異世界降り立つワノ侍   作:ベリアロク

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予約投稿時間を8時と20時で間違えるというやべー間違え方をしました。
混乱させてしまった方がいらっしゃったなら申し訳ないです。


第8話 合流一歩前

 

 「―――かの織田信長については知ってるよな? 桶狭間の戦いを始めとし、長篠の戦でも有名な尾張の……」

 

 「いや知らん、誰だそいつは」

 

 「……じゃあ豊臣秀吉はどうだ? サル将軍とか言われてる人物だが……」

 

 「知らん」

 

 「……徳川家康は」

 

 「知らん」

 

 「oh……毎度のことだがこいつは渋ィー……」

 

 

 

 

  

 「理科の実験ではこのように……」

 

 「……」

 

 「……今日はやけに静かに聞いてるわね。いや、集中することはとても良いことなんだけど」

 

 「……」

 

 「じゃあここの化学式について質問よ。この空欄に当てはまる元素記号は?」

 

 「……zzz」

 

 「いや寝てんのかい!! 起きて聞きなさいよ!!」

 

 

 

 

 「我が国日本では憲法というものがあり……」

 

 「ケンポウ……拳法? 魚人空手みたいな奴か? 日本にもそういうのがあるんだな……」

 

 「その魚人?ってのはわからんが少なくとも空手ではないよ?」

 

 「おでん2刀流が最強だが……俺も使ってみたかったなぁ、三千枚瓦正拳」

 

 「いや話聞けよ!!」

 

 

 

保健室で寝て起きては朝から晩まで空き教室で授業を行う。

通常業務を持つ雄英教師にとってもおでんにとってもハードなものであったがここまで何とか無事に(?)カリキュラムをこなしてきていた。

だが『雄英高校内から外出を禁ずる』というルールがおでんのストレスを日に日に蓄積されていっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ次は教科書138頁。今日で最終章に突入するわけだ」

 

 「……」

 

 「そしたら138頁の右上に書かれた部分を音読してもらって……おでん?」

 

 

 

 

 「だぁーっ! もう我慢の限界だ! 窮屈でござる‼」

 

 

 

おでんは扉を蹴飛ばし一心不乱に廊下を駆けだしていく。

目指すは雄英高校脱出。外へ外へと向かうべく廊下を抜け、校舎の外へとおでんは飛び出していくがそんなおでんを止めようと校舎から更に数人続くように飛び出してきた。

 

 

 

 「おでんが逃げ出したぞ!」

 

 「追えー!」

 

 「敷地から一歩も出すな! このッ……ここから出るんじゃねェ! それがきまりって言っただろうが⁉」

 

 

 「『()()()』……? 悪ぃがそいつは俺が一番嫌いなルールだ!!」

 

 「だからって授業サボるんじゃねェよ!」

 

 

 

 

 「全く……何度抜け出せば気が済むんだあいつは」

 

 

 

飛んで跳ねて壁蹴って。夕焼けの空の下、窓の外で繰り広げられるおでんと雄英教師陣の超ハイレベルな鬼ごっこを相澤は眺め溜息を吐く。

試験から時は経ち、季節は既に桜の散る頃。おでんは一般入学組への合流を果たすべく雄英にて朝から晩まで

座学を行っていた。

 

 

だが案の定おでんが毎度の如く暴走、内容理解が早く想定よりも速いスピードでカリキュラムは進んでいるが毎度暴走の度に雄英教師の何人かがその鎮圧にあたっている。

新学期の始まった雄英には割ける人員は多くない。その件について今相澤は校長の下を訪ねていた。

 

 

 

 「根津校長。今お時間よろしいでしょうか」

 

 「いいよ、入りたまえ」

 

 「失礼します」

 

 

 

了承を取り相澤は他の扉より些か豪華な黒扉を開き中へと入る。

部屋には多くの書物が並び校長の業務を行うデスクが窓から差し込む明かりに照らされている。

根津はその机の前にある話し合いように設けられている椅子に腰を掛け静かに緑茶を啜っていた。

 

 

  

  

 「ふぅ……君も飲むかい? 贈り物で頂いた緑茶なんだけど凄い美味しいんだよ」

 

 「大丈夫です。そこまで長居するつもりはありませんから」

 

 「そうかい。ではお茶はまたの機会にして……僕に何か用かな?」

 

 「来週のUSJでの救出訓練の件で一つ許可をいただきたいのです」

 

 「許可? 何か特別必要なものでもあったかな?」

 

 「おでんの同行許可です。一応今の進捗なら来週には合流できるでしょうが……奴のことです、何か不測の事態が起きてもおかしくない。現にもう一つ起きてますから」

 

 「あ~なるほどね……」

 

 

 

相澤の言葉に一体何の許可だと頭を悩ませていた根津はポンと手のひらを叩く。

 

実は本来おでんが通常授業に合流するのは入学後数週間後にある戦闘訓練時のはずだったのだが度重なる脱走のために座学の進行が遅れ、合流することが出来なかったのである。

そのため早めの合流を目指すべく今はおでんが脱走することを考慮したスケージュールで進めているのだが、相澤の懸念は尽きず保険を掛けざる負えなかったというわけである。

 

 

 

 「奴は俺が見てきた生徒の中でも1,2を争うレベルの生徒ですよ、本当に」

 

 「すまないね。……でもあといくつか単元を終えれば彼も通常授業に合流だろう?」

 

 「ええ、あの暴走癖はさておき、奴の学習速度は評価できますよ。光月の名も飾りではないようだ」

 

 「そいつは良いニュースだね! 丁度あんまり良くないニュースも届いたところだったから思わず掟破りの夕方紅茶をたしなんでしまおうかと思ったけど夜まで待てそうだよ」

 

 「休憩は結構ですが紅茶はほどほどにしてくださいよ。それで……そのニュースとは?」

 

 

 「……先日雄英周辺の住宅街で挙動不審なヒーローを見たとの情報が入った。その様子を見た市民らが言うには『まるで誰かを探していた』らしいのサ」

 

 

 

根津は相澤に背を向け窓を眺めながらそう告げる。

その様は雄英の外にいるまだ姿を潜めているだろう者らを監視するようだった。

 

 

 

 「ヒーローが人探し……田舎なら無い話ではないですがここは都心だ。

  まさかおでんを探しに?」

 

 「そうだと私は踏んでいるのサ。目撃証言とヒーローデータベースを比較するに

  少なくとも普段周辺を活動域とするヒーローじゃない。十中八九光月の息がかかった者たちだろう」

 

 「成程。この社会を支える言わずと知れた名家である光月家も結構なことをしますね。

  清廉潔白、絶対正義……みたいなのが売り文句みたいな感じだった気がしましたが」

 

 「それほどおでんの存在を危険視しているんだろう。親とは絶縁したとおでんから聞いたが戸籍上では『光月おでん』に変わりないんだ。おでんが活躍すれば光月の名は穢れ、自分たちの地位が揺るいでしまう……そんな風に考えているんだろうサ」

 

 「自分たちの名誉や地位のためには手段を選ばない……凄いですね名家ってのは」

 

 「全部が全部そうではない……と言いたいところだけで案外皆そんなものサ。

  どんな場所にも闇はあるのサ」

 

 

 

 「では私はここで。A組合流の件を奴に伝えに行ってきます」

 

 「よろしく頼むよ。先日のマスコミの件といい君には迷惑をかけるね」

 

 「これも仕事ですから。失礼します」

 

 

一礼をし相澤は部屋を後にし、部屋に一人残った根津はほっと溜息を吐くと引き出しから一枚の紙を取り出す。

その紙にはおでんの名とは異なる『光月』の家名が書かれていた。

 

 

 

 「この保護者同意のサイン……これが無ければおでんをここに置くことも出来なかった。

  命を顧みずこれを送ってくれた彼女には感謝しかないよ……」

 

 

背もたれに全体重をかけふぅとため息をつく。

目線の先には世とは違って汚れ一つない真っ白な天井が広がっていた。

 

 

 

 

 

 「ぜぇ……はぁ……クソッ、あいつの体力どうなってんだ……!」

 

 「ちょ……待ちなさいって!」

 

 「わははははは! この壁を飛び越えて俺は外に―――」

 

 

 

おでんが校舎の壁を蹴り空高く飛び上がりようやく外への道が開ける……

そう思い歓喜の声を上げる。けれど茜色の空には些か早い暗闇がおでんと雄英外を遮った。

 

 

 

 「いい加減にしとけ」

 

 「何だこの黒いの……って相澤⁉ ―――ぬぅおわぁ⁉」

 

 

呆気に取られたおでんに相澤は首に付けていた捕縛布を投げつけ、まるでジョッキーのようにおでんの身体に巻き付けるとそのまま地面へと真っ逆様に叩きつけた。

 

 

 

 「痛ってェ……!! この布何だぁ? 硬ェと思えば柔らかくもあるし……何回やっても抜け出せねェ!」

 

 「この布は特注だからな。そのことについては追々として……もう観念しろおでん。

  雄英高校に居を移すこと、中学範囲の学習を行うこと……この二つを雄英高校に入学する条件としてお前も認めたはずだ」

 

 「むむむ……だが朝から晩まで椅子に座りっぱなんて聞いてなかったぞ俺は! 校長が楽しいって言うからもっと楽しめるモンだと……」

 

 「今の鬼ごっこで十分楽しめたろ。ミッドナイト、後は頼みます」

 

 「ぜぇ……はぁ……ええ。 後は私と楽しみましょう……?」

 

 「休み時間は終わりだ。あとはたっぷり勉強しとけ」

 

 「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

ミッドナイトに恨みが籠ったかのように強く首根っこを掴まれおでんは必死に抵抗する。

けれど捕縛布で身体をガチガチに固定された状態では意味も無く、雄英高内におでんの叫び声が響き渡るのみでやがてその声は教室の中へと消えていった。

 

 

 

 

 「助かったぜ相澤。こいつの逃げ足が速いのなんの……」

 

 「気にするな。後のことは頼んだぞ」

 

 「おうよ、香山サンもいるしセメントスも後で合流するっぽいからな。後のことは任せとけ。

  ……もう抜け出すなんて考えたくないがな」

 

 「確かに多少不安ではあるが……まぁ大丈夫だろう。あいつも馬鹿じゃない、今すべきことはわかってるさ」

 

 「そうかねぇ……」

 

 「まぁ馬鹿でなくともイカれてはいるがな」

 

 

 

不安からかやや青ざめているマイクとは対照的に相澤はふっと笑みを零すとその場から立ち去り職員室へと向かっていく。

太陽は沈みかけ、空は暗くなる。けれどあらゆるリスクや危険を考慮・排除するべく雄英教師の仕事はまだ終わらないのだった。

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