あと今更ですがFGO二部六章妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェを終わらせました。これで二章の準備が整いましたね。
千衣寓の工房、アジ・ダハーカの眷属とアルジュナが戦う一階層。
結論からいえば、アルジュナの圧勝である。
如何にアジ・ダハーカが強力なサーヴァントであろうと、インド神話の神々を統合した超越神たるアルジュナにその眷属如きが挑むというのが無謀というもの。しかしこれがアジ・ダハーカ本人であったのならば分からないのだが。
「口程にもならない。所詮は眷属か」
高熱の熱線によってバラバラになった肉片を漂う惑星のような球体がレーザーで焼き、俊介との合流を目指す。
そしてアルジュナが向かうと、現在も水銀の使い魔相手に苦戦を強いられていた。
「実体が無い相手は⋯⋯キツい」
「マスター、策は?」
「ないこともない。齧った程度だけ、どっ!」
俊介は純白の壁に触れ、冷却のルーンを描く。そして描いたルーンに手のひらを載せると、周辺一帯が冷凍庫のような極寒の地へと変化する。
『しまっ⋯⋯!』
水銀の使い魔が危険を感じた時にはもう遅い。エルキドゥが床を変化させ、剣を放ち粉々にする。
「なるほど、意思はあっても水銀は水銀。固めてしまえばいいという訳だね」
「そういう事だ。急ごう、神崎さんはもう下にい⋯⋯る⋯⋯」
俊介が走り出すと、冷却のルーンの範囲外に再び水銀の使い魔が2体、壁の隙間から現れた。
『お見事。しかし次はこうもいきませんよ』
「⋯⋯別の個体、って考えるべきだな」
「数で攻められるとこっちとしては辛いんだよね」
実際、魔術師の工房はホームグラウンド。攻め込むという思考に至るのは余程の緊急事態か実力に自信があるか等の理由に限られる。
阪東のように正面から全てを叩き潰せる程の絶対的な力、もしくは輝愛のように罠や仕掛けを全て無視できる特殊能力といった攻略法があるからこそ今回攻め込むに至ったのだ。思想や魔術に関しては特殊な部類だが、魔術師の戦闘スタイルに関して言えば普通寄りの俊介には今回の作戦は相性が悪い。
「私が相手をする」
そう背後から呟くアルジュナは淡々と己の役目を遂行しようとする。
「崩壊」
腕を掲げ、周囲の球体のひとつを高速で水銀の使い魔へと近付け、至近距離からレーザーを放つ。
水銀の肉体に穴は空いたものの、即座に再生。液体である以上、直接的な攻撃は効き目が薄い。
「⋯⋯なるほど。ガーンディーヴァ」
即座に効き目が無いと知ったアルジュナは背中の弓を持ち、引く。
その圧倒的な光と熱量を持った一撃は水銀の使い魔の行動を許す間も無く蒸発させ、無力化させてしまった。
「うわぁ⋯⋯」
「⋯⋯」
そして更に己の球体全てをもう一体の使い魔の頭上へと向かわせる。そして球体は円なぞるように回転したまま急速に魔力を帯び始めた。
『まっ⋯⋯!』
その言葉を言い終える前にその円からレーザーが放たれ、塵も残さず消滅させる。
「ゴリ押しもいい所だ⋯⋯」
魔術師だけでなくサーヴァントも規格外なのか、と俊介はしみじみと思ってしまった。
そして円の下はレーザーの跡があり、通路には穴が空いている。
が、しかしすぐさま2体の使い魔が現れる。ここが千衣寓の本拠地である以上追加の兵力は幾らでもいるのだ。
「2人は下に行け」
「⋯⋯分かった」
ワンフロア下が丁度個室だったようで、2人は足を滑らせないようにスタッと降りた。
「⋯⋯ここは⋯⋯研究室?」
俊介が辺りを見回すと周辺には何台ものPCや巨大なコンピュータがズラリと並んでいた。
「普通の魔術師とは趣が違うね。やはりマスターと同種の魔術を扱うのかな?」
「⋯⋯分からない。いや、合ってはいるが方針が違う」
大型のコンピュータに触れた俊介は魔術を使用する。自身の意識を電子の海に潜り込ませ、圧倒的な速度でデータを漁る魔術である。
「知識よ、収束せよ⋯⋯なるほど」
「何か分かったのかな?」
「ああ、1部だけな。ここは千衣寓家の魔術工房、現代技術を利用した異端派魔術師の一門だ」
千衣寓家は俊介の言う通り現状技術を利用し、根源への到達を目指した魔術師の家系だ。
宇都宮家も同じ現代技術を基盤とした魔術の家系ではあるが、千衣寓家は利用であり、非魔術師との協力を目指している宇都宮家とは少し違うのだ。
「⋯⋯ただ、これが本当なら⋯⋯マスターはここにはいないのか?」
「⋯⋯?」
―――
千衣寓の工房はその土地に根付いており、移動や応用力が低い分、守りに関しては鉄壁なのだ。
千衣寓が誇る最高制度のAIによる的確な防衛戦力の配置と戦力投下、術式の維持すらもAIが行い異界化された階層すら存在する。
自陣は守りやすく、相手は攻め難い。守りに徹したこの工房を作れる魔術師は極わずかだろう。
しかしながら、その守りは道を通る敵にしか通用しない。
「いやぁなんと言うかさ。これでいいわけ?」
『別にいいと思うぜ。そこに角があんだからよ』
大福の権能のひとつである空間移動は視界内に角があれば成立し、一度見た場所であればどこへでも一瞬で移動できるというもの。
角から『尖った空間』に移動し別の角に移動する、という工程のため本人が顔を出す必要は無く、ただその角から通路の先を見るだけで次の角へと移動できる。
大福との同調率が低いため視界に次の角を入れる必要はあるものの角から次の角への移動は文字通り一瞬であり、外側からは感知すら出来ない空間のため、見つかる心配もない。
どれだけ強固な守りであろうとその場所に角がある限り輝愛と大福からすれば意味を成さないのだ。
あっという間に千衣寓のいる部屋の前に着き、扉の角の対象にある角から部屋の内部に侵入。
「くそっ、するとぉ、するとぉ⋯⋯!」
部屋の奥、山になったゴミ袋のその先にいる鼻声で泣き叫ぶ千衣寓の姿は見えないが、どの角にも移動できる輝愛からすれば十分に射程距離。首を狙える位置にいた。
『ゴミ溜まりすぎだろ、クセェ』
「アタシも同じ気持⋯⋯ちっ!」
天井の壁の隅にある角から輝愛は現れ、勢い良く蹴る。サーヴァントと同レベルの身体能力を誇る輝愛は千衣寓の首に目を向け、背後から⋯⋯。
その手に持つナイフで喉元を切り裂いた。
「つがっ!」
一瞬の出来事で何が起きたか分からない千衣寓は、痛みが発生した喉に手を当てると、べっとりとヌルヌルした血が付着していた。
「かつぁつぁぁぁあ!?」
振り向いても輝愛はそこにおらず、角を通って退却済みだ。
千衣寓からしてみればいきなり喉元に傷が現れ、何故か出血し死にかけているという事になる。
「らっ、あっなっあっあぁあ?」
しかしながら出血程度では魔術師を殺すことは出来ない。例え首に致命傷を与えたところで魔術による治癒が解決する。
それは本来であればの話だが。
「あっ? ごっ!」
溢れた血液で喉を詰まらせた千衣寓は自身に魔術をかけようとする。
そのために手のひらを喉に向けようとする。
しかし、その手は既に塵となっており、その現象は既に両腕から全身に伝播していた。
「な!はんでぇぇええええ!!!!」
まるで元々そこに存在しなかったかのように。世界が辻褄を合わせるように不自然に。そして痛みも無く、ただ静かに塵へと変わっていく。
無情にもその叫び声が止んだ時には。
そこに千衣寓仁斗という男が存在していた痕跡そのものが無くなっていた。
ーーー
『なあ、今のなんだよ。お前は魔術師じゃ無かったよな?』
「ん? そうだけど? あー、標的が消えた理由?」
千衣寓が消えた理由に大福の権能は存在しない。大福の魔術であれば出来ない事は無いが、同調率の低い輝愛と大福ではまだ大福本人の魔術を使用することが出来ないのだ。
「これはねー、アタシのナイフの力かな。父さんの形見ってヤツ」
『⋯⋯なんてモノを娘に与えてんだ父親は⋯⋯』
「あははー、凄いでしょこのナイフ、切って念じれば塵になる。仕組みはわかんないけど」
ナイフについて雑談しつつ角を通って出口に出る。1度でも見たことがあれば問題無いため、帰りはショートカットだ。
「あ、もしもしうっちゃん? 仕事終わったし帰ろ帰ろ」
『えっ!? もしかしてマスターを?』
「そそ、ナイフでスパッと⋯⋯」
『違う! それはマスターじゃない! 本当のマスターは⋯⋯』
その時、扉の奥から爆音が鳴り響き、輝愛の足元がグラグラと揺れる。
『後で説明する! 先に脱出を⋯⋯アルジュナ!?』
「?」
大事が起きているのは分かるが、イマイチ状況が掴めない輝愛だったが扉から惑星のような球体が勢い良く飛び出し、扉が吹き飛んだのを見て状況を察した。
「うっちゃん大丈夫?」
「ゴホッゴホッ⋯⋯心配しないで欲しい。それよりも分かったことがある。マスターは⋯⋯そもそも人間じゃない、AIだ」
「えーあい⋯⋯? えっ?」
困惑する輝愛を見た俊介はなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
「えぇっと⋯⋯実際に言うと、さっきまでマスターは千衣寓本人だったんだが、絶命を察したら起動する魔術で令呪をAIに引き継がせたんだ」
「は、はぁ!? 意味無いじゃんそれ!?」
「だから言ったんだって! ⋯⋯でももう大丈夫そうだが」
そう言って俊介は港方面に目を向ける。
「向こうの勝負は着いている、だから問題無い、サーヴァントの居ないマスター、しかも管理する主が居ない時点でこっちの勝ちは揺るがない」
その時の俊介は既に勝ちを確信していた。
それはこの聖杯戦争にのみ存在しているルールのひとつを、まだ理解していなかったからである。
輝愛&大福の成分足りていないかなと思いまして。改めてみると大福の権能凄いな……。
今更ですが、そろそろ大福の正体がわかった人もいるのではないでしょうか。まあ、作品内ではいつか明かされますが……。
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