『敵、ハッケ……』
「だりゃあああ!!」
『ブッコロ……』
「とりゃあああああ!!」
道路を駆け、次々と敵を武装色を纏った木で薙ぎ払っていく。一体吹き飛ばしては切り返し、次の敵へと向かっていく。
他の受験生の追随を許さないおでんの攻撃を前に仮想敵の残骸がおでんの進む道を空けるように転がっていた。
『標的ハッケン』
『ブッコロス!!』
「まだまだァ!!」
「クソッ……あいつ一人で何体倒してんだよ」
「ちょっとは俺らに残しといてくれてもいいじゃあねえかよ!
このままじゃポイントが……」
「あっちの道の方が空いてんぞ! こっちにいても時間の無駄でしかねェよ!」
「マジか⁉ ここにいても意味は無ぇ……恩に切るぜ!!」
敵を次々となぎ倒していくおでんに向けて文句を飛ばして他の受験生らは他の道へと移動していく。
時間の経過と共に増えていく敵の残骸、それと反比例して減っていく残存する敵の数が試験の時間が残りわずかであることを時計以上にわかりやすく示していた。
「てめェで終わりだァ!!」
『ブッコロ……ス』
飛び上がったおでんが放つ空で弧を描くかのような一閃が敵の装甲を打ち砕く。
おでんの前に最後に立ちはだかった敵も例の如く火花を散らし物言わぬ鉄の塊となり、風の通る音が聞こえるほどに通りは静まった。
「ふぅーーーっ……ようやくうるせェ敵はいなくなったな」
おでんは武装色を解きその場で軽く伸びをする。現状おでんが使える覇気は幼少期レベルまで下がってしまっている。この世界におでんの意思がたどり着いてからまだ1年も経っていないのであるからそれもそのはずだ。
覇気の扱い・引き出し方はその魂に刻まれているが肉体はそうではないのだ。
尚当の本人は全く持って気にしていないのであるが。
「そういや他の奴らもいねェが……まぁいいか。
これで倒したのが……何体だ? えーとさっき倒したのが5体で今まで倒したのが……」
首をかしげながら空を見上げて思い返す。ここまで倒しては走り、また倒しては走りを繰り返してきた。
正に獣の如き動きでここまで走り続けてきたそんなおでんの頭には倒れた敵のことなど入っていなかった。
「んー……わからん!! わからなくても何とかなるだろ。 ……いや待て、やっぱ思い出しといたほうがいいか? 後で伝えるようにとか言われても困るし……むぅ」
やはりマズイのではとおでんが唸りながらも記憶されているであろうその事柄を脳内で必死に探す。
記憶されていないものを思い出すなど土台無理な話であるがそれはさておき、他の受験生がポイント数を数えていたことを思い出したことで記憶の復旧作業は更に本格化する。
しまいには試験の途中であるにも関わらずその場に座り込んでしまうおでんだったが、その長考を邪魔するかのように建物のガラスが一枚 パリン と音を立てて割れた。
「⁉ なんだ⁉」
残存する敵も他の受験生もいない静まり返った中に突如響いたガラスが砕ける音におでんは飛び上がり身構える。
それと同時に今度は地まで震えだし、建物に備え付けられたガラスが続けざまに割れていき遂には地面にまで亀裂が入り始めた。
「こいつは……何かがある! 俺がいるこの下に!」
野生の感で何かを感じ取ったおでんは亀裂が走り所々陥没している道路を蹴飛ばし、大きく跳躍する。
跳躍でギリギリのバランスを保っていた地面は次々と陥没していき、コンクリートで舗装されていた道の下側が露わとなっていく。
本来であればそこにあるのは土や水道管などである。
けれどそこにあったのは意図的に作られた巨大な空間とそこの大部分を占める巨大な何かだった。
「うおっ⁉ 煙幕か⁉」
『ガ……ガガ……』
その中身を確かめる前に白い煙幕が辺り一面に充満する。精々左右に立つ建物の側面が辛うじて確認できる程度で前後は全く持って見通せない。下手に身動きを取ると転落する危険がある状況なだけに身動きがとりずらい。
けれどそんな状況は突然の突風で転換した。
勢い良い風に煙は無散し、視界は良好となる。下側にあった穴のような巨大な空間も気づけば埋まっており転落の心配もなくなった。
これで先ほどまでの試験と状況は同じとなった……『青空が見えない』ただ一点を除いては。
「おいおいおいおい……! なんだァこいつは……!」
正確には『おでんからは青空が見えない』が言い表すとしたら適切だろう。先ほどまでの試験と異なる点……それはおでんの前にビルをも優に超える巨大な仮想敵が道幅いっぱいに立ちふさがっていたからであり、おでんはその影に吞まれていた。
『システムチェック……システムオールグリーン。特別改造型起動完了』
「こいつが説明であった0P敵か。説明通りならこいつと戦っても意味はねェが……」
『カメラ起動……標的、ハッケン。排除スル』
「はっ、そっちがその気なら受けてたとうじゃねェか‼」
『潰レロ!!』
突如振り下ろされた巨大なトンカチのような腕を飛び上がり身を躱す。敵のアームは地面へと直撃し舗装された道路に亀裂を生み出した。
地へと降ろされた敵のアームをスロープ代わりにおでんは駆けあがって行く。
『攻撃シッパイ、標的ハ機体上部ニ接近中。次ノ攻撃シークエンスニ……』
「行くぜデカブツ……!!」
敵が次の動きを取るよりも先におでんは敵の頭部まで一気に跳躍し、仮想敵と同じ目線にたどり着き武装色を再び纏うと木棒を天に掲げ振り下ろさんとする。
仮想敵のアームは一つは地に落ちもう一つも地表のほぼ近くに位置している。敵の頭上は正にがら空きだった。
「おでん一刀流 竹……」
『ハッチオープン、超高音波器機動』
「⁉ 何だァ⁉」
無防備の頭を叩く……そう考えていたおでんの意表を突くかのように敵の頭部が襖のように開き、そこから巨大なアンテナ付の拡声器のようなものがあらわになる。
未知なるものを前にしたおでんだが攻撃の手は緩めず、敵の攻撃が来るよりも先に当てればいいのだと木を掴む力を更に強める。
そうしておでんの一振りが敵へと5m……4m……3mと近づき遂に直撃しようとする。だが次の瞬間吹き飛んでいたのは敵の頭部ではなく、おでんの身体だった。
「ぐわあああああああ⁉」
何が起きたのかわからないままおでんはビルの合間の空をぐんぐんと飛ばされていく。
見えない攻撃を受け吹き飛ばされるのは彼の生涯でもこれが二度目だった。
やがて飛ばされていたおでんの身体がT字路の建物に激突することで空を浮いていたその身は地へと背中を付けた。
「何じゃ今のは‼ ロジャーや白吉ちゃんじゃあるめェし……納得いかーん‼」
吹き飛ばされた衝撃から一瞬ふらつくも仮想敵の下へと猪突猛進駆け出していく。
身体が軋むもそんなことをおでんは気にしない。おでんの頭に今あるのは敵を正面から打ち倒す、その一点だけだった。
「ハァ……ハァ……えらく飛ばしてくれたなあいつ……! ん? 誰かいるのか?」
息を切らしながらも遥か先に見える敵の方へ目を凝らす。
誰もいなかったはずのその道には敵の残骸の他に人の姿が二人、一人は瓦礫の下敷きに、もう一人はその少女を庇うように敵の前に立っていた。
「クソッ……0P敵ってのはここまでやべェやつだったのかよ……攻撃効いてる気配がねェ!」
「アンタ、ウチのことは良いから早く逃げなよ! そいつと戦っても何の意味も無いんだからさ!」
「意味は無い……? いや、あるな! ガンと立ち向かってこそ漢なんだよ。女見捨てて逃げたらそれはもう漢じゃねェンだからなァ!!」
「ちょっと!」
少年は少女の静止も聞かずに巨大敵を食い止めようと自ら距離を詰め立ち向かい、敵もそれに合わせ拳を振り下ろす。
『標的確認、排除スル』
「うおおおおおおお!!」
先ほどおでんに向けられた地を割るほどの衝撃を誇るその一撃。およそ生身で受ければ命があるかも怪しいその一撃を少年はあろうことかその身で受け止めた。
衝撃で地が割れ、ビルの合間を風がビュウビュウと吹き荒れる。そんなとてつもない衝撃が襲ったにもかかわらず少年は血を吐きながらニヤリと笑っていた。
『攻撃命中。ダガ排除ニハ至ラズ。計算デハこの一撃でオワリノハズダガ……』
「そりゃあ俺は漢で……『鉄』だからな! 我慢比べなら負けはしねェよ!」
『……敵個性『鉄』把握。再思考開始……完了。ハッチオープン、超高音波器機動』
再思考を終わらせた敵の頭部のハッチが再度開き、現れた機械が地表で敵の攻撃に抗う少年へと向けられた。
「ン? 何だありゃ?」
「マズイ……早く逃げて!!」
「だから女の前で逃げは―――」
そう少年が言葉を言い切るよりも前に見えない攻撃が少年を襲う。その攻撃は周囲が無音であるかのように錯覚させるほどの高音、そして身体を地へと這いつくばせようとする超重力を組み合わせた不可視のものでありその少年の身体が鉄だろうがなんだろうが意識を刈り取るにはどちらも十分な威力だった。
「―――!! ―――!!」
「ク……ソ……ッ」
不可視の攻撃に少年の視界はぼやけ、意識も不明瞭になっていく。瓦礫の下敷きになっている少女の声も聞こえずただ自らを守る個性が弱まっていくのを途絶えつつある意識で感じていた。
(まだ倒れるわけには……っ)
離れようとする意識に必死にしがみつき震える足で地を踏もうとする。限界まで頑張ろうとする。
だがその踏む足場も崩れたことで踏ん張ることも出来なくなった彼に成す術はない。後は敵のアームが自身を踏みつぶすだけだった。
(ちくしょう……!!)
少年は目の前の女も守れなかった悔しさと次に目を開いた時にやってくる真っ暗闇や痛みの恐怖に怯えながら弱弱しく目を瞑った。
せめて彼女は無事でありますようにと願いながら
しかし
「根性あるなお前。やるじゃねェか」
「おでん一刀流……
少年が目を開いた先にあったのはそんな光景ではなかった。開いた先にあったのは闇でも敵の作る影でもなく雲一つない青い空。少年を潰さんとしたアームは道路の反対側まで大きく吹き飛ばされており少年と敵との間には和装の巨漢―――光月おでんが立っていた。
「……お前、やるな……」
「いいからお前は休んどけ。後のことは俺が引き受ける」
「頼ん……だ……ぜ」
おでんは気を失った少年を道路の隅まで運びゆっくり降ろすと今度は瓦礫の下敷きとなっている少女の方へ足を運んだ。
「おいアンタ、大丈夫か?」
「う、うん……ウチは大丈夫。動けないだけで痛くはないから。それよりあの敵は……その、倒せたの?」
「アレくらいじゃ倒せはしねェよ、すぐに動きだす。だから……ここで決める!」
おでんは地割れにより外れた道路標識から支柱を2つ引き抜くと胸の前で十字に重ね合わせる。軽く深呼吸し精神を集中させる。
生み出すは奴を倒すための力。腕から出た黒い靄がその柱を包み込み、黒剣ならぬ黒棒へと変化させた。
『ガ……ガ……が、再起動確認。危険標的捕捉。ハッチオープン、超高音波器機動』
「同じ手は二度も食らわねェぞォ!!」
ハッチが開くと同時におでんは敵に向かって駆け出していく。
構えるは二柱、漆黒の剣。まるで拍手かのように高速で鳴る下駄の音がおでんのスピードを物語っていた。
『標的捕捉……捕捉……標的のスピードによるズレ修正完了。超高音波―――』
「遅ェよ!!」
敵がロックオンを完了するよりも素早い瞬足を見せ先ほどと同じように大きく跳躍する。今度は敵の頭部ではなく腹部付近へと飛びあがり、2柱を水平に重ね合わせた。
「今度は外さねェ!! おでん2刀流 桃源白滝!!」
”桃源白滝” かつてワの国にて巨大な猪を一刀両断した技。今おでんが持つのは刀ではなく、力もまた異なるものの
柱を使っての2刀から繰り出されたその一撃は無理やり敵の上部を引きちぎるかのようにずり落とし、切断面からは出血かのように大きな火花が散った。
『ガ、ガ……ガ…………』
「ふぅー、ようやく静かになったな。今出してやるからじっとしとけ」
「うん」
敵の残骸に支柱を添えるように置いてからおでんは瓦礫に手を掛けひょいと持ち上げる。
少女はそのことに驚きながらもその場から抜け出し日に向かって大きく伸びをし、開放感を味わった後おでんの方へ向き直した。
「ふーっ、改めてありがと……っていうかアンタ何者? どっかのヒーローの息子とか?」
「はっはは、実は親から絶縁されるほど仲が悪いらしくてな。家系についてはご遠慮願いたく候」
「あ……ごめんいきなり。あんな敵倒す奴なんていると思えなかったから……デリカシーなさすぎた」
「まァそう気にするな。それより試験ってのはいつまでなんだ?」
「忘れてた……早くしないともう―――」
「試験終了ゥーー!!」
「「あっ」」
お互いに冷や汗を流しながら顔を見る。ここにいる3人はラスト数分を0P敵に使ってしまっていたのだ。
ロスとしては痛い、かなり痛かった。
「「あああああああああああ!!」」
「zzzzzzz……」
一人はスヤスヤ夢の中、二人の叫びが試験会場に響き渡り雄英入試は幕を閉じるのだった。
おでんの覇気弱体化ですが特にスポーツをやっていた方はわかりやすいのではないかと思います。
自分のベストなプレー・記録が頭ではわかっているのに肉体が追い付かないためにその動きを再現できない……という感じです。
桃源白滝の場合は現在のおでんの力量と言うよりも扱う武器の切れ味の問題が大きいです。
……と適当な解釈を述べときます。