非きこもり、JDを拾う。そして、育てられる。 作:なごみムナカタ
そんなに頑張らないで書いたまったり同棲生活日常パートです。
ストーリー的にはどうでもいい回ですね(言い方がひどい)。
非きこもり、JDとの日常。
「……がや、……比企谷起きな。日曜だからってだらだらすんじゃないの」
「ん……あと五分……」
「さっきもあと五分って言ってたけど?」
「……あと……五分……あと……八分……」
「しれっと増やすなっつーの。いい加減起きちゃってくんないとご飯片付かないでしょ」
眠い目を擦りながら川崎を認識すると急速に覚醒する。
……え、なに? はだ、か、エプロン?
よく見るとタンクトップにショートパンツ姿の上からエプロンを着けていた。実家の頃、小町もよく同じ格好してたことがあったけど、裸エプロンに見えちゃうんだよ。騙された気分……いや、誤解を招く服装は慎んでいただきたい。
朝っぱらからどきりとさせられ、完全に目が冴えて上体を起こすと一部毛髪が重力に逆らった。
「……ねえ、頭爆発してる。ご飯の前にシャワーでも浴びてきたら?」
寝ぐせの生えた俺は川崎に促され、のそのそとバスルームへ向かう。
……なんかもう世話を焼くというより、子育てしてるよねこれ。なんで拾った側が育てられてんの? 俺を京華と勘違いしてない? いかん。このままでは実家で小町の世話になっていた頃に戻ってしまう。
せっかく習慣化された一人暮らしであったが、
川崎はあくまでも借金の利息を
そんな危機感を募らせながら、シャワーを浴び終えた。
「ん? ちょっと待て。俺着替え持ってきたっけ……」
背中を押されるように風呂に入れられたので、タオルすら用意していなかったことに気づく。
おいおい、もしかしてこの格好でパンツを取りに行くのか? ワンルームだし、どうしたってこの粗末なものが川崎の目に触れざるを得ない。『ヴィーナスの誕生』みたいなポーズで部屋を横断する情けない自分の姿が思い浮かんだ。
――待て待て! そんな恥部見られたら死にたくなるぞ。むしろ、男らしく隠さず見られた方がマシまである。
だが、浴室から出ると、脱衣所にバスタオルと替えの下着が置いてあった。え、なんで? 俺用意してないけど。川崎が用意したの? パジャマこそないものの、これが世に聞く『タオパンパ』というやつか。
それを理解して総身に悪寒が走る。知らぬ間にマザコン男の烙印を押された気がしたからだ。俺はマザコンじゃない、シスコンだ。いや、違うシスコンでもない。落ち着け俺。
部屋に戻ると、川崎が朝食の準備をしていた。声をかけようにも何と言えばいいのか分からず、大人しくローテーブルで待つことにする。
小気味良く俎板を鳴らす度、ポニーテールが楽し気に揺れる。毛先が太腿まで垂れ下がる様は、まるで枝垂桜のようだ。
そんな後ろ姿に見惚れていると、いつの間にか朝食が出来ていた。
「テーブル空けて」
そう言いながら、川崎が料理を運んで来る。このまま身の回りの世話を丸投げしていたら、間違いなく生活力がなくなってしまう。焦った俺は慌てて皿を受け取り、テキパキと配膳した。彼女に先んじて麦茶の用意も怠らない。
その姿を、川崎は怪訝な表情で見つめていた。
「……ずいぶんと気が利くじゃない」
「まあ、普通じゃね?」
普通なわけがない。自分が面倒臭がりだということは自覚していたから。
「……なに企んでるの?」
「なんでちゃんとしてて疑われるんですかね……」
川崎の発言に、ダメ人間を脱却しようという意志が挫かれかける。そういう扱いがやる気を削ぐんですよ。褒めて伸ばした方がいいと思います。俺という人間の場合、褒められても疑ってかかるから調子に乗るような愚行もない。
その後も胡乱な目を向けられ続け、それを躱すのに何かないかと思索する。そして、ちょうどいい口実が思い当たった。
「……いま、何時だ?」
「は? えっと……、八時半だよ」
食べる手を止めてテレビを点ける。するとOPが始まったばかりであった。
「…………あんた、まだこんなの見てんの……」
プリキュアを”こんなの”とはずいぶん辛辣な物言いだ。お前だって小さい頃は確実にお世話になり、今でも心に刻まれたアニメのはず。事実、プリキュアの決まりごとに則って『顔はやめな、ボディにしな』を体現しているだろ、俺の腹で。なお、こいつも最近まで妹と見ていた模様。
「お前だって一人暮らしするまでは見てただろ」
「そ、それは、京華に付き合って見てただけで……」
真っ赤になってぽしょぽしょと呟く川崎さんマジかわわ。この反応を見れただけでもお釣りが来た気分になり、これ以上追及するのを思い留まった。
「見ながら飯食うわ。…………一緒に見るか?」
「み、見ないから!」
最後の言葉に面当てがましさを感じたのか、ぶすくれながら食事を再開した。ただ、どんなに強がろうが、目の前で放送されている番組を見ないのは逆に難しい。結局、何となく一緒にプリキュアを見てしまうのであった。
「ふー……」
「……あ」
今日もいいお話だった。そう余韻に浸っていると川崎が短く声を上げる。
「ご飯ついてるよ」
「え」
そう言って俺の口元に付いた米粒を摘むと、淀みなく自分の口へ運んだ。
「お、おい……」
迷いなく、というかごくごく自然に米粒を食べる川崎。その表情に変化は見られない。一緒にプリキュアを見ていたせいで、俺のことを京華と誤認してお姉ちゃんスキルが発動したのだろう。
最近、
「……………………っ‼」
小町以上のお世話力によって、前以上のダメ人間にされると本気で危機感を持っていると、川崎の顔が見る見る赤く染まっていく。あ、いま気づいたのか。おっそ。
心の中でそう呟くも、改めてさっきの出来事を自覚させられ、自身の顔も熱くなっていくのを感じた。
「……と、ところでさ、今日って予定とか入ってるの?」
無意識の行動をなかったことにしようと話題を振ってくる。無理矢理すぎて動揺が隠せていないが。
「いや、バイトもないから完全にオフだな」
川崎の顔がぱっと明るくなった気がしたが、次の瞬間伏し目がちになり、ぽしょぽしょと呟いた。
「じゃ、じゃあ、えと……、あ、あたしも今日暇だったんだよね。気晴らしに、その、…………で、……ない?」
俺はもじもじと訊ねてくる川崎の仕草に、トイレでも我慢しているのかと怪訝な表情を向ける。最後の方なんてよく聞き取れんし。
……待てよ、こいつも今日休みなのか。なら俺が昼飯を作ってやることで、一人暮らししてた頃の勘が戻るかも。
「あー、お前もバイト休みなんだな。じゃあ、久々に一人を満喫してきたらどうだ?」
「…………え」
予想外という反応を見せたばかりか、顔色すらも悪くなったような気がする。
「昼飯は俺が作っとくから」
「……は?」
川崎は驚きの声を発して、しばし茫然としていた。借金の利息として
「ちょっと、それってどういう……」
「ほれ、出掛けた出掛けた」
ロフトの梯子前まで押しやって外出を促す。些か強引すぎる気もしたが、川崎だって息抜きは必要だ。俺は今までもこういった休みの日はゆったりと本を読み、川崎に家事を任せて来たからな。逆に言うと、家事のせいで川崎には完全な休日というものが存在しなかった。
「ちょ、追い出さなくてもいいでしょ」
納得がいかないと表情で訴える川崎を前にして、妙な気の回し方をしてしまう。
「あ、外出ると金かかって迷惑だったか? お茶代渡しとくぞ?」
「⁉ ――いい! そういうことじゃないから」
俺としては無理矢理に近い形で部屋から追い出すのだから、それくらいのフォローは考えていた。だが、それを拒み、なおも噛み付いてくる。
「なんであたしが部屋にいちゃダメかを訊いてんだけど」
久々に俺が家事をしたいから邪魔だった、とは言えんだろ。察してくれ。
「……もしかして、あたしと一緒が嫌なの?」
「へ?」
「そうだよね……化粧っ気もないし、こんな地味な女といても……」
いや、どうしてそうなる。突飛過ぎる発想についていけない。
大体、お前地味じゃねえだろ。枝垂桜を彷彿とさせる見事なポニーテールに、長身細身で誰もが羨むスタイル。俺が並んで歩くことが烏滸がましいと感じているくらいだ。
反論しようにも面と向かって口にするのは照れるから、その勘違いをそのまま利用させてもらう。
「ああ、そうそう。だから、これで化粧品でも買ってこい」
化粧品に充てればとお札を握らせ、部屋から追い出そうとする。
「え、だから、こんなのいらないから……」
突き返されても全く受け取らず、川崎の手は行き場を失う。
「まあ、その…………いつも家事サンキューな、って意味のお礼だと思ってくれればいい」
実家の頃は小町に甘やかされていたが、血の繋がった肉親だから遠慮せず甘えられたとも言える。
しかし、川崎は金を貸してるとはいえ他所様の娘さんだし、同居してから労いらしいことを何一つしていないことを反省した。利害の一致もあり、この機会に家事を休ませて気晴らしさせるのはいい判断だと思う。
「…………ほんとに、いいの?」
お札を握り締めながら、恐る恐る訊き返してくる。
「気にしないで息抜きしてこいよ。あー、でも無理に化粧品買ってくることないからな。自由に使ってくれ」
「え? だって、化粧品買ってこいって……」
「あれは、お前が化粧っ気ないとか言ってたから合わせたんだよ。第一、化粧すればいいってもんでもないだろ。それに川崎は……、っと」
「? なに?」
「なんでもない。とにかく気晴らしに行ってこいってことだ」
「う、うん」
化粧という単語でほくろを消すくらい厚塗りする川崎の
それに川崎は化粧なんてしなくても、……などと、うっかり口を滑らせそうになった。恥ずかしくて言えるか、こんなこと。
「じゃ、じゃあ、いってきます」
「はいよ」
ようやく、久しぶりに料理をすることが出来る。
毎日は大変だが、たまにやると楽しいよな料理って。
……主婦に諫められる夫が言いそうな言葉だよなこれ。
――結果から言おう。
めちゃくちゃ腕が鈍っていた。
一年間一人暮らししていたとはいえ、元々が小学六年生レベルの家事能力しかない。しかも、ここ三ヶ月近く川崎に任せっぱなしな俺の腕は再び停滞していた。
昼飯は何とかそれらしく完成したし、味も見栄えも普通に出来たがキッチンは酷いものだ。ガス台は吹きこぼれや油跳ねが目立ち、シンク内も調理器具で溢れている。全て俺が調理をした結果生まれた惨状だ。
『しゅぽっ』
キッチンを眺めて絶望しているとLINEの通知が届いた。
【そろそろ帰るから】
メッセージを見て血の気が引く。なまじ気合を入れて作ったせいで時間がかかってしまい、川崎が帰ってくるまでに片付けが間に合わない。実家でも小町に『料理とかすると片付けない』と苦言を呈されたことがあるし、性根はそう簡単に直らないのだと強く実感した。
…………これは、怒られるなぁ。
同居してからというもの、キッチンは川崎の領域であり、調理前まで綺麗に整頓されていた。それが、出掛けて戻ったらこの有り様なのだから怒って当たり前だ。
途方に暮れていると、玄関の鍵を開ける音がする。
はは、お早いお着きで。
諦念に支配された俺は、心中でそうおどけていた。
「ただいまぁ」
なんだか声に張りが合って機嫌が良さそうだ。上手くリフレッシュ出来たのだろう。せっかく上がった気持ちが、また下がるような惨状をお見せするのは非常に心苦しかった。
「ほんとにお昼作っててくれたんだ? ……って、なにこれ」
焼野原のようになったキッチンを見て、川崎は呆れるどころか笑みまで浮かべて超然と眺めていた。
「料理は成功したが、片付けは失敗に終わりました」
取り繕うことなく事実だけを述べる。俺にしては珍しい潔さだ。
「しょうがないね。片付けは後にして先にお昼食べようよ」
俺の失態など意にも介さず、くすっと笑って昼食を促してきた。
……なんかめっちゃ機嫌良いんですけど。同居を始めてから、……いや、出逢った頃まで遡っても一番機嫌が良い。息抜きがそんなに効いたのだろうか。
料理を運ぼうとするが、作ってもらったのだからと配膳を手伝わせてくれなかった。
「いただきます」「いただきます」
味噌汁に口を付け、おかずを頬張る。うん、なかなか旨い。やっぱり、料理は出来るんだよ。手際が悪いだけで。あと片付けも残念でした。割りと致命的な弱点ばかりが目立つな。
川崎からも味の感想を言われたりと概ね好評だったが、食が進むにつれ段々と口数が減っていく。ちらちらと視線をこちらにやっては逸らしを繰り返し、徐々に不機嫌となっていくのが分かる。
え、俺なんかしたか?
料理、不味くないよな?
さっきまでは過去一機嫌が良かったのに、何が原因でこうなってしまったのか見当がつかなかった。
やはり、キッチンを汚し過ぎたことが響いているのだろうか。川崎は律儀だし、俺が料理をしたのだから片付けは自分が、と言うタイプである。片付けを意識し出して不機嫌になり始めたとかは有り得る。
「――ごちそうさま」
「お、お粗末さまです……」
その声音と茶碗を置く強さで虫の居所が窺える。これは切れてますね。
これ以上、機嫌を損ねないよう率先してキッチン掃除と皿洗いを行おうとすると、鋭い声で制止された。
「ちょっと、お皿は洗うからあんたは座ってな」
えらくぶっきらぼうなのに、この上なく相手を気遣う優しい言葉。川崎の情緒がどうなってるのか、もう分かんねえよ。
「えっと、……て、手伝いましょうか?」
「作ってもらったし、あたしがやるよ」
却下されてしまった以上、邪魔にならないよう大人しく座っているのが正解だろう。手持ち無沙汰になってしまったが、テレビなどは見る気にもならない。結局、皿洗いする川崎の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
カチャカチャと皿を洗う度、枝垂桜が揺れる。毛先が腰まで届こうかという川崎のポニーテールが……、ん? 腰まで……?
…………あ‼
もしかしたら……。
僅かな違和感。これこそが、川崎の機嫌を損ねた原因であると直感する。実家で小町にもしょっちゅう言われたあれかと。
いや、小町だけでなく、世間一般で広く知れ渡っているアレだった。
俺は、なかなか覚悟が決まらず、川崎の皿洗いが終わるまで座って待つ。洗い終わると、川崎は食後のコーヒー二人分をローテーブルまで持って来た。
「わ、悪いな」
「ん」
短い受け応えを経て、部屋にはコーヒーを啜る音だけが響く。飲みながら、正対する川崎に視線を向けた。彼女もそれに気づき、見つめ合う形となる。
「な、なに?」
確認の意味もあって、じっと川崎の顔を見澄ます。そんな視線に圧を感じてか、上体を引いて少しでも遠ざかろうとする。
俺は、努めて平静に声をかけた。
「な、なんか小綺麗というか……、び、美容室、行ってきたのかな、と……」
「――――っ‼」
女子に阿る代表みたいなコテコテの科白。実際口にするのは照れてしょうがない。最初の意気込みからして、努めないと平静を保てない時点で、自然に口にするなんて無理ゲーですわ。
「え、あ、そ、そう……? ……暑くなってきたし、あの、お陰様で、さっぱりした、よ……」
俺に勝るとも劣らぬ照れ加減でした。
川崎の後ろ姿を眺めて、毛先が腰までしかないことに違和感を抱いた。朝食の時はお尻が毛先に隠れていたのに、と。……お尻が見えたから印象に残ったってわけでは断じてない。
「…………え、おかげさま?」
返事が予想外の内容で、つい訊き返すような応対をしてしまう。
「う、うん。そのためにお昼作ってくれたんでしょ。それにお金まで……」
確かに、川崎の代わりにお昼を作って彼女を外出させたのは紛れもなく俺であり、その言葉は合っていた。最初から川崎を労う目的で行っていたなら、また違ったかもしれない。だが、結果的にそうなったために”お陰様”の意味が俺の中で抜け落ちていた。
「……?」
俺の反応から、微妙に噛み合っていないことに気づいたのか、不思議そうな顔を見せる。
「お、おお、そうそう。ほら、あれだ、普段仕事ばかりで家のこと任せっぱなしの旦那が、休日くらいは嫁に息抜きさせてやろうっていうアレアレ、うんうん」
次々とこぼれ出す
「あ、う……、そ、そう……、そうなんだ…………ありがと……」
川崎はゆでだこのように顔を赤くして、俯き加減にコーヒーを啜る。
「お、おう」
間違っても、実は生活力向上のため、たまには家事をしておきたかったんだ、とは言えなかった。
これは墓場まで持って行くべき秘密だと、俺の直感が告げていた。
つづく
いかがでしたでしょうか。
久々に次話に続かない単発回でした。
X(旧Twitter)でもポストしましたが、この話(7000文字)は新たに書いて挿入したものです。
その前から19話のつもりで既に4000文字書いており、それが次話(20話)になります。読者様にはあまり関係ない話かもですが、一応ご報告しておきます。
あと前回、活動報告で女幽霊ネタをボツにしたとお知らせいたしましたが、感想欄でそれを惜しむ方もいらしたので、余力があればR-18として一部サルベージしようかと思ったり思わなかったり……。
元々筆が遅いので、そんなことしたら非きこもりシリーズがまた止まるんじゃないかという不安もあり、お約束は出来ないのですけどね(・_・;)
ちなみにサルベージする場合は、薄氷あたりまで再UPして12話から本編と分岐していくつもりです。分岐といっても本編(非きこもり)の女幽霊部分は消して別物扱いにしているので、再UPと呼べるか微妙なところですが。
まあ、R-18は今のところ筆者の願望と思っておいてくだされば差し支えないです。
それでは次もお楽しみに。