男でもTSしてみたい!   作:鋼色の銅鐘

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男でもTSしてみたい!

 TS(トランスセクシャル)というものをご存じだろうか。

 性転換あるいは性自認の不一致。

 その二つの意味を持つ単語は、使われやすい意味こそ異なっているものの創作と現実の両方の世界で扱われている。

 創作においてよく使われているのは前者の意味であり、「何らかの要因で突然男が女になる」といったようなスタートを切って物語が始まるーーという漫画や小説を一度でも手に取った人はそれなりにいるだろう。

 一方現実世界においては、前者の役割を果たすこともあれど後者の意味として使われることが多く、性同一障害に悩まされる人々が障害を乗り越える為に外科的手術を受ける事で精神と肉体を一致させる事例がよくみられている。

 

 つまり端的に言ってしまえば性自認が不一致した場合に起こる最終手段としての「性転換」という単語であるのだが、それは現実の話であり、創作のような面白さやファンタジーさはかけらもない。苦しくて辛い、コンクリートの上に横たわる現実なのである。

 

 しかし、だ。

 ーーもしも。

 もしも仮にーー現実の実感を持ったまま、誰かが描いた空想のように、面白おかしく性別が転換することがあるとするのなら。

 ……それを求めた誰かにとって、どのような意味を持つのだろうか?

 

 □霊都アムニール正門前 ■■■・■■■■■■■

 

「ーー福音の如き声ッ……吹き抜けるラベンダーの香り……絹のような白い肌……あああああデンドロサイコーーーー!!!!!」

 

 ここまでテンションをブチ上げたのはいつ以来か、最早覚えていない。

 だがしかし抑えようにも既にテンションは最高潮。あえて言おう、今この時こそが人生の絶頂期であると。

 前々からの念願を遂に叶えた私は往来に行きかう人目も憚らず、盛大に万歳のポーズを決めていた。

 さっきは色々とあったけれども、さすがに今はもう落ち着いた。いや落ち着いていない。

 

 目を閉じて改めて考える。

 このゲームでは現実(リアル)であれば絶対に出来ないことをクリアできる。この時点で百点満点なのだけれど、目の前に聳える巨木の街が()()()()()であることも実にいい。

 風を受けてざわめく色とりどりの木々、大小様々な大きさや特徴を兼ね備えた人々、見たこともない生き物が牽く馬車。それら全てが正しくファンタジーな光景でありながら、五感をもってリアルさを訴えている。

 そんな幻想を具現化したような土地に、二本の脚で立てているのだから素晴らしいと言う他ない。

 ……いけないいけない。クールになれ、私。

 折角夢を叶えたのだ。あまり気合いを入れ過ぎても逆効果になる未来しか見えないし、落ち着いていこう。

 

「すぅーーふぅ……」

 

 今はまだ深呼吸ひとつとっても致命傷だけど、この身体にこれからずっと付き合っていくのだから慣れないといけない。肉体的にも、精神的にも。果ては心の在り方も。

 ……現実のあれこれも考える必要は無いから一旦置いておこう。この世界に私がいるということが、何より重要なのだから。

 動悸が早まっているのをなんとか抑えて歩き出す。街道の端で立ち止まったままなのは良くないことだし。

 

「よし、行こう」

 

 行き先もまだ決めていないし、何をするかもまったく予想図を描いていない。

 けれど、私は<マスター>。貴女は何をしても自由で、何にも縛られないーーと、あの管理AIは言っていた。

 だったら自由に決めてしまおう。気の向くままに、私は私として在ろう。

 ああ、本当にーー夢みたいだ。ここに来たのはたった数十分前なのに、もう遠い昔のように思い起こせる。

 

 □ 二〇四三年七月一六日

 

『そう、<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性を提供いたします』

 

 街頭放送で行われたコマーシャル。そしてネット掲示板の口コミ。

 それらを見て、電流に打たれた。……新世界。ならばきっとあれも叶うのではないか。

 そんな一縷の望みを抱きながら、サンダルをつっかけて電気屋まで買いに走ったのは間違いではなかったと改めて思う。

 レジ列の出来始めに並べたのは幸運だった。帰りがけに見たら少しずつ列が伸びていたのだから、さっきのCMの影響力は意外と大きいらしい。

 

「……これが、<Infinite Dendrogram>か」

 

 そう呟いて、パッケージの中からハードと説明書を取り出す。

 まずは説明書を軽く読んでみたーーものの、「本当にこれは現実のゲームなのか?」と疑うようなゲーム内機能の数々に加えて、ログインする為に必要な諸々が書いてあった。

 この辺りは親切というか、しっかりと説明してあるが……まぁ、一目見ても眉唾を疑いそうなのは確かだ。

 そして次いでヘルメット型の機器を軽く検めてみた。ーーなんというか、本当に精密機械が入っているのか気になるくらいにスマートな形をしている。

 とは言え今気にするべき問題はそれではない。

 まずはログインしてみなければ分からないことが多いのだから、兎に角やってみよう。

 いそいそとヘルメットを被り、ベッドの上に横たわる。

 水よしトイレよし覚悟よし。あとは……好奇心でも詰め込んでみようか。

 

 そしてハードの電源を入れると同時に、視界が暗転した。

 

 ◇

 

「ーーあら、一〇番目のお客さんね」

 

 ……誰ぇ?

 そんなことを思いながら、木組みの椅子に腰掛けた目の前の女性を見遣る。

 一〇代のようにもそれ以上の歳のようにも見えるような、若々しさと母性を兼ね備えた容姿。

 服装はシンプルなワンピースだけれど、首元のペンダントや右手に嵌めた指輪がお洒落なイメージを持たせていた。

 

 そして周囲をきょろきょろと見渡してみれば、どこかの邸宅の一室のようだった。

 ベッドとデスクとクローゼット、そして茶会用と思しきテーブル。インテリアはそのくらいで、かなりシンプルなつくりをしている。

 

 だがしかし、今重要なのはそれではない。

 

「そう言う貴女は?」

 

 とりあえず聞いてみる。

 なんというか怪しさがあって仕方がない。

 

「ああ、そうだったわね。自己紹介をしなくっちゃ。ーー私は管理AI1号、アリスよ。よろしくね、<マスター>候補さん」

「管理AI……」

 

 話伝いに聞いたことはあっても実物を見るのは初めてだった。ここまで人格を持ったような受け答えをするAIとは、どんな技術力をしているんだろう。

 ともあれ、彼女への疑心は晴れた。

 

「あー、こちらこそよろしくお願いします。アリスさん」

「うふふ。そう硬くならなくて大丈夫よ。それとアリスでいいわ」

 

 にこにこと微笑むアリスさんーーじゃない、アリス。

 その笑顔に思わず少し見惚れて、緊張が少し緩んだ。……メンタルケアが上手いな。

 

「今日はキャラクター作成とチュートリアルをしに来たのよね。だったらまずは描画選択からかしら。はいこれ」

 

 彼女が軽く手を振ると、一室の風景ががらりと変わる。大きな樹と、それに馴染むように造られた街並み。中世ヨーロッパに"幻想的な"と付きそうなものだ。

 しかしそれだけにとどまらず、一定時間毎に風景の見え方が変わっている。リアル調、アニメ調、そして3DCGといった具合だろうか。……ほわい?

 

「あの、これは」

「これはね、スプラッターとか苦手な人への対策なのよ。ほら、真っ赤でグロテスクな臓物とか見たくないでしょう? だからリアルか、アニメか、3Dか。好きな視点を選んで貰うの」

「ははぁ……」

 

 それはそうだ。好き好んでスプラッターモノに突っ込んで行く人はそういない。

 とはいえ、俺としてはリアル調がいい。二次元に興奮する性質でもないし、3Dは少し気持ち悪いし。

 

「じゃあ、リアル視点でお願いします」

「了解よ」

 

 そうしてアリスがもう一度手を振ると、幻想的な街並みが元の室内に戻った。

 ……さっきの街並みといい、どうやっているんだと思わなくはないがそういうものなのだろう。

 

「となると次は……容姿を設定して貰った方がいいかしら。お名前は一番最後に回すわね」

 

 少し間が空いて、彼女はそう告げた。確かに名前は悩みそうだし有難い気遣いだ。

 どこからともなく現れたマネキンと様々な名称のスライドバーを表示したウィンドウに驚きつつ、なんとなく用途を察する。

 

「これでキャラクターを設定すればいい訳ですか」

「そうよー。どんな感じにしたいか決まってる?」

 

 それはもう、勿論。勇気を出して告げる。

 

「……今の性別を男から女に変えた姿って、出来ますかね?」

「あら。ええ、問題なく出来るわよ」

 

 さすがに出来なーーって出来るのか………………。凄いな、デンドロ。

 逸る気持ちを抑えながら、冷静に言葉を口に出す。

 

「じゃあそれでお願いしてもいいでしょうか。こちらでいくらか弄りはします」

「はい。じゃあ、これがベースになるわ」

 

 そう言うなり、マネキンの姿が変わる。

 濡れ羽色の長い髪に黒曜石にも似た瞳、絹のように白い肌とすらりとした肢体。多少盛られているんじゃないかと疑いたくなる程クオリティの高い外見の美女が、目の前に現れた。裸体なので目を逸らしてしまいたくなる。

 

「……これ見た目盛ってませんよね?」

「盛っていないわよ。アナタが女性として生きて来た仮定を演算して、アバターを作っただけだもの。元の見た目がいいから美人なのよ」

 

 Oh……。

 いや、確かに外見だけはいいと昔から言われていたんだけれど。性別をひっくり返しただけでここまでなるのか。

 ともあれここまで来ると後は少し外見年齢を下げたり、瞳の色を変えたりするだけで良さそうだ。

 スライドバーを弄り一〇代後半程度に外見年齢を変えて、身長を下げる。ついでに瞳の色を紅くしてみた。黒髪紅眼っていいよね。

 あとは声とか、細かい所をいい感じに弄ってーーこれでよし、と。

 

「できました」

「いいわねぇ、綺麗で可愛い娘。ああそうそう、見た目についての詮索はしないから安心してね」

「ありがとうございます」

 

 その点については本当に有難い。俺個人の願望なんて聞きたくもないだろうし。

 

「じゃあ、次は初期配布のアイテムについてね。まずはこのポーチ型アイテムボックス。たくさん物が入れられる収納用の異空間になっているから、教室一つ分くらいは入れられるわ」

 

 入れられるのは自分の持ち物限定だけどね、と付け加えられてそのまま肩掛けのポーチを渡された。初期装備でこれとは、相当大盤振る舞いな気がする。

 

「これは初心者用だから、もっとお洒落なものとか容量が多いものも後々買えるわよー。同じポーチ型でもデザインが可愛いものもあるから」

 

 なんと。それはメモしておこう。

 

「それから次は装備ね。和洋中なんでも取り揃えてあるから、好きに選んでね。うふふ」

 

 アリスがそう言うと部屋のクローゼットがバカンと開き、中に収められていたと思しき衣類がベッドの上に次々と載せられていく。

 確かに彼女の言う通り洋の東西を問わず取り揃えているようだし、中には近未来的な衣装もあった。

 ……この中から選べと? 少しハードルが高い。

 

「着てみてもいいのよ?」

 

 えっ。

 

「ほら、アバターアバター」

 

 えっ。

 言われるままに自分の身体を確かめてみれば、先程決めたアバター、それも生まれたままの姿へと身体が変わっていてーーいて……

 

「っきゃあああああああああ!?」

 

 思わず身体をかき抱いてその場に(うずくま)る。声まで変わっているではないか! いつの間にか視界からマネキンも消えていたし、ちょっとうっかりしていたうちに何をしているのだこの管理AI!

 

「アーリースー……」

 

 恨み節を吐きつつ、アリスの方を見遣れば『ドッキリ大成功!』と書かれた札を掲げていた。……おのれ。

 

「うふふ、ごめんなさい。普通の人とはちょっと違うイメージで性別を変えていたみたいだから、折角なら実感を持たせようと思って」

「確かに! 確かにTS願望はあったけど! ひどい!!」

 

 いつもより高い声のトーンに全然慣れないし、身体の動かし方の齟齬もまだまだありすぎる。

 涙目になりながら手近なゴスロリファッションを着ようとするものの、慌てすぎていて手が覚束ない。

 ……結局衣装を無事に着れたのは、十数分程経ってからだった。

 

「はぁ……はぁ……ハードルが高すぎる……」

 

 自分の願望があっさり叶ってしまったはいいものの、身体の動かし方そのものが噛み合わないのでは運動が難しい。それに女性の身体そのものに慣れないとテンションが乱高下して落ち着かなさすぎるという事実に今更気が付く。

 時間と慣れが解決するわとアリスは言っていたが、それは一体いつになるんだろうか。自分が頑張らないと縮まらないのは重々理解しているけれど。後で口調も変えないといけないし。

 

「と、とりあえず続きを……」

 

 ともあれどうにかベッドに腰掛けてアリスに続きを促す。衣類はいつの間にかクローゼットに仕舞われていたようだ。

 本当ならこんなタイミングでこうなるよりも、落ち着いてからテンションを上げたかった。見られたんだよなアレ。恥ずかしい。

 

「うんうん。良く似合っているわよー。それじゃあ次は武器選びね。剣から杖まで色々あるわ」

 

 そうしてぼいぼいぼいと彼女の背後からベッドの上へ投げ込まれる武器の数々を眺めつつ、考える。

 身長が低いということは、リーチも短いということだ。そして小柄で身軽なのは利点であるから出来るだけ殺したくはない。

 ならば扱いやすくてリーチの長い武器はーーこれか。

 木でできた一メートル程の短槍を手に取って、軽く振る。重さが少しかかるけれども持てない程ではない。これがいいな。

 

「決まったかしら?」

「うん。これで」

 

 短槍を見せてみれば、それでいいのか確認をされた。頷くと先程の鞄型アイテムボックスも渡されたので、これを使えということなのだろう。

 

「ポーチの中には銀貨も五枚入ってるから暫くはそれで食べていってね。銀貨一枚で五〇〇〇リルよ。パンやおにぎりひとつで一〇リルね」

「日本円換算で五万なのか……なんだ。じゃあ、なくなるまでに稼げるように頑張る」

 

 口調を試行錯誤しつつ答えたらにこにこと微笑まれた。くっ、パワーバランスで負けている……。

 

「うふふー。女の子らしくなれるように祈ってるわ。……じゃあ、いよいよ<エンブリオ>についてね。あなたも知っている通りこのゲームの基幹になるシステムがこれなのだけれど……百聞は一見に如かずということで、はい」

 

 そう言った彼女が指をぱちんと鳴らすと同時に、左手の甲へと卵型の宝石が埋め込まれていたことを今更ながらに知覚する。いつの間に。

 

「身体がアバターに切り替わった時から細工していたのよ。()()はきっとこの世界を望むでしょうから」

「それはーー信用?」

「信用よ。貴女は貴女である限り、このゲームを抜け出さない」

 

 心の奥底を見透かしたようにアリスはそう告げる。深い水底のようなその瞳を見つめて、私はーー

 

「はい、そこまで。あまり気をやりすぎないようにね。説明を続けるわよ?」

 

 は、と息を吐く。……危なかった。

 

「ごめん。続けて欲しい」

「ええ。簡単に言うとその<エンブリオ>はまだ卵のようなもの……第〇形態なの。第一形態に孵化したら卵は当然なくなる。ダメージを受けたら貴女がそのまま食らう仕様になっているから、壊れたりはしないわ」

 

 盾にはできないということらしい。それはそうだ。

 

「孵化してからは壊れても時間をかければ直る自己修復機能がついているから、そこは安心してね」

「それと卵がなくなってからは、その部分が<マスター>の身分証明を表す紋章になるの。<エンブリオ>を格納する機能もあるから活用して頂戴」

「分かった」

 

 ふむふむ、<エンブリオ>関連は便利な仕様がついていると。逆に言えば格納機能が必要になるくらい大きくなったりするのだろうか。

 

「うんうん、頑張って。じゃあ後は二つだけ。まずは所属する国家を選んでね」

 

 そう言った彼女からこちらへ来てと手招きをされたので、歩いて近付く。

 ……なんとか歩けるようにはなってよかった。

 そうすると、アリスはテーブルの上に大きな地図を広げる。

 

「この地図上の光っているところが初期地点。七つある国それぞれの首都の映像がこれね」

 

 よくよく見れば地図の上に立体的なホログラムが並んでいた。

 中世ヨーロッパ、和風、バザール、スチームパンク、花園エトセトラ。 兎に角バリエーションが豊かなそれを見て、思わず考え込む。

 ……ゴシックな衣装が似合うのは、やはりファンタジーだろう。

 ここは花園ーー妖精郷『レジェンダリア』を選択する。

 

「レジェンダリアがいい」

「あらあら。やっぱりその衣装が似合うから?」

 

 見透かされていた。やっぱりこの人(?)には勝てない。

 

「……うん」

「やぁだ。顔を赤らめなくてもいいのよー。そっぽも向かなくてもいいのよー。……じゃあ最後に、貴女のお名前を聞かせて」

 

 改めて訊かれると、悩む。

 ずっと前から考えていたものはあったけれど、無理にそちらにしなくったっていいでしょう。

 ええと、あれをこうして、こうしよう。簡単にくっつけただけだけれど、それでいい。

 

「私の名前はーーリリィ。リリィ・エインズワース」

「リリィ。いい名前ね」

 

 そうストレートに言われるとちょっと恥ずかしい。

 これからずっと付き合っていく名前だというのに、思い付きで決めてしまったし。

 そんな気恥ずかしさを誤魔化すように、質問を投げかける。

 

「そう言えば、私は何をすればいいの? まだ何も決めてない」

 

 そう問うてみれば、彼女は少し考え込んだ。……何だろう。

 

「うーん。なんでもいいわよ、本当に。何をしても貴女は自由」

「え」

「貴女はーー<マスター>は、何をしてもいいの。何にも縛られない」

 

 そして、これは他の子の受け売りなのだけれどね、と彼女は続ける。

 

「英雄になっても魔王になっても、王になっても奴隷になっても、善人になっても悪人になってもいいわ。勿論、何かを為しても為さなくてもいい。<Infinite Dendrogram>を去る去らないだって自由なの。出来るなら何をしたっていいからーー貴女は自分の心の赴くままに生きればいい」

 

 そう告げた彼女の纏う雰囲気が、柔和なものから真面目なものに変わっていく。

 

「貴女のその手にある<エンブリオ(可能性の卵)>と同じ。ここから先紡がれるのは貴女だけの物語で、貴女だけの可能性」

 

「ーー<Infinite Dendrogram>へようこそ。"私達"は貴女を歓迎する」

 

 アリスが言い終えると同時に、踏み締めていた床が消え、目の前のテーブルが消えーーほんのコンマ数秒後には、私は青い空の只中に投げ出されていた。

 

「っ、あ」

 

 見下げた先には、まだ見ぬ世界。朧気に分かる地形は先程見た地図と同じものだ。

 けれどそれを、綺麗、だなんて言う暇もなく落ちていく。

 

 ーーそうして私は<Infinite Dendrogram>の世界に、リリィ・エインズワースとして降り立つことになったのだ。

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