おでんが必死こいて逃走と勉強を繰り返す日々を送る頃、
そこから数百メートル離れた校舎では見事倍率300倍の枠を勝ち取ったヒーロー科の学生もまた勉学に励んでいた。
今日はプレゼントマイクの下英語の授業を行っている。
誰もかれもが説明を聞き、適宜板書を取っており授業に集中している様子が見受けられる。
が、約一名は少々集中力に欠けるようで……
「……して、この英文の日本語訳だが気をつけるべきは―――」
「B組にもいないし……まさか普通科か? いやでもヒーロー科目指そうって約束したし……」
「注意点は以上。じゃあここの日本語訳を……緑谷、いけるか?」
「もしかして……落ちた? いやそれは考えにくいな。だってあのおでんさんだぞ? あの人に限ってそんなことは……」
「Hey!! 緑谷! Are you OK⁉」
「は、はいぃ⁉」
「緑谷のやつ初日からあんな感じだけど……なんかあった?」
「さぁ?」
「誰か探してるみたいだけどお友達かしら? 気になるわ」
「今日の授業はここまでだ。各自よく復習しておくように!」
「」
「ふーっ……ようやく終わったぁ! なぁ爆豪、緑谷の奴って昔からあんな感じなのか?」
「俺に聞くな、殺すぞ」
「そっか! ありがとな爆豪!」
「ポジティブね切島ちゃん……でも爆豪ちゃんが答えてくれないとなると本人に聞くしかないかしら?」
「それが一番かもな。おーい緑谷! ちょっといいか!」
「どうしたの切島君? それに蛙吹さんも……」
「梅雨ちゃんと呼んで。緑谷ちゃんの様子が皆気になってるのよ」
「僕の様子? 何か変なとこでもあったかな……」
「変も何も……さっきだってブツブツ言ってて怒られてたじゃねぇか。昨日も一昨日もさ」
「そ、そうだっけ。あははは……」
緑谷の堅い笑顔に切島はため息を吐き肩をすくめる。
緑谷のブツブツ独り言は入学初日から散見されていたがここ数日その頻度がよりエスカレートしていて、A組の面々からは不安がられていた。
「梅雨ちゃんは誰か探してるみたいって言ってたけど……人探しでもしてんのか?」
「人探し……なのかな? 実はある人と約束をしてたんだ」
「その約束をしてた人ってのが探してる人なの?」
「うん。その人は僕なんかより凄く強くてカッコよくて……」
先ほどまでの堅い笑顔はどこへやら緑谷は心底楽しそうに切島たちにおでんのことを語る。
おでんと緑谷が関わった時こそ短けれど当時無個性だった緑谷にとっては衝撃かつ運命的な出会いだった。
『無個性だから諦める? 誰に禁じられてるわけでもねェ、手の届かないところにあるわけでもねェんだ……そりゃあ勿体ねェだろう』
『おでんさん……』
『そこにはきっと俺の見たことない世界が広がっている筈だ。俺もヒーローってのに興味が湧いたしよ、一緒に頑張ろうじゃねェか!!』
「当時僕は個性のこととか進路とかで色々と悩んでたんだけどその人が僕の悩みを全て晴らしてくれた、前を見て歩けるようになったんだ」
「へ~! 凄ぇ奴なんだな! 俺も会ってみてぇよ!」
「私もよ。緑谷ちゃんにとってその人は憧れの人なのね」
「そうなんだよ! 初めて会った時は今でも鮮明に思い出せてさ、敵が吹っ飛んできた時に……」
「何々~! 何の話してるの? 私も混ぜてー!」
「もしかして恋バナとか⁉ 楽しそうじゃんか!」
「喜楽の集い……」
緑谷らの盛り上がりを見て教室内に元からいた者や教室外から帰ってきた者らが寄って来る。
教室の一角での3人でのおしゃべりは気付けばA組のほとんどが参加したおしゃべりにまで広がっていた。
「緑谷ちゃんの憧れの人について話してたのよ」
「緑谷の憧れの人……オールマイトじゃなくて?」
「オールマイトとは別にだよな! ってかその人の名前俺ら聞いてなかったな。なんて言う人なんだ?」
「ええと……何か今家のことでごちゃごちゃしてるらしいんだけどその人の名前は……」
「お前ら席に着け。授業のチャイム鳴るぞ」
緑谷が言い終わるよりも先に相澤が教室へと入ってきたことで皆慌てて席に着く。
ふと時計を見ると時計の針は既に休み時間の終わりを指しており、皆が席に着き終わる頃には授業の開始を告げるチャイムが鳴り渡った。
「……全員いるな。おしゃべりは結構だが授業に支障が出ないようにしとけ」
「「「「「「はーい」」」」」」
「『はい』で結構。今日のヒーロー基礎学は気を引き締めていけ。災害救助なんでもござれ『
「「「「「「『救出訓練』⁉」」」」」」
『戦闘訓練』に続く新たな訓練、『救出訓練』。
新たな訓練の登場に教室は一気に沸き立つのだった。
「へっくち⁉」
「ここ最近くしゃみ多いわね。風邪かしら?」
「んん……風邪じゃねェさ。誰かが噂してるんだろうよ……はっくしょん‼」
尚校舎から数百メートル離れたところではおでんのくしゃみが連発してたとか
状況に差異あれどここから先に待ち受ける恐怖など誰も予想などする由もなかった。
何かしらインセンティブがあればすぐに戻ってきます。