ヨルムンガンド、量子コンピュータによって制御された126機の人工衛星で構築される衛星測位補助システムからなる情報世界の
3年前、世界的武器運送会社であるHCLI社ヨーロッパ・アフリカ兵器運搬部門所属の(クソ野郎)女武器商ココ・ヘクマティアルは、そのヨルムンガンドを発動させ、人類から空を奪った。
あの日のことは今でも鮮明に覚えている。最初に風が吹き、次に空飛ぶ鉄の塊が落ちてきた。
悲鳴と炎で世界は包まれ、ついに終末が来たのだと誰もが思った。
だが結論からいうと、それは終末ではなかった。
それは、終末すらマシに思えるほどの、地獄の入り口だった。
当時の死者数は、あの時空中にいた約60万人と、墜落した飛行機、ヘリコプター等の二次被害者約80万人の内のおよそ5万人、合わせて計65万人。
テレビのニュースも、新聞も、人類史上最悪の一日だと連日報道していたが、なぜそれが起こったのか、その原因を誰も説明することはできなかった。
一時は宇宙人の侵略だ、とか、米国が極秘に開発した次世代型新兵器のデモンストレーションだ、とか、そういう嘘みたいな空想論や陰謀論が、人々の間で本気で議論されたりもした(今思うと本当に馬鹿みたいな光景だった)。
あの頃の私はまだ
給仕の仕事は、楽しくはないが、それほど嫌でもなかった。職場の同僚はいい奴らばっかりだし(ただし時々現場の様子を伺いに来るエリアマネージャーだけは大っ嫌いだった!!!!)、給金もそれほど悪くなかった。
あれは仕事終わりに同僚たち数人とバーに行って、楽しく飲み(この日は本当に楽しかった!)、夜風にあたろうと、一人外に出た時だった。
はじめに風が吹いた。そして凄まじい轟音と共に飛行機が落ちてきた。
思わず身を屈め、全身を凍るような寒気が奔った。
ただ、落ちていく飛行機からはじっと目を離さなかった。
そして私は絶望した。
それは、私の住む家がある方角へと落ちていった。
刹那、凄まじい轟音が響き渡り、大きな爆発があった。
まるで昨日まで暮らしていた世界とは別の世界に来てしまったかのようなだった。
立ち昇る煙と、炎が大きく燃え広がっていくのを呆然と眺めたまま、私は動くことができなかった。
私は、あの日、両親と、まだ
私の世界から愛する家族を奪ったクソ女、現HCLIヨーロッパ・アフリカ貿易・輸送部門長兼、子供用玩具店ハーメルン共同CEO兼、慈善事業団体レナート・ソッチ財団責任者、ココ・ヘクマティアルは絶対に私がこの手で殺してやる。
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「まったく、凄いものだ、人間の怨念というやつは」
まるで雪景色を見ているような、そんな錯覚を起こすほどに白い髪と肌を持った、碧眼の女はそう呟いた。
部屋には誰もおらず、今は彼女一人だ。
手にはかなり傷んだ日記があり、それをペラペラとめくっている。
「それにしても、諜報の訓練も碌に受けていないはずなのに、独自でここまで私のことを調べ上げていたことには正直驚いたよ」
女は愉快げに少し口角を上げ、日記をテーブルの上に置く。
そのまま顔の向きを少し横に曲げて、じっと窓の外を見た。
外は激しく雨が降っており、強めの風が窓を叩く。
雨は世界は隠す。
それまで当たり前に見えていたものを歪ませる。
人の中にも雨は流れる。
そして世界を歪ませて見せる。
日記の彼女も、歪んだ世界を見ていた。
「だけど彼女をそうしてしまったのは、私だ…」
小さくそう呟いた女の表情からは感情が読み取れない。
「そして私もまた、世界を歪めて見ている、か」