雄英入試から1週間の時が経とうとしていた頃。
薄暗い部屋の中でおでんは布団に横たわっていた。
「思ったより疲れるもんだなぁ……。大した飯を食えてなかったのもあるが……久しぶりに覇気使ったせいかもなぁ」
天井から部屋を照らす小さな灯りを遮るように自らの手のひらで額を隠す。
おでんの知る自力とこの世界おでんの身体の力には大きな差異がある。
生い立ちは似ていてもこちらのおでんは幼少期より覇気を使うことなどはなかったらしい。
そんな初乗りかのような状況で覇気を使いまくったせいで試験後おでんは
まるで酒をバカスコ飲んで2日酔いしたかのような気分の悪さに苦しんでいた。
「あぁ……気持ち悪ぃ。家に大した食い物も無ェし、水でも飲むか……」
『ピンポーン』
「ああ? なんだ?」
『ゴホッゴホッ……ピザーラ神野店でーす。ご注文のピザをお届けに参りましたー』
「ぴざ? 何だそりゃあ」
突如鳴った呼び鈴の音、男性の声におでんはふらつきながらも扉へと向かっていく。
「悪ぃがんなもん頼んだ覚えは―――ん?」
頼んだ覚えの無いピザというものを不審に思いながらおでんは扉を開ける。
けれどそこにピザーラ神野店なる者の姿はなかった。
「何だぁ? へんな甘ェ匂いはするが……誰もいねェじゃねェか」
扉から頭を出し外を見渡すもやはり人影は無い。あるのは香水のような甘い匂いだけだ。
『ピザ』には興味があるおでんだったがその形の欠片も視界の内にはなく、疲労が重石のように体にのしかかる。
そんな彼の脚は扉の外へ向かうことはなかった。
「……ただのいたずらか? 『ぴざ』ってのは気になるが今は……ちょっと……疲れ……て……」
扉を閉めて部屋へと戻ろうとするおでんの視界が不意に歪む。さきほどまで感じていた疲労感とはまた別に
強烈な倦怠感、睡魔が押し寄せてくる。抗おうにもその力は絶大で体中の力がどんどん抜けていく。
「な……んだ……こりゃ……急に眠く……」
「悪いわね、光月君。これも仕事なの」
「おい……アンタは―――」
今にも閉じようとする瞼を必死に開きながら声の主を探そうと身体を扉の外へと動かす。
けれどそこで手綱が途切れたかおでんの身体は糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏した。
「―――ますオールマイト! ここからはこれを―――」
「―――ああ、あとは任せて―――」
(駄目だ……もう意識が……)
閉じ行く視界の中に二人の影を見る。だがその素顔を見るまで瞼を開け続けることは叶わず、誰かに抱えられるのを感じながらおでんの意識は途絶えた。
「オールマイト、その書類を机にお願いします」
「わかったよ。こうして書類に触れるのもいつぶりかな……」
「ふふっ、すぐに飽きるほど触ることになりますよ」
「……ん、んん……?」
「おや、目を覚ましたみたいだね」
身体を覆っていた倦怠感、睡魔・疲労感。そのすべてが抜けきり瞼が自然と開く。
するとそこは薄暗い自室などではなく、西洋チックな客室で筋骨隆々の金髪男性とその男性ほどでないが長身のアダルティな女性、
そしてそのひざ下ほどの高さの背のネヅミがおでんの顔を覗き込んでいた
「意識ははっきりしてるかな? そこにいる彼女はミッドナイト先生、大男はオールマイト……って説明はいらなかったかな。
僕は根津、雄英高校の校長サ!」
「校長……ここは……?」
「ここはその雄英サ! 悪かったね、あんな形で君を運んでしまって。余計な邪魔が入ることを避けたかったのサ」
「まぁ別に気にしてねェが……何で俺をここに? 試験の結果通知ってのはまだ先なんだろう?」
「話が早くて助かるのサ。今日君をここに連れて来たのは……その試験の結果開示とある提案のためサ」
「確かに君の言う通り本来の結果通知はまだ先サ。だけど」
「言うならば特別枠サ。諸事情により勉強の時間を確保できないどころか、学校での授業を受けることも困難な学生にのみ適用可能な制度なのサ」
「君はこれまで悪意はなくとも事件に関与してきている。そうした学生がこの制度を利用する場合、合格ラインはかなり厳しいものになるんだが……」
「技能試験の結果はそのラインを超えるほどの点数を叩き出した……。私含め教員みんなびっくりしてたわ」
「へー……」
「退屈そうだね光月少年⁉」
頬杖を付きぼけーっとするおでんにオールマイトは渾身のツッコミを入れる。タイミング的にも物理的にも正に切れのあるツッコミだった。
「御託はこの辺りにしておいて……光月おでん君」
「ん?」
「制度適用の基準は満たした。あとはこの制度を適用して雄英に入学するかどうかだけど……どうする?」
根津の神妙な顔つきにおでんもまた身を但す。一般入学の道は既に断たれた。
ならば返す言葉はもう決まっていた。
「約束もあるし雄英に入れるっていう話なら願ってもねェからな。乗ったぞ、その話!」
「おお!」
「そうかい! その言葉が聞けて良かったよ! ミッドナイト、彼に書類を」
「はい。……じゃあ光月君、この書類にサインをしてもらって……」
「筆の方が慣れてるんだが……まぁいいや。ここにサインすればいいんだな?」
「ああ、そこに少年の名を書いてくれればいい」
「あいよ……光月おでん……っと。これで良いか?」
「うん、問題無いのサ! まぁ同意が無くとも入学はさせてたんだけどネ」
校長はグフフと笑いながらティーカップを手に取り口へと運ぶ。
その様は何か黒い触れてはいけなさそうなオーラを発していた。
「校長! 心の声が漏れてますよ!」
「おっといけないいけない! これで手続きは完了、晴れて春からこの雄英の生徒なのサ!」
「お、おう……」
「特別枠ということで一般入学組と多少進行に差が出るが……あくまで最初だけ。気にすることは無いのサ。存分に青春を謳歌したまえ!」
「……!」
『青春』というワードにミッドナイトは無言のまま身を悶えさせる。そんな光景を冷や汗を流しながらも満面の笑みを浮かべる筋骨隆々の男性が眺め、校長は何事も無いかのように紅茶をキメている。
誰がどう見てもこの空間、ヤバイもの以外の何物でもなかった。
「確認も終わったし……それじゃあ俺はこの辺りで……」
(これ以上この空間にいたらマズイ……!)
おでんが見るからにヤバイ三人組を背にそろりそろりと出口へと歩いていく。
その様は正に盗人、或いは忍者の如き忍び足。だが
「どこにいくんだい?」
けれど気づけば紅茶をキメていた筈の校長はおでんの肩までやってきていた。
その様はまるでどこぞのトレーナーである。けれど二人の表情は彼らほど朗らかではなかった。
「えっ……いや家に帰ろうかな……って。家までそこそこ時間かかるし……」
「家に? ……あー、時間は気にしなくていいのサ」
「え?」
「だって今日、今このタイミングから……―――ここが君の家なんだから!」
「はあああああッ⁉」
おでんの叫びが雄英高校内に響き渡る。その声は敷地外まで聞こえたとか聞こえてないとか。
無事に入学を果たしたが長年使用されてこなかった『特別枠』に一抹の不安を抱えるおでんだった。
若干短めですがご容赦を。今週時間無かったから……
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そういうのいただける限りは基本週一でやります