非きこもり、JDを拾う。そして、育てられる。 作:なごみムナカタ
仕方なかったんだ……短いから許して下さい……。
幹事なりに気を遣い、かなり早く待ち合わせ場所に到着する。殊勝な態度に映るかもしれないが、今日の
待ち合わせの間にナンパの一つでもされ、それで気持ちを高めておく。というのがうちなりの合コンに臨むルーティンだ。
しかし、この日はなかなか声を掛けられず、退屈な思いをしていた。
程なくして、待ち合わせにはかなり早いが、ポッシュが到着する。……男連れで。
はっ、え? これから男誑かしにいくのにその前からつまみ食い? 男に興味なさげなこと言ってたくせにどんだけ男好きなんだよ。引くわ、ほんと。ドン引きだよ。
だが、それを面に出さないのはコミュニケーションの基本。朗ら仮面を着けて何気なく迎えた。
「あれ、早いねー。ポッシ……川崎さん」
あぶねーあぶねー、心の中の
「あ、ああ、真鶴も早いね」
見られた⁉ って顔でうちに返事をするポッシュ。
連れてる男は、顔の造詣自体はまぁまぁだが、それを台無しにする目付きの悪さ。猫背なのも減点対象。
ポッシュ→目付きの悪い男→ポッシュ→猫背な男と交互に見てほっぺに指を当てる。「んー」と考える仕草をして、有り勝ちな結論に辿り着いた。
「……彼氏?」
「ち、ちちち、違うから! 全っ然! 知らない奴だから‼」
動揺しすぎでしょ。相手がコレだし、誤解されて怒りたくなる気持ちは分かるけど。
ってか、ほんとに知らない奴だったら待ち合わせ場所まで付き纏われてるのヤバ過ぎるでしょ。
しかし、気づけば反論どころか一言も残さず消えていた。その鮮やかな男の引き際に、本気でストーカーの疑いを持ってしまう。
「……大丈夫? ストーカーなら警察に相談した方がよくない?」
「だいじょ……え、ストーカーって……、ち、違うから! 全っ然! そういうんじゃないから!」
じゃあ、どういうんだよ。彼氏でもストーカーでもない待ち合わせ場所まで随伴する男って。まぁ、知りたくもないから触れないでおいてやるけど。
それよりも、ファッションチェックだ。
今日の合コンに当たって、ポッシュに服装の要求をしていた。肌の過度な露出禁止、パンツ必須、ワンピとスカートのNG等々。嫌がらせでなく、合コンコーデのアドバイスとしては
薄着の方が男受けしそうだが、実は合コンでは悪手である。全ての男が下半身に正直なわけではないし、紳士的に振舞う方が女子に対しては好印象だ。露出過多だと視線が本能に従ってしまい、むしろ紳士ぶりたい男側にとって有害ですらある。それに女側としても、みだりに肌を晒すのは軽い女に思われたりと良いことがない。
それなのに、うちの要求通りのパーカー&スキニーというカジュアル仕様にもかかわらず、見栄えの良い仕上がりなのがムカつく。
パーカーとはいえ、ウエストを絞ることで豊満なバストを強調し、裾にあしらわれたフリルがAラインを作り出している。ぴっちりとフィットしたスキニージーンズはシルエットを鮮明にし、ポッシュのしなやかな美脚を演出していた。……足細くてなげぇなこいつ。
カジュアル仕様でこれだ。合コン定番のワンピを女性らしく着こなされたらマジでヤバかった。周りの女子ばかりかうちまで霞む。
余談だが、ポッシュと二人で残りの女子三人を待っている間、男に声を掛けられたのがうちの中での修羅場だった。
三人と合流し、予約されたお店に向かう。店の前で男側の幹事である新戸部が待っていた。挨拶もそこそこに個室へ案内され、新戸部の背中越しに中を覗くと、他の四人は席に付いてる。
「お待たせー、女のコたちのごとーちゃくよー」
視線を一瞬だけ男共に向けると、速読するが如くイケメン度を視読し右脳で処理する。じろじろダラダラと視線をやれば不審がられてしまうため、そのリスクを最小限に抑える合コン必須の人面速読術だ。……脳機能の無駄遣いがあまりにも酷い。
ふむ……中の下か、いいとこ中の中。無し寄りの有りってとこね。
でも男子の奢りってオプション付きだし、それ込みなら総合的に見て余裕で有りだわ。
って、そんな下衆な脳内判定の中に一人異物が混ざっていた。
丸まった背中に特徴的なあの目付きは忘れようがない。
「こんにちはー、初め、ま……し、て?」
「⁉」
ん?
んんー?
うちは端の席に座る人物を視界に捉えると、どこかで見覚えがある気がする。マスカラに構わず目を擦って二度見した。
…………いるよー、やっぱいるよー、なんでいるのよー⁉ 参加メンバーの一人に一服盛って合法的に潜り込んだのかしら。ってか、合法じゃないし。もしそうだとしたらストーカー防止法を掻い潜るより毒物混入罪で罰せられる方がやべーだろ。もっとロジカルシンキングして!
直後、ポッシュを見ると驚愕の表情を浮かべていた。もちろん、この目付きの悪い男がここにいるせいでだろうが、もしこの驚愕がうちの睫毛の乱れに対してだったら確実に今日の合コンはドタキャンしてリモート合コン待ったなし。
いや、やっぱ待って、睫毛隠しが前提のリモートって顔が上半分見切れてね? 匿名性守られ過ぎでしょ。リモート合コンっていうより、証人保護されてて今後出逢うことがないまであるんですけど?
予想外の事態に固まっているうちらを尻目に、新戸部が席に着いてと促してくる。
「そんじゃー、座って座って。後で席替えするからテキトーでいいべー」
そうは言っても、パッと見で気に入った男の前に座りたいのは皆同じ。席替えでなるべく平等になるよう打ち合わせしていたものの、最初の席順だけは淑女協定から抜けてた。
少しでも意中の相手の前に座りたい女子たち。互いに牽制し合う中、取り扱いに困る席が存在した。
そう、ストーカー(っぽい奴)の前の席である。しかも、ご丁寧に四人テーブルの鉄板をそいつと二人だけで使うカップル席。それだと厚意的に表現しすぎか。はぶられ席で”ふたりぼっち”が的確だろう。
せめて四人で鉄板使える位置に座れよ。お前、なんでよりによってあぶれてんだよ。
事情を知らない女三人は嫌悪がない分、他の男とフラットに比べれるかもしれないが、それでもあの目付きと猫背では印象が悪い。敢えてこの男の前を選ぶ奴はいないだろう。
とはいえ、ストーカーされてる(であろう)
席替えまでの短い時間だし、
そう葛藤していると何故か当たり前のようにポッシュが末席へ。
えーと……、あなたマゾヒスト?
この行動には女子たちよりも男子の方が愕然としていた。
眉目の整ったポッシュは目を惹くし、見た目の印象から自分の前に座って欲しい男は多かっただろう。よりにもよってそこなのかと。
まぁ、単純に端から席を埋めたと取れなくもないが。
満場一致のハズレ席が埋められたことで、他の女子たちも自然と席に着いた。
唯一の知り合いで、この合コンに誘った張本人であるうちはポッシュの隣へ座る。これくらいの責任は負わなきゃと、それなりに前向きな覚悟を持つうちなのであった。
末席の隣に座るうちの前は新戸部。男幹事と女幹事が互いに末席の隣とか、これだと全体に気を配るのが難しい。出来なくはないけど、また中途半端な席順だこと。
ということは、もしかして……。
「(……ねぇ、新戸部くん。隣の人ってもしかしてピンチヒッター?)」
「お、なんで分かるん? そーそー、急遽来れなくなった奴の代わりに来てくれたヒキタニくん」
なるほど。つまり、新戸部とヒキタニ? の関係性はうちとポッシュみたいなものなんだ。だから、孤立させないよう隣に座ったというわけか。
それはそうと声のボリューム絞れよ、隣に聞こえるでしょ。ほら見てみ、そのヒキタニくんのしかめっ面を。
別に陰口を話していたわけではないのだが、筒抜けになってしまったばつの悪さに閉口してしまう。それを見兼ねてか、天然なのか、新戸部がテンション高く話し始めた。
「んじゃ、揃ったんで自己紹介いっちゃいますかー! 普通にやってもつまんないし、リズムに乗ってぽんぽん答えていただきましょー!」
言いながら一人手拍子を始める新戸部に、軽い衝撃を覚えた。自己紹介という最初の最初で、皆が雰囲気も掴めてないのにいきなりぶっこんでくるその胆力。うちには真似できない。
それにしてもこの速い手拍子は、演技力じゃがり〇面接と同じリズム? こんなので急に振られたら絶対リズムに乗れない奴いるでしょ。突っ走り過ぎててこの先のぐだぐだが目に浮かぶ。
そんな大惨事が引き起こされては堪らないので、うちも手拍子に追従して盛り上げに加担した。
「ほんじゃ、俺から時計回りに行くべー、次ヒキタニくんだから俺の真似してテンポよく頼むわー」
「え、おい、そんなの聞いてな……」
ヒキタニが反論しようとするも新戸部の手拍子に掻き消された。
いやいや、せめて仲間内で打ち合わせはしておけよ。最初の犠牲者たるヒキタニに同情の念を禁じ得ないわ。
「スリー、ツー、ワン、ごー! お名前は?」「新戸部・恩生♪」
「趣味・特技」「テニサーです♪」
自分で質問して自分で答えるスタイルがシュールすぎて感情の行き場に困る。
いつの間にか他の皆も調子を合わせて手拍子を打つが、次のヒキタニは戸惑いまくっておどおどしていた。その姿にますます憐憫の情が抑えられない。
「お名前は?」
「ひ、ヒ、ヒキタニ・ハチマン……」
「趣味・特技」
「に、人間観察?」
うちは光の速さで顔を背けた。ヒキタニの答えに嘲笑で歪む
……そっか。新戸部はこれを見越してたんだ。準備不足の人間にこのテンポで質問すれば嘘が吐けないと。
そして、真の標的はヒキタニではなく、次に順番の回る女子なのだろう。気づけば男共がその標的に熱視線を送っていた。
「お名前は?」
「か、かか、川崎沙希っ!」
「趣味・特技」
「し、しゅ、手芸?」
お前らなんで揃って疑問形なんだよ、仲良しか!
それにしても手芸とか……めっちゃ女らしい。そんなん言ったら男が集るだろうが。競馬とかパチンコとかテキトーに吹かしとけよ、真面目かっ!
ポッシュの答えに批難の意味で、軽く足を蹴る。ああ、そうさせないためのリズムゲームなんだっけ。新戸部の奴も存外食わせ者だね。向こうも我に返って自得したのか、申し訳なさそうにこちらを見ていた。
ふむ、分かればよろしい。あんたは人数合わせのバイトなんだから、必要以上の男受けはその主旨に反するからね。
そんなやりとりを水面下で行っている間も自己紹介リズムゲームは続き、うちの番が回ってくる。
「お名前は?」
朗ら仮面を装着し、最高に可愛く心地良い声で自分の名前を告げた。
つづく
いかがでしたでしょうか。
GJD視点は不評かなとも思いましたが、沙希に与えられた合コンドレスコード話を真鶴視点で喋って欲しくてこうなりました。
必要以上の露出はうんぬんとか書きましたけど、一人もスカート穿いてる子がいなかったら男からやる気ない判定とかされんじゃ? という考え方もあったり、まあ真鶴の解釈なのでってことで深く悩まないようにしました。
最後の方で自己紹介だけやりましたが、非戸部改め新戸部(似戸部)というオリキャラが恩生という名まで賜る快挙。
原作の戸部翔の元ネタが戸部町(公式で調べたわけじゃないけど恐らくそれなはず)なので、似戸部は戸部本町の本町からとって、似た響きで恩生(おんしょう)としました。
それでは次もお楽しみに。