『敵! お前の周りは既にヒーローが包囲している! 大人しく投降しろ!』
「いいぞーヒーロー‼」
「やっちまえー‼」
「まるで相撲でも見てるみたいだなこりゃ……」
橋の上繰り広げられるヒーローと敵の戦いに人々は歓声を上げる。
ヒーローは息が上がり、大型恐竜にも似た敵の身体にはいくつもの傷が出来ているところからすると戦いも終盤なのだろう。
「にしても凄い盛り上がりだな……。ヒーローってのは滅多に見られないのか?」
「敵との戦闘に居合わせるってのはあまりあることじゃないのさ。ヒーロー自体は日常的に見るがね」
「ほーん……ってなるとここもそこそこ平和なんだな。……あ、そうだ爺さん!」
「なんだい?」
「一番気になってたんだけどよ、ここってあの世なんだよな?」
「は?」
傍から見れば突拍子なことを言い出すおでんに対し、温厚だった爺さんも思わず目が点になる。
突然話しかけてきた橙色の和装を身に纏った身長3メートルもあろうかという男が車や看板を知らず、挙句の果てにはここがあの世だとのたまうのだ。
誰だって「この人って結構ヤバイんじゃ……」となるのは至極当然である。
そんな爺さんの胸中をおでんはいざ知らず、橋の上では敵とヒーローの膠着状態が続いていた。
「クソ……こんなヒーローがいるなんて聞いてねェぞ! オレサマの皆殺しケイカクが無茶苦茶じゃねェか!」
「都心に来るのは初めてかしら敵? 予め下見してくるんだったわね!」
「余計な事を言うなMtレディ。大人しく敵を倒すぞ」
「あーハイハイ……っていうかここは先輩らしく見せ場譲ってくださいよ! 私デビューしたばっかりなんですから!」
「都合の良い時だけ後輩ぶるんじゃない! せめて普段から敬いを示してだな……」
「えー……先輩は先輩じゃん?」
「そういうとこだぞそういうとこォ! そのあからさまな態度を少しは……」
「二人とも喧嘩してる場合じゃないでしょ! 目の前の敵が逃げたりしたら―――」
言葉には言霊というものがあり、言ったことは本当になるらしい。ヒーローの注意を喚起する言葉が発し終わるよりも先に敵は抜け穴の生まれた包囲を突破し、橋の淵へとたどり着いた。
「ハハァ! キサマラがマヌケで助かったぜ!」
「やばっ!?」
「不覚!」
敵が橋から飛び降りギャラリー溢れる道路へと滑空していく。観戦気分の人々の中へと向けられた敵の視線の先にあったのは一人の少年の姿だった。
「決めた……キサマだ!」
「あの子が危ない……!」
「逃げて!! 緑髪の男の子‼」
「え!? やばいやばいやばいっ……早く逃げないと‼」
「もうオソイ! オレサマのために死ねェェェェ!!!」
少年が逃げ出そうとするも滑空する敵のスピードには敵わない。
敵の伸ばした爪の切っ先が少年の背中へと辿り着こうとする。
ヒーローは橋に取り残され地上にいるヒーローも最早間に合わない。
この状況において殺人目的の敵が取る選択・行動として最適だった。
ただ
目標を作ってしまったのが失敗だった。何も為せなかったとしても少年を狙わず別の道から逃げるべきだった。
否、正確には狙った少年の近くに男がいたのがその敵の運のツキだった。
何故ならそこには奴がいたのだから。
「うおりゃあああああああ!!」
逃げる少年とは対極的に敵に向かって飛び出す橙色の影。鋭い爪先を振りかざす敵に対しその男が構えるは何の変哲もないただの拳。
けれどその拳は切り裂かれるどころかその切っ先を真っ向から押し返した。
「ガッ!?」
「そのまま大人しく寝てやがれぇぇぇぇ!!」
弾かれた敵の拳はそのままに勢い止まらぬおでんの拳は敵の顔面へと直撃する。
まるで大地を割るかのような衝撃を敵はその身で受けながら宙から地へと叩きつけられ敵はその場で意識を失った。
「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
「ふぅ……一丁あがり。悪いなヒーロー、見せ場取っちまった」
「「「「……」」」」
「さてとさっきの奴は……いたいた」
突然の出来事に観衆は歓喜の声を、ヒーローらは只々絶句する。
今おでんがその身に集める視線は様々だがそんなことをおでんは気にすることはなく、腰が引けて座り込む少年の方へと歩いていった。
「大丈夫か坊主。見たところ怪我は無いみたいだが」
「……」
「? おーい」
返事が無い。少年の顔の前でおでんが手を振るも反応もない
まさか気でも失ったかと案じたところ少年の肩がピクリと跳ねあがった。
「……ハッ!? 大丈夫です!!! 本当にありがとうございます!!!」
「そうかそうか! 元気があって何より! では拙者はこれで……」
「君! 待ちなさい!」
少年の身も無事でこれにて一件落着……と行きたかったのにまだ何かあるらしい。威圧的な声におでんが嫌々振り返ると統一された衣服と帽子を被った者どもが複数人並び立っていた。
「なんだよ、腹が減ったから飯を食おうと思ったのに……
そうだ! アンタいい飯屋を知らないか? 何なら茶屋でもいい!」
「警察を何だと思ってるんだ君は! 君には『個性』を無許可で使用した疑いがあるのだよ!」
「え? コセイ……ってなんだ? 茶屋の名前か?」
「とぼけるのも大概にしたまえ! この世界において『個性』を知らないなんてこと……」
「まぁ待ってください」
後ろの警官の一人が怒鳴る警官を静止する。一旦静かになって気づいてみれば周囲には先ほどまでヒーローと敵の戦いを眺めていた観衆が集まってきていた。
「彼に個性なんてありませんよ。例の彼……『おでん』ですよ。
どちらにせよ問題を起こしたことに変わりないですが」
「なに? 個性が無いだって? そんなバカな……」
「これを見てください」
後ろの警官はホッチキス止めされた書類を手渡し、もう一人の警官は書類を眺め始める。
おでんがそーっと覗いてみると紙の表紙は黒く、おまけにその表紙に『注意!』との表記が記されていた。
れっきとしたブラックリスト入りを既に果たしていたらしい。
ワの国でも要注意人物にされたことがあったな……
普通に生きてるだけだと思うんだが……どうだったかなトキよ?
なんて考えてるうちに警官が黒くて見づらそうなその紙に記された情報を読み上げ始めた。
「えー……『姓名:光月おでん』『個性:なし』『年齢:15歳』……?」
「「「「「15歳!!!???」」」」」
警察の発した情報に周りで聞き耳を立てていた観衆、ヒーロー全てが驚愕の表情を見せる。
おでんの背丈は15歳というには少々高く、あまりにも屈強過ぎたのだ。
おでんの恰好や弱っていたとは言え敵を一撃で倒したことも相まって「これで中学生……?」「これでヒーローじゃないのか」という信じられないものを見るかのような声や視線がおでんへと向けられていく。
尚肝心の本人はというと……
「15歳!? 俺が!? あの世ってのは年齢までおかしくなるのかよ!?」
というずれた認識であり、猶更疑惑や恐れの視線を向けられてしまうのだった。
戦闘描写上手くなりたい……ナリタイ……
それはそれとしてスケットダンスが10周年らしく非常に懐かしみが深いです。