世界に、生まれてくれた」

「うん」

「あんなに・・・小さいのに・・・。両手を合わせたくらいの大きさなのに。」

「うん」

「あんな・・・大きな声で・・・」

 そこまで喋ったところで、言葉に詰まっていた。

 咳き込んで、鼻を一度すすると、嗚咽に代わって、それから抗いきれない大きな流れがきて、泣き出した。

 それを押しとどめることもできず、ただただその感情が流れつきるまで、泣き続けた。立っていられなくなって、僕に体を預けるようになった。体が痙攣していた。

 本当にこのまま止まないんじゃないかと思うほど、強い泣く声がしていた。

「あかん。」

 真面目な顔していたトウジが目を覆って、壁の方へ歩いて行った。委員長が後を追いかけて、背中をさすっている。

 マリは完全に涙を流していた。

 アスカを見ると、怒った表情で涙をこらえてて、それをケンスケが頭をなでていて、おかしかった。

 

 

 

 あたしは一人で先にレイのいる病室に入ってきた。渚カオルをベンチに座らせて、みんなで話していて、ちょっと気になったから、許可をもらってから一人で先に来た。

 広い病室の真ん中にポツンと大きめのベッドが置いてある。なんか見覚えのある配置だ。

「レイ」

「アスカ」

 このままずっと調度品として置かれていたんじゃないかと錯覚するような構図だった。姿勢がよく、笑顔は穏やかだった。

「おめでとう」

「ありがとう」

 昔は彼女をレイと呼んでいなかったし、アスカなんて呼ばれていなかった。エコなんとかと、ニゴなんとか、大昔の話だ。

「頑張ったわね」

 笑顔でそういうと、ありがとう、と笑顔で返す。昔は見なかった、今でも常に変化していそうな、素敵な笑顔だった。いつ見ても、同じのような、違うような、儚さと確実さを持った笑顔。

 彼女のベッドのわきに、椅子を持ってそこに座った。

 彼女は手術後だったけど、とりあえず安静にしていれば面会は可能なようだ。

 今回の手術はかなり急だったようで、一気に知り合いに連絡がまわった。あるものは仕事を止め、あるものは遠くからかけつけた。全員が、彼女と子供の無事を祈っていた。

 軽い話題を話して、ようやく安堵感を得ることができたと思っていた。

 でも少しして、彼女の口数が減っていたことに気が付いた。

「本当は、不安なの」

 突然そういった。視線は前の、自分の足先の方から動かない。

「・・・あんた不安とかあるの?」

 あたしがそう言っても、レイは視線をまっすぐにしたまま、動かなかった。あたしの嫌味に反応しないのは昔からだけど、顔がいつも以上に暗く感じた。あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめん、当たり前だよね。ごめんね。」

と肩に手を当ててそう言った。

「わたしは普通じゃないから」

 突然レイがそう言って、あたしは言葉を失った。彼女が言うとおりだった。誰もはれ物のように扱って触れなかった話題だ。カオルとリツコだけかもしれない。向き合っていたのは。

 レイがそんな不安を言うこと自体、大人になってから初めてのことだった。子供の時にも不安な言葉を放つことはなかった。強い意志を持って、目的を遂行する。命令遂行が彼女のアイデンティティともいえた。

 村にいた初期ロット、アヤナミレイは、そんなアイデンティティから自分を解放し、自分の居場所を見つけ、そして消えた。彼女の魂は、おそらく、今目の前にいるレイの中にあるのだと思う。そう思いたい、と、シンジや、鈴原や、レイ本人も願ってそうだった。

 あたしはレイ自身がどうか、ということは考えないようにしてきた。自分の生い立ちを重ねてしまうから。今この瞬間をつむいでいくことで、自分たちの生まれてきた過程なんか、気にする必要がないと思うことができた。生を実感できた。

 そのレイが、今弱った気持ちを吐露している。

「わたしはいいけど、子供は、普通というか、安心の中に生きていかなきゃ。」

「・・・うん。」

「赤木博士にも相談できなかった。」

「不安だ、って?どうして?」

「わからない。博士のことは信頼しているんだけど、どうしても言えなくて。」

「・・・あたしには。」

「どうしてかしら。アスカには言えた。」

 また言葉を失った。そう言われると思っていなかったから。

 レイは動かなかった。風はなかったけど、髪が揺れた気がした。

「くし、ある?」

 レイの伸びた髪の毛を見ると、その弱弱しくなった髪が愛おしくて、といてあげなければいけないように思えた。目の前の台に置かれていたくしを使って、ベッドに乗って近づいてくしをいれだした。レイはおとなしくしていた。

 前にコネメガネに言われたことを思い出していた。

「頭髪には、なんだっけ、穢れとか、煩悩が宿っている。カオスな人の心の象徴で、あんたが紛れもなく人間である証、らしいわよ。」

 レイの手が震えてるのが見えた。あたしも涙ぐんているのを自覚していた。

 鼻をすすって、ゆっくりとレイの髪をとく。

 頭をなでてあげるように、ゆっくりと。

「何も心配いらないわよ。強気でいなさいよ。あんたらしくない。」

 レイの手があたしの足に触れていた。

顔を見ると、泣いているのか、笑っているのかわからなかった。頬が赤くなって、涙が出て、眉が下がって、悲しそうで、幸せそうだった。

 あたしも泣きながら、笑って言った。

「・・・なにその顔。」

「・・・わからない。」

 二人で泣きながら噴き出した。

 

「あと、お腹痛い・・・。」

「・・・ごめん。」 

 

 

 

「レイ、シンジ君がきたよ。」

「碇くん」

「綾波、おめでとう」

「碇くん・・・いかりくん・・・」

「おめでとさん。よく頑張ったなぁ。」

「おめでとう綾波さん。」

「いかりくぅん・・・」

「また碇が女泣かしてる。」

「ケンスケ、僕泣かしたことないよ?」

「は?」

「わたしよく泣いてるよん。」

「嘘だよ!泣いてるの僕でしょ!」

「いかりくん・・・」

「なんであんたたちシンジを見ると泣き出すのよ」

「アスカもずいぶん泣いてるね。」

「わざわざ言わないでよ、もう!」

「いかりくん・・・」

「おめでとう、綾波。頑張ったね。」

「・・・いかりくん・・・」

「なに?」

「料理教えてぇぇ・・・」

「・・・りょうり?」

「赤ちゃんに作ってあげたいのぉぅ」

「綾波さん、はじめはおっぱいからですよ」

「グスッ。あ、そうか。」

 一瞬間があいて、みんなで爆笑した。

 綾波が痛そうにしてて、みんなで指を口にあてた。

 

 しばらくしてリツコさんと、なぜかマヤさんが一緒に部屋に入ってきて、赤ちゃんが眠っているカプセルカートを押してきた。専用の部屋にいるべきなのかもしれないけど、カートの性能が良いからなのか、特別に人が多い部屋に連れてきてくれた。

 マヤさんも久しぶりだったけど、研究所に異動になったのか、と聞いてみると

「パートナーよ。」

とリツコさんが言った。マヤさんはうつむいて、自分の服をつかんでた。

「はぁ、助手、ってことでっか?」

というトウジの背中を、委員長が叩いてた。

 カートの中の赤ちゃんは、眠っていた。すやすやと。天使みたいだ。

 一旦みんなで取り囲んで、声にならない声を上げた。

「すぐにむっちゃなくで。」

「おっぱいとかいつあげるの?」

「お腹痛くないタイミングで、出来る限りって感じ。」

「かわいいねぇ。親御さんそっくり。」

「小っちゃ。手なんか指よりちょっと大きいくらい。」

「・・・泣けてきた。」

「お、碇が泣きま~す。」

「また?」

「またってなんだよ。」

「しつこいのよ。」

「うるさいな!」

「病室や。」

「あ、ごめんなさい。」

「ざまぁみろ。」

「お前もや。」

「ん。」

「アハハハ。」

「写真とりましょうか?」

 看護師さんにそう言われ、みんなで写真をとった。

 途中で赤ちゃんが大きな声で泣き出して、とるタイミングがわからなくなって、みんなで慌てた。

「名前は決めたの?」

 委員長の一言で、みんなが黙った。

 綾波が言った。

「名前はね・・・」

 

おしまい

 

 




 薄い本のカオルレイと子供、の部分を、広げたくて、最後に持ってきました。カオル君が絶対難しいと思って後にまわしていたのに、結構すんなり文章にできて意外だった記憶があります。まぁ本家とは離れてはいるんでしょうけど、自分の中で苦手意識があった。
 シンジ君を支えるマリさん、親のことと自分の境遇を思いつつ未来を生きるレイアスカ、きっかけがあるとキャラクター全員が集まってピースフル。全部自分の願望二次創作ですね。頭に浮かんで、文章にして、まとめられて、満足しています。不快に思われた人はごめんなさい。
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