・慣れ親しんだ駅を出るのは子供の時以来だった。そして、アレクセイに本当のことを話さなかったのが気がかりだった。リガからすぐに戻るわけではない、と。だがハンターの信頼を裏切るわけにはいかなかった。
トンネルは線路だけでなく、人の通行路にもなっている。現にトンネルの端は人が歩きやすいように、足下に板を置いて通行しやすくしたり工夫がされている。
僕の駅から他の駅へ向かう人達とすれ違うのを見ると何だか悲しくなった。
「ところであんたはどこ出身だい?」
ユージーンがレバーを押し続ける若い男性に声をかけた。
「リガだ、武器の弾薬とかを作ったりして商品を売り買いしてる」
「へぇ、てことはいろんな所に行ってんだな」
「ああ、昔はポリスにも行っていたが今じゃとても運が良くなきゃたどり着けん。もしくはハンザから行くかだ。ハンザは沢山の駅と繋がってるからな、でもよそ者を歓迎しない。それ以外だとファシストや共産主義者、野盗のいるトンネルを通らないといけない。このところ連中は荒れててね、見境なくとはいかないまでも互いに戦争状態になってるんだ」
それを聞いた僕は不安になった。ポリスに行くには恐らくその戦場を通らねばならない可能性があるが他に行く道を知らない僕にとってそれは大きな誤算だった。
ピピィーーッ!!
すると前方のほうから警笛が聞こえた。ボリスはすぐにブレーキでトロッコの速度を落として止めると警笛を鳴らした警備員の所に向かった。
~AR小隊side~
ボリスさんの掛け声で駅を出たけど特に問題なく着けそうだった。
「地下は地上とは比べものにならないくらい平和だな。これなら楽にポリスまで行けそうだ」
「そうね、これなら弾薬の補給なしでも着けそうだわ」
「・・・・」
レバーを押しているM16姉さんやAR-15が話している中、もう1人レバーを押しているSOPが妙に静だった。
「どうかしたの、SOP?」
「何だか・・・後ろから嫌な感じがする」
私はSOPの言葉が気になり後ろを振り返ると、
ピピィーーッ!!
見たことのない銃を肩に掛けアーマーを身に付けた警備員が警笛を鳴らした。
「ブレーキをかけて」
私はそう言うとAR-15は目の前にあるブレーキレバーを引いた。車輪が甲高い音を立てて徐々に速度を落として停止すると警備員が声をかけてきた。
「あんたらは護衛の人員か?」
私は「そうです」と答えると後ろからボリスさんが歩いてきた。
「よう、ボリスか」
「ああ、なにかあったのか?」
「この先のアレクセイフスカヤ駅で軍のキャラバンが足止めされてな、リガには保安用トンネルを使って迂回してもらうことになった」
「チッ!くそぉ、そのトンネルは好かん」
ボリスさんは舌打ちをして不穏な言葉を口走った。
「あの、保安用トンネルに何かあるんですか?」
私がボリスさんに聞くとボリスさんは顔をしかめながら言った。
「先日、儂はこのトンネルを通ったんだが・・・兎に角警戒を怠らないでくれ」
そう言ってボリスさんへ後ろのトロッコへ戻って行った。警備員がボリスさんがトロッコに乗ったのを確認するとオレンジのランプが光り出して隔壁で閉ざされたトンネルが開いた。
トンネルの奥は暗く、奇妙な煙が渦巻いていた。
「総員警戒を」
私はそう言うと銃を手にする。そしてトロッコがゆっくりと動き出して保安用トンネルへと進む。
「分かってるわ」
AR-15がチャージングハンドルを引きながら言った。
「どちらにしろ、私とSOPはレバーを押さないといけないがな」
「敵は任せた」
M16姉さんとSOPの掛け声と同時に保安用トンネルへ入った。
~side out~
ボリスが戻ってくると前のほうで黄色いランプが点灯した。何かあったのだろうか?
「ボリス、何があったんだ?」
ユージーンが戻ってきたボリスに質問する。
「ああ、アレクセイフスカヤでキャラバンが足止めされてるらしくてな保安用トンネルを使って直接リガに行くことになったんだ、だが・・・このトンネルは好かん」
そこまで言ってボリスは黙り込んだ。そしてトロッコがゆっくりと動き出して保安用トンネルへと入りはじめていた。
「好かないって、どうゆうことだ?」
ユージーンが聞き返すとボリスは少し俯いてから言った。
「この間、そのトンネルを通ったんだが・・・兎に角好かんのだよ」
ボリスの言葉に不安感を抱くが、どのみち保安用トンネルを通るのは決まっていたことだ。いちいち気にしてても仕方ない。
僕は肩に掛けていたバスタードを手に持って弾薬ポーチからマガジンを取り出すとバスタードのマガジン差し込み口にマガジンを入れて浮いたレシーバーを叩いて落とし、レバーを引いて射撃準備を整えた。
隣にいるユージーンも持ってきた
「アルチョム、ライトを付けろ」
ユージーンがヘッドライトを点けながら言う。僕は頷いて同じくライトを点けた。先頭にいるレンジャーもライトを点けて前方を警戒しているようだった。
「レバーを押すのを手伝ってくれれば、もっと早くリガに着けるんだが」
「ユージーン手伝ってやれ。ここからスピードを上げていく。アルチョムは警戒を怠るな」
僕はバスタードを握り直して警戒を続ける。すると線路の脇にいくつかの影が現れている事に気付いた。その影は大人の影もあれば子供の影もある。
「あぁ………、頭が痛む……」
「さぁ、早くこのトンネルを抜けよう。辺りに“奴ら”いるなんて、ゾッとするぜ………」
「や、“奴ら”?“奴ら”って誰だ?」
ユージーンが男に聞き返すと、何処からともなく子供のすすり泣く声が聞こえてくる。僕らの周りに何かがいる。それだけははっきりしていた。
~AR小隊side~
ライトで前方を照らして私達は明かりが灯っていない、煙が立ち込める不気味なトンネルを警戒しながら走り続けていた。私は周りから感じる妙な気配に困惑する。
「確かに不気味だが生き物の気配はしないな」
「………まるで墓場を歩いているみたいだわ」
M16姉さんとAR-15は警戒しているものの、特に何も感じていないようだ。すると、隣でレバーを漕いでいるSOPがレバーから手を離して座り込み、両手で頭を抱える。
「SOP?」
私はSOPの肩に触れるとSOPはこちらに顔を向ける。その表情はいつもの笑顔とは真逆の恐怖で染まっていた。
「M4……、何かいる。周りに何かいる!」
「何言ってるんだ、SOP?“何も”いないじゃないか?」
「いったいどうしたの?」
SOPと私は感じ取れているが、どうやらM16姉さんとAR-15は本当に感じ取れていないらしい。私はもう一度、周りを見渡すと影のようなものが周りにいることに気が付く。
すると、前方から……違う。辺り一帯から子供のすすり泣く声が反響して聞こえてくる。SOPにも聞こえているのかさっきよりも俯いている。
「おいおい、どうしたって……ん………だ……」
「な、なに……がぁ………」
すると、後ろにいるM16姉さんとAR-15が呻き声を上げる。私は振り返ってみるとM16姉さんとAR-15が気を失っていた。
そしてボリスさんやアルチョム達が乗っているトロッコの後ろから何かが近付いてきていた。次の瞬間、感じたことのない衝撃を受けて私の意識は途切れた。
目を覚ますとそこは乗っていたトロッコとは違う場所に私は倒れていた。辺りを見渡すとSOPにAR-15、M16姉さんが他に倒れている人達の共に倒れている。私は声をかけようとするが何故か声を出せない。
「アルチョム!こっちだ!」
すると、目の前からハンターの声が聞こえてくる。顔を上げるとハンターが銃を“何か”に向けて銃を撃つ。しかし、“何か”は怯むことなくハンターの目の前に来ると両手を上に広げて振り下ろす。
それと同時にハンターは仰向けに倒れた。そして、“何か”私の元へやって来ると両手を私の頭に差し伸ばす。
ザァァァァーーッ!
突然、激しいノイズが走ったかと思えば脳裏にM16姉さん達の無惨な死体が浮かび上がる。今すぐ両手で頭を抱えたかったが体は全く動かない。
“何か”が両手を遠ざけるとノイズが止む。しかし、脳裏には先程の光景がこびりついて離れない。“何か”は向こうにいる誰かに手を差しのべるが直ぐに手を遠ざけるとやって来た方向に戻っていく。
が、目の前にいるハンターがホルスターから取り出したリボルバーを“何か”に向けて撃つ。1発、2発…………5発撃つと“何か”は崩れるように倒れ、私も意識を失った。
~side out~
気が付くとトロッコはゆっくりと保安用トンネルを減速しながら走っていた。隣にいるユージーンや向かいにいる男性とボリスは気絶したままだった。
先程の光景はいったい何だったのだろうか?先程の光景を考えようとした時、後ろからカタリナが他の女性レンジャーを起こそうとしている声が聞こえる。僕も隣にいるユージーンの肩を揺すって起こす。
「うぅぅん…………っは!あ、アルチョム!い、いったい、何が……」
ユージーンがそこまで言うとトンネルの後ろからノサリスの遠吠えが聞こえてきた。どうやら考えている暇はないようだ。
「ああ、まずい………。早くここから移動しないと!」
そう言ってユージーンは目の前にあるレバーを漕ぎ始める。スピードが出始めると後ろからノサリスの群れが走り寄ってきていた。
「ボリス!起きろ、ボリス!あぁぁ!神よ!アルチョム、撃てぇ!このままじゃ、みんな死んじまう!」
必死にレバーを漕ぐユージーンの悲痛の叫びを聞きながら僕はバスタードをノサリスに向けて構える。しかし、トロッコが走る揺れで照準が上手く定まらない。
これではボリス達に銃弾が当たってしまう。そうこうしている内にノサリスの群れから一匹、スピードを上げてトロッコに飛び乗る。
すかさず銃を向けてショートバーストでノサリスを撃ち倒す。何とか走り来るノサリスにもバスタードを撃つが僅かに勢いを削ぐだけだった。
すると、今度は上からノサリスが飛び降りてきた。すぐに撃とうとしたが、ノサリスの攻撃のほうが早く、バスタードを取り落としてしまう。
掴みかかるノサリスに対して僕は片方の手で首を掴むと空いた手でナイフを引き抜き、ノサリスの顔を斬りつける。
斬りつけられ、ノサリスが怯んだ隙に僕はノサリスの喉にナイフを突き刺す。追い打ちをかけるようにレバーを押していたユージーンがデュブリットで頭を吹き飛ばした。
「アルチョム!俺のショットガンを使え!」
そう言って手渡されたデュブリットを受け取るとリロードレバーを押して硝煙が吹き出ている空のショットシェルを排莢する。
そしてユージーンのリュックに取り付けられているシェルホルダーからショットシェルを取って装填するが、その間に飛び乗ってきたノサリスが若い男性を掴んでトロッコから引き摺り落とす。
若い男性は悲鳴を上げながら落ち、ノサリスの餌食になる。
「あぁ、クソ!」
ユージーンはノサリスに向かってそう吐き捨てる。僕も彼を助けられなかったことは悔しかったが後悔している暇はない。僕は飛び乗ってくるノサリスをデュブリットで倒し続ける。
「やった、アルチョム!リガはもうすぐだ!」
「う、うーん………儂は……いったい…………」
一瞬、後ろを向いたユージーンがそう言うと向かいにいるボリスが起きる。助かったと思い、安堵する。だが、
ガァァァァ!
突然、後ろからノサリスの叫び声が聞こえたと思えば、ノサリスに突き飛ばされてトロッコから落ちそうになる。何とか取っ手に捕まるも、追い打ちをかけられて僕はトロッコから落下した。
落ちた衝撃と痛みで悶えるも後ろからはノサリスが走って近付いてくる。僕は慌てて近くの物陰に身を潜めると、数体のノサリスが目の前を横切って走り抜けていった。
ノサリスがいなくなったのを確認すると物陰から這い出てリガを目指す。駅の入口ではボリスやユージーンに兵士達、女性レンジャーのカタリナがノサリスに向けて応戦していた。
「見ろ!まだ生きてるぞ!」
僕は走って駅に向かうが落ちた時の痛みで上手く走れない。駅の入口には火炎放射器が備え付けられており、それを操作する兵士が火炎放射器を僕のほうへ向けてくる。
「待て、やめろ!チャンスを与えてやれ!」
ボリスが兵士に向かって叫ぶ。僕は力を振り絞ってボリス達がいるところへ走る。
「ほれ、掴まれ!」
「アルチョム!」
トロッコの目の前まで来るとボリスとカタリナから手を差しのべられる。僕は二人の手に掴まってトロッコに引き上げられる。
「燃やせ!」
僕をトロッコに引き上げるとボリスは火炎放射器を操作する兵士に叫ぶ。兵士はそれを合図にノサリスに向けて火炎放射器を撃ち放つ。
走って突っ込んでくるノサリス共が炎に包まれ、ものの数秒で生き絶える。
「ヒャッハー!ミュータントは消毒だぁ!」
何故かテンションが高い火炎放射器を操作する兵士はそう言いながら撃ち漏らしが無いように満遍なくノサリスに炎を浴びせる。あらかた焼き払うと駅にいる兵士の一人がエアロックを閉める。
「はぁ、暑くてたまらん。喉が渇いたな」
そう言いながらAKを背負うとボリスは僕の肩を叩いた。
Q:戦術人形も超常現象の影響を受けるの?
A:とある宇宙侵略?ゲームで登場する『精神汚染ミーム』を参考にしています。なので“METROの超常現象は戦術人形にも影響する”と解釈しています。
こういう設定考えるのはワクワクしますね。
次回の投稿予定日は10月29日の予定です。